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アベノマスク「隠されていた30億円受注」の疑念 布マスク漏れ率100%、国は誰のために配るのか

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2020/05/20 17:30 岩澤 倫彦
問題含みのアベノマスクに新たな疑念が浮上した(筆者撮影) © 東洋経済オンライン 問題含みのアベノマスクに新たな疑念が浮上した(筆者撮影)

 あれほど入手困難だったマスク。今月中旬ごろからは需給が緩和され、価格も低下してきた。その中で、新型コロナウイルス対策として登場した「アベノマスク」こと、政府の「布マスク」配布計画は、完全に周回遅れとなった感が否めない。全6300万世帯に配布予定のうち、届いたのは1割以下だ(5月18日時点)。

 先行して介護施設等に届けられたベトナム製「布マスク」は、耳掛け部分の寸法が短すぎるうえ伸縮性がなく、装着できない人が多いという。それなのに、ベトナム製「布マスク」の第2回配布のために、約30億円の契約が結ばれていたことが判明した。

 そもそも感染リスクが高いとされる現場で、布マスクの使用は適切なのか、聖路加国際大学・大西一成准教授に実証実験を依頼した。

 これまで「福島の無名会社『アベノマスク4億円受注』の謎」(2020年4月30日配信)、「アベノマスク『耳が痛くて使えない』呆れた実態(2020年5月12日配信)と報じてきたが、次々と明らかになるアベノマスク問題の追及・第3弾をお伝えする。

医師も誤解しているマスクの機能

 「マスクは他人に感染させないための道具。マスクは新型コロナウイルスを通すので予防はできない。だから、元気な人は基本的にマスクをつける必要はない──」

 今年2月まで、感染症に詳しいと称する医師が、新聞やテレビで「マスク不要論」を盛んに主張していた。その影響もあって、マスクの装着効果を過小評価している人は少なくない。

 日本では数少ないマスクの研究者である、聖路加国際大学の大西一成准教授(公衆衛生学)は、医師の一部に誤解があると指摘する。

 「防じんマスクや、サージカルマスクでPFE試験(※)をパスした不織布でも、0.3マイクロメートル以下(1マイクロメートル=1/1000mm)の隙間があります。そのため、『0.1マイクロメートル以下の新型コロナウイルスは、不織布を通過してしまう』と話される方がいますが、それは大きな間違いです。

 飛沫として外に出てくる新型コロナウイルスには、水分が付いており、0.1マイクロよりも大きい状態になるからです。それに、不織布はミクロのレイヤーがランダムに何層にも重なっており、例え0.1マイクロメートルでも、微粒子の不規則な動きであるブラウン運動によってほぼ100%カットできるということが私の研究でわかっています」

(※PFE:約0.1マイクロメートルの粒子が濾過する率。アメリカのASTMインターナショナルが定めた規格)

 ここで注意したいのは、不織布のこの性能はあくまでも実験環境の下での数字ということだ。大西准教授によると、マスクの機能は、「フィルター性能」と「顔のフィット」の2つが重要になるという。

 つまり、どんなにフィルター性能が高くても、顔にフィットしていなければ意味がないのだ。

漏れ率100%だった、アベノマスク

 マスクを装着した状態の機能を評価するのが「フィッティングテスター」である。空気中に漂う0.3マイクロメートルの粒子量を、マスク内部と外部を約12秒間ずつ測定、その数値差を「漏れ率」として表す。

 大西准教授が勤務する聖路加国際大学は、緊急事態宣言により通学停止中であるため、遠隔会議システムのzoomを利用して、実証実験を行ってもらった。

 実際に届いたアベノマスクは、ガーゼを15枚重ねた構造になっている。まず、大西准教授は、一般の人が装着した状態をイメージして測定。結果は、漏れ率100%だった。

 

そこで、アベノマスクの周囲を押さえて顔にフィットさせて再測定すると──。

 「漏れ率89.58%ですね。ガーゼ1枚の網目は500マイクロメートルですが、15枚重ねているので、粒子を約10%カットしていることが観察されました」

 そして、介護施設等に配布された、ベトナム製布マスクを測定しようとしたのだが、これが想像以上に大変だった。

 「僕には小さすぎますね。いや厳しいです。これで男女兼用のワンサイズですか?」

 大西准教授には、無理やりマスクを引っ張って装着してもらうしかない。

 「耳がひしゃげてますけど、なんとか付けました。あごがしっかり覆われていてフィット感はいいです。では測定を開始します」

 結果は、漏れ率100%。そこで、ガーゼマスクと同様に周囲を押さえ込んで隙間を塞いで測定すると──

 「やっぱり100%です。このマスクは、ブリーフみたいな生地を2枚重ねているだけですし、隙間が目で確認できる。おそらく100マイクロメートルくらい、髪の毛1本通るほどです」

 今回の実証試験では、ガーゼマスクの場合、外の粒子の吸い込みを約10%程度ブロックしていたが、ベトナム製マスクにこうした機能は、ほとんど期待できないことがわかった。

 大西准教授は、ほかにマスクがない場合のみ、つける意味はあると言う。

 「マスクには、感染予防の重要な機能が4つあります。1つ目は外の粒子を取り込まないフィルター効果。2つ目が感染している人がウイルスを飛ばさないこと。3つ目がのどの保湿と保護。4つ目がウイルスで汚染されている手で顔を触らないこと。

 このベトナムマスクは、1つ目の観点で×(バツ)、2つ目の観点で△(三角)、3と4の観点では〇(マル)という感じです。ただし、感染リスクの高い場所での使用は絶対に勧めません」

 あまり知られていないが、大西准教授によると、のどの粘膜が乾燥するとウイルスに感染しやすくなるので、のどの保湿は大切だという。

 マスクの特徴と限界を踏まえて、使う場所と状況に応じて正しく使い分けることが重要だ。

隠されていた30億円の契約

 感染予防としてのフィルター性能は、ほとんど期待できないことがわかったベトナム製布マスク。現地では、排気ガスが直接顔にかかるのを防ぐために普及しているタイプだ。つまり、新型コロナウイルス対策のマスクとしては、目的外使用というべきだろう。

 確かに、店頭からマスクが姿を消して入手困難な時に、緊急措置として輸入するなら、仕方がない側面もある。しかし、現在はフィルター性能が高い不織布のサージカルマスクが、苦労せずに入手可能になった。

 アベノマスク問題を国会で追及している、参議院の福島みずほ議員(社民党)による情報公開の要求に対して、5月11日付で厚労省マスクチームが提出した資料がある。そこには、意外な事実が記されていた。

 ベトナム製布マスクを輸入している、ユースビオ(福島市)は、2021年度予算で、新たに約30億円の契約を結んでいたのだ。

 今月10日、厚労省の追加発注に関して、樋山茂社長に尋ねたところ、次のように答えている。

 「ちゃんとしたものを納めたのに、こういう取材やらで嫌になりました。国民のためにと思ってやったけど、嫌になりました。なので、皆さんのせいでやめます」

 また、厚労省マスクチームの広報担当者は、5月12日の取材に対して、こう述べていた。

 「ユースビオのマスクは、介護施設等に第1回目の配布分で完了した。これから第2回目、第3回目の配布を予定している。新しい契約はあちら(ユースビオ)がされないと、オープンに言ってらっしゃるので難しいのではないか」

 その後の取材で、約30億円の契約分は、4月15日に納品が完了していたことがわかった。

 ユースビオに関して、報道が相次いだのは4月27日から5月上旬。これまで、同社と厚労省は、約30億円の契約について一切触れようとしなかった。

 取材が殺到したから、国のマスク事業はもう受けない、とした樋山社長の言葉は一体何だったのか?

 樋山社長は、今後取材を受けないと宣言しているため、同社の代理人である弁護士にメールで質問を送ったところ、次のような回答が届いた。

 「樋山氏が岩澤様に話したものは、下記の記事に関するもので本年5月以降に関するものと思われます」。記事とは、今月3日付の週刊朝日オンライン版で、樋山社長の主張をずいぶんと丁寧に掲載している。そこにも「政府からまたマスクの納入を頼まれたとしても、もうやりたくありません」と記されていた。つまり、約30億円分の納品は4月15日に終わっているので、5月以降については新たに受けない趣旨だという主張なのだろうか。しかし、この記事でも樋山社長は約30億円の契約に触れていない。

 ユースビオも厚労省も、4月下旬以降、ユースビオの受注額は約4.7億円という説明を続けてきた。そのためマスメディアや国民は、この金額がすべてだと思うのが自然だろう。約30億円の受注が判明したのは、5月11日付の福島参院議員への資料。厚労省マスクチームは5月12日の、私の取材に対しても、「第1回目の配布で完了した。新しい契約はしないはず」という言い方で、約30億円の契約について言及しなかった。

厚労省「2回目の契約といったご質問はなかった」

 納得がいかない私は、5月18日に厚労省マスクチームにあらためて電話をした。

 ──これまで、ユースビオの契約内容について、繰り返しお尋ねしたが、あなたは30億円の契約に関していっさい触れなかった。それはなぜか?

 厚労省担当者「ご質問の中で、介護施設の2回目の契約といったご質問はなかったからだと思います。ご質問いただいたものには、正確にお答えしているつもりなので」

 ──5月8日の電話で、あなたは「介護施設等に、2回目、3回目の配布も考えている」と話していた。しかし、その時点でユースビオと30億円の契約も済ませ、納品も済んでいたのでは?

 厚労省担当者「そういうことになりますね」

 ──なぜ、まるで未確定のような表現をされたのか?

 厚労省担当者「うーん、すみません。2回目3回目も考えているのは、まさにその通りなので。この契約日は、今(5月18日になって)ちゃんと聞いたので」

 のれんに腕押しだった。

 この厚労省マスク班の担当者は、30億円の契約でもベトナム製布マスクのデザインに変更はないこと、ただし、現行サイズに大きめのサイズも加えたことを明かした。

 キャリア25年になる訪問看護師は、再びベトナム製布マスクが配布されると聞いて、すっかりあきれていた。

 「あのマスクは、今の職場にいる私を含めた6人の看護師は誰も使っていません。全員が不織布の使い捨てマスクを使っています。誰のために国が購入して配るのでしょうか」

 介護施設を運営する男性も、必要なのは布マスクではないと断言する。

 「同じ布マスクなら、もうやめてもらいたいです。もし配布するならサージカルマスクのほうが役に立ちます」

 前出の福島参院議員は、アベノマスク事業を中止すべきではないか、と指摘している。

 「もう布マスクを配布する必要性はなくなりましたよね。それなのに、布マスクにこだわる理由がわかりません。税金の無駄遣いです。それに、不良品の検品に総額8億円の予算をつけていることがわかりましたが、これも絶対におかしい。検品なんて、納める企業の責任でしょう」

 今月14日の厚生労働委員会で、なぜ布マスク事業にこだわるのか、という福島議員の質問に対して、厚労省の官僚はこう述べていた。

 「医療機関に優先的に医療マスク(サージカルマスク)を確保するため、一般には布マスクでお願いする」

医療用マスクの不足はなお続いている

 5月19日、私は東京都内で、新型コロナの治療にあたる都立病院の医師に会った。マスク事情について聞くと、彼は苦い表情を浮かべて首を横に振った。

 「サージカルマスクやN95マスクの不足は、今も続いています。どうして改善しないのか、不思議です。マスクを使い回すなんて、感染リスクを考えたら絶対にやるべきではありませんが、仕方がありません」

 医療現場にサージカルマスクを優先的に供給するため、国民に布マスクを使わせる、という大義名分は一体どこにいったのだろうか。

 高い機能を持つマスクを正しく使えば、新型コロナから命を守ることも可能だが、国が配る布マスクには、もともとそのような機能はない。

 はっきりしたのは、布マスクに多額の税金が注ぎ込まれるのは、国民の命を守るためではない、ということだ。

 政策決定のプロセスが不透明で、国民や医療現場の要望に耳を貸そうとしない。このアベノマスクには、政府の新型コロナ対策そのものが、投影されているように思えてならない。

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