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「長時間労働」叩きだけでは、何も解決しない 「正社員」の概念を、根本から考え直すべきだ

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/02/02 08:00 倉重 公太朗
長時間労働だけが問題視されていますが、総合的な改革が必要不可欠です(写真:ふじよ / PIXTA) © 東洋経済オンライン 長時間労働だけが問題視されていますが、総合的な改革が必要不可欠です(写真:ふじよ / PIXTA)  

 今、政府の重大政策といえば「働き方改革」が挙げられます。「働き方改革」の2大テーマといえば、①長時間労働対策と②同一労働同一賃金です。②については以前の記事で述べました。そこで、今回は長時間労働について、独自の視点で考えてみたいと思います。

労働時間をめぐる議論で忘れられている視点

 そもそも、現在の労働基準法では、法定労働時間が1日8時間、週40時間とされていますが、労基法36条による労使協定(36条の協定なので昔から「さぶろく協定」と言います)を結ぶことにより、法定労働時間を超えた残業や休日労働ができるようになります。そして、現在の法律では36協定において何時間まで残業を認めるかという上限規制がないので、事実上、残業時間を際限なく延ばすことが可能になります。

 長時間労働は心の病にかかる要因になるほか、自殺などの過労死につながる危険があるといわれています。そこで、今回の長時間労働規制は、企業の残業時間に上限を導入し、違反企業に対しては罰則を設けることを法律で定めることを検討しているのです。

 このように、長時間労働の総量に上限を設ける「総量規制」のほかに、当日の勤務と翌日の勤務の間に一定時間を置かなければならないとする「インターバル規制」(たとえば、10時間インターバルの場合、深夜0時まで仕事をした場合、翌朝の出社は午前10時からとする)なども検討されています。

 これらの「総量規制」や「インターバル規制」は、心身の健康確保のために、一定の意義はあるでしょうから、筆者個人としても一概にその効果を否定するものではありません。しかし、現在の労働時間をめぐる議論において、忘れられている視点があるように思えてならないのです。本記事ではその点について解説します。

持ち帰り残業や隠れ残業が増えるだけ

 まずは、長時間労働規制だけで本当によいのか、という問題です。そもそも、規制ばかり強めても、本来的な業務の進め方が効率化されなければ、サービス残業などが増えるだけです。本気で長時間労働をなくすということであれば、業務のあり方、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)の仕方、会議のあり方、客先との関係など、すべてを見直す必要があります。

 長時間労働規制がなされたから「残業を減らせ」と上から号令をかけるだけでは、何も改善されないでしょう。これまでどおりの働き方をしていたのでは労働時間が追いつかない場合、「何をあきらめるのか」「何をしないのか」という視点が重要になってきます。単純に「規制を守れ!」と締めつけるだけでは持ち帰り残業や隠れ残業が増えるだけで、かえって効率が悪化する結果となります。

 次は、「生産性」とは何か、という問題です。最近よく議論されているのが「生産性を上げて労働時間を短縮しよう」という動きです。つまり、働く時間を減らす代わりに、1時間当たりの成果をより多くしようということです。もちろん、これまで社内会議や社内向けの報告書・稟議書・企画書などを時間をかけて作成するなど、無駄が多い職場においては改善する余地はそうとうあるでしょう。

 しかし、製造業の現場など、すでに生産性改善がかなり工夫され尽くしており、これ以上の改善は難しい現場もあります。また、ホワイトカラーにおいては、若い時代などに多くの経験をこなすことにより、職務遂行能力・スキルが身に付く関係にあるため、長時間労働ができない中でそもそもどうやって生産性を上げるのかについては、根本的にスキルアップの方法にまで踏み込んで検討を行う必要があります。

 また、個人単位の生産性アップのほかに最も重要なのは、組織単位の生産性を上げることです。組織単位の生産性を上げるにはどうすればいいか。もちろん多くの方法があるところですが、どの組織にも共通して言えることは、「ミスマッチ人材をなくすこと」です。

 これまで、日本の労働法では解雇が厳しく規制されており、能力・経験不足のミスマッチ人材に対しても、丁寧に注意指導をし、改善を求め、それでも改まらなければ警告書を発したり、配置転換により適性を見るなどの丁寧な指導を行う必要がありました。

 しかし、そのような時間はもうないのです。ミスマッチ人材が1人いた場合、その人を注意指導する人、その人のミスをカバーする人など、組織単位の生産性ダウンは2倍・3倍にもなります。生産性向上の議論においては、ミスマッチ人材とどのように向き合うかという議論が必要不可欠なのです。

働き方のグランドデザインを再設計する

 そもそも今回の政府が検討している同一労働同一賃金も長時間労働規制も、欧州連合(EU)の例を参考にしているといわれます。しかし、EUの労働法においては、同一労働同一賃金と長時間労働規制のみならず、解雇については金銭解決を認める制度が一般的です。労働法体系は労働時間や非正規労働の問題が独立して存在するのではなく、正社員に対する解雇規制なども一体となってひとつの労働法体系を作り上げているため、その一部分だけをまねしたのでは、極めてアンバランスな結果となります。

 このまま解雇の金銭解決を議論せず、長時間労働規制と同一労働同一賃金の導入を進める場合、日本の労働法はEUの厳しいところだけを抜き出した「世界一厳しい労働法」になってしまいます。こうした中、厚生労働省の有識者検討会は1月30日、裁判で不当とされた解雇を職場復帰ではなく金銭で救済する「金銭解決制度」の導入に向けた本格的な議論を始めました。この議論が上辺だけではなく、「働き方改革」の根幹をなすものとして真摯に議論されることを期待したいと思います。

 今、求められていることは「働き方改革」であるとするならば、一部の表面的な議論だけではなく、正社員はどうあるべきかという、働き方のグランドデザインを再設計する必要があるのです。昭和の時代の終身雇用、年功序列はもう通用しません。とするならば法律もまた変わるべきであり、現在の「働き方」に合わせた労働法のあり方が問われていると考えます。

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