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豊洲市場は大赤字!金融の視点で見える事業面での大問題

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/22 安東泰志
豊洲市場は大赤字!金融の視点で見える事業面での大問題 © diamond 豊洲市場は大赤字!金融の視点で見える事業面での大問題

 築地市場の豊洲への移転については、東京都の小池百合子知事が昨年11月7日に予定されていた移転を延期し、予定されていた9回目の地下水モニタリング調査の結果を待って判断するとしていたが、その結果、基準値の79倍ものベンゼンを検出した地点が含まれるなど、従来移転の前提としていた都のコミットメントが果たせていないことが明らかになった経緯にある。さらに、3月19日に公表された再調査の結果は、更に悪化した部分もあるなど、芳しいものではなかった。

 ところで、豊洲移転の可否を決めるには、この環境基準の問題だけでなく、豊洲移転後の市場の持続可能性という「金融的な視点」も必要である。本稿では、主に金融の視点から見えてくる現実について論考してみたい。

豊洲移転の可否についての2つの視点

 あらかじめお断りしておくが、筆者は豊洲移転の可否についてはニュートラルな立場である。また、本稿で述べる内容は筆者の個人的見解であって、小池知事ほか誰の意見をも代弁するものではない。ただ単に、既に公開されている資料の解読を試みるものだ。

 そもそも豊洲市場への移転の可否判断は、東京都だけで決められるものではなく、その前提として、農林水産大臣からの移転認可が必要だ(卸売市場法第10条)。では、その移転の認可を得るには、どういう条件が満たされる必要があるのだろうか。

 卸売市場法第10条には、以下のような記述がある(太字は筆者による)。

 (認可の基準) 第十条  農林水産大臣は、第八条の認可の申請が次の各号に掲げる基準に適合する場合でなければ、同条の認可をしてはならない。 一  当該申請に係る中央卸売市場の開設が中央卸売市場整備計画に適合するものであること。 二  当該申請に係る中央卸売市場がその開設区域における生鮮食料品等の卸売の中核的拠点として適切な場所に開設され、かつ、相当の規模の施設を有するものであること。 三  業務規程の内容が法令に違反せず、かつ、業務規程に規定する前条第二項第三号から第八号までに掲げる事項が中央卸売市場における業務の適正かつ健全な運営を確保する見地からみて適切に定められていること。 四  事業計画が適切で、かつ、その遂行が確実と認められること。

 ここから読み取れることは、移転の認可を取得するためには、(1)生鮮食料品等を扱う上で適切な場所にあること、すなわち、環境的に問題がないこと (2)事業の継続可能性があること、の2点が必要だということだろう。

 このうち、環境に関しては本稿の目的ではないのでごく簡単に述べるが、そもそも豊洲の土地は東京ガスの工場跡地であったため、現在でも土壌汚染対策法上の汚染が存在する区域(形質変更時要届出区域)に指定されている。土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による「汚染の除去」ができた場合には、形質変更時要届出区域の指定を解除すると定めているが、その「汚染の除去」が完了するためには、「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続することを確認すること」が必要とされている。

 そういうこともあり、都は2014年から2016年11月まで、2年間の地下水モニタリング調査を行なってきたのだ。農林水産省の資料の中には、汚染が存在する区域である「形質変更時要届出区域」について「生鮮食料品を取り扱う卸売市場用地の場合には想定し得ない」と明記されたものもあり(http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokusan/bukai_08/pdf/ref_data04.pdf、別添7に記載あり)、「地上」と「地下」は違うとはいえ、原則として地下をしっかり浄化することが移転認可の条件になり得ると考えることもできる。

 したがって、それを確認するための2年間の検証結果が出る前の昨年11月に市場移転をするという舛添前知事の判断は、明らかに行政手続きを逸脱していたのである。もともとその結果が判明するのは今年1月の予定であった。それから農水省に移転認可の申請をするのだから、正当な手続きを踏むならば、もともと移転は早くて今春以降にしかできなかったはずだ。

 また、土壌汚染が判明している土地に卸売市場を設置するという石原都知事のやや無理筋な判断を正当化し、都民に安心感を与えるため、歴代都知事は、議会と都民に対して「地下の土壌を環境省が定める環境基準以下にする」ということが事実上移転の条件であると繰り返しコミットしてきた経緯にある。そのため、これまで数百億円という巨費を掛けて土壌汚染対策を行なってきたのだ。もちろん、食品を扱う建物内と土壌はコンクリート等で覆われており、土壌を環境基準以下にしなくても必ずしも法令に違反しているわけではない。

 しかし、「安全」と「安心」は似て異なるものだ。たとえば、遺伝子組み換えのトウモロコシは、法令上「安全」かもしれないが、それを「安心」して買う消費者は極めて少ないだろう。歴代知事は、「安全」であることはもちろん、都民の「安心」を確保するために土壌を環境基準以下にするとコミットしてきたのであるから、それが守れずにいる現状、小池知事がいきなり従来のコミットメントを破るわけにはいかないのではないか。もし現状で移転をするというのであれば、都民ないしその代表たる都議会の承認を改めて得る必要があることは言うに及ばない。もちろん、それで東京都が移転に舵を切ることになっても、農水省が移転の認可を出すかどうかは定かではない。

 なお、「築地市場の方が不衛生だ」というような指摘も散見されるが、築地市場は、現在まさに使用されているのであって、今問題にされているのは「豊洲に移転するかどうか」の判断なのであるから、ここで築地のことを議論することは不要であるばかりか、むしろ不適切なのではないか。もちろん、築地市場は、それが使用されている間は、しっかりとした補修等を行なっていく必要があることは言うまでもないし、築地がどうであるかに関係なく、豊洲への移転に問題なければ移転すればいいのであるし、豊洲への移転に問題があるなら移転できないだけの話だ。

大幅なキャッシュフロー赤字の可能性大豊洲市場に持続可能性はあるのか

 では、農水省の移転認可基準のもう一つである「持続可能性」はどうだろう。 この問題については、小池知事になって再開された市場問題プロジェクトチーム(市場PT)の席で今年1月と2月に配布された資料( http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt05/06_keizokusei.pdf , http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt06/06_shijoukaikei.pdf )に数値の開示がある。市場の持続可能性、つまり事業採算の話は、これまで都議会で真剣に話し合われてきた形跡がない。しかし、前述のように、農水省の移転認可判断は市場の持続可能性も考慮に入れてなされるのであり、また、採算が取れない場合には赤字補填のための税金の投入が必要になる。 まず豊洲市場単独の収支を検討してみよう(図1)。

◆図1:各市場の収支(豊洲市場は開場後概算額・減価償却費を除く)

 市場問題PTの資料からわかることは、豊洲市場は、開業後、毎年68億円の収入に対して費用が166億円、差し引き約100億円の赤字になるということだ。もちろん、費用の中には、現金流出を伴わない「減価償却費」も含まれているが、その71億円を仮に差し引いたとしても、やはり毎年30億円の赤字(キャッシュフロー赤字)となる。

 しかも、試算の前提として、豊洲市場は水産物で1日2300トン、青果物で1日1300トンの取扱量を想定している。しかし、図2に明らかな通り、築地市場の年間取扱高は年々減少しており、平成14年比で既に3割強も減少しているのである。

 1日あたりに直すと、図2の折れ線グラフのように、現在では築地市場の水産物の取扱量は1日1500トン程度と見られ、豊洲の目標値はそれに比べて50%以上も多いことになる。すなわち、豊洲市場は、開業後、計画通り年間100億円程度の赤字で収まるかどうかさえ甚だ疑わしく、しかもその赤字幅が年々拡大してもおかしくない。もちろん、豊洲市場は築地市場と比べて十分な駐車スペースの確保がなされているなど、優位な点もあるだろうが、それだけで一気に取扱量が50%も増えるとは考えにくい。

 ちなみに、現在の築地市場は年間6億円の黒字、減価償却費を入れないキャッシュベースの収支は年間18億円の黒字である。

◆図2:築地市場の取扱数量の推移(水産物)

 一方、東京都の市場会計は、図1の11市場を一体として捉えた事業運営をしている。したがって、もし豊洲市場が赤字であっても、他の市場の黒字でそれが相殺できるならば、豊洲市場の持続可能性は保たれることになる。

 その市場会計の今後の推移予想が図3である。

◆図3:市場会計による損益見込み

 豊洲の開業は平成28年を想定していた。そこで平成28年から先を眺めてみると、経常損益は毎年44億円~140億円程度の赤字で推移することが見込まれている。しかし、従来の都の説明では、「(先述の)減価償却費を差し引いたベースでは、毎年22億円の赤字~15億円の黒字で推移するので、市場会計は持続可能である」との結論になっている。

 しかし、ここには様々な数字のマジックがある。第一に、先述の通り、この収支の前提となる豊洲の取扱量が現在の築地に比べて非常に多いと仮定されていること、そして、それが減少しないことになっているのを現実的と見るのかどうかだ。

 では、仮にこの非現実的とも思える取扱量の前提が達成されたとしたら問題ないのだろうか。筆者は、図3の損益見込みを精査し、この表の裏側に隠されている「からくり」を取り除いた実力値で表を作成し直してみることにした(図4)。

◆図4:償却前収支について

 金融業界では、事業収支の実力値や事業の継続可能性を測る際には、補助金や一時的な損益や、減価償却費など「非現金項目」を除き、逆に、設備の修繕費など、損益に関係なくてもキャッシュフローに影響する項目を算入する。それと全く同様の手法に従うまでだ。

 図4からわかることは、以下の通りだ。

 (1)事業の実力を示す営業利益段階では、豊洲開業後は毎年73億円~171億円の赤字であり、その赤字は毎年拡大を続ける (2)営業損失から減価償却費を除いた「償却前営業利益」は毎年22~29億円程度の赤字と、一見小さく見えるが、建設改良費と呼ばれる設備投資が毎年50億円かかるため、キャッシュフローは毎年79~117億円もの赤字となっている (3)経常利益には、一般会計からの毎年20億円もの補助金が入っているほか、築地の土地を売却したと仮定した場合の一時的な利息収入が11~44億円含まれており、これらを控除した実力値で見ると、営業利益と変わらない大きな赤字を計上し続ける (4)都の主張では、「償却前経常利益」は「毎年22億円の赤字~15億円の黒字で推移するので、市場会計は持続可能である」とされているが、実際には、これら補助金や一時的な利息収入を除いた「実力償却前経常利益」は、毎年19~69億円の赤字であるほか、これに設備改良費を入れると、キャッシュフローは毎年68億円~126億円の赤字になる

 筆者は銀行勤務時代にはプロジェクトファイナンスを手掛けてきたが、その経験からすると、この事業は大幅なキャッシュフロー赤字であり、しかも、プロジェクションの前提となる市場取扱量の仮定が甘すぎて、単独では到底持続可能とは思われない。毎年のキャッシュフロー赤字は、誰かが埋めなければ市場は持続できない。誰が埋めるかと言えば、それは東京都民の税金ということになる。

大きなキャッシュフロー赤字を税金で賄うことが許容できるのか

 以上のように、豊洲市場が持続可能かどうかは、ひとえに都民が毎年の大きなキャッシュフロー赤字を税金で賄うことが許容できるかどうかにかかっている。しかも市場は、一度稼働を始めてしまうと、次の50年、100年固定化してしまう恐れが高い。東京都の人口もそう遠からず減少に転じ、税収も減っていくと予想されている。そんな中、東京都が毎年巨額の赤字を補填し続けることが本当に可能なのかどうか、都民ないし都民の代表たる都議会で慎重に審議すべきは当然である。

 仮に、都民が、豊洲市場では土壌の環境基準を満たさなくても良く、かつ、毎年巨額の税金を支払って赤字補填してもいいと言うのであれば、選択肢はクリアである。それで農水省の認可が下りるのであれば、晴れて豊洲に移転すればよい。

 しかし、仮に都民が、環境ないし税金投入のいずれかを許容できない場合はどうするか。現在実際に使用されている築地市場を改修するのか、それとも「第三の道」を模索するのか、その場合、豊洲の土地の再利用、それに関わる都市計画はどうするのか。また、築地の改修は可能なのか。

 小池知事が豊洲移転を一旦ストップしたことが、豊洲市場に係る環境面や持続可能性面の問題点を都民に開示するきっかけとなった。透明性を重視する小池知事らしい判断だ。仮に結果的に予定通り豊洲に移転することになったとしても、そういう問題点があることを都民が十分理解した上で実行されることがとても重要だと筆者は考える。今後、都庁及び都議会において、ファクトを踏まえた実り多い議論がなされることに期待したい。

(ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長 安東泰志)

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