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老後資金「3000万円必要」説は本当か

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/10/31 06:00 深田晶恵
老後資金「3000万円必要」説は本当か: Photo:PIXTA © 画像提供元 Photo:PIXTA

貯めるべき老後資金は、本当はいくら?

 年金生活に入るまでに用意したい老後資金は、人によっても異なるが、と前置きしたうえで、2500万~3000万円がひとつの目安と言える。金額を言う際は、次のような根拠も合わせて伝えるようにしている。

 用意したい老後資金=年金生活での毎年の赤字額×65~90歳までの25年分+数年に1回の特別支出にかかる費用

 たとえば、年金収入が夫婦2人で約300万円(会社員だった夫220万円、専業主婦期間が長い妻80万円)、支出は年360万円(税金や社会保険料の支出も含める)と予測するケース。この場合、年間収支は60万円の赤字となる。

 毎年の赤字分は、老後資金から取り崩すことになる。赤字分を年60万円と見積もると、65~90歳までの25年間で1500万円だ。

 これに加える「特別支出」は、たとえば車の買い換え費用、住宅の修繕費、病気や介護費用の備えなど。金額は人によって異なるが、1000万円と見積もると、先の毎年の赤字分の1500万円と合わせて老後資金は2500万円必要という結果になる。

 毎年の取り崩し額を100万円と見積もれば、トータル3500万円用意しなくてはいけないし、100歳まで生きて毎年60万円取り崩すプランならトータル3100万円となる。

 実際には、自分も配偶者も何歳まで生きるかはわからないし、何十年も毎年同じ金額を取り崩すと決めてしまうのは現実的ではないため、老後資金作りの目安は、あくまでも目安であり、「目標額」に過ぎない。

 最近、マネーの専門家の間では「老後資金は3000万円もなくても何とかなる」「1000万円でも老後は乗り切れる」という意見もちらほら出てきている。

 用意すべきお金として3000万円と1000万円では、大きな差だ。この数千万円の差を読者のみなさんがどう受け止めるといいのか。今回は「老後資金は3000万円貯めなくてはいけないのか」を考えてみたいと思う。

1000万円以下でも老後は暮らせるただし、いくつかの条件あり

「1000万円でも老後は暮らせる説」の前提条件は、日々の暮らしは年金収入の範囲内で賄い、毎年の収支赤字を出さないこと。1000万円は、数年に1回の特別支出や不測の事態に備えたお金と位置づける。

 また、自分の得意分野を生かし「稼ぎ力」を発揮し、年金収入+αの収入を得ることで、毎年の収支赤字が発生する時期を可能な限り遅らせるというプランもある。

 いずれも堅実なプランだ。年金生活に入ってからの「支出の削減」と「収入の確保」、両方の合わせ技を多くの人に勧めたい。

 上記のプランを確実に実行できるなら、老後資金は3000万円も必要ではないし、1000万円くらいあれば十分暮らしていけるだろう。だだし、本当に実行できるなら…。

 これから退職を迎える50代男性が65歳から受け取る年金(厚生年金と基礎年金)は、人によっても異なるが200万~220万円が目安(金額は人によって異なる)だ。専業主婦の期間が長い妻の年金は、基礎年金+αで80万円前後。

 冒頭の例は、夫婦2人分の年金収入が300万円とした。これは額面の年金収入で、所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料を差し引くと、手取り額は約275万円(東京23区の在住の例。自治体により社会保険料は異なる)。

 持ち家なら固定資産税もかかるので、仮に15万円として差し引くと、260万円だ。一年を通じてどこかで出ていく支出である冠婚葬祭費や、お正月を迎える費用、孫などへのお年玉、誕生日祝いなどもかかる。そうした支出を20万円と見積もると、残りは240万円となる。1ヵ月あたり20万円以内で生活をすることができれば、年間収支は赤字にならない。

 1ヵ月の支出を20万円以内に死守する生活は可能か。住宅ローンが完済し、子どもが社会人になっていれば、できそうな気がするのではないだろうか。しかし実際には、綿密な予算を立てたうえで、夫婦で足並みを揃えないと20万円以内の支出に抑えるのは実現が難しい。

 毎月の生活費には、食費・日用品、水道光熱費、通信費、夫婦の小遣い、電車代など交通費、マンションなら管理費・修繕積立金、車を所有するなら駐車場代・ガソリン代、各種民間保険料、衣類や電化製品の購入費用などがある。うっかり気を抜くと、毎月の支出は軽く25万円以上になるだろう。

 毎月20万円の範囲内で暮らすのが難しいなら、足りない分を働いてカバーするといい。65歳を過ぎてからの求人は自分が望むようなものが少ないことが予想されるので、選り好みできないかもしれないと心づもりをしておくことが肝心だ。

病気がちで働けない、配偶者が亡くなると前提条件が大きく変わる

 今回のテーマである「老後資金は3000万円貯めないといけないのか、それとも1000万円でも暮らしていけるのか」について、私の考えを述べよう。

 年金生活がスタートする時点で老後資金が1000万円だとすると、支出をセーブする、できる限り働いて収入を確保するなど対策を考え、それらを実行できれば暮らしていけると思う。

 しかし、前提が少しでも変わってしまうと、1000万円では危うい。なので、「1000万円あれば何とかなるんだ」とは考えていけないのだ。老後資金を貯める段階では目標額を1000万円とせずに、可能な限り貯めるべき。

 前提が変わるとは、たとえば、働くつもりはあっても仕事がうまく見つからなかったり、体調を崩して働けなかったりすると、年金だけの収入になる。

 夫婦のどちらかが支出削減に協力しないケースは大いに考えられるので、そうなると年金収入だけで支出を賄うことができず、年間収支は赤字となる。趣味のゴルフを急にやめることはできるだろうか。それまで家計費にとやかく言わずに妻に任せていたのに、突然食費は月5万円以内厳守!と言えるだろうか。

 60代にとって、働くことよりも、支出をセーブすることのほうがはるかに難しいのだ。特に現役時代に収入が多かった人には大きな努力が必要となる。

 また、夫婦のどちらが亡くなると、ふたり分の年金からひとり分の年金となり、収入がダウンする。前述の年金額の例だと、夫が亡くなると、妻は遺族厚生年金と自分の基礎年金で約180万円、妻が先に亡くなると、夫は自分の約220万円の年金だけとなる。

 いずれにせよ、ひとり分の年金収入になると、赤字を出さずに暮らしていくことはできないだろう。赤字分は老後資金から取り崩す。特に夫が60代のうちに亡くなると、妻は少ない年金で長くなるであろう、その後の人生を暮らしていかなくてはならないので、やはりある程度の老後資金を貯めておきたい。

貯めたい老後資金の目標額と実際の老後資金は違って当たり前

 40~50代が対象の老後資金作りのセミナーでは、「いくら貯めるといい?」という目標額と、「年金生活に入ったら、いくら使ってもいい?」と取り崩し額の2つのフェーズの話をする。

 目標額は冒頭に書いたように、「年金生活での毎年の赤字額×65~90歳までの25年分+数年に1回の特別支出にかかる費用」で計算する。会社員なら、2000万~3000万円の目標額となるケースが多い。

 目標額が必ず貯まるとは限らないので「65歳で年金生活に入るとき、毎年いくら取り崩していいのかを計算しましょう」と計算式を紹介する。

 毎年の取り崩し額=(その時点での老後資金の総額-数年に1回の特別支出にかかる費用)÷65~90歳までの25年

 おわかりだと思うが、2つの式は裏表。目標額の設定ではかけ算と足し算で、取り崩し額を知るときは引き算と割り算。2000万円貯めようとがんばったけれど、住宅ローンを完済したら老後資金は1500万円になってしまった、などのケースはよくあること。実際に年金生活に入る段階で、手元にあるお金で再計算することで軌道修正できるのだ。

 65歳時点で老後資金が1000万円なら、その金額をもとにしたプランを立てなくてはならない。ただし、何度も言うようで恐縮だが、50代のうちから「1000万円あればなんとかなる」と思考停止になることは絶対に避けたい。

 働いている間に家計の支出状況を把握し、貯蓄額を増やしていく。収入から貯蓄に回す額を増やすと、おのずと支出が減っていく。50代のうちからこの作業を続けていくと、暮しの支出はダウンサイズされ、収入が減る年金生活にうまく着地できるのである。

 50代の暮らしぶりは、年金生活につながっていることを忘れずにいたい。

(株式会社生活設計塾クルー ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)

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