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JRが直面する「構造問題」、大規模リストラは避けられず

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2021/10/14 06:00 野口悠紀雄
Photo:Diamond © ダイヤモンド・オンライン 提供 Photo:Diamond

2020年度、JR6社が大幅赤字

乗客数は戻らない可能性

 2020年に新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだJR各社の業績は、今年になっても回復していない。それだけでなく、コロナ収束後も厳しい状況に直面し続ける可能性が強い。

 企業で出張費の見直しが進んでいるため、新幹線乗客数が戻らない可能性があるからだ。

 JR旅客各社の2020年度(21年3月期)決算は各社とも厳しい状況になった。中でも大きな打撃を受けたのが、JR東日本とJR東海だ。

 JR東日本(単体)では、営業収入、運輸収入が19年度の半分近くに減少した。そして、赤字に転落した。通期での赤字は1987年の国鉄分割民営化後で初めてだ。

 JR東海(単体)では、営業収入、運輸収入が19年度の3分の1程度に減った。JR東日本より減少率が大きい。

 JR東海は、会社全体の収益に占める新幹線の売り上げ比率が高い。そして、新型コロナの影響は近距離利用よりも中長距離利用に強く出たため、東海道新幹線に頼るJR東海の収入が大きく減ったのだ。

 その結果、赤字になった。これも1987年以来で初めてだ。

 厳しい状況は、2社だけのことではない。JR旅客全6社の純損益が赤字になった。鉄道大手19社(上場JRグループ4社、大手私鉄15社)全体の営業収益(売り上げ)も、前年度より34.5%減少し、全社が赤字に転落した。

21年度に営業利益

黒字回復を見込むが、難しい

 2021年度(22年3月期)にはどうなるだろうか?

 すでに首都圏の通勤電車の利用はコロナ前の7~8割程度まで戻っているようだ。JR東日本の21年4月の定期収入は20年4月の71%まで回復している。また、近距離の定期外収入は67%の回復だ。

 では、JR2社の収支も21年度には回復するだろうか?

 JR東日本は、21年度には収入が19年度の8割に回復すると予想し、黒字回復するとしている(図表1)。

 JR東海は、21年度に収入が19年度の7割近くに回復すると予想し、やはり黒字回復するとしている(図表2)。

実際にできるだろうか?

いくつかの問題がある。

 まず、営業利益が黒字になるといっても、額は少ない。JR東日本の場合、21年度の予想営業利益は370億円にすぎない。これは19年度の2940億円の12.6%でしかない。

 JR東海はより大きな回復を見込むが、それでも営業利益は19年度の約3分の1だ。

 より大きな問題は、21年度の予想営業収入を実現できるかどうかだ。

 JR東日本、JR東海は、21年度第1四半期決算(21年4月1日~6月30日)を今年8月に発表している。

 JR東日本の場合、21年4~6月期の数字を4倍すると、19年度の4割値度でしかない。これは、20年度の実際の値(約6割)より悪化している。この状態が続けば、21年度の黒字回復も危うい。

 JR東海について21年4~6月期の値を4倍して19年度と比べると、JR東日本の場合と同じように4割程度でしかない。これも20年度より悪化している。

 この状態が続けば、両社ともに21年度も営業赤字が続く可能性がある。

JR東日本は売り上げが

20%以上減ると赤字になる

 今後の売り上げの変動に対して、利益はどのように変動するだろうか?

 この予測は極めて難しいが、一定の仮定の下でシミュレーション計算をしてみよう。

 そのために経費の構造を見ると、JR東日本の場合、2020年度には19年度に比べて売り上げが43.1%も減っにもかかわらず、営業費は4.9%しか削減できていない(図表3参照)。

 経費で2桁の減少率になっているのは、人件費と動力費だけだ。

 人件費は、一時帰休などをして雇用調整助成金に頼った面が大きいと考えられる。動力費減少は運行便数の削減によるのだろう。

 これら以外には、減価償却など、運行便数を削減してもほとんど変わらない経費が多い。

 そこで、ここでは21年度についてつぎのように仮定するとしよう。

(1)動力費は売り上げ減少率の4分の1の率で減少する。

(2)人件費を含むその他の経費は、売り上げにかかわらず20年度の値から不変とする。

 この仮定の下で営業利益を計算すると、つぎのようになる。

 19年度に対する売り上げの減少率が20%だと、営業利益が約300億円の赤字となる。つまり、19年度の8割程度の売り上げが損益分岐点だ。

 30%減だと赤字は2000億円を超え、40%減だと4000億円を超える(これが20年度に実際に起きたことだ)。

 これまで見てきたことを勘案すると、黒字を維持するのは容易なことではない。また、仮に黒字を維持できても、利益は大幅に減少する可能性が高い。

JR東海は黒字を維持できるが、

新幹線の売り上げ次第で変わる

 JR東海の経費構造は図表4に示すとおりだ。

 2020年度では、営業収益が62.3%減少したのに対して、営業費は約12%減った。

 注目すべきは、動力費以外の営業費も、動力費とあまり変わらない率で減っていることだ。これはJR東日本の場合とはかなり異なる傾向だ。

 新幹線の場合には、運行数の削減に伴ってある程度、柔軟に経費が削減されていることが分かる。

 こうした構造を反映して、損益分岐点も高くなる。営業利益が赤字になるのは、営業収益が19年度から50%以上、減る場合だ。

 20年度は、実際の減少率が62%になったので赤字になったが、コロナが収束すれば、営業収益が19年度の50%以上の水準に回復する可能性が十分ある。

 だがそうではあっても、状況は決して楽観できない。その理由は2つある。

 第1に、赤字にならなくても黒字は減る。

 第2に、JR東海は新幹線に対する依存度が高いので、出張費の見直しによって旅客収入が大幅に落ち込む可能性があることだ。

 実際、すでに見たように、20年度の落ち込みはJR東日本よりは大きかった。

企業の出張費、元には戻らない

在宅勤務で定期券収入も減る

 コロナが収束すれば、個人旅行や近距離の旅客は回復するだろう。問題はビジネス客の動向だ。これは、企業出張費がどうなるかに大きく依存する。

 企業はコロナ禍で出張を見直さざるを得なくなったが、その経験から、これまでの出張費の中で不要なものがかなりあることを見出した。それらは、テレビ会議などの手段によって代替できることが分かった。むしろ、それらのほうが効率的にできる場合も多いことが分かったのではないか。

 したがって、コロナが収束したとしても、出張費が元に戻らない可能性は強い。コロナ前よりはかなり削減される可能性が高いのだ。

 さらに、コロナ後に在宅勤務が定着してさらに広がれば、定期券の収入も減る可能性がある。

 重要なのは、これが一時的な現象ではなく、恒常的に継続する変化であることだ。

 つまり、JRは「構造的な問題」に直面することになる。

鉄道産業全体の構造問題に

リニア新幹線、計画見直しも?

 以上で指摘した問題は、JR東日本やJR東海だけに限ったものではない。程度の差はあれ、JR各社に共通する。

 またJRの在来線や私鉄についても同様のことが言える。

 輸送人キロで見て、鉄道は国内旅客輸送の4分の3を占める重要な産業だ。それがこのように大きな危機に直面しようとしているのだ。

 鉄道会社の費用は、列車の運行を減少させてもあまり減らないものが多い。少なくとも比例的に減るものではない。このため、間引き運転や終電繰り上げなどの措置では対応できない。

 今後、事業の基幹にかかわる大規模なリストラが必要とされるだろう。

 リニア中央新幹線のような大規模な投資計画は、基本から見直す必要が出てくるかもしれない。

 1970年代から80年代前半にかけて、旧国鉄は巨額の赤字に苦しんだ。これからの脱却には分割民営化と並行して巨額の赤字をJRから切り離すという大手術が必要だった。

 今後、再び大きな試練の時代がくる可能性が高い。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)

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