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「年金の繰り下げ受給」が向いている人、いない人

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/10/03 06:00 深田晶恵
年金の繰り下げ受給は誰にとってもお得な制度ではありません Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 年金の繰り下げ受給は誰にとってもお得な制度ではありません Photo:PIXTA

年金の繰り下げは

メリット1つにデメリットは3つ

 このところ、「年金の繰り下げ受給」についての相談やメディア取材をよく受ける。6月に公表された金融庁の報告書が端を発した「老後資金2000万円問題」の影響で、年金に関心を持つ人が増えたからだろう。

 本来65歳から受給開始の年金を受け取らずに、開始を遅らせる(繰り下げる)と年金額が増える。1ヵ月につき年金が0.7%増え、最長の5年遅らせると42%も増えるので、魅力的と考える専門家は多い。

「繰り下げ」の話題は、新聞や雑誌等が資金の準備に不安をおぼえる人に向けて、高い頻度で取り上げるようになったため、定年退職前後の相談者から「自分の場合は繰り下げるほうがいいか」と質問を受けることが格段に増えた。

「年金の繰り下げ受給」は、「年金額が増える」というメリットがあるが、次のような注意点やデメリットが3点あるので、よく知ったうえで判断したい。

(1)額面ほど手取り額が増えるわけではない

 年金額が増えると、税金や社会保険料(国民健康保険料、介護保険料)も増えるため、手取りベースでみると額面と同じ率では増えない。

 例えば、65歳から受け取る年金が230万円の人が5年間繰り下げると、70歳からの年金額は42%アップの約326万円となる。ところが、手取りベースでは36%アップにとどまるのだ。

 受給開始を遅らせたことが「得」だったか「損」だったかを計算する「損益分岐年齢」という考え方がある。

 例えば5年繰り下げて70歳から年金を受け取り始めると、額面では損益分岐年齢が81歳10ヵ月となるが、「手取りベース」で私が試算したところ、87歳となった。87歳というのは男性にとってはハードルが高いだろう。

(2)夫の死亡後に妻が受け取る遺族厚生年金は増えない

 

 夫が厚生年金を繰り下げて年金額が増えたとしても、死亡後に妻が受け取る遺族厚生年金は夫65歳時の年金額をもとに計算されるため、遺族厚生年金は増額しない。

 このことを知ると「だったら、繰り下げしなくてもいい」と言う妻は少なくないようだ。

(3)年下の妻がいる夫が受け取れる「加給年金」が受け取れない

 加給年金とは、妻の厚生年金加入期間が20年未満などその他の要件を満たしたとき、妻が65歳になるまでの間、夫が受け取る年金の家族手当のようなものだ。金額は年間約39万円で、妻が5歳年下だと5年間で約200万円。これを受け取れないのは、もったいない。妻が年下なら必ず知っておきたい注意点だ。

ケースでみる!繰り下げが

「向いている人」「向いていない人」

 繰り下げをし、年金額が増えると、税金や社会保険料がアップするので、私は繰り下げ受給を積極的には推奨していない。長生きすればするほど、社会保険料の負担はますます重くなることが予想できるからだ。

 しかし実際の相談の現場では、先のデメリットや注意点を踏まえたうえで、夫婦の年齢差や、用意できた(できそうな)老後資金の金額、年金額、65歳以降の収入の目途などを考慮し、その人に向けて「繰り下げるべきか、しないほうがいいのか」をアドバイスしている。

「繰り下げに向いている人」「向いていない人」をケースで見てみよう。

【ケース1】妻は専業主婦期間が長く、年金額は基礎年金+α程度と少ない。

→繰り下げが向いている

 理由は、年金額が少ない人は、繰り下げしても税金や社会保険料の負担が増えないケースが多いから。

 基礎年金は保険料を40年間払い込み、満額で約78万円だ。一方、65歳からの公的年金等控除額(年金の非課税枠)は最低120万円。つまり、120万円までの公的年金(企業年金やiDeCoなど確定拠出型年金も含む)収入なら、非課税ということ。

 仮に妻の年金額が少しの厚生年金と合わせて80万円だとすると、5年間繰り下げると42%アップの約114万円。この額なら公的年金等控除額の範囲内で所得金額はゼロとなる。

 厚生年金の期間がもう少しあり、年金が90万円なら42%アップ後は約128万円。公的年金等控除額の120万円を超えるが、基礎控除の38万円を差し引くと、結果として所得金額はゼロとなるので、税金もかからないし、社会保険料の計算に大きな影響は与えない(個人年金など他の収入はない前提)。

 一般に女性のほうが長生きの傾向にあるため、損益分岐年齢を超えて年金を受け取る確率が高い。女性は繰り下げ受給に向いているといえる。

【ケース2】妻が年下なので「加給年金」を受け取りたい

→夫は基礎年金のみ繰り下げる

 年金額を少しでも増やしたいので繰り下げたい、しかし加給年金も欲しいという人は、厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金だけを繰り下げると、加給年金を受け取ることができる。

 加給年金は、厚生年金の受給が前提となっているものなので、厚生年金を繰り下げずに受給すると受け取れる。基礎年金だけ繰り下げると、基礎年金だけ増額される仕組みだ。これなら「おいしいとこ取り」ができる。

【ケース3】そもそも年金額が少ないから、70歳まで働くつもり

→繰り下げが向いている

 会社員生活が長くても給与水準が低かったシングル女性や、非正規で働いた期間が長かった人は、年金額が少ない。年金額が少ないと老後資金を取り崩して生活することになるが、給与水準が低いと十分な老後資金を準備できないケースも多い。

 完全リタイアして年金生活に入ったときの収入アップと、長生きしたときの備えとして、繰り下げ受給を検討したい。

 その場合、70歳までは働いて「収支トントン」の暮らしを目指し、年金生活は70歳からと位置付けるのがいいだろう。

【ケース4】年金額は人並み以上だが、老後資金としてまとまったお金がない

→繰り下げは不向き。65歳から受け取らずに、70歳で「5年分」を一括で受け取る(年金額が増えるわけではない)

 長年大企業で働き、給与が高いと年金額も多い。加えて企業年金もあるなら、他から見ると恵まれている人。しかし、子どもの教育費が思いがけず多額だったり、住宅ローンの借入額が多かったりすると、老後資金となるまとまったお金が準備できていないケースもある。

 支出を見直すことで公的年金と企業年金の範囲内で年金生活を送ることは可能かもしれないが、病気になったときや災害に遭ったときの備えや、住宅の修繕費、車の買い替え費用など、毎年の支出以外の「特別支出」のための資金がないケースは、60代後半の年金で老後資金を作ろう。

 年金の繰り下げは、「繰り下げます」という手続きは不要で、65歳になったとき受給の手続きをしないだけでいい。例えば、70歳になったときに今から年金を受け取りたいと「年金請求書」を年金事務所に提出すると、その時点で繰り下げ扱いとなり、年金は増額する仕組みになっている。

 その際、実は繰り下げせずに「65歳からの分を一括でもらいます」ということも可能なのだ。ただし、繰り下げ受給のように年金額が増えることはない。

 仮に公的年金額が200万円なら、5年分一括で受け取ると1000万円。240万円なら1200万円になる。老後資金の助けになる金額といっていい。

 このケースは「年金収入はそこそこある。しかし、まとまったお金がない人」であって、繰り下げ受給で年金額を増やす必要はないので、こうしたプランが有効だ。大企業勤務でも老後資金が心もとないという人は、選択肢に入れて検討するといいだろう。

 年金請求は5年で時効になるので、その点は注意したい。また、一括で受け取ると、受け取らなかった期間に対し「毎年年金収入があった」として、過去にさかのぼって確定申告や修正申告が必要になる場合がある。

 税金の申告が面倒という人は、65歳から受け取るように請求手続きをし、日ごろ使わない銀行口座で受け取るように指定し、5年間ほったらかしで貯める方法もある。一括受け取りをしても増額されないので、同じことだ。

 繰り下げをするにせよ、一括受け取りをするにせよ、いずれのプランも65歳以降、赤字を出さずに生活できるように仕事と収入を確保するのが大前提である。

(株式会社生活設計塾クルー ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)

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