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渡辺直美&ゆりやん ガガパロディ650万回再生で見せつけた日本のお笑いの豊かさ

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2020/08/01 11:30
渡辺直美(左)とゆりやんレトリィバァ(C)朝日新聞社 © AERA dot. 提供 渡辺直美(左)とゆりやんレトリィバァ(C)朝日新聞社

 渡辺直美とゆりやんレトリィバァのコラボ動画が話題を呼んでいる。これは、7月25日に渡辺のYouTubeチャンネル「NAOMI CLUB」で公開されたものだ。レディー・ガガとアリアナ・グランデの豪華共演で話題の『Rain On Me』のMVを元ネタにして、2人がダンサーを引き連れて原曲に合わせて歌い踊っている。衣装やメイクやセットも本物さながらのクオリティで作り込まれている。本家にも正式に許可を取って制作されているという。

「Lady Gaga “Rain On Me with Ariana Grande” Official Parody」と名付けられたこの動画は、7月31日現在で再生回数650万回を超える話題作となっている。「なりきり芸」とダンスの腕前には定評がある2人の渾身のパフォーマンスは圧巻だ。

 元ネタが世界的に大ヒットしている楽曲ということもあり、この動画には外国人と思われる人から英語でのコメントも多数寄せられている。

 それらを見ていて個人的に気になったのが、「This is not a parody(これはパロディではない)」などと、この動画が「parody」であることを否定するような書き込みがたくさん見受けられたことだ。

 外国人と思われる人たちからこのような反応があった理由は、動画制作者である渡辺や日本人スタッフが想定していた「パロディ」と、英語の「parody」の本来の意味が微妙に異なるためだろう。そこには、単なる日本語と英語の違いにとどまらない、興味深い「ズレ」があるように感じられた。

 英語の「parody」は「笑える形で既存の人物や作品などの真似をしたもの」という意味だ。日本語の「パロディ」も語源は同じなので、基本的にはそういう意味で使われている。

 だが、日本語の「パロディ」は、必ずしも笑いに直結するものだけではなく、単に本物そっくりに真似をしたものに対しても用いられることがある。少しだけ言葉の意味の範囲が広いのだ。

 渡辺とゆりやんの普段の活動を知らない外国人にとって、この動画は単なる「クオリティの高いなりきり動画」に見える。それは笑えるようなものではないし、笑うべきものでもない。だから、映像として優れていて格好良いというふうに受け取られる。「これはパロディではない(笑えるものではない)」とは、あくまでも褒め言葉として言われている。

 この点について「日本ではまだ他人の容姿をあざ笑う文化が残っているため、渡辺直美のようなふくよかな女性が気取った態度で踊っていることが笑いのネタになっている。海外(アメリカ)ではそれがない。日本の笑いは遅れている。海外を見習うべきだ」というようなことを主張する人もいる。

 だが、個人的には、この事例についてそのような主張をすることには違和感がある。渡辺やゆりやんが激しく踊るこの動画を見てクスッと笑ってしまった人は、彼女たちの容姿の悪さをあざ笑っているのかというと、必ずしもそうとは限らないと思うからだ。

 多くの日本人は、彼女たちがプロの芸人であり、人を笑わせるのを本業にしていることを知っている。そんな彼女たちが、この動画では真剣な表情で本物になりきってパフォーマンスをしている。そのこと自体が「なんでそこまで本気なんだよ」「何をしてるんだよ」というツッコミの対象になり、笑いを生んでいる。

 つまり、ここにあるのは「格好良すぎて笑える」という状態だ。「格好良いものは笑えるものではない」という西洋的な二元論を超えた世界がそこには広がっている。

 

 我々日本人が格好良さと滑稽さを同時に味わえるのは、その背景にある文脈を共有しているからだ。ネタ番組でオリエンタルラジオが『Perfect Human』という楽曲を真剣に歌って話題になっていたのもこれと同じだ。「ネタ番組なのに」という前提が含まれているからこそ、ボケ要素ゼロのパフォーマンスが笑いに結びつくのである。

 現代の日本の笑いは総じてこのようにハイコンテクスト(言語化されない含みが多い)なものであるため、その認識がない人にとっては誤解されやすい側面がある。渡辺とゆりやんの動画で私たちが笑えるのは、日本の笑いの後進性ではなく、日本の笑いの豊かさを示している。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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