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「バイトは教育で真人間にしろ」が、ブラック企業につながる理由

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/03/12 08:22

 本日、大戸屋が「全店一斉休業」している。

 相次ぐバイトテロ騒動のなかで、大戸屋でも店内で「アキラ100%」のように下半身丸出しで、お盆芸をして遊んでいる不適切動画を投稿したことが発覚。そこで、再発防止のため全従業員を対象にして、SNSや仕事の姿勢など服務規程についての勉強会を実施しているのだ。

 報道対策アドバイザーとして、この手の「危機」に関わることの多い経験から言わせていただくと、今回の大戸屋の対応は「お見事」の一言に尽きる

 「お前らのせいで大損失だ」とバイトを訴える姿勢を見せた「くら寿司」、24時間営業を続けられなくなったオーナーに「契約違反」とペナルティーを求めたセブン-イレブンなど、人手不足に悩む外食、コンビニの「従業員に厳しいカルチャー」が際立っているなか、即座に「私たちの教育不足が悪うございました」と言わんばかりアクションをとったことで、好感度がグーンと上がったからである。

 一斉休業による損失は1億円という話だが、ワイドショーなどでも大きく取り上げられ、広告効果は絶大で、レピテーション向上にも結びついている。まさにピンチをチャンスに、という模範的な危機対応といえよう。

 事実、勉強会開催を発表してからは、「気の毒に」と同情する声だけではなく、「素晴らしい英断だ」というエールも多く寄せられているのだが、個人的にはこの風潮に一抹の不安を感じている。

 業態・規模を問わず、不祥事が発覚した企業のトップたちが、まるでコピペしたように同じ立ち振る舞い、同じような言い回しで、謝罪会見に登壇することからも分かるように、日本の危機管理は基本、「前例主義」である。要は、成功パターンをそのまま丸パクリするスタイルなのだ。

●現状よりも深刻な事態を引き起こす恐れ

 こういう日本のカルチャーを鑑みれば、これからこの手の「勉強会」がわっと増えていくのは明白だ。バイト従業員がトラブルを起こした外食やコンビニが脊髄反射で、大戸屋メソッドを真似て、「全店閉めて、勉強会やります!」と言い出すからだ。

 そう聞くと、「バカで非常識な若者がどんどん教育されるんだから、いいことじゃん」と思う人も多いだろう。もちろん、悪いことではない。むしろ、筆者のように、メディアトレーニングなどの社内研修を生業(なりわい)とした人間からすれば喜ばしい限りで、企業の皆様はじゃんじゃかSNS研修でもやってもらいたいとさえ思う。

 が、そういう我欲をちょこっと脇に置き、こういう流れが長い目で本当に、日本社会のためになるかを考えてみると、あまり浮かれてばかりもいられない。現状よりももっと深刻な事態を引き起こす恐れがあるのだ。

 何かあるとすぐ研修だ、勉強会だという風潮になると、だだでさえ、過重労働やパワハラなどが指摘されている外食やコンビニの「ブラックぶり」にさらに拍車がかかってしまうからだ。

 なぜそんな皮肉な現象が起きるのか。理由は主に3つある。

(1)企業や学校ではこれまでの「SNS教育」に力を入れてきた

(2)「マジメに働くバイト」ほどモチベーションが下がる

(3)ただでさえ「覚えること」が山ほどあるバイトの仕事を増やす

 まず、(1)は既にSNSの専門家などが指摘しているが、これまでも全国チェーンを運営する企業などではこういう研修や勉強会をやっていなかったわけではない。むしろ、それなりにちゃんとやってきている。特に力を入れたのが、2013年のバカッター騒動後だ。

 「夏ごろからアルバイトが、店内の悪ふざけをインターネットに投稿する問題が相次いだ。店側は商品の廃棄にとどまらず、閉店を迫られるケースも出ている。このため、アルバイトの質向上と離職率の低下を狙い研修に力を入れる外食も多い」(日本経済新聞 2013年10月26日)

 さらに言えば、小中学校や高校などではずいぶん昔からSNS教育が行われている。つまり、今回問題を起こした若者たちというのも、既に何かしらの研修や勉強会を受けてきているのだ。

●ブラック企業への道を突き進む

 知識ゼロ、危機意識ゼロで何も分かりませーん、という者への「教育」は大きな意味がある。しかし、既に教育を受けている者に、これまでとさほど変わらぬ教育を施したところで、一体どれだけの効果があるのかは甚だ疑問なのだ

 「だからこそ、これまでよりもさらに厳しく教育して、性根から叩き直してやるのだ」という声が聞こえてきそうだが、そのような精神論へ傾倒しがちだからマズいのである。

 ブラック企業の特徴の一つに、「厳しい研修」がある。創業者のポリシーを大声で朗読させたり、フィロソフィーを暗唱させ、できなかったら罵声が飛ぶ。なんて感じで、効果の疑わしい研修や勉強会に固執して、やたらと精神論を強調していくのは、ブラック企業への道を突き進むことになるのだ。

 このような危険性に加えて、研修や勉強会が溢れると、バイトの離職を招く恐れもある。(2)の『「マジメに働くバイト」ほどモチベーションが下がる』という問題が起きるからだ。

 おバカな動画が何度もリピートされているので、外食やコンビニはああゆう愚かな若者ばかりかと勘違いされてしまうが、あれはほんの一握りで、ほとんどの若者たちはこれまで受けてきた研修や、学校で受けたSNS教育を胸に刻んで、バカな投稿をするわけでもなく、マジメに働いている。

 では、この大多数のバイト従業員は、今回のように何か問題があったら「全従業員強制参加」の研修や勉強会が開かれるのが当たり前になったら、どう思うだろうか。

 いくら時給が支払われるとはいえ、自由を拘束されてさして興味のない勉強をさせられることなど苦痛以外の何物でもないのではないか。このあたりの理不尽さは、子どものときも誰もが味わった「連帯責任」を思い出していただきたい。

 例えば、小中学校で一部の不良学生が起こした事件や問題のため、体育館で「全校集会」なんてのが開かれる。校長をはじめ、教師が代わる代わるマイクを握って、「これはみんなの問題だ」と延々とお説教する。真剣に聞いていた人もいらっしゃるかもしれないが、ほとんどの人はこんな風に文句を言っていたはずだ。

 「あーだるい。なんで一部の人間がやったことで、こっちまで迷惑をかけられるんだよ」

 これとまったく同じ不満が、「マジメなバイト」の間に、たまっていく恐れがあるのだ。

●理不尽な仕打ちに耐える理由はない

 全体主義の日本では、ゆりかごから墓場まで、こういう「連帯責任」を骨の髄まで叩き込まれるので、会社に正社員として就職したような人は、誰かのミスで連帯責任を負わされても当たり前だとあきらめる。しかし、バイトという立場の人は、そこまで理不尽な仕打ちに耐える理由はない。

 つまり、一部の問題バイトの対策で、「全従業員強制参加」の研修が当たり前になると、「マジメなバイト」ほど損をするという状況になり、「連帯責任」に愛想を尽かして去っていく「離職ドミノ」が起きる恐れがあるのだ。

 だが、バイトを研修・勉強会漬けにすることの本当の危険は(3)の『覚えることが多いバイトをさらに苦しめる』という点にある。

 今回のバイトテロ報道を受け、「昔のコンビニや居酒屋でバイトでも、こういうバカは一定数いたもんだ」と遠い目をするおじさんがよくいるが、こういう人たちが働いていた時代と現在は比べ物にならないほど仕事が増えている。

 サービスが多様化しているのはもちろんだが、30年前と比べて、言葉遣いや態度が悪いとクレーム、レジや食事を出すのが遅いとお説教と客側が求めるサービスの質も高くなっているのだ。企業側も大量出店したことで、バイト依存が進んでいる。接客マナーや作業マニュアルを叩き込んで、社員のようにキビキビ働くバイトを求めている。牧歌的な時代の無責任バイトと比べて、とにかく「覚えること」「守るべきこと」が山のようにあるのだ。

●勉強せよ、研修を受けろ

 例えば、今回注目を集める大戸屋。バイトの口コミサイトなどでは、「マニュアルがあるので初心者でも安心」というような評価をなされていて、「働きやすい職場」のイメージが強い。が、問題はそのマニュアルの「量」だ。

 「マニュアルは全200ページほどにも及び、約30品目あるグランドメニューや期間限定メニューすべてのレシピが記載されていた。」(週プレNEWS 2015年5月19日)

 ここで先ほど遠い目をした元バイトのおじさんたちにうかがいたい。皆さんがバイトをしていたときに、こんなにたくさん「覚えること」はあっただろうか。

 今のバイトはこのようなマニュアルを読み込み、DVDを自分で視聴しながら、先輩や社員から手ほどきを受ける。そして、さらに多くの外食やコンビニが必ず掲げる「笑顔でおもてなし」「真心の接客」を求められる。

 つまり、「初心者歓迎」「誰でもできます」と最低賃金からちょこっと上乗せしたくらいの時給で、最高のサービスと接客を要求される。それが、日本の非正規労働者なのだ。

 そこで想像していただきたい。ただでさえ、このようなハードワークを日夜強いられている人々が、心ない一部のバイトが問題を起こすたび、勉強せよ、研修を受けろと言われたら。

 完全にキャパシティを超えてしまうのではないか。

●研修を受けても、賃金は据え置き

 不祥事のたびに研修、また何か問題が起きれば研修、というサイクルは、マネジメントや経営陣からすると、しっかりと対応をしてます感をアピールする格好の施策なので安心感がある。しかし、「やらされる側」からすれば日常業務以外の余計な仕事を増やしているだけに過ぎない。

 研修や勉強会というのは決して悪くはないが、それもあまりに行き過ぎると、非正規雇用という弱い立場の人間に対して、責任や義務だけを増やすだけの結果にしかならないのである。

 というような話をすると、「だったらどうすりゃいいんだ! 文句ばっか言いやがって」とキレる人も多いだろうが、この問題を解決する道は一つしかない。

 賃金を上げるのだ。

 研修や勉強会が増えてバイトが疲弊するのは、そこに「見返り」がないからだ。こういうマナーも身につけろ、会社の代表という自覚を持て、と義務や責任だけを押し付けられて、「これが働くってことだ、分かったか」の一言で終わらされているからだ。

 では、そうならないためにどうするかと言うと、バイトに適正な「見返り」をするのだ。

 企業がバイトに研修や勉強会を行うことは、労働者としての「質」を上げたということだ。労働の「質」が上がったのだから当然、その労働の代価である賃金も上がらなくてはいけない。

 しかし、現実はいくら研修や勉強会を施しても、賃金は上がらない。むしろ、研修や勉強会で「質」を上げてやったんだから今以上にしっかり働けよ、と言わんばかりにむしろ、「賃金据え置き」の根拠とされているのだ。

●日本の「ブラック社会」

 いくら勉強しても、会社のフィロソフィーや200ページのマニュアルを暗記しても、はじけるような笑顔で接客をしても、時給はたいして上がらない。「がんばり」が「結果」につながらないのに、義務と責任だけは右肩上がりしていく。

 時間の切り売りで働く学生や若者たちが、「こんな仕事、いつ辞めてもいいや」となってしまうのは無理もない。そういう自暴自棄な若者は、その場のノリで後先考えずにバカをやる、のはいつの時代も変わらないのだ。

 賃金を上げろ、というと「無責任にそんなことを言うな! 賃金を上げたら利益も落ちて、成長も鈍化するので結局、人を雇えなくなって世の中が悪くなるんだ!」と、日本が滅びるくらいのことを言っている人も多いが、低賃金労働者を犠牲にしないと成長できないような企業が溢れかえるほうが、よほど日本の「危機」である。

 昔はバイトという「使い捨て」を有効活用して企業が成長できたが、これからの日本は労働人口も急速に減って、消費者も減っていく。人間を「使い捨て」にするようなビジネスモデルは、遅かれ早かれ通用しなくなる。

バイトや非正規という「使い捨て労働者」を前提としたビジネスモデルで全国展開をしてきた宅配、コンビニ、外食チェーンなどでことごとく「クライシス」が発生しているのが、その証左だ。

 「バイトテロ」騒動時、「仕事というのはカネだけじゃない、働く喜びがあることをバイトにしっかり教えてやるべきだ」とかのたまう専門家が大勢いたが、このあたりが日本の「ブラック社会」をよく示している。

●今の時代にマッチしたシステムなのか

 想像してほしい。「カネ」のために働いている人が、十分に報酬がもらえないので、やる気も落ちて、仕事中にふざけていた。すると、上司が近づいてきて、その人にいきなりビンタをくらわせて、こんな熱弁を振るい出すのだ。

 「目を覚ませ! お前らが働くのはカネのためじゃないだろ! やりがいや働く喜びのためだろ!」

 理不尽極まりない話だとあきれるだろう。だが、そんな理不尽を、社会全体で大合唱して、若者や弱い立場の労働者に押し付けているのが、今の日本なのだ。

 バイトでも愚かな行為をしたら、その報いをしっかりと受けさせるべきだ。バイトをしっかり教育すべきだ。バイトにも自覚と責任を植え付けなくてはいけない――。

 勇ましいかけ声が日本中に溢れているが、ここらで少し立ち止まって、低い時給と待遇であまりにも多くを求められる「バイト従業員」というものが、果たして今の時代にマッチしたシステムなのかどうかを、考えることも必要なのではないか。

(窪田順生)

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