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ミュージカルオタクが厳選!自宅で見られる極上ミュージカル映画「極上の理由」 熱く語る3本はじめ8本ピックアップ

現代ビジネス のロゴ 現代ビジネス 2022/05/03 06:00 長谷川 あや

2022年のゴールデンウィークは外出規制がなくなり、旅行や外出を楽しんだ人も多いことだろう。ただ自由に外出できなかったコロナ禍を経て、今は自宅で本当に多くのエンターテインメントを楽しむことができるようになった。

ライターの長谷川あやさんは、ミュージカルを愛し、コロナ以前は「自費研修」と称し、ミュージカルを観るために、NYや韓国などにたびたび足を運んでいた。気に入った舞台や好きな出演者の出ている作品は同じ演目を何度も見るのは当たり前。映画版のミュージカルは、歌唱のクオリティはじめ真っ先に確認するという。そこでそんな長谷川さんに「自宅で楽しめるミュージカル映画」を厳選してもらい、「極上の理由」を語っていただいた。

1)『ウエスト・サイド・ストーリー』

不朽の名作をスピルバーグ監督が

いきなりベタで恐縮だが、まずはミュージカルの金字塔ともいえる作品を、巨匠スティーブン・スピルバーグが映画化した、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)をピックアップしたい。第79回ゴールデングローブ賞では、コメディ・ミュージカル部門で、作品賞・主演女優賞・助演女優賞の最多3冠を獲得。第94回アカデミー賞では、アニータ役のアリアナ・デボーズが助演女優賞を受賞するなど、世界的なヒットを博している。

© 2022 20th Century Studios

今さら私が説明するまでもないだろうが作品の概要を少しだけ。『ウエスト・サイド物語』は、1957年9月にブロードウェイで開幕したミュージカルだ。1961年には映画版が公開され、アカデミー賞で、10部門を獲得している。この不朽の名作を、ミュージカル映画を手がけるのはこれが初めてとなる、スピルバーグが、60年ぶりにリメイクした。

物語はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」がベースとなっている。舞台を14世紀から1950年代後半に移し、イタリア・ヴェローナの2つの家の対立は、アメリカ・ニューヨークのポーランド系アメリカ人とプエルトリコ系アメリカ人との対立に置き換えた。結末も異なる。

オリジナルの映画版はもちろん、舞台版(劇団四季、円形劇場「IHIステージアラウンド東京」で行われた公演、来日版、ブロードウェイでのリバイバル)も数えきれないほど見ていて、クオリティはともかくとして、全曲、余裕で口ずさむことができる(とドヤ顔で書いてみたが、ミュージカルおたくとしては別に珍しいことでもなんでもない)。

スピルバーグ版で解消した「モヤモヤ」

いちミュージカルファンとして、日本公開を心待ちにしていたスピルバーグ版だが、一言でいえば、とても良かった。スピルバーグの、作品へのあふれんばかりの愛情とリスペクトが画面に満ち溢れていた。そんなわけで、スピルバーグ版のおすすめポイントを、マニアックになりすぎない程度に紹介したい。

まず冒頭がすばらしい。空撮でマンハッタンの街並みを鳥瞰で映し出し、街のバスケットコートへと切り替わるオリジナル版のオープニングも鮮やかだが、地面を這うような位置から、瓦礫の山をなめるように撮影した映像からスタートするスピルバーグ版も鮮烈だ。

舞台やオリジナル映画以上に、それぞれの登場人物が持つ背景や人間性が掘り下げられている点も良かった。ジェッツとシャークスが対立する理由も明確だ。私が特に魅力的に感じたのは、リフ、チノ、そして、マリアの描き方だ。

© 2022 20th Century Studios

同作は大好きだが、私は、マリアは、「ミュージカル界3大ばか女」のトップに君臨するキャラクターだと考えている(あくまでも個人の意見です。ちなみに、ミュージカルおたくの間でよく話題に挙がる「ミュージカル界3大ダメ男」に関しては、まったく賛同できない。と、聞かれてもいないが声高に叫んでみる)。が、今回は、私が常々「マリアよ、そりゃないぜ」と思っている彼女のとんでも言動のひとつが、納得できるかたちに変更されていた

1961年版でアニータを演じアカデミー賞を受賞したリタ・モレノが、オリジナル版にはなかったヴァレンティーナというキャラクターで出演しているのもうれしい驚きだった。ヴァレンティーナは、オリジナル版のドラッグストア店主ドクの未亡人という設定で(ヴァレンティーナを出すために殺されてしまったドク、あわれ!)、要するにドクとヴァレンティーナは、白人とプエルトリカンの夫婦だったわけだ。それゆえヴァレンティーナの存在は、トニーとマリアが結ばれていた、もうひとつの未来に否応にも想像させる。だからこそ、ヴァレンティーナが歌う「Somewhere(サムホエア)」がより心に響く。

最大の魅力は

舞台版ともオリジナル版とも異なる、楽曲「Cool(クール)」の位置づけ、2人だけの結婚式を挙げるクロイスターズ美術館の神々しいまでの美しさ、刑務所帰りで、かつてグラツィエラと付き合っていたというトニーの驚きの新設定、まさかのチノのダンスなど語りたいことは尽きないが、すでに予定以上に文字数を割いてしまった──のだが、最後にもうひとつだけ書き加えておきたい。

この作品の最大の魅力は、やはり音楽だと私は思う。無駄な楽曲はひとつもない。文句の付けどころがない名作だ。スピルバーグ版は、ニューヨーク・フィルハーモニックを起用(一部、ロサンゼルス・フィルハーモニックが担当)。オープニングの瓦礫の場所には、のちにニューヨーク・フィルハーモニックが本拠地としているリンカーンセンターが建つという設定になっている。同作を演奏するのに、これほどふさわしいオーケストラはほかにない。

指揮は、ベネズエラ出身のグスダーボ・ドゥダメルが担当した。ドゥダメルのラテンの血を感じさえるスケールが大きく、躍動感たっぷりの。「Mambo(マンボ)」や「America(アメリカ)」は、ミュージカルという媒体の醍醐味をまっすぐに伝えてくれる。疾走感のなかにどこか陰影を感じさせる「Tonight(トゥナイト)」もすばらしい。私は常々、プロ野球選手かプロレスラーになった暁には、登場曲は「Mambo」にしようと思ってきたが、今回、ドゥダメル版を採用すること心に決めた。

© 2022 20th Century Studios
『ウエスト・サイド・ストーリー』(c) 2022 20th Century Studios、ディズニープラス「スター」にて配信中

2)『tick, tick... BOOM!(チック、チック…ブーン!)』

© Netflix映画『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』

『RENT』を生んだカリスマの自伝的作品

ここ数年でいちばん感銘を受けた、ミュージカル映画が『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』だ。Netflixのオリジナル作品で、配信に先駆けて劇場公開もされた。

ジョナサン・ラーソン……といっても、ミュージカル好きにとってはカリスマ的存在だが、知らない人も多いと思う。ラーソンは、20世紀末のニューヨークを舞台に、社会的現象ともなるヒットを巻き起こした伝説のミュージカル『RENT(レント)』を作り上げ、そのプレビュー公演の前夜に35歳の若さで急死している。同作は、そのラーソンが、『RENT』の数年前に発表した作品だ。主人公は、30歳の誕生日を間近に控えるラーソンその人。20代のうちにミュージカル界で成功するという目標まで、もう時間は残されていない──。焦る彼の頭のなかで、チクタクと鳴る時計の秒針の音が、作品のタイトルになっている。

これを、今やブロードウェイの寵児、リン=マニュエル・ミランダが監督したのが同作だ。ミランダは、長編監督デビュー作に、彼が高校時代に観て、ミュージカルの世界へと進むきっかけとなった、『RENT』を生み出したラーソンの自伝的作品を選んだ。『tick, tick... BOOM!』は、オフ・ブロードウェイで、そして、日本版も観ている(山本耕史が主演していた)が、私がもっともグッときたのは、このミランダ版だった。

ミランダについても簡単に紹介しておきたい。映画化もされた『イン・ザ・ハイツ』、トニー賞11部門受賞のミュージカル『ハミルトン』の主演・監督・脚本を手がけた、21世紀のブロードウェイを代表するクリエイターであり、俳優だ(本作にも、ダイナーのコック役で出演も果たしている!)。ここ最近はアニメ映画でも活躍中で、『ビーボ』(2021年)、『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)の作曲と脚本を務めた。実写版『リトル・マーメイド』(2023年公開予定)では音楽を担当する。

© 2017年のトニー賞を総なめしたミュージカル『ハミルトン』はオバマ大統領時代にホワイトハウスに呼ばれてキャストが歌を披露したことも。リン=マニュエル・ミランダは当時のオバマ大統領の左でホストをした P...

1991年、ラーソンはロックモノローグとして本作を上演。プロデューサーのヴィクトリア・リーコックが脚本家のデイヴィッド・オーバーンに依頼し、出演者3人の構成に仕立て直し、オフ・ブロードウェイで上演したのは2001年、ラーソンの死後である。

「ミュージカルの舞台を映画化」の利点

映画版は、この3人芝居版をベースとしながら、大胆な脚色が加えられ、29歳のラーソンの心情により焦点を当てた作りとなっていて、『RENT』の前日譚としても楽しめる。「ミュージカルの舞台を映画化する」ことの利点も随所に生かされていて、「さすがリン!」とうなった。楽曲への入り方もごく自然で、「ミュージカルって突然歌いだすんでしょ? ヘン!」という人も、違和感なく楽しめると思う。主人公ジョナサン・ラーソンを演じ、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、アンドリュー・ガーフィールドもとても良い。

ラーソンと、2021年11月に亡くなった、スティーヴン・ソンドハイムの関係も印象的に描かれている。ソンドハイムが27歳で『ウエスト・サイド物語』の作詞を担当したという事実はラーソンが30歳までに成功したいという目標を抱いた大きな理由のひとつであり、同時に、大学時代にソンドハイムに才能を認められたことを心の支えにしている。物語の終盤で、ラーソンがソンドハイムからのボイスメッセージを受け取るシーンは、実際にソンドハイムがせりふを書き、声を吹き込んだ、というエピソードにもぐっとくる。

夢を追っている人、夢を諦めたくない人はもちろん、かつて夢を追ったことのある人の胸にも刺さる作品だと思う。

ちなみにミュージカルおたく的に、見逃せないのが、劇中歌「Sunday(サンデイ)」だ。ミュージカル界のレジェンドであるチタ・リヴェラをはじめ、さまざまなブロードウェイスターたちがカメオ出演を果たしている(『RENT』の初演キャストも登場している……!)。間違いなく、ミランダだからこそ撮れたシーンだと思う。そして、このシーンを観た後は、全然おいしくないダイナーのブランチが食べたくてたまらなくなるのだ。

© Netflix映画『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』
Netflix映画『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』独占配信中

3)『魔法にかけられて』

© 『魔法にかけられて』(c)2022 Disney

ミュージカルファンに評価が高い理由

夢と魔法の世界に住む住人たちが、現在のニューヨークに迷い込んだ、という設定のディズニー映画(2007年、日本公開は2008年)が『魔法にかけられて』だ。日本ではあまり話題にならなかったが、ミュージカル好きのあいだでは評価の高い作品で、少し前に続編『Disenchanted』が2022年に配信されることが発表された時は狂喜乱舞した。ディズニー映画でおなじみの「末永く幸せに暮らしました」の、その後には、いったいどんな世界が広がっているのだろうか。

ある意味、ディズニーのアニメーション映画のセルフパロディともいえるファンタジー映画だ。魔女に騙され、おとぎの国から現代の大都会ニューヨークへと追いやられた、プリンセス・ジゼルが歌を歌って街のねずみや鳩を呼び寄せて部屋を掃除してもらうシーンや、セントラルパークで突然歌いだし、現代人のロバートに、「歌はいいから!」と制止されるシーンなど、おとぎの世界の住人たちと現代のニューヨーカーとのギャップが楽しい。

ディズニー映画へのオマージュも随所に散りばめられていて、観るたびに新しい発見がある。ジゼルを追いかけて、現在のニューヨークにやってきた王子がテレビのことを「魔法の鏡」と認識したり(『白雪姫』)、公園には、鳩に餌を売る老女がいたり(『メリー・ポピンズ』)する。ジゼルとロバートが、ボートに向かい合って座り見つけ合う場面は、『リトル・マーメイド』を意識して作られたシーンだろう。ロバートの弁護士事務所内の看板にある「チャーチル、ハーライン&スミス」は『白雪姫』の3人の作曲家(フランク・チャーチル、リー・ハーライン、ポール・J・スミス)の名前を組み合わせたものだと思われる。隠れミッキーも仕込まれている。

楽曲を担当したのは、アラン・メンケン(『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』)。ロバートの恋人、ナンシーは、『アナと雪の女王』のオリジナル版で、エルサの声と歌を担当したイディナ・メンゼルが演じている(トニー賞主演女優賞を獲得している彼女が同作では一切歌わないのは残念だが……(笑))。さらには、ジュリー・アンドリュース(『サウンド・オブ・ミュージック』)がナレーションを務めているという豪華さで、ミュージカル好きにとってはどこもかしこも見どころだらけなわけだが、おたくでなくても存分に楽しめる作品だと思う。結末は観る前からわかっている。それでも心が温もる。

© 『魔法にかけられて』(c) 2022 Disney
『魔法にかけられて』(c) 2022 Disney、ディズニープラスにて配信中

まだまだある「自宅で楽しめるミュージカル」

自宅で観ることができるミュージカル映画はまだまだたくさんある。秀作揃いのディズニーアニメーションのなかでも、私のいちばんお勧めは、『ノートルダムの鐘』だ。ディズニー版は、文豪ヴィクトル・ユゴーの原作の悲しい結末を、ディズニーらしくハッピーエンド(といっていいと思う)に変更しているが、主人公とヒロインが結ばれないという点で、これまでのディズニー作品とは一線を画す(ちなみに、舞台版は、ユゴーの原作に沿っている)。アニメーションながら(だからこそ?)、荘厳な世界観がとてもよく、何度見ても心を揺さぶられる。数々の名曲を生み出してきたメロディメーカー、アラン・メンケンの楽曲もすばらしい。

ABBAの楽曲で構成される『マンマ・ミーア!』は、思わず歌いだしたくなるようなご機嫌な作品だ。同作の興行的成功は、既存の楽曲を使ったジュークボックス・ミュージカルが次々と生み出されるきっかけとなった。

© ブロードウェイでもロングランしていたミュージカル『マンマ・ミーア!』 Photo by Getty Image

ポジティブな気持ちになりたい時には、ジョン・ウォーターズ監督による1988年公開の青春映画をもとにしたブロードウェイミュージカルを、ジョン・トラボルタ、クリストファー・ウォーケンら豪華キャストで映画化した『ヘアスプレー』をお勧めしたい。同録撮影にこだわった『レ・ミゼラブル』も押さえておきたいところだ。ミュージカル映画の撮影は、撮影前に歌を収録し、撮影時は口パク、という手法が主体となっているが、同作では歌も撮影の際にライブ録音され、それに後日、オーケストラ伴奏を付けたものが本編でも使用されている。周防正行監督による『舞妓はレディ』は舞妓を目指す少女の奮闘を、数々のオリジナルソングで綴るミュージカル仕立ての佳作だ。

まだまだ紹介したい、そして語りたい作品は山ほどあるのだが、キリがないのでこのへんで勘弁しておこう。それにしても自宅で、これほどたくさんの作品が楽しめるなんて、いい時代になったものだ。今回は映画に限定して紹介したが、ここ数年、上演された舞台を撮影し映像化したものが配信されることも増えている。非常にうれしいのだが、おかげで仕事をしているヒマがない(笑)。

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