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手抜き授業をする「部活大好き教師」は辞めよ 前川喜平氏が示す「部活動改善」の方策とは?

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/09/19 15:00 前川 喜平
「部活大好き教師」は授業への取り組みがおろそかになりがちだ。写真は本文と関係ありません(写真:AH86/PIXTA) © 東洋経済オンライン 「部活大好き教師」は授業への取り組みがおろそかになりがちだ。写真は本文と関係ありません(写真:AH86/PIXTA)

学校では現在、部活動のあり方を巡って議論が紛糾している。授業そっちのけで部活動に励む生徒や教師が問題となるばかりか、教師による体罰が原因とみられる生徒の自殺事案まで起きている。さらに部活動は、教師の長時間労働の一因ともいわれている。文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が部活動の改善案を示す。

中学校や高校には、よく垂れ幕や横断幕が掲げられている。それは大概、部活動の成果を誇示するものだ。「○○部全国大会出場」「○○君県大会優勝」といった言葉が書いてある。それを見るたび、筆者は複雑な思いにとらわれる。

 部活動は学習指導要領上「学校教育の一環」とされる。が、教育課程内の活動ではなく、生徒が任意に参加するものだ。学校教育の成果を示すものとしては必ずしもふさわしくない。「大会出場」や「優勝」の裏側に、暴力やパワハラが潜んでいるのではないかという疑いの気持ちも生じる。だから、素直に祝福できないのだ。

 「ブラック部活」という言葉が広がっているように、部活動に苦しめられる生徒と教師が増えている。部活動に忙殺され家族を顧みることのできない教師が増え、「部活未亡人」「部活孤児」などという言葉まで生み出された。

 部活動はいろいろな側面から問題になるが、ここでは主に教師の負担をいかに軽減するかという観点から考えていこうと思う。

部活動に忙殺される日本の教師

 部活動指導は教員本来の業務ではない。だから教員免許状は必要ない。しかし、部活動は学校が計画的に行う教育活動に含まれている。教員が行う部活動指導は、校長からの職務命令による付加的な業務である。教員免許状を要しない業務なので、事務職員や栄養職員が部活動指導を行うことも妨げられないが、伝統的に教員の仕事であると考えられてきた。

 日本の教師が部活動に忙殺されている状況は、数字にも表れている。

 OECD(経済協力開発機構)が2013年に世界34の国・地域の中学校教員を対象として行った「国際教員指導環境調査」(TALIS)によると、日本の教員の課外活動に費やす時間は1週間あたり平均7.7時間で、国際平均(2.1時間)の4倍近い。

文部科学省が2006年と2016年に行った「教員勤務実態調査」を比較すると、中学校教諭の1日あたりの部活動指導時間は、平日で平均34分から41分へ約2割増、土日で平均1時間6分から2時間10分へ約2倍に増えている。2016年調査では、残業が月80時間以上の「過労死ライン」に達している中学校教諭が、全体の57.7%に上っていることもわかった。

 部活動指導による教師の負担感には、勤務時間の長さによるものだけでなく、不得手なこと、やったことのないことをやらされる負担感もある。

 2014年の日本体育協会「学校運動部活動指導者の実態に関する調査報告書」によると、中学校で運動部顧問をやっている体育教師以外の教師のうち半数近く(45.9%)は、自分が担当する競技種目の経験がない。

 部活動は「校務分掌」として各教師に割り当てられる。スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力等調査結果」によると、88.4%の中学校で教員全員による指導体制が取られ、希望制としているのは5.3%にとどまる。校務分掌は校長による職務命令による職務だから、本来正規の勤務時間内で行うべきものである。

 教師の勤務時間は、原則1日7時間45分である。さて、この時間内に部活動指導という仕事は収まるのだろうか。収まるはずがない。部活動は放課後に行われるから、その時間の大部分は勤務時間外に当たる。土日の部活動指導は当然時間外勤務だ。それでは、各学校の校長は部活動顧問の教師に対し、恒常的に時間外勤務を命令しているということなのだろうか。

教師の残業は"自発的な勤務"?

 その点は、その学校が公立学校なのか国立・私立学校なのかで違ってくる。

 国立学校と私立学校の校長は、労働基準法のもと、その監督下の教師に対し時間外勤務を命じることができる。その場合には、教師の時間外勤務に対し、その時間数に応じた時間外勤務手当が支給されなければならない。

 一方、公立学校の校長は、給与特別措置法という法律があるため、「超勤4項目」という限定的な事由がある場合にしか、教師に時間外勤務を命じることができない。「超勤4項目」とは、①生徒の実習、②修学旅行などの学校行事、③職員会議、④非常災害の場合などの緊急の業務のことで、部活動の指導はその中には含まれない。

 つまり、勤務時間外に及ぶ部活動指導を命じることはできないのだ。だから、勤務時間終了後に行われている部活動指導は、教師の「自発的な勤務」だということになってしまう。

 部活動顧問という校務分掌を命じる校長の職務命令は、教師が勤務時間外に自発的に勤務することを暗黙の前提として出されているわけだ。いわば「出せない命令」を出しているのだ。そこには、明らかに制度上の矛盾があると言わざるを得ない。

 しかも、公立学校の教師の時間外勤務に対しては、給与特別措置法により、時間外勤務手当(残業代)は出ない。その代わりに本給の4%に当たる「教職調整額」が一律に支給されている。このような給与制度の下では、しっかりとした勤務時間管理は行われなくなり、時間外勤務の増加に歯止めがかからなくなる。

 土日の部活動指導に対しては、部活動手当が支給される。文科省の財源措置上の考え方は、土日に4時間程度の指導を行った場合に3600円を支給するというものだが、具体的な支給額・支給方法は各給与負担者(都道府県や政令指定都市)の裁量に任されている。部活動手当は徐々に増額されてきたが、無定量の部活指導を教師に押し付けることの「免罪符」のようなものになっている。

 無定量の残業を減らすためには、給与特別措置法を廃止して、公立学校教員にも労働基準法を適用すべきだというのが、筆者の年来の意見だ。

中体連はルール見直しを

 文科省も教育委員会も、部活動による教師の負担増に対して、何もしてこなかったわけではない。

 スポーツ庁は2018年3月、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を作成し、通知した。そこでは、学期中は週あたり2日以上(うち平日で1日以上、土日で1日以上)の休養日を設けることとし、長期休業期間中は同様の休養日を設けるだけでなく、ある程度長期の休養期間(オフシーズン)も設けることを求めている。

 また、1日の活動時間は長くとも平日では2時間程度、土日・休業日は3時間程度とすることも求めている(ついでながら、土日の部活動を3時間程度にとどめようと言いつつ、部活動手当は4時間やらないと出さないというのは、文科省の矛盾である)。

 学校の小規模化は、教師1人あたりの部活動指導の負担を大きくしている。1校あたりの教師の数が減っても部活の数は減らないからだ。そういう学校小規模化の影響を軽減する策として、市町村教育委員会レベルでは、合同部活動の取り組みが増えている。

 日本中学校体育連盟の調査によれば、他校と合同で部活動を行っているチームの数は、2001年度の266チームから2017年度の1022チームへと増加している。ただ、他校から参加している生徒は大会に出場できないというような問題があるようだ。この点は、各地の中体連のルールの見直しが必要なのだろう。

 熊本県や愛知県などでは、小学校にも部活動がある。学校の部活動ではなくても、地域のスポーツ少年団の指導に地元の小学校の教師が携わることが当然視されている地域もある。

 名古屋市教育委員会は2018年3月、全市立小学校261校で実施されている部活動を2020年度限りで廃止する方針を表明した。部活動廃止は英断だが、中学校や高校では容易にはできそうにない。

 こうした取り組みだけでは根本的な解決にはならない。部活動における教師の負担を減らすためには、教師に代わる指導者を配置することが、どうしても必要になる。外部指導者の導入は多くの地域で進められてきている。スポーツ庁によると、2015年度に運動部活動の外部指導者を活用した中学校の割合は約74%に上る。

もはや外部指導者は部外者ではない

 外部指導者の導入には有償の場合と無償の場合がある。有償の場合は、一般に設置自治体の教育委員会が謝金・交通費を出し、顧問教員の補助者として、部活動の技術指導を委嘱する。無償の場合は、通常学校ごとにボランティアの協力を依頼する。

 その場合、教育委員会が人材リストを作成し、その中から学校が依頼するケースや「学校支援地域本部」や「コミュニティスクール」の仕組みを活用してボランティアを募るケースもある。

 こうした外部指導者は、生徒たちの競技力の向上にも役立つし、顧問教師の技術指導の負担も軽減する。しかし、教師の負担軽減のためには、こうした「外部指導者」では不十分だ。

 謝金で委嘱する「外部」指導者は、校長の監督下にいる学校職員ではないので、技術指導はできても安全管理や教育的配慮を行う責任は負えない。だから結局、顧問の教員も、練習や試合に立ち会わなければならなくなる。顧問教師の勤務時間を軽減することにはならないのだ。

 部活動顧問の教師の時間的負担を軽減するためには、校長の監督下の学校職員として部活動指導者を配置する必要がある。すでに一部の自治体では配置されてきている。

 市町村教育委員会が学校の非常勤職員として任用するので、単独で指導や引率ができる。月当たり数万円から10万円程度の報酬が支給される。こうした部活動指導者は「外部顧問」などと呼ばれたりするが、すでに校長監督下の学校職員になっているので「部外者」ではない。

 こうした学校職員としての部活動指導者を、国の制度として法令に位置付けたのが「部活動指導員」だ。2017年に学校教育法施行規則の改正により制度化された。文科省が示した部活動指導員の職務は、学校の教育計画に基づき、部活動において、校長の監督を受け、技術的指導に従事することである。

 その内容は実技指導だけでなく、学校外での活動(大会・練習試合等)の引率、事故が発生した場合の現場対応、部活動の顧問(校長が命じた場合)なども含まれる。つまり、従来教師が担ってきた部活動指導業務をすべて肩代わりできる職だということである。

 文科省は教育委員会に対し、部活動指導員の研修を行うことも求めている。その内容は、生徒の発達の段階に応じた科学的な指導、生徒の人格を傷つける言動や体罰の禁止などだ。「チーム学校」の一員として、教育者としての自覚を持ち、勝利至上主義に陥ることなく、生徒一人ひとりの尊厳や自主性を尊重する部活動指導が求められる。

 部活動指導員の配置推進は、教師の部活動指導の負担を解消する特効薬として期待される。そのため文科省は、部活動指導員の報酬に対する3分の1の補助金を用意している。しかし、その額は2018年度予算では4500人分5億円、2019年度概算要求では1万2千人分13億円だ。

 1万2000人で13億円を分割すると10.8万円。部活動指導員報酬の予算は3分の1の補助金なので、地方が実際に支出する額は文科省予算額の3倍となる。つまり、1人あたりの年間報酬額は32.4万円程度となる。これで本当にいい人材が確保できるだろうか。抜本的な予算増が必要だ。

部活動顧問業務の委託が望ましい

 教師の部活動指導の肩代わり策としては、専門人材を直接委嘱または任用する方法とは別に、外部委託という方法もある。

 東京都杉並区では2013年度から、希望する学校において運動部活動の指導業務を民間事業者に委託している。土日の指導1回3時間以内を委託しているが、その職務内容は技術指導に限られるため、引き続き顧問の教師は置かれている。同様の民間委託は、大阪市でも2015年度から行われている。

 東京都立杉並高校では2016年度から、バレーボールや陸上競技など競技種目の部活動指導者を民間事業者から派遣してもらっている。こうした部活動指導を請け負う企業は、すでに何社か設立されている。これら企業と学校を設置する自治体との契約は、多くの場合技術指導に特化した請負契約であると思われる。そういう契約の場合は、依然として顧問の教師は必要になる。

 教師の負担を全体的に解消できるようにするためには、技術指導だけの請負契約ではなく、部活動顧問の業務全体に携わる部活動支援員を学校に派遣してもらう派遣契約によることが望ましいだろう。

 部活動指導員を職業として確立するためには、常勤職員としての配置されることが望ましい。しかし、部活動指導の時間は平日の放課後、土日、夏休み・冬休みなどに限定されるから、常勤の仕事になじまない。

 それなら、部活動指導員と地域スポーツクラブの指導員を兼務させたらどうだろう。アスリートのセカンドキャリアを確立するうえでも、こうした工夫により、スポーツ指導を安定した職業として確立することが必要だ。

 部活動指導員が学校と地域にまたがってスポーツ指導をすることになれば、学校教育と社会教育の融合が図られ、学校スポーツが生涯スポーツの一環として位置付けられることにもなるだろう。

 総合型地域スポーツクラブの設置推進は1995年度以来、文科省が進めてきた政策だ。2017年度で1409市町村に3580のクラブが存在する。しかし、地域スポーツクラブはこれまで学校部活動とは一線を画してきた。むしろ、両者を融合することが必要なのではないか。

部活大好き教師は指導員になってはどうか

 自民党の「地域スポーツのあり方を検討する小委員会」は2017年5月、学校の部活動を地域のスポーツクラブに移行し、学校内に地域住民を会員とするスポーツクラブを設置するという案を示した。部活動と地域スポーツクラブの一体化だ。

 部活動指導員は、部活動以外の時間はスポーツクラブで地域住民に対するスポーツ指導を行うことになる。自民党小委員会案では、指導者には「スポーツ専門指導員」という国家資格を求めることになっている。これはなかなか優れた構想だと思う。

 こういう構想を具体化していけば、学校と地域をまたぐスポーツ指導を、十分な所得が得られる1つの職業として確立することができ、アスリートのセカンドキャリアを確保することにもなるだろう。そして「ブラック部活」にあえぐ教師も救われる。

 学校の教師の中には、「BDK」すなわち「部活大好き教師」「部活だけ(しかしない)教師」と言われる人たちもいる。この類いの教師はもともと部活動が好きだから、いくらやっても負担感がない。そのため、生徒たちを過度の長時間練習や体罰などで肉体的・精神的に追い詰めてしまうことも起こり得る。

 一方で、本来の仕事である授業への取り組みはおろそかになりがちだ。やはり教師には授業にこそ力を入れてほしい。BDKの人たちには、教師を辞めて「部活動指導員兼地域スポーツ指導員」という新たな職業に就くことを考えてもらえるようにすべきだろう。

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