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投資する人としない人で、資産に「年3.5%」の差がつくのはなぜか?

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/11/29 21:13
ファイナンシャルアカデミーの渋谷豊取締役 © ITmedia ビジネスオンライン ファイナンシャルアカデミーの渋谷豊取締役

 国は、長期・分散・積立を合言葉に、「みんな投資を始めよう!」と呼びかけているが、日本で資産形成というと、まだまだ預貯金に偏っているのが現状だ。金融庁の調査では、株式や投資信託が個人の金融資産に占める割合は11%程度で、米国の半分以下となっている。

 なぜ日本人は投資への取り組みが進まないのだろうか? 「お金の教養」を身につけることを目指した総合マネースクール、ファイナンシャルアカデミーの渋谷豊取締役に、投資についての考え方を聞いてみた。聞き手は編集部サイトウ。

サイトウ: なぜ最近「長期投資が重要」といわれるんでしょう? 普通、株を買って上がったら売るものじゃないんですか?

渋谷: 世界では投資は長期が基本という発想が定着しています。ただ日本においてはあまり定着していない。なぜだと思います?

サイトウ: 株を買うと、証券会社から電話がかかってきて「そろそろ売りましょう!」と言われるから?

渋谷: それもありますが、それは日本だけの特有なことではないので理由にはならないように思います。実は、日本では感覚的に長期投資が定着しづらいのは歴史的な理由があるんです。

渋谷: 日本の株価は、バブルのときの日経平均高値をいまだに越えていないんです。私たちは、1989年12月のバブル時に日経平均が3万8000円後半をつけましたが、そのときのイメージをいまだに多くの人が引きずっています。そのため、どうせ30年間もの長期投資を行っても増えないだろうなぁというイメージが定着しているのです。

 一方で、米国に関して言えば、上下の波はあるものの株価が右肩上がりに上がっています。長期で投資をすればしっかりお金が増えるということを、おじいちゃんやお母さんの投資を見て、子どもたちも自然に理解している。だから株が上がっていくことにあまり疑いがないんですね。感覚的に。

サイトウ: 確かに日本だと株が上がるというのは、アベノミクスのここ数年のイメージですね。ぼくの父が持っていた株も全然もうかってませんでした。

渋谷: 例えば日経平均がずっと上がっている状態だったらどうでしょう? おじいちゃんが投資信託を買っていたら200万円が800万円くらいになっている。それを見て「やっぱり長期投資っていいよね」と家族でそんな話題が出たり、親父が「お前のために毎月3万円ずつ投信を買っている」と言ったりすれば、「それってすごく増えそうだね」という会話に自然になっているはずです。

 いま、仮にですが、日経平均が10万円ぐらいになっていたとすれば、長期では株が上昇するということを疑う人はいないのではないかと思いますが、3万円台から一度7500円まで下がって今は2万1000円です。結局「30年くらい持っていても損じゃん」となるわけです。

 長期投資という言葉は聞くけれど、日本人にはあまり響かない。それは、そういう背景があるからなんですね。ただ世界的には長期投資は大事なものだと認識されていて日本とは大きなギャップがあります。

サイトウ: 世界では長期投資が当たり前なんですね。でもなぜ長期投資がいいんでしょう?

渋谷: 投資には、予想収益率というものがあります。ごく簡単にいえば、この株は来年10%上がりますよねという将来期待のことです。でも突然、リーマンショックのようなことが起こったり、トランプ大統領が何か突拍子のないことをやったりして経済情勢が不安定になると、10%上がるという期待が大きく裏切られることがあります。

 株価というものは、そもそも1年間で15%下がったり25%上がったりと大きく価格が動くものです。ではどのくらい動くのかというと、東京証券取引所が発表している統計が参考になります。過去40年、一部上場銘柄全体の1年間の投資収益を算出してみたところ最高の年で+72.1%、最低の年でー24.8%となり、その上下幅はなんと96.9%もあったそうです。では、これが5年、10年、30年という長期になってくるとどうなのかというと、この振れ幅が落ち着いてくることが確認されています。例えば、30年という長期間の年換算の投資収益率を算出すると最高で+12.8%、最低でも+6.8%となりました。このようなことから、長い期間保有していることで収益が安定することが証明されており、長期投資がよいといわれる理由になっています。

 直近では一年目の投資期待値は約7%程度の上昇なんですが、実際は当初の85%になってしまうこともあれば125%になることもある。でも時間と共にぶれ幅は少なくなっていき、30年たつと、おおむね年+10%の収益率を中心値として上下のブレがすごく狭くなってくる。つまり長く持つと平均的に10%くらいで増えていくんだよということが言われています。

 さらに分かりやすく言うと、リーマンショック前年の2007年に投資を始めた人は1年後にリーマンショックを受けて約61%も下がってしまいました。でもそこから10年間持ち続けていたらプラスになっているんですね。もちろんリーマンショックの直後に投資した人はマイナスを被ることなく上がっているんですが、なにか大きな下落があっても長期間を平均でならすとしっかり増えていくということです。

サイトウ: なんで長期だと上がっていくんですか?

渋谷: ピケティというフランスの経済学者が、経済成長と資産の増加を比べると、資産の増加のほうが大きいという研究結果を出しています。資産の増加は、年率4〜5%ですが、経済成長は年率1.5%くらいですかね。つまり経済の成長よりも、投資による資産の成長の方が3.5%くらい大きいという歴史的背景があるんです。

  資産を持っている人が投資をすると、資産が資産を生み出すことでお金が増えていきます。一方で投資にお金を回せない人たちというのは経済成長と同じくらいでしか給料は増えていきません。最初は年間3.5%というちょっとの差だったものが、時間の経過とともにどんどん差が広がっていくんです。

 経済成長は資本投資に比べると資金効率が低くなりがちで、一方で投資の場合、お金を持っている人がさらにお金を借りて株や不動産を買ったり事業に投資したりすることで、加速度的に増えていくケースがあります。これは投資のほうがよりリスクを多く取っているということが背景なのですが、だからこそ資産の方が増えやすいという構造があるんです。

サイトウ: 投資の場合、増えた分をまた投資に回すことで、増え方が加速しますものね。複利効果というものでしょうか。投資することで増える資産の増加は4〜5%ということでしたが、これは株の増え方だと思っていいのでしょうか?

渋谷: 株価の年平均の上昇率は7%〜8.6%という算出結果がありますが、いずれにしても歴史的には7%以上のペースで日本の株は上がっています。一方で、最近の経済成長はざっくり1〜2%ですよね。

渋谷: 企業というのは資本を出資してもらって、さらに借り入れを使いながら資本を成長させていきます。だけど国というのはそこまでできない。歳入と歳出のバランスをとりながら国の基盤を作っているので、営利のみを目的とした民間企業とインフラを整える国で比べるとスピードが遅く企業のほうがおのずと利益率が高くなります。

 さらに税金を納めて残ったお金でうまく経営ができない企業は淘汰(とうた)されていきます。現存している会社というのは、ちゃんと社会インフラのために納税を行いながらも、その上で経済の成長を上回る経営ができているからこそ存在できているとも言えます。

サイトウ: 確かに生き残っている会社は競争をくぐり抜けてきたわけですから、普通よりも優秀だということですね。

渋谷: もっと言えば、何で税金をいっぱい納めている富裕層の方がお金持ちになれるんだろう? と思いませんか。税金を納めていない人のほうがもしかしたら得なように思う人がいるかも知れません。何千万も何億円も税金を納めている人たちは、なぜお金が増え続けるのか。それは、そういった人が税金を納めた後に、残ったお金をより効率的に増やすことができる能力が高いからなんです。

 例えば100億円稼ぐ人が40億円ほど納税したとます。その人は、残った手元の60億を80億円、90億円にするビジネススキルを持っていたり、運用のスキルを持っていたりします。企業もそうなんですね。法人税を納めた後で、その残った資金を事業回して利益を伸ばし続けるというのは、それだけの稼ぐ力があるということなんです。

サイトウ: では、なぜ日本の株価はバブル後上がらなかったんでしょう?

渋谷: 一般的には、バブル時には株式の評価自体が正常ではなかったといわれています。いわゆる信用創造が行き過ぎて熱狂状態になりました。そもそもあの時が異常値だったのです。その異常値をないものとして見ると、日本でも株価は右肩上がりになっているんですよ。1960年を起点として見ると、日本の株価は平均して7%以上成長しています。ただバブルの時あまりに飛び出してしまったので、あの異常値をどうしても基準に考える癖があるんです。

サイトウ: 長期投資が理屈的にメリットがあるなら、やっぱりやったほうがいいんでしょうか?

渋谷: 誰しもが投資をやるべきとまでは明言しませんが、このピケティの説をもとに考えてみましょうか。経済の成長をそのまま給料の上昇率と考えると、自分たちの給料は年率1.5%くらいで上がるのが世界標準です。そこから少しでも投資に回せるお金を何かに投資した場合、世界標準では5%上がっている。そう考えた場合、投資をした人とやらない人では投資したお金だけですが年間3.5%ずつ差が開いていくことを意識しなくてはいけません。

 ピケティはこの3.5%の差を埋めないといけない、そうでないとますます貧富の差は広がると主張しました。結論としてその差をなくすために富裕層からもっと税金を取りましょうと言っているわけです。私は、この研究結果に対する捉え方は人それぞれあると思うんですが、社会学者から見ると、格差が世の中のゆがみを産んで不幸な結果を招くだろうという考え方があるとこも理解しています。一方で我々が将来をサバイブしていくとなると、少額からでも資本活動に参加することで、資産を作って自分の未来を作ることを前向きに考えてもいいんじゃないかと思います。

ファイナンシャルアカデミー取締役。中上級者向け講座では教壇にも立つ。大学卒業後、邦銀勤務を経て、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科(MBA)を修了。その後、米系、仏系銀行のプライベートバンク部門にて、富裕層の資産運用業務に13年間従事。2008年の世界的金融危機を体験し中立的な金融アドバイスの必要性を痛感し、独立系投資顧問会社代表に就任した後、さらに幅広い層に金融経済教育を広めるためファイナンシャルアカデミーに参画。現在は投資信託スクールでの講師のほか、Jリーグの選手への講演等も行う。ファイナンシャルアカデミー

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