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超売り手市場なのに「事務職志望の女子学生」があぶれる理由

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/11/05 09:30

 2018年も空前の売り手市場が続く新卒採用。だが7月、そのトレンドとは真逆の異変が起きていた。リクルートキャリア(東京都千代田区)の就職みらい研究所の調査によると、7月1日時点の19年卒予定の女子の就職内定率が、前年同月比でマイナス2.7%となる78.8%に落ち込んだ。

 男子の内定率が従来通り上がっているのをみても、女子がこの月に突出して減少しているのは異常だ。ちなみにその後の月はマイナスからプラスに緩やかに回復しつつある。この減少、実は主に女子大生が志望する傾向の強い一般事務職の採用が影響しているという。

●「競争心なく」事務職を希望するも……

 大木奈美さん(22、仮名)は東京都内の有名私立大学の文学部4年生。はきはきとした受け答えが印象的だ。就活では金融系の一般事務職を中心に狙った。約30社にエントリーシートを送り10社ほどで面接を受けたが、10月末時点で内定は出ていない。銀行系の一般職は早めに内定を出し終える場合が多く、今は不動産などに業界を変えているが事務職は譲れないという。

 就活が正式に解禁する3月以前から合同説明会や大学のレクチャーを受けて準備は進めてきた。しかし「企業説明会の参加者は募集人数に比べ多すぎる気がした。今年の一般職は倍率がすごく高いという話で、実際に回りの同じ志望の友人も苦戦していた」(大木さん)。

 それでも事務職にこだわるのは、都内にある実家から通勤を希望するため、転勤のある総合職を避けたかったから。さらに大きい理由が「あまり競争心がない」点だという。「営業職に就いて同期がライバルになるというのは私に合わないと思った」(大木さん)。総合職のいわゆるキャリアウーマンには憧れず、ワークライフバランスを優先させたいという。

●マニュアル的な業務はAIに代替

 就職みらい研究所所長の増本全さんによると、7月の女子内定率の減少は、企業が事務職の採用枠を減らしたため大木さんのような女子学生があぶれた結果だという。「若い女性のキャリア志向が高まる一方で、女子学生の約半数は事務職希望とされる。一般事務の多くは6月中に内定が確定する傾向があり、7月1日時点での内定率に影響した」(増本さん)。

 実際、メガバンクなどの金融機関は19年卒の一般事務枠を減らす傾向にある。三井住友銀行の19年卒のBC職(いわゆる一般職)の内定者は95人と前年の半数以下。一方で総合職は451人と前年から微増になっている。これまで大人数の一般職を採用してきた他の金融機関でも同様の傾向にあり、全体でも需要が減少したとみられる。

 なぜ一般事務枠は減少するのか。増本さんは「銀行は従来の収益構造では厳しくなっている。コールセンターにAI(人工知能)を導入するなどITを入れてマニュアル業務から置き換えている」と指摘する。実際、みずほフィナンシャルグループ(FG)は17年11月の中期決算発表で、17年3月現在で約8万人の人員を10年かけて約6万人にまで減らすと表明した。AIの活用で定型業務を減らし、国内の店舗数も絞る。

 一般職枠の減少はもともとの採用人数が多かった銀行の影響が大きい。ただ、人材大手のネオキャリア(東京都新宿区)で新卒採用を担当する小笠原風薫さんは「中小は依然として事務職のニーズがあるが、(事務職の単純作業を減らすための)システムへの投資が十分できている大手の商社やIT系、メーカーでも一般職は減少傾向にある」と指摘する。

 企業側が求める人材像の変化も大きい。実際に一般職枠を減らしている大手金融の担当者は「今は労働力の構成が変化している。以前は一般職の女性は結婚したら退職する傾向があったが、今は産休・育休制度も定着してきた。人材が循環していた昔より今は長く働いてもらうことになる」と説明する。

●ズレる企業ニーズと女子学生の価値観

女子学生に人気の一般事務は採用枠が減っているという(写真はイメージ。提供:ゲッティイメージズ) © ITmedia ビジネスオンライン 女子学生に人気の一般事務は採用枠が減っているという(写真はイメージ。提供:ゲッティイメージズ)

 学生を企業に送り出す大学側も苦慮している。昭和女子大学(東京都世田谷区)では例年、みずほFGに多くの学生を就職させてきた実績を持つ。ただ、キャリア支援センターによると18年卒では34人が就職できていたのに対し、19年卒の内定者は10人程度に落ち込む見込み。やはり一般職枠の激減のあおりを食らったとみられる。

 同センター長の磯野彰彦教授は「専業主婦を希望するような女子大生は減ってきている。しかし一般職志望はいまだに根強い。残業や転勤、昇進や部下を持つことを求めず上昇志向が低めで、土日はちゃんと友達と遊びたいという学生はいる」と説明する。

 一方で磯野教授がキャリア支援のレクチャーをするため大学に来るメガバンクの人事担当者と話すと、彼らの一般職に求める人材像は明らかに変化したと感じるという。「窓口でニコニコ接客するだけでなく、語学や営業の能力も求められてきている。銀行に一般職として入ってはいるが、新人のうちから重要な仕事を与えられている卒業生も既にいる」(磯野教授)。狭き門になってはいるが高い能力を求められるメガバンクの一般職こそキャリアアップでは狙い目とみて、授業や説明会で学生の意識や能力の向上に取り組む。

 企業側のニーズと女子学生の価値観のズレが生んだ今回の内定率減少。冒頭の大木さんは企業説明会で人事担当者から産休・育休制度が充実していると強調されるたびに、自分よりも“バリキャリ志望”の学生が求められていると感じたという。「『事務職は減っていてITやロボットにやってもらう時代になっています』と言われた。やっぱり事務を手作業でやる時代ではないのかな。でも、『事務職でもキャリアアップして営業担当になったりします』という会社はあまり受けていない。事務職に魅力を感じるのは、やはりワークライフバランスが良いから」。

 技術の進歩で企業のあり様が急激に変化しても、そこで働く人の心はすぐに変わらない。企業の人材ニーズと学生の理想の働き方のズレは、単なる需給のすり合わせにとどまらない採用の難しさを示している。

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