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「公文式」学歴社会の勝者を生み出す仕掛け 東大生の3人に1人が通った教室の正体

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/02/02 08:00 おおたとしまさ
物心つくころからこの学習方法に慣れておく利点は大きい(撮影:津田 聡) © 東洋経済オンライン 物心つくころからこの学習方法に慣れておく利点は大きい(撮影:津田 聡)  

「塾歴社会」の勝ち組の3人に2人が公文式

 「公文最強説!?」。これは、2016年1月に発刊された拙著『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)の中で使った見出しである。

 「塾歴社会」とは、「学歴社会」における「勝ち組」が、実はごく限られた塾に通っている現状を表現した言葉。中学受験ではサピックスに通い、有名中高一貫校に入学するとすぐに中高一貫校生向け大学受験塾の鉄緑会に通い、東大受験対策を始めるという「王道」が存在する。今や、日本の学歴社会の最高峰・東大理Ⅲ、つまり医学部合格者の半数以上が鉄緑会出身者で占められている。

 塾は、入試問題を分析し、それに合格するための効率の良いカリキュラムと勉強法を逆算して組み立てる。塾生たちはそれを粛々とこなすのみ。”結果にコミットする”スポーツジムと同じである。

 受験生に求められるのは、大量の課題をこなす処理能力と忍耐力、そして与えられたものに対して疑いを抱かない力くらいになってしまった。その素養をもつ者が、塾歴社会に適合し、学歴社会の勝ち組となっていく構造。

 その実態を知るために、鉄緑会出身の現役東大医学部生6人による座談会を実施した。塾歴社会の内幕が明らかになる中で、驚きの事実に出くわした。座談会に参加した6人中4人が公文式経験者だったのだ。その場で、「公文式最強じゃない!?」と皆が口をそろえたわけである。

 ゴールから逆算して無駄なく設計されたカリキュラム。こなすべき課題は多いが、それさえやっていけば着実にゴールに近づくシステム。そのために妥協なく、課題はすべてやりきるまで帰れないスタイル。言われてみれば、鉄緑会と公文式の流儀には共通点が多い。

 『ルポ塾歴社会』のいわば外伝としてまとめた拙著『なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?』でも詳しく解説しているが、「東大家庭教師友の会」の協力を得て現役東大生に対するアンケートを行ったところ、東大生100人のうち34人が公文式を経験していた。3人に1人の割合だ。

“理解する喜び”よりも“先に進む達成感”

 公文式の名が全国にとどろいたのは1974年。『公文式算数の秘密』(廣済堂出版)が出版され、30万部を超えるベストセラーとなったのだ。

 その担当編集者こそ、現在の幻冬舎社長であり、出版界のカリスマ・見城徹である。その本の中で、公文式の創始者である公文公(くもん・とおる)は次のように宣言する。

 「私は、ほかならぬ私の子どもの大学進学を考えて、この教材を作ったのである。つまり、高校数学へ一直線に進ませる、最も確実な、効果の高い、学習法である。そして、時間的にも経費的にも、最も安上がりな学習法であるということを、私はあえて明言したいのである。平たくいえば、子どもに確実な学力をつけ、大学進学を有利にするために、いちばん得をするのが公文式であるといいたい」

 現在では国語と英語の教材もあるが、もともとは算数・数学のみからのスタートだった。「計算問題は“わかる”よりも“できる”ことが大事」そして「自分の学年よりも2学年、3学年上の計算問題ができるようになれば、自分の学年の文章題や図形問題は難なく解けるようになる」と訴え、あえて文章題や図形問題には手を付けない。その代わりに小学生であろうが幼稚園生であろうが、方程式や微積分にどんどん進ませる。

 つまり公文式は、説明が必要なことを一切教材から排除したのである。学習から“理解”という概念を消去したと言ってもいい。“理解する喜び”の代わりに、“先に進む達成感”を、報酬として設定した。だから理解力の乏しい子どもでも、とにかくひたむきに取り組めば、学習から“擬似的に”快感を得られる。それが、公文式が世界中でどんな学力層の子どもたちにも受け入れられる普遍性の秘訣である。

 現在では世界49の国と地域に教室を展開、全世界で約427万人が公文式を学習している(2016年3月現在)。もはや「KUMON」は世界共通語。認知度からすれば、公文教育研究会は、日本を代表するグローバル企業である。

「学習習慣」と「自学自習」の姿勢も身に付く

 一言で言えば、公文式とは、子どもの能力のごくごく一部である「計算力」を効率よく向上する目的に特化してつくられた究極的にシンプルな「専用ツール」である。それ以上でもそれ以下でもない。

 しかしそのツールを使いこなす過程において、副産物がもたらされる。コツコツと続ける力、そして、教えてもらうのではなくヒントから類推し自ら気付く力。すなわち「学習習慣」と「自学自習」の姿勢である。この、いろいろなことに応用可能な副産物が、子どもの無限の可能性を開く。

 物心つくころから公文式の学習方法に慣れていれば、「与えられた課題はとにかくやるもの」という考えが体にしみつく。面倒くさくても逃げずに課題に取り組む忍耐力も鍛えられる。計算力に代表される処理能力は当然高くなる。これが、「受験工学」に基づき受験を攻略する「塾歴社会」を勝ち抜く3条件にぴったり合致する。塾歴社会、ひいては学歴社会の勝ち組に、公文式出身者が多いのは当然なのだ。

 圧倒的な強さゆえ、批判も多い。「公文式では思考力が育たない」「究極の20世紀型教材」「中学受験をするのなら3学年以上先に進んでおかないと意味がない」などについては、拙著で詳しく考察している。

 この特殊な学習法をどう使うのかは、私たち次第である。公文式の良いところも悪いところも知ったうえで、公文式をどう評価し、どう活用するか。それはそのまま、自分の教育観の表明になるだろう。

 どこの街を歩いても見かけるあの水色の「KUMON」の看板は、今日もあなたに問いかける。「自信をもって子育てしていますか?」「世界中の子どもたちが通い、東大生の3分の1が通う教室が目の前にあるのに、それを無視するだけの確固たる教育方針や教育メソッドがおありですか?」と。

 答えがYESならそのまま素通りすればいいし、答えがNOなら教室をのぞいてみればいい。しかし問い自体に気付かないふりをして素通りするべきではない。

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