古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

【累計発行部数600万部突破記念!】作家・道尾秀介さん本人が明かす 少年が主人公の作品が多い納得の理由

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2021/01/08 19:00
道尾秀介さん(撮影/写真部・掛祥葉子) © AERA dot. 提供 道尾秀介さん(撮影/写真部・掛祥葉子)

 作家・道尾秀介さんの著書の累計発行部数が、1月7日発売の『風神の手』(朝日新聞出版)の刊行をもって600万部を突破する。それを記念して、文庫を刊行している版元10 社(朝日新聞出版、KADOKAWA、幻冬舎、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、東京創元社、文藝春秋)が共同書店フェアを開催。そこで、大ベストセラー『向日葵の咲かない夏』や最新刊『風神の手』の文庫に解説を寄せ、道尾作品をこよなく愛するミステリ評論家の千街晶之さんを聞き手に、フェア参加の10作品を道尾さん自身に振り返ってもらった。前後編にわたり、お届けする。前編は、デビュー作『背の眼』から、日本推理作家協会賞を受賞した『カラスの親指』まで。

*  *  *

■デビュー作には作家のすべてがある『背の眼』

――2005年刊行のデビュー作ですが、今から振り返ってどのように感じますか。

道尾:書き始めたのは18年か19年前ですが、「レエ……オグロアラダ……ロゴ」という謎の声を仕掛けに使うことを思いついた瞬間は、いまだに鮮明に覚えてます。読み返すと、やっぱり京極夏彦さんの影響を受けているのがわかりますし、あとは主人公が道尾秀介という作家だという設定は、今だったら恥ずかしくて書けないかもしれない。でも当時はデビューしていないから、道尾秀介という人物は世の中に存在していなかったんですね。だから何の違和感もなくて、しかもエラリー・クイーンとか法月綸太郎さんとか、不勉強で読んでいなかったので、語り手=作者の名前という前例があるのを、なんと知らなかったんですよ(笑)。自分が思いついたと思ってたぐらいで。

――デビュー作の時点で、何気ない嘘が回り回って人の運命を狂わせるというテーマを書いているあたり、道尾さんはこの時期から道尾さんだったというのを強く感じます。

道尾:好きなものは変わらないというのは僕も読み返して思いますね。この作品のように横溝正史の岡山ものの世界観が好きなんです。5月に新潮社から出る予定の最新作『雷神』も、閉鎖的な田舎町で起きるミステリなんですが、最新作まで好みが変わってないのは嬉しいことです。

■本格ミステリ大賞を受賞した『シャドウ』

――『向日葵の咲かない夏』もそうでしたが、初期の道尾さんは、少年を主人公にすることが多かったイメージがあります。

道尾:女性だったり老人だったりという経験はないけれど少年だったことはあるので、いろんな感情をヴィヴィッドに覚えていて、生々しく書くこともできるし、逆に戯画化したキャラクターも作れるんです。また、時代が変わっても少年って同じようなことを考えて同じようなことで悩んでいるので、どの年代の人が読んでも共感できる普遍的なものが書けるという思いもあります。しかも少年って多感だから、物語に巻き込まれやすいんですよ、大人よりも。

――本格ミステリ大賞を受賞していますが、道尾さんにとって理想の本格ミステリとはどのようなもので、この作品はそれにどこまで近づけたのでしょうか。

道尾:本格ミステリとは何かいまだにわからないですが、どんな起承転結を持っているのが本格ミステリなのかがモヤモヤと見えてきて、そこで一回勝負してみようと思ったのが『シャドウ』でした。当時の僕が抱いてた本格ミステリのイメージを100パーセント反映させた作品です。

■動物好きな側面が前面に出た『ソロモンの犬』

――道尾さんの小説はタイトルに動物が含まれる作品が多いですが、これは特に動物を前面に出した話になっています。

道尾:単純に動物が好きというのもあります。獣医師の野村潤一郎さんのファンで、本も全部読んでいて。また、喋れない生き物の気持ちを、ちょっとした行動から探るという動物生態学の手順が、ミステリと相性がよさそうだと思っていたので、そのアイデアを実際にやってみたかったというのもありますね。

――この作品には動物生態学者の間宮未知夫というユニークなキャラクターが出てきますが、ご自身のペンネームと同じミチオという名前を作中人物に使う基準は何ですか。

道尾:特に理由はなく、気分ですね。間宮未知夫の場合、ああいうコミカルで戯画化されたキャラクターって、ともすれば感情が離れがちで、傍観した視点で書いてしまいがちなんですが、生身の人間として見て書かないと……というのがあって、名前が同じだと感情移入しやすいというのはあるので、間宮もそんな思いで書いた覚えがあります。

■青春の終わりを描いた『ラットマン』

――『ラットマン』はタイトルが示すような心理的な錯覚トリックの集大成という趣がありますね。

道尾:「ラットマン」や「ルビンの壺」みたいな錯視図形は以前から好きなんですけど、実際にラットマンの絵を出して小説を書くのは、作家生活の中で一度しかできないですよね。だから、タイトルも『ラットマン』にして、ラットマンとは何なのかを突き詰めて、読者にもラットマンを見せていく……と徹底的にこだわりました。

――道尾さんはバンド活動もしておられますが、『ラットマン』でバンドの世界を扱ったのは、以前から書きたかったということでしょうか。

道尾:自分が深く体験したことは一度は小説に書きたいというのがあって、その中でも大きいのが音楽だったので、『ラットマン』で書かなくてもいつかは書いていたと思うんです。でも、光文社の編集さんとお酒を飲みながら打ち合わせをしていて、「青春の終わり」というテーマはどうだろうという話になったんですね。そのテーマと、もうバンドに人生捧げてる年齢じゃないよね、という虚しさや悲哀が上手く一致しそうだったので、ここで書こうと思いました。

■コミカルさが際立つ『カラスの親指』

――コン・ゲームものであり、それまでの道尾さんの小説で、最もコミカルなドタバタ劇のタッチの作品になっています。

道尾:コン・ゲームも、いつか書きたいと思っていたテーマのひとつです。詐欺を書くということは必ず被害者が存在するわけで、それをシリアスに描くより、一歩離れたところから見るかたちにするほうが楽しんでもらえる気がして、そうするとああいうフェイキーな登場人物たちになるんですね。その一方で、ただただ詐欺が繰り返されるだけでは面白くないので、物語自体にひとつの大きな仕掛けを用意したんです。展開をスピーディーに派手にして、そっちに気を取られているあいだに裏でとんでもなく大きなことが起きている、という狙いで。

――道尾さんはあまり続篇を書かない印象があったので、『カエルの小指』という続篇を書かれたのは意外でした。

道尾:書いた一番の理由は、あいつらが今どうしているか知りたい、と思ったからです。あのエンディングのあとどんな人生を送っているか知りたかったし、無性に会いたかった。作品を書いたタイミングも『カラスの親指』の刊行からちょうど10年後だったので、物語自体も10年後の話にしました。

※後編「『僕の作品は自給自足のようなもの』作家・道尾秀介さんが累計発行部数600万部突破記念スペシャルインタビューで明かした執筆の裏側」へつづく

AERA dot.の関連リンク

image beaconimage beaconimage beacon