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韓国と中国の「犬を食べる文化」は悪なのか 犬肉料理を振る舞う地域を実際に回ってみた

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/01/27 08:00 村田 らむ
中国の玉林市の犬肉祭り。店頭で調理している様子(筆者撮影) © 東洋経済オンライン 中国の玉林市の犬肉祭り。店頭で調理している様子(筆者撮影)

韓国や中国の一部地域では一般的に犬の肉が食べられている。アジア内で犬肉を食べる地域は他にもあるが、韓国と中国が槍玉に挙げられることが多い。

 世論では犬肉を食べること自体がそもそも「悪」だという論調も強い。犬肉を食べる文化がある国の人たちを「文明が低い」と嘲るような風潮があるようにも感じられる。

 実際に、現地ではどのように犬肉が取引され、どのように食べられているのか。筆者は、韓国ソンナム市のモラン市場、韓国プサン市のクポ市場、そして毎年犬肉祭りが開催される中国の玉林(ユーリン)地区に足を運んだ。

韓国・ソンナム市のモラン市場

 まずは2014年夏、韓国ソンナム市のモラン市場を訪れた。モラン市場は毎月4と9のつく日にだけ開催される総合市場だ。東京ドーム約165個分という膨大な広さであらゆる物を売っている。野菜、フルーツ、穀物、日用品などが山積みで並べられる。

 にぎやかな市場を歩いていると、獣の臭いがしたので目をやると、オリに入れられた動物たちがいた。

 ウサギ、ヤギ、アヒル、ニワトリ、猫、そして犬も並んでいた。

 日本人である僕にとっては、犬はやっぱり愛玩動物であり、食材として扱われているのを見るとやはりギョッとしてしまう。

 しかも訪れた日が真夏だったので、オリの中にギュウギュウに詰め込まれた犬たちは、暑さでバテていた。ぐったりして地面やオリにあごをつけて眠っている。

 お店によっては大型の扇風機で犬に風をあてている。しかし扇風機は汗をかかない犬にはほとんど効き目がない。さすがにかわいそうだと思った。

 店頭には台型の冷蔵庫が置かれ、捌かれた犬肉が並べられて売られている。お客さんの多くは、その肉の部位を買っていた。中には、犬を一匹生きたまま買って、バイクの後ろに載せて持ち帰った強者もいた。

 日本人にとっては愛玩動物と書いたが、韓国人にとっても、犬は愛玩動物でもあるらしい。なぜなら、ペット用の子犬も売られていたからだ。ペットとして買われなかったら、そのまま食用として育てられる。

 話を聞くと、韓国国内にも若者をはじめとして犬を食べることに反対している人たちは多いらしい。現場では、そういう人たちが写真を撮らないかずいぶん警戒する空気があり、口ゲンカをしている声も聞こえた。ただ、全体の雰囲気としては明るく、笑い声が絶えない市場だった。

 市場の周りには犬肉料理が食べられるお店が並んでいる。そのうちの1軒に入ることにした。

 お店の中には、耳を紫色に染められた小型犬がちょこんと座っていた。このレストランのマスコットキャラらしい。さすがにちょっと悪趣味だなと思う。

 店内のムードは明るかった。家族経営をしているようで、お父さんが調理をして、お母さんが給仕をして、子供が皿洗いをして……と一家で働いていた。

 ポシンタン(補身湯)を注文する。ポシンタンとは栄養スープみたいな意味の言葉だが、犬肉辛味スープの隠語になっている。韓国では1988年のソウルオリンピック以降、犬肉文化は隠されている。

 犬の筋肉と内臓と香草を煮込んだスープだ。値段は日本円で900円と、食べ物の値段が日本より安い韓国では少し高めの値段だった。

 スパイスの香りで最初はわからないが、はんでいるうちに犬の臭いが口の中に広がる。犬の臭いとは、犬をハグしたときの臭いだ。慣れていないと、さすがにおいしいとは思えなかった。

 ただ、もちろん周りの人たちはパクパクと平らげていた。

 その後の2017年、ピョンチャンオリンピック(平昌五輪)の影響で、モラン市場での犬の屠畜施設などは撤去された。かつて韓国政府はソウルオリンピックや、日韓ワールドカップなど国際的スポーツ大会があるたびに規制を強めてきた。

 今回もかなり強く、引き締めたといえる。

韓国・プサン市のクポ市場

 続いて2015年の夏、プサン市のクポ市場に足を運んだ。ここも大規模な市場でさまざまな食材が売られている。モラン市場とは違い、一年中開かれている。

 犬肉が売られているゾーンは比較的人通りが少なかった。少し影のある雰囲気になる。

 お店の前のテーブルには、内臓を抜かれて丸焼きにされた犬が並べられている。エプロンをつけた女性たちが、ナタのような包丁でガンガンと肉を叩き切っている。

 犬たちはモラン市場と同じく、狭いオリの中に閉じ込められていた。犬はお店によって犬種が違っていた。洋風の犬もいた。

 残酷なことに、犬たちのオリの前にバラバラになった犬肉が商品として並べられている。犬は鼻が良い。目の間に並べられているのが仲間だと気づくんじゃないかと思い、胸がいたんだ。これは、さすがにデリカシーがないなと思った。

 この商店街にも犬肉を食べられる食堂が並んでいる。店の前を通っていると、赤いエプロンをつけた女性が近づいてきた。満面の笑みで、親指を上に突き上げている。

 「犬肉を食べたら精力がアップするよ」

 と言っている。韓国や中国では、犬肉を食べると精力が上がるといわれている。これは単純に体力が向上するという意味もあるし、性的に強くなるという意味もある。

犬肉の蒸し料理を注文

 店内に入ると、精力を求めているのか初老の男性たちがたくさんいた。今回は、ポシンタンではなく、犬肉の蒸し料理を注文した。

 スライスした肉を、蒸し鍋で蒸すだけという極めて単純な料理だ。2000円とポシンタンよりも値段が張った。肉の量が多いからだろう。単純な料理だけに、肉の香りがより強烈だった。コリッと脂身の質感も、あまり経験したことがなくなかなか食が進まなかった。

 しかし通には、むしろこの臭いや質感がたまらないらしい。

 「がんばって全部食べると精力アップするよ」

 と給仕のお姉さんに何度も言われた。頑張って完食したが、何度犬肉を食べても精力がアップしたという自覚はなかった。犬を食べて精力がつくというのは、思い込みの部分が大きいのではないだろうか?

 このクポ市場も2017年に閉鎖されることが決まった。動物愛護団体などの閉鎖要求に応える形だ。足を縛られた犬が引きずられる動画がウェブ上で拡散して、反対運動に火がついたという。

 もちろん家畜に対する虐待行為はダメだが、だからといって“虐待行為”があったから全面的に“犬食はダメ”というのも飛躍している気がする。アメリカなどでは豚などの家畜を虐待する動画が流れることがたびたびあるが、だからといって“豚肉を食べるのはやめよう”とはならない。飽くまで“家畜を虐待するのをやめよう”が正しい反応だ。

 動物を育て、精肉し、料理して食べさせることは、悪ではないだろう。それが悪だというなら、食肉業界全部が悪だ。そんな馬鹿な話はない。

中国・玉林市の「犬肉祭り」

 最後に2017年の6月、近年“犬肉祭り”が行われるとしてバッシングされている、中国の玉林(ユーリン)市に向かった。犬肉祭りは夏至に開催される。それに合わせて現地入りした。

 玉林市は中国の南部にある地域だ。緯度は沖縄より南、台湾と同じくらいの場所になる。かなり暑い地域だ。

 日本からの直行便はない。上海で乗り換えてまずは桂林(ケイリン)市へ行く。桂林市は観光地として有名な地区だが、実はここでも犬肉料理を食べる。玉林市とは違い、冬の寒い時期に食べることが多いらしい。

 桂林市から高速鉄道(日本でいう新幹線)に乗って玉林市に向かう。

 玉林市は広西チワン族自治区という少数民族の現住地の1つだ。少数民族といっても、玉林市の人口は500万人を超える大都市だ。

 ガイドと共に市場に向かった。かなり大きい市場で、キツく動物の臭いがする。市場の中では解体した豚が板の上に並べられ販売されている。市場の外には、ナマズなどの魚(内陸部なので海魚はあまりない)、ニワトリ、アヒル、ハト、などが売られている。

 聞けば、鳥インフルエンザが出て先日までは、鳥の生体販売は禁止されていたらしい。「やっと解禁されてよかったよ」と市場のおばちゃんは言っていた。

 しかし、肝心の犬は売られていなかった。

 「中国政府から禁止されたんだよ。生体販売はもうするなとお達しがきた」

 とうんざりした顔で言われた。中国南部は基本的にアジアらしいゆるい雰囲気なのだが、中国政府が出てくるとピリッとした空気になるようだ。

 市場内には犬はいなかったが、市場の外では犬肉の屋台が出ていたので、取材を打診した。すると調理をしているおばちゃんが肉切り包丁を振り上げて

 「いい加減にしろ!!」

 といきなり怒鳴ってきたので、驚いてしまった。切りかかってくる勢いだった。ほうほうの体で離れる。

 その後も、犬肉の屋台全般に取材は断られてしまった。現地のガイドに話を聞くと、

 「インターネットのニュースでのバッシングがかなり効いていますね。今年も西洋人がやってきて動画を配信しています。ケンカを売ってくる西洋人もいるからピリピリしているんでしょうね。そろそろ中国政府が犬肉を販売するのを全面中止にするのではないか? と心配しています」

 と言われた。

 確かに街を歩いていると、スマートフォンを片手に中継をしている西洋人が何人もいた。犬肉文化をバッシングしているのだろう、ホテルのロビーで大声を出している人もいた。なんだか彼らの攻撃的な表情は僕を含めたアジア人全体を馬鹿にしているように感じた。

 今年も犬肉祭り自体は開催されるという。

 犬肉祭りといっても、お神輿を担いだり、踊りを踊ったりするような祭りではなかった。日本でいう土用の丑の日にうなぎを食べるのに近い習慣だ。街にある、犬肉料理店がのきなみにぎわうという。ただ現地の人には、

 「でも私たちは普段から犬肉を食べますよ。ちなみに私は2週間に1度は食べています。まったく珍しいことではありません」

 と言われた。2週間に1度食べるなら、日本人がうなぎを食べる頻度よりも多いだろう。

 ガイドに玉林市でいちばん有名だと言われている犬肉レストランに案内してもらった。

 『第一家脆皮肉館』というお店だった。昔は店名に“狗(犬)”の文字が入っていたのだが、時流にそって消したそうだ。

 ただ、お店の軒先に犬肉を吊るして肉切り包丁でバンバンと捌いている。ふと横を見ると、路上に丸焼きになった犬肉がゴロゴロと転がっている。隠す気はないようだ。

 グループ店が3軒並んでいるのだがどのお店も超満員だった。韓国のように初老の男性ばかりではなく、家族連れの客、男女のペア、会社のグループなどさまざまな人たちが和気あいあいと食事を進めていた。文化に根付いた食事なんだな、と思った。

 品数は少なく、犬鍋だけだった。ぶつ切りにした犬肉をあまがらいタレと野菜で和えた料理だ。韓国の犬肉料理に比べて、臭みが少なく食べやすかった。ただ、かなり乱雑に切ってあるため骨や筋も多い。

 ガイドが「この部分コリコリしておいしいよ」と言いながら渡してくれた肉を見ると、犬の足の肉球だった。急にゲンナリしてしまった。

「文句を言われる筋合いはない」

 ガイドを通して現地の人に話を聞いた。

 「中国国内で犬肉料理に反対しているのは結局、上海とか北京とか北の連中だ。北はもともと、穀物などがたくさんとれたから犬を食べる必要がなかった。南部はなかなか食べ物がとれなかったから何でも食べた。何百年も食べてきているのに、文句を言われる筋合いはない」

 とかなり興奮しながら話してくれた。怒りは収まらず、政府に対する悪口になった。

 「中国南部の人間はとても強い。戦争も強かった。だから毛沢東の軍隊をやっつけた。中国共産党はそれをいまだに恨んでいて、中国南部はビルなどのインフラ整備が遅れている。嫌がらせをしているんだ。観光ですごく稼いでいる桂林市でさえ路地に入るとボロボロのビルが立ち並んでいる」

 日本にいるとつい中国を一枚岩としてとらえてしまうが、実際には地域によって考え方も習慣も違う。漢民族と少数民族の間にも埋められない距離があるという。

 夏至のシーズンは、飼育されている犬だけでは間に合わず、ペット泥棒が出るというウワサがある。その話題にも触れてみた。

 「最初こそペット泥棒は良くないと批判が出た。だけど、犬を飼っている人たちは大体マナーが悪い。鳴かせるし、糞もさせる。だからペット泥棒がさらってくれて、静かになって良かったとみんな喜んでいる。だから今は文句出ない」

 さすがに逆に泥棒に感謝しているという話はいかがなものかと思う。

 実際に中国国内ではペット泥棒が横行しているならば、それは大きな問題だと思うし、阻止する手立てをしなければならないと思う。

 以上が、実際に犬肉料理を食べている地域を取材したレポートだ。

ブタやニワトリと犬の命は何が違うのか

 現在ネットで流れている記事は基本的に犬肉食には反対のスタンスだ。

 「犬肉祭りの10日で10万頭の犬が殺されます」「韓国では年間200万頭の犬が消費されます」とまるで“だから犬肉食はいけない”と言うかのように書かれた記事も見つけた。廃止を求める署名が100万を超えたと報道する記事もあった。

 現在日本では、月に100万頭以上のブタが出荷されている。ニワトリはもっと多いだろう。ブタやニワトリと犬の命は何が違うのだろうか?

 「犬は可愛いから殺すな」

 これは単に主観的で感傷的な話でもある。もちろん、家畜に対する残酷な仕打ちや、ペット泥棒は取り締まらなければならないと思う。しかしそれと、犬肉を食べるのをやめることとは別問題だ。

 うなぎは養殖といわれているが、実際には野生の稚魚をとって育てている。つまり野生動物だ。年々、稚魚の漁獲量は減少し、今年は前年の1%まで減っている。もう絶滅寸前だと考える人も少なくない。それでも今年も土用の丑の日にはキャンペーンをしてうなぎを食べるのだろう。そして数年後にうなぎは地球上から姿を消しているのかもしれない。

 はたして犬肉を食べることと、うなぎを食べること、どちらが問題だろうか? 僕には正直、「犬肉を食べてはいけない理由」はわからない。

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