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市中の次亜塩素酸系製品はなぜ批判される? 化学者が腰を抜かし、経産省も手のひらを返した現状とは

HARBOR BUSINESS Online のロゴ HARBOR BUSINESS Online 2020/06/15 08:33 ハーバー・ビジネス・オンライン
スムース / PIXTA(ピクスタ) © HARBOR BUSINESS Online 提供 スムース / PIXTA(ピクスタ)

企業倫理、工業倫理上の問題が表面化している次亜塩素酸業界

 前回、6月初めになって市中に急速に広がりだした次亜塩素酸製品について、それらが広がる背景と実態について概要をご紹介しました。その中で、次亜塩素酸製品が販売、設置されている実態が、個人と集団にとって危険な状態であることを指摘し、それは基礎的な企業倫理と工業倫理に反するものではないかという指摘を行いました。

 本邦ニセ科学批判者によってニセ科学問題として定番の話題として取りあげられる次亜塩素酸製品ですが、アブないChemist(化学者)としての視点では「優れた化学物質がもったいないな」という思いでした。

 しかし、実際に店頭に大々的に並び、郵便局などで顧客用に設置されている実態をみると、一目で「これは遠からず大きな事故を起こすし、インシデントは既に激発しているのではないか。」という危機意識を持つには十分な「酷い実態」が眼前に広がります。このままでは次亜塩素酸の製品としての命脈が永遠に絶たれることにもなりかねませんので、とくに事業者の方は塩素酸愛好家のChemistの目に業界が行っていることがどう映っているかを自覚していただけると幸いです。

企業倫理、工業倫理上の問題としての具体例

 今回は、経済産業省に委託を受けた独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の公表した「『次亜塩素酸水』等の販売実態について(ファクトシート)」を使いながら筆者が身の回りで見た実態とあわせて企業倫理、工業倫理上の問題事例としてご紹介します。本来は、店頭の商品を買い取って写真入りでご紹介することも考えたのですが、製造原価の詳細を知るものとして、あまりの値段の高さに目玉が飛び出し、肝が潰れて救急搬送されかねませんのでそれは断念しました。

 商品には、製品の表示というものがあります。この表示は、消費者への公式な情報開示であり、履歴書のようなものです。消費者はこの表示を読むことでその製品の購買可能性を判断しますので、商品にとって最も重要なものと言えます。それらの実態をみて行きましょう。

(1)製法、成分などの表示

 製法、成分などの表示は、最も重要なもので簡潔であっても正確に全ての情報が得られねばなりません。次亜塩素酸の製法については、電気分解によるものと次亜塩素酸ナトリウムなどを酸で中和したものの二つに大きく分かれます。僅かに他の製法もありますがここでは取りあげません。

「次亜塩素酸水」と名乗れるものは厚労省の告示に則れば塩水を電気分解したものに限られますが、驚いたことに筆者の身の回りで販売、使用されている「次亜塩素酸」「次亜塩素酸水」を名乗る製品でこの製法表記のある製品は殆ど存在しませんでした。

 成分表示も悲惨で、「HClO」だけの表示、「次亜塩素酸」、「安定化次亜塩素酸 安定剤」、「安定型複合塩素」など、正確に全成分を記載したラベルは全くありませんでした。驚いたことに濃度表示のない製品も多く、辛うじて100ppmとだけ表記した製品がみられました。Chemistならば、有効塩素濃度が100ppmですので、この製品は次亜塩素酸ナトリウムを酸で中和したものだと分かりますが、普通は好事家をのぞき無理でしょう。

「安定化次亜塩素酸」と書かれても意味が分かりませんが、Chemistならば次亜塩素酸ナトリウムのことかと考えます*。要はハイターの希釈液でお肌にとても悪いアルカリ性と解釈されてしまいますが、真相は分かりません。

〈*完全に電離してイオンとして存在する次亜塩素酸イオンの方が安定性が高い〉

「安定型複合塩素」では、一体何が入っているのか全く分かりません。これは論外です。

 液性についての正確な表記は皆無で、水素イオン濃度(pH)がどうであるか分かる製品はありませんでした。これでは皮膚に安全か否かが分かりません。基本的にアルカリ性のものは皮膚に付けてはいけません。石鹸のように弱アルカリ性であっても皮膚に付着した場合は、すぐに水で洗い流すべきです。とくに目や粘膜に付着した場合は、緊急に水で洗い流さねばなりません。そういった安全上極めて重要なことが分からないのです。

 次亜塩素酸は、不安定なために製造後時間がたつと分解してしまいます。従って製造年月日が分からなければいつまで使えるかが分かりません。ところが製造年月日を明記した商品は見当たりませんでした。使用期限表記は当然殆どの製品に無く、あってもいつからいつまでかが分かりません。まさに「お話にならない」そのものです。

 NITEの発表したファクトシートにも筆者と全く同じことが報告されています。

                                                                     

そもそも「消毒薬」として販売されていない市中の次亜塩素酸類

 次に有効性、効能の表示です。これは広告などから読み取れますし、製品にも簡単に記載してあります。

 まず、有効性に付いての表示です。実は、現在市中で販売されている次亜塩素酸製品(主成分を次亜塩素酸とするもの)は、基本として雑貨であって、消毒薬として販売されていません。これは厚労省において薬機法の審査、承認を受けているものがないからです。従って消毒薬としての効能を記載すると薬機法などの法令違反になる可能性があります*。

〈*関連する法令は下記となる

食品衛生法(昭和 22 年 12 月 24 日法律第 233 号)

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号)

不正競争防止法(平成 5 年 5 月 19 日法律第 47 号)

不当景品類及び不当表示防止法(昭和 37 年法律第 134 号)(景品表示法)

消費者安全法第5条〉

 従って、あくまで読み物(物語)として読むことになります。

 一部の製品では、独自の試験を行い、その結果をホームページなどに掲載しています。それ自体は、筆者にとってはとても興味深く、楽しいものですが、あくまでTake note(書きとどめておく)程度の意味合いしかありません。理由は、あくまで私的なものであって、公的に承認されたものでなく、そういった試験結果をいくら積み重ねても消毒薬としての効能や安全性は認められていないからです。その上で雑貨として考えてもその試験方法が消毒薬の公的な検査規格に沿ったものであるかの判断ができません。極端なことを言えば、検査規格を無視すれば「お醤油」にもその塩分によって消毒の効能をつけることは可能です*。

〈*昭和中期頃までは、傷口にお醤油を塗って消毒する手法があったらしく、筆者が小中学生の頃まで、傷口や火傷にお醤油をかけるなと言う記述が保険教材などにみられた〉

 なお、業者によってはたくさんの検査証書をホームページに提示しているものの低解像度の為に記載事項が全く判読できない事例があります。こういったことは直ちに改めねばなりません。

 安全性や効能については、まず科学的、医学的合意が形成されねば●●大学で検査した、✕✕試験センターで試験したと言ってもそれは根拠(エビデンス)にならないのです。安全性や効能については、まず科学的、医学的合意が形成され、その上で担当省庁による承認を得て初めて製品として成り立ちます。残念ながら筆者が探した限り、あくまで私的試みの読み物であっても有効性について根拠となり得るものはありませんでした。

 次に安全性についての表記ですが、これはお話になりません。「弱酸性」であるから安全と謳う製品がたいへんに多いのですが、弱酸性であることは安全性の根拠になりません。

 次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)で手荒れする原因の多くは、その強アルカリ性に由来します。確かに、「次亜塩素酸水」は弱酸性なので手荒れしにくいと言う事実はあります。しかし、例えば有効塩素濃度1ppmでpH6(弱酸性)程度に調整されている遊泳用プール(溶存する有効塩素の殆どは次亜塩素酸分子)であっても皮膚や目、粘膜に異常を来す人は現れます。また、筆者の身の回りにもその場で電気分解により製造した次亜塩素酸水の愛用者はいますが、軽度であっても皮膚に異常を発生する事例はあります。

 また次亜塩素酸水が食品添加物として認められていることを安全性の根拠にしている表記が多く見られますが、食品添加物としての次亜塩素酸水は、製品出荷時点で除去されていることが義務となっています。食品の消毒という用途で次亜塩素酸ナトリウムや「次亜塩素酸水」は食品添加物として認められていますが、それらは食品としての最終製品の出荷段階で除去されていることが必須であって、消費者に接触することは認められていません。従って消費者が直接接触する消毒薬(または相当品)としての安全性の根拠には全くなりません。

 化学薬品の人体への安全性は、その検証のハードルが高く、たいへんに高いコストと時間を要します。一方で安全性の実証のない化学薬品を人体や生き物に直接使うことはたいへんに危険です。これが製品化のための最大の関門と言えますが、この関門を通過した次亜塩素酸製品を筆者は見たことがありません。

 これらについてもNITEの見解は、筆者のそれとほぼ同じとなります。

NITE資料の模擬事例にみる次亜塩素酸製品のラベルの酷さ

 ここでNITE発表のファクトシートに記載されている次亜塩素酸製品のラベルの、模擬事例を一つ引用して検討します。この模擬事例一つとっても酷いものですが、実際にはもっと酷いものが幾らでもあります。

 まず筆者の知る限り全ての消費者向け次亜塩素酸製品の全てが遮光性のない瓶に詰められて販売されています。中には透明瓶もあります。これはもう全く駄目で、製造出荷後、光化学反応によって分解が進んでいることを示します。キッチンハイターなど次亜塩素酸ナトリウム製品は、遮光瓶に入っており、液面は外から見えません。

 成分表示も全く駄目で、辛うじて次亜塩素酸が入っていることが分かればマシという程度で、中には成分表示だけでは中の液体の正体が分からないいものも多数あります。

 液性については未表記、または弱酸性という表示がありますが、正確な水素イオン指数(pH)が表示されている製品はを筆者は見つけられませんでした。これは安全性と効果を判断する重要な情報であるのにです。

 製品の使い方もなかなか凄く、空間除菌や、人体への使用、ペットへの使用まで書かれている製品があります。これらは薬機法違反が疑われる他、根本的に問題があります。ペットや人体への直接利用を謳うのであるならば、マウスや豚を用いた動物実験による安全性の証明を経ている必要があります。

 使い道については、器具の消毒については、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水であるならば認められていますが、それらが生体や人体への利用が認められた事例を筆者は知りません。そして器具であっても例えばマスクの場合は、消毒が十分にできるほどに塗布すれば、不織布マスクは液浸によって濾過性能を失いウイルス素通しの「殺人マスク」となりかねません。布マスクの場合は、内部の消毒が十分にできていない雑菌繁殖マスク=「病気になるマスク」になる可能性があります。

 禁忌事項の説明がある製品を殆ど見かけません。塩素酸類は強酸(塩酸やクエン酸など、体内では胃液)や過酸化水素と混ぜると猛毒の塩素ガスを発生します。「次亜塩素酸水」の場合は、有効塩素濃度が「10〜80ppm」と低いので強酸と混合しても致命的なほどには塩素が発生しないという考え方があるようですが、どんなに微量であっても塩素は発生します。現在流通している次亜塩素酸製品の多くは有効塩素濃度が100ppm以上ですので、キッチンハイターの希釈液(通常200ppm程度)と同程度の有効塩素濃度を持ちます。

 次亜塩素酸製品である以上、この表記は必須です。

「混ぜるな危険」

 筆者は、消費者が想定外の行動をとることから、次の表記を強く推奨します。これはキッチンハイターなどの既存の次亜塩素酸ナトリウム製品も対象とします。

「飲むな、食べるな、混ぜるな死ぬぞ」

 最後に空間除菌について言及します。次亜塩素酸には、たいへんに強力な殺菌力があり、弱酸性であるために次亜塩素酸ナトリウムほどに金属などを強く侵さないことから、次亜塩素酸ミスト(霧)を噴霧することによる空間除菌や人体の除菌を主張する製品があります。

 このような薬剤の噴霧による空間や人体の除菌は、200年足らずの近代的消毒法の歴史では数多く試みられ、実用化もなされてきましたが、すべて淘汰されて消え失せています。そもそも現実の使用環境で空間除菌に効果は認められておらず、薬剤の人体、生体への害、耐性菌の発生などで空間除菌は「やってはいけないこと」とするのが医学的、科学的合意です。

 無論、やってみたいという動機は理解できますので、とくに実地での安全性を中心に効果、耐性菌の発生可能性などについて全て実証できれば消毒の歴史に燦然と輝く実績を残すことができます。その研究は、たいへんに大規模な国家事業となるでしょう。

 なお、国の事故情報データーベースには最近の次亜塩素酸噴霧による事故報告が登録されています。安全性の実証は、こういった事故情報をしらみつぶしに精査することを必須とします。現在はインシデントで済んでいますが、無視していればとんでもない人身事故になりかねません。

●職場ではコロナ関連で、次亜塩素酸を噴霧している。目が痛く、腫れてきたのに、商品には健康被害の注意書きがない。2020/03/16事故情報データバンクシステム

●コロナウイルス対策で加湿器に別売りで作成した次亜塩素酸水を使用し噴霧したことにより呼吸困難になりそうになった。2020/03/25事故情報データバンクシステム

●スーパーでコロナ対策のためにレジ付近に次亜塩素酸の噴霧器を使用していたため喘息発作が起きた。対応に問題あるのではないか。2020/05/12事故情報データバンクシステム

●父が友人から次亜塩素酸水を買い加湿器に入れたところ、目が痛くなり眼科にかかった。販売してよいのか。説明義務はないのか2020/05/18事故情報データバンクシステム

 この次亜塩素酸ミスト噴霧装置の氾濫にはNITEも相当な危機感を持っているようで、「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)で大きく取りあげています。

企業倫理、工業倫理の視点から抜本的見直しを

 筆者は、化学物質としての次亜塩素酸はたいへんに優れたものと考えており、安価で生産性も良いことからその実用化への試みには好意的です。しかし、であるからこそ慎重に手順に従った堅実な道のりを進むべきであると考えています。

 今回、経産省が緊急に一般アルコールを解放するという判断をしない代わりなのか、次亜塩素酸水を中心に様々な代用消毒製品の評価をしましたが、中間報告ではありますが全くパッとしない結果で事業失敗と評するほかありません。

 2020/05/01のNITE発表*では、やる気満々で、次亜塩素酸業界の夜明けが近くに感じられたのですが、2020/05/29の発表**では、「次亜塩素酸水」や次亜塩素酸については一挙に後退し、当て馬と言うべき界面活性剤類の評価に移行しています。

〈*新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について、第2回検討委員会を開催しました。 2020/05/01 製品評価技術基盤機構〉

〈**新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第2弾)~物品への消毒方法の選択肢がさらに広がります~ 2020/05/29 製品評価技術基盤機構〉

 次亜塩素酸(水)業界にとっては、青天の霹靂で、いきなり脳天に隕石どころか遊星爆弾の直撃を受けたようなもので、2020/06/11には、大学の研究者同席で反論の記者会見*が報じられました。

〈*次亜塩素酸水“コロナ予防に役立つ”と反論2020/06/11日テレNEWS24〉

 事業者の失望と怒りは理解できますが、今回の件は典型的な技術系起業家の失敗で、製品の長所ばかりに目が行き致命的な短所への対策を疎かにしてきたが故に盛大にコケたと言えます。

 現実問題として、現在市中に氾濫するイカガワ*次亜塩素酸製品の実態をみれば、いかな中抜き省庁である経産省でも腰が引けてへたり込むこと間違いなしです。

〈*筆者は、怪しげな、いかがわしい製品をイカガワ製品と呼称している。筆者は、「すいかソーダ」などのイカガワドリンクには、ついつい手が伸びてしまう好事家である。〉

「『次亜塩素酸水』等の販売実態について(ファクトシート)2020/05/29」のような文書が発表されるのはかなり異常な事態であり、余りにも酷い次亜塩素酸製品の氾濫にNITEおよび経産省の担当者は悲鳴を上げ、再委託先の研究者も腰が引けてしまったと考えるほかありません。

 企業倫理、工業倫理の視点から抜本的見直しを行った上で、一からやり直さねば再起はあり得ませんし、そのうち深刻な製品事故を起こして再起不能になりかねません。既にインシデントは数多く報告され、公表されているのです。

 次亜塩素酸は、物質としては見所がありますので、初心に返り、企業倫理、工業倫理を堅実に守った上での再起を祈念します。

◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ13

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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