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相続、何が変わった? 高齢化で配偶者の保護必要に

NIKKEI STYLE のロゴ NIKKEI STYLE 2020/01/13 11:00
新しい相続ルールでは配偶者居住権が盛り込まれた。写真はイメージ=PIXTA © NIKKEI STYLE 新しい相続ルールでは配偶者居住権が盛り込まれた。写真はイメージ=PIXTA

相続の仕組みが変わったそうね。どんなことが変わったのかな? 妻の立場はどうなるの? どうして今、相続の仕組みが見直されることになったの? 相続について、清水弥生さんと植木樹理さんが田村正之編集委員に話を聞いた。

――大きな法改正があったそうですね。

相続の仕組みを定める民法がほぼ40年ぶりに改正され、2019年から段階的に施行されています。まず19年1月に、自分で書く「自筆証書遺言」が一部変わりました。手書きが基本ですが、財産目録をパソコンなどで作ってもよくなりました。20年7月からは法務局で保管してもらえるようになります。

また19年7月から、亡くなった人の預貯金を引き出しやすくなりました。従来は銀行が死亡を知ると原則、遺産分割協議が終わるまで口座が凍結されましたが、1行150万円まで引き出して、葬儀費用の支払いなどに充てられるようになりました。

今回の改正では、配偶者の立場に関する内容がいくつかありました。19年7月に新設されたのが「特別寄与料」。例えば長男の嫁は相続人ではなく、義理の親の介護を一手に引き受けても、相続財産を受け取れません。でも「特別寄与料」という形で、一般的な介護費用にあたる金額を、嫁が相続人に請求できるようになりました。

20年4月からは、亡くなった人の配偶者が持ち家の自宅に住み続けられる「配偶者居住権」が設けられます。原則として、配偶者が生きている限り住むことができます。

――どうして改正されたのでしょうか。

相続を取り巻く環境は、高齢化で大きく変わりました。1989年には、被相続人(亡くなった人)のうち80歳以上は約4割でしたが、現在は7割です。高齢化に対応して、法も見直されました。自筆証書遺言の財産目録まですべて手書きするのは高齢者には体力的に厳しいという声が、以前からありました。

残された配偶者も高齢化し再婚や就職で新たな人生を切り開くことが難しくなりました。夫が亡くなり、妻と子供で遺産を分ける場合、妻の法定相続分は2分の1。一般的な家庭では、遺産の大半を自宅の不動産が占めることも珍しくありません。子が法定割合の相続を求めると、自宅を売却する必要が出たり生活資金がなくなったりする恐れがあります。相続で高齢の配偶者を保護する必要が高まり、配偶者居住権ができました。

老々介護が増え、夫の親を介護するさなかに夫に先立たれることもあり得ます。法定相続人ではない嫁は介護しても遺産をもらえないので、特別寄与料ができました。

――相続対策は変わりますか?

相続争いの回避に役立ちそうな点と、相続税対策になるかもしれない点があります。

配偶者居住権や特別寄与料、自筆証書遺言の扱いは相続争いを避けるのに役立ちそうです。ただしその多くは、今でもきちんと遺言を残しておけば大丈夫な話ではあります。例えば遺言を使えば法定相続人以外にも遺産を残せます。「長男の奥さんに○○万円」などと遺言しておけば、寄与料の請求より簡単でしょう。とはいえ実際には多くの人が遺言を残さないまま亡くなるので、今回の様々な改正が役立つことになります。

配偶者の保護は、相続税対策としても注目されています。配偶者居住権は、残された配偶者が若いほど高額に評価され、余命が短くなるほど低くなり、亡くなると消滅します。例えば父が亡くなったとき母が居住権を得て、その後に母が亡くなると、母の遺産から自宅の居住権の評価分がなくなります。その結果、相続税の計算根拠となる相続財産の評価を抑えられます。

――今の家族の形にあった相続になりましたか?

時代に合わせた改正ではありますが、事実婚の配偶者は相続人になれないなど、変わらなかったこともあります。今後、さらに議論が高まれば、また改正の必要が出るかもしれません。

© NIKKEI STYLE

■ちょっとウンチク

配偶者への自宅贈与も有効

今回の民法改正で、2019年7月には、法律上の婚姻期間20年以上の夫婦間で贈与された自宅は遺産分割の対象から除く規定も導入されている。これまでは自宅贈与はその分だけ遺産の先渡しがあったとして、相続発生後に遺産分割の対象になっていた。

これによって、改正法では、例えば贈与した自宅以外の預貯金などの財産が3000万円なら、この3000万円だけを分割すればよくなった。配偶者居住権は譲渡ができないが、贈与で取得すれば所有権なので処分も自由だ。

生前に自宅を贈与しておく方が妻には安心感があるかもしれない。(編集委員 田村正之)

■今回のニッキィ

植木 樹理さん メーカー勤務。日帰りでも海外旅行を楽しむ。2019年に2泊3日で訪ねたロシアのウラジオストクが印象的。「ヨーロッパ風の町並みが美しく、キャビアが安くてうれしいです」

清水 弥生さん 教育機関勤務。落語が好き。中でも三遊亭竜楽師匠が演じる古典落語のファン。「磨かれた高度な話芸で、差別やハラスメント的表現を口にしないので気持ちよく聞けます」

[日本経済新聞夕刊 2020年1月6日付]

※「ニッキィの大疑問」は原則月曜掲載です。

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