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『倒産の前兆』を見抜くために――1日22社が倒産する中で知るべきは「成功」よりも「失敗の公式」

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/11/29 07:30
帝国データバンク情報部の丸山昌吾氏(右)と遠峰英利氏 © ITmedia ビジネスオンライン 帝国データバンク情報部の丸山昌吾氏(右)と遠峰英利氏

 空前の起業ブームが訪れている日本――。大学卒業後に、就職をせずに起業したり、大企業の社員という肩書を捨てて起業したりする若者も目立つようになってきた。

 若くして成功した起業家たちの華々しい「経営者インタビュー」をメディアで目にする機会も増えた一方、複数のベンチャー企業のCFOや監査役を兼任している仕事柄、企業の経営状況に目を光らせなければならない立場にいる筆者としてはこう考えている。

 現実はそれほど甘くない――。

 起業家志望の若者たちが、「起業すること自体」を目的化し、成功体験ばかりを目にすることによって、肝心の「リスク評価」がおざなりになっている現状に危機感も覚えている。

 ITmedia ビジネスオンラインでは、どこにでもある「普通の会社」の栄光と凋落(ちょうらく)と、読者が自身に引き付けて学べる「企業存続のための教訓」を紹介した書籍『倒産の前兆 (SB新書)』(著・帝国データバンク 情報部)未収録のケースを取り上げ、「あなたの会社は大丈夫? 『倒産の前兆』を探る」と題した連載を12回にわたって連載してきた。

 最終回となる今回は、倒産する企業に共通する「失敗の公式」について、国内最大級の企業情報データベースを保有する信用調査会社、帝国データバンクの情報部に所属する丸山昌吾氏と遠峰英利氏にインタビューした。

 同社は信用調査会社として、創業120年の歴史を持つ。中でも同社の情報部は、50年以上にわたって企業の倒産について調査・分析を続けている倒産情報の「プロフェッショナル集団」だ。『倒産の前兆 (SB新書)』の舞台裏についても掘り下げたい。

●失敗する企業はパターン化できる

――日本でも若者を中心に起業ブームとなっていますが、メディアが成功している企業しか取り上げないため、個人的には起業家を志す若者がリスクを過小評価している傾向があると感じています。中小企業白書によれば、創業から10年で約3割の企業が、20年で約5割が撤退するといわれています。もっと失敗例から学ぶべきだと思いますが、失敗を分析した記事はそれほど多くはありません。

丸山:それは仕方ない部分もありますが、失敗例から学ぶことが多いのも事実です。成功した企業にはそれぞれ特殊要因があり、再現性がないこともある一方、失敗した企業はいくつかのパターンに分けることができます。その中でもよく見られるのは、過剰債務を抱えるパターンと、1つのヒット商品だけを妄信して衰退していくパターンです。

遠峰:日本企業の約99%が中小企業だと言われています。当然ながら、<倒産=失敗例>も中小企業が圧倒的に多いわけです。倒産は減少傾向にあるとはいえ、昨年は約8000件が発生していて、1日平均で22社が倒産しているのです。この状況を考えれば、メディアでは取り上げられないものの、(企業が倒産するということは)決して珍しい事象ではないと思います。

――書籍のなかで、企業にとっては「人・モノ・カネ」のバランスが重要だと書いてありましたが、この3つの要素のなかでも一番失うとダメージが大きいものはどれでしょうか?

遠峰:それは間違いなく「カネ」でしょうね。どんなに経営が厳しかったとしても、極端な話、資金繰りさえつけることができれば倒産は回避することができますから。

丸山:企業にとってのお金は人間でたとえるなら「血液」です。あまりいいたとえではないかもしれませんが、お金はあるけど経営が厳しい企業というのは、瀕死(ひんし)の人が生命維持装置をつけて生き延びているような状態を指します。ですから、それを止められたら人間は死んでしまうわけで、企業にとっても資金繰りが行き詰まれば、その瞬間に倒産ということになります。

●銀行ごとに決算書が違う

――中小企業が資金調達をする場合、多くはエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)ではなく、銀行による融資がメインになると思いますが、なぜ銀行は倒産するかもしれない企業を見抜けないのでしょうか?

丸山:銀行員の目利き力が落ちているという話がよく聞かれますが、それも一つの要因になっていると思います。昔はバンカーという言葉があって、融資を通じて企業を支えるという心意気もあり、経営者と深く対話をするために、現場にも通いました。しかし、バブル崩壊以降、企業の評価は財務分析といった数値面での判断が主流になってきました。

遠峰:最近では金融庁が「事業性評価」を推奨し始めていますが、その背景には数値面での判断だけではなく、企業の将来性も評価していきましょうということです。これが浸透していくには少し時間がかかると思います。

――企業の将来性に対して融資をするというのは、どちらかというとエクイティファイナンスにおける投資家のような発想ですね。従来の銀行のスタンスよりは、よりアグレッシブな印象を受けます。

遠峰:超低金利が続いていますから、銀行も多少はリスクを取って融資をして収益機会を得る必要がありますし、特に地方の金融機関においては地元の企業を支えていけなければ先行きは厳しいと思います。

丸山:金融庁が銀行融資を受けている企業に「銀行に要望すること」をアンケートで聞いてみたところ、「経営指導」が上位に来ていました。特に地方ではこの要望が顕著です。

――融資をして、さらに経営指導もするというのは、まるで投資先の経営に深く関与していく「ハンズオン型」のPE(プライベートエクイティ)のようですね。銀行が倒産の前兆を見抜けない、他の理由はありますか?

丸山:昔に比べて多行取引が増えて、メインバンクがどの銀行なのか分からないことが多いのも要因かもしれません。企業と銀行の関係が希薄になって粉飾決算に気付けないケースがあります。ひどい企業だと融資を申請する銀行ごとに決算書が違うんです。具体的にいえば、銀行によって借入金明細の内容が違うんですね。

遠峰:借入金を簿外にするケースもあります。もっと原始的な方法で、単純に借入金を少なく記載したり、複数の口座にお金を振り分けたりして分かりづらくすることもあります。

――それは、確かに見抜くのが難しそうですね。一方で、見抜けるケースというのはどのような場合なのでしょうか?

丸山:P/L(損益計算書)の支払利息の額から利率を計算して見抜ける場合はあります。現在、全産業平均の支払利息は1.4%ぐらいといわれていますが、借入金だけを少なく記載していて、支払利息はそのままにしていると、明らかに支払利息が高い状態に見えますよね。その場合は「簿外債務があるな」と分かるのです。

●経営者はPEST分析をせよ

――書籍のなかで、倒産した企業の多くが環境の変化についていけなかったと書いてありました。どのようにすれば環境の変化に対応できるのでしょうか?

丸山:仮にヒット商品が生まれても、その後、環境の変化に気付かずにボーっとしていると茹(ゆ)で蛙状態になって、いつかは死んでしまいます。ヒット商品が出たとしても、同時並行して他の商品も作っていく必要がありますし、開発力が重要になると思います。何事も先手、先手でやる。しかし、身の丈にあった設備投資をすることも重要です。

――環境の変化といっても、リーマンショックや東日本大震災など、企業にとってはどうしようもないこともありますよね? 実際、書籍で紹介されていた企業でも、リーマンショックや東日本大震災が倒産のきっかけになってしまった企業もありました。

遠峰:確かに、不可抗力のような事象もありますが、それでもBCP(事業継続計画)対策をするなど、打つ手はあります。工場を一カ所にまとめない、取引先を分散しておくなど、できることはあります。時間がかかるかもしれませんが、そのような基本的なことを地道にやるしかありません。

丸山:例えば、リーマンショックのときは不動産業界が一気に悪化しました。リーマンショックまでは不動産業界がバブルになっていたので、多くの不動産業者が販売用不動産を大量に買っていて、在庫も大量に持っていた。それでも、なかにはそろそろ不動産市況が悪くなるのではないかと感じて、在庫を減らし始めた社長もいるのです。その結果、全ての企業が倒産するということはなかったわけです。つまり、経営者は自社の商品や産業だけではなく、経済環境を意識すべきなんですね。

遠峰:経営者は政治や経済、社会状況や最新のテクノロジーといったことを勘案して、常にPEST分析(ポリティクス、エコノミー、ソサエティー、テクノロジー)をすることが重要だと思います。新聞を読んだり、異業種交流会に参加したりすることで、違う業種の情報やさまざまな角度の視点を手に入れて、常に視野を広げる努力をする必要があると思います。

●言葉巧みに高齢者を「洗脳」したジャパンライフ

――これまで見てきた企業で印象に残っている会社はありますか?

丸山:(商品を宣伝した顧客に報酬を支払うといった「連鎖販売取引(マルチ商法)」が問題になった)ジャパンライフですね。消費者被害がマスコミで取り上げられてから、実際に破産するまではかなり時間がかかりました。その間、手形の決済ができなかったという情報があり、実際にそうなると大型倒産ということになるので、われわれは現場で社長を捕まえて、今後どうしていくかを(本人に取材をして)聞かないといけないのです。でも、ジャパンライフは自社ビルだったので、待合スペースもなく、寒い中を毎日(社員が)交代で張り付いていました。

 会社の人間を捕まえては、社長が会社に来ているかを聞く。信用不安が出ている会社の今後の方向性というものは、(その会社の)社員に取材しても意味がないのです。経営責任のある人間に話を聞かないと、こちらも発表できないですから。

遠峰:ただ、実際に(ジャパンライフに)取材をしても、会社側は「ずっと会社を続ける」と言い張っていました。そもそも同社は破産するかなり前から信用不安情報があり、消費者庁から数回にわたる業務停止命令を受けるなど、業界では長く話題になっていました。

 でも、ジャパンライフの被害者はある意味で同社の営業員に「洗脳」されてしまった人が多いようです。被害者には高齢者が多いのですが、被害届を出さなかった人も少なくないと聞きます。独居老人が同社の営業員を好きになってしまっているんです。自分の子どもぐらいの年齢の営業員が毎日(自分のところに)来て話を聞いてくれるからということがその理由です。騙(だま)されたと分かっていても騒ぎ立てない人が多かったのか……。被害の大きさを考えれば、もっと騒がれてもいい事案だったと思います。

●自分が「失敗の公式」に当てはまっていないか

 以上が帝国データバンクへのインタビュー内容だ。今回の取材を通じて、経営者やこれから起業を考えている人であればあるほど、あえて失敗事例を研究する必要があるのだと、あらためて感じた。

 これまでに成功してきた企業は、複合的な要因があって成功したのであって、そこには再現性がないことも多いからだ。

 その一方で、失敗した企業、つまり「倒産した企業」には必ず当てはまるいくつかの公式がある。経営者が成功を目指して事業を進めていくのは当然のことだが、夢や目標を追うと同時に、自分が「失敗の公式」に当てはまっていないかを常に意識し、確認することがより重要になってくるだろう。

(マネネCEO 森永康平)

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