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アラフィフ世代は「55歳の崖」を知らなすぎる 「役職定年」を甘く見ると、老後は貧しくなる

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/01/23 08:00 山中 伸枝
アラフィフ世代は「役職定年」について知らない人が多すぎる。今から対策を立てても決して遅くない(写真:polkadot / PIXTA) © 東洋経済オンライン アラフィフ世代は「役職定年」について知らない人が多すぎる。今から対策を立てても決して遅くない(写真:polkadot / PIXTA)

 突然ですが、皆さんは「役職定年」という言葉を知っていますか。もし読者の皆さんが20代や30代なら、言葉は知っていたとしても、実感が湧かない方々も多いでしょう。

 役職定年とは、ひとことで言えば、定年の前に、一定の年齢に達したことなどで、管理職から外れることを言います。厚生労働省の「賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、慣行による運用を含め、大企業のうち、ほぼ半数の企業が役職定年制を導入しています。もし会社勤めのサラリーマンなら、やはり「自社の人事制度」はしっかり理解しておきたいものです。あなたの会社には「役職定年制」が導入されていますか?

「役職定年」なら年収激減、愕然とする50代 

 実は、前々回の原稿「50代夫婦が保険解約の前に絶対にすべきこと」はかなり反響があったので、今回も、50代のサラリーマンが陥りそうな失敗について、警鐘を込めて詳しく説明することにしました。40代はもちろん、50代の人だって、決して遅くはありません。人生プランの立て直しができる今こそ、役職定年についてこれから説明するお話を知っていただきたいのです。

 筆者はファイナンシャルプランナーとして、複数の企業と契約し、個人の顧客のライフプラン相談にものっていますが、先日相談に来た50代男性の山田長政さん(仮名)に目の前で泣かれたときは、さすがに戸惑いました。山田さんは、会社の「ライフプランセミナー」で役職定年、年収ダウン、退職金の実態、再雇用時の年収減を知り、愕然としたそうです。

 お気持ちもわかります。なぜなら、3人の子供の一番下は中学生。まだまだ教育資金もかかるし、やっと手に入れたわが家の住宅ローンも。いろいろ考えると、このままだと老後破綻どころか、子供を大学に行かせることさえ難しくなるかもしれないと思い、勇気を出して、奥さんに「働いてくれ」と切り出したそうです。

 「実は、妻に泣かれましてね。『今まで信じてやってきたのに、今さら働けって言われたって、どうしていいかわからない』って言うんですよ。僕もこれまでぜいたくはさせられないにしてもなんとか頑張ってきたし、妻も専業主婦として子育ても家計のやりくりもしっかり頑張ってきてくれた。それなのに、50代になってから『働いてくれ』という僕自身も本当にふがいなくて」。思わずこぼれた涙は、家族への愛が詰まっていました。

 同年代の筆者としても、山田さんの涙は身につまされましたが、まだあきらめるのは早いです。荒療治かもしれませんが、まずは現実をしっかり見て、これからの対策を立てていきましょう。どうすればいいでしょうか。まずは、山田さんの「ねんきん定期便」を使って、おカネの出入りを「見える化」することから始めました。

ねんきん定期便の「見込み額」=「終身受取額」ではない

 前々回のコラムでもお伝えしましたが、役職定年になると年収がダウンすることが一般的です。Aさんも、やはり毎月の給与で15万円ほど減額されるとのことでした。確かに給与が15万円減ると、5年間で180万円×5=900万円もの大幅な収入減となります。これも大きな見込み違いですが、それだけではありません。老齢年金にも影響が及ぶのです。

 これは50歳以上のねんきん定期便のサンプルです。老齢年金を受給するためには要件があります。20歳から60歳までの40年間の年金加入期間が、累計で120カ月以上であることです。2017年7月までは300カ月だったのですが大幅に短縮されました。読者の皆さんも、ご自身の年金加入期間については、まずA欄の受給資格期間で確認してください。

 50歳以上の人に届けられる、ねんきん定期便は「見込み額」が記載されているので(B欄)、なんとなくその金額が確定であり、終身受け取れるのではないかと見込んでしまいます。その金額が多いとか少ないとか一喜一憂しているうちは「幸せ」です。実際はもう少し深読みする必要があります。

 ちなみにもし、C欄に「△歳~〇〇〇円」と記載されている人は、特別支給の老齢厚生年金受給対象者です。これは、かつて年金が60歳から受けられていた名残で、生年月日と性別によって受給できる人のみ、その受給開始年齢と見込み額が記載されています。男性だと1961(昭和36)年4月1日よりも前に生まれた人、女性だと1966(昭和41)年4月1日より前に生まれた人が対象で、それぞれの生まれ年により60歳から64歳までの受給開始年齢が記載されています。(公務員の女性は、男性と同じスケジュールです。)

見込み額は「50代の給与が変わらない」のが前提

 50歳以上のねんきん定期便の「見込み額」というのは、発行時点での給与(標準報酬月額)が60歳まで変わらないことを前提としての見込みです。したがって、50歳から59歳までの給与が同額であれば、この先10年間におけるねんきん定期便の見込み額は同額となります。

 具体的にはこのように、ねんきん定期便の「裏面」にあるのが、計算のもととなる給与額です。「最近の月別状況です」というところが、標準報酬月額であり、賞与です。これが60歳まで固定されるという前提条件のもと、表面の見込み額が算出されるのです。

 実際、年金額は物価上昇等によって調整されますから、50歳代のねんきん定期便は10年間まったく同じ数字というわけではありませんが、年収が変わらなければ、あまり変動せずに推移します。変わるのは、受給資格期間(A)という年金加入期間が、毎年12カ月ずつ増えていくだけです。

 しかし、「役職定年」で、たとえば収入が3割も減ってしまうと、その後のねんきん定期便の「見込み額」がぐっと減ってきます。55歳で減った給与額を基に年金額は再計算されますので、それ以降、収入の変動がなければそれがほぼ「最終通告」となります。

「役職定年」は、老齢厚生年金に影響してくる

 ここで、基本的なお話をしますが、会社員の年金は2種類あります。老齢基礎年金という国民年金部分(D欄)と老齢厚生年金という厚生年金部分(E欄)です。役職定年が影響してくるのは、後者です。後者は、「平均標準報酬額x5.481÷1000x厚生年金加入月数」の公式で計算ができます。したがって役職定年における老齢厚生年金の減額分を平均標準報酬額に、厚生年金加入月数には55歳からの5年間すなわち60カ月を代入すると概算が可能です。

 今回、相談に来た山田さんは役職定年に給与が15万円減額されます。したがって、15万円x5.481÷1000x60=4万9329円と見積もることができます。これが現行のねんきん定期便に記載された年金見込み額(B欄)から減額されます。仮に65歳から90歳までを老齢年金受給期間とすれば、26年で、123万円以上の損失となります。

 実は、平均標準報酬額には上限があり、62万円以上の数字は入りません。したがって、もし役職定年後も62万円以上の給与がある人なら、老齢厚生年金の減少はありません。ねんきんネットを利用すれば手軽にシミュレーションができるので便利ですが、一度はこういう年金の仕組みを知っておくほうが良いと思います。

 年金は「賦課方式」といって、支え合いの仕組みです。現役世代の支払う保険料が高齢者の生活保障である老齢年金の財源となります。そのため、ひとつの財源を分け合う仕組みと誤解され、なんとなくある一定の年齢になると、だいたい同じ位の年金が「もらえる」と思っている方も多いのですが、実は老齢年金は過去にその人が支払った保険料に応じた額で計算されるのです。ご自身の支払い保険料が少ない、すなわち若い頃の給与が少なければ、老後の年金額も少ないのです。

 厚生年金基金に加入している人、あるいは過去加入していた人については、ねんきん定期便に記載されている老齢厚生年金額(再度E欄を参照)は本来の老齢厚生年金よりも少なく記載されています。これは厚生年金基金の代行部分といって、厚生年金基金の財源として使われていた厚生年金保険料分の年金は、基金から支払われるため、ねんきん定期便には載ってこないからです。

 もし確認したい場合は、49歳時点で届いたねんきん定期便と50歳時点でのねんきん定期便を見比べてみてください。前者の老齢厚生年金額が後者のそれより大きければ、その差分が厚生年金基金の代行部分の目安です。

 これは、50歳未満のねんきん定期便は厚生年金基金の加入状況を無視してざっくり計算されていますが、50歳以上になるとより精緻に計算が行われるためです。いずれにしても厚生年金基金には代行部分のほかに上乗せの給付がありますので、これを機会に厚生年金基金に問い合わせすることをお勧めします。

 公的年金の見込みがたったら、会社の退職金、企業年金についてもう少し情報収集してみましょう。最近はポイント制を導入している会社も多く、毎月の給与明細に記載されているポイントで現時点での退職金額や企業年金を確認できるようになっているところも増えています。ただしそうであっても、その「給与明細の見方」さえ知らないという人もいますので、それではいけません。

 会社が「かつては退職一時金だった、厚生年金基金だった、それが確定拠出年金に変わった」という人は「想定利回り」をご存じでしょうか? 会社は毎月確定拠出年金の掛金を拠出してくれているわけですが、一般的には年2.5%程度の利回り分を割り引いてそれが算出されています。

 かつての退職一時金や厚生年金基金は、会社が掛金を拠出し、そのおカネを会社が「運用」して、将来の支払いに備えていました。しかし確定拠出年金はその掛金が「前払い」される制度であり、そのおカネは「運用前」のおカネですから、もし会社が積み立て額を計算する際に用いた運用利回り以上の資産運用ができなければ、従来受け取るはずだった「退職金額」には及ばない状況となるわけです。確定拠出年金の仕組みはすばらしいものですが、制度導入の背景を理解したうえで取り組まなければその良さも半減してしまいます。

確定拠出年金を自分で見直し、おカネを作る努力を

 確定拠出年金のポートフォリオは、自分で見直しましょう。会社にマッチング拠出があれば、始めましょう。もし会社に確定拠出年金がなければiDeCo(個人型確定拠出年金)もありますし、一般NISAや2018年から始まった「つみたてNISA」もあります。まだまだこれからおカネを作っていくチャンスはあるのです。あきらめてはいけません。

 今回相談に来た山田さんは新卒で今の会社に入り、「転職経験もなく、ほかの会社でやれるほど自分にスキルがあるとは思えない。今さら転職してもうまくいく自信がないから、役職定年も、その後の時給も受け入れるしかない」と言っていました。しかし、長年まじめに働いてきた人にスキルがないわけがありません。ご自身のこれまでの「仕事の棚卸し」をするのも良い機会です。そのうえで、これからの働き方を考えるのも良いでしょう。

 ファイナンシャルプランナーは魔法使いではありませんから、「ない」を「ある」に変えることはできません。しかし、今回説明してきたように、ぼんやりとしか見えていなかったものをクリアにして差し上げることはできます。クリアになったところで、動くのは顧客自身です。家計を引き締めて収入サイズに合わせた生活をするのか、役職定年などがない仕事を考えるのか、保有資産を見直して資産運用に取り組むのかをしっかり考えてもらうことになります。そして、方向性が定まったら再度面談をさせていただき、具体的な作戦会議に入るのです。

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