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『100日間生きたワニ』監督夫妻が語る「声優」を起用しない理由

NEWSポストセブン のロゴ NEWSポストセブン 2021/07/22 07:05
コロナ禍の今、この映画で伝えたいこととは?共同監督を務めた上田慎一郎さんとふくだみゆきさん夫妻 © NEWSポストセブン 提供 コロナ禍の今、この映画で伝えたいこととは?共同監督を務めた上田慎一郎さんとふくだみゆきさん夫妻

 最終話がTwitterで国内歴代最多数の「いいね」を記録した大ヒット漫画『100日後に死ぬワニ』。そのアニメーション映画『100日間生きたワニ』が7月9日より公開中だ。監督・脚本を手掛けたのは、『カメラを止めるな!』の監督・上田慎一郎さん(37才)と、同じく映画監督・アニメーターとしても活躍する妻のふくだみゆき(33才)さん。映画版オリジナルのストーリーやキャラクターが登場する本作は、神木隆之介さん(28才)や中村倫也さん(34才)など豪華キャスト陣も多数出演している。彼らを起用した理由などについて2人に詳しく聞いた。

 映画『100日間生きたワニ』には、原作にはないオリジナルキャラクターのカエルが登場する。考案する際には、原作者のきくちゆうきさん(35才)も参加したという。

ふくだ「新キャラクター考案の際、まずはきくちさんも交えて打ち合わせを行い、ディスカッションをして、アイディアも出していただきました。おかげで一回の打ち合わせでどんなキャラクターにするかという方向性がほぼほぼ決まりました」

 カエルは俳優の山田裕貴さん(30才)が演じた。カエルにした理由について上田さんは、「あまり言わないほうが良いのかな」と明言を避けつつも、「一つ言うなら、やっぱり梅雨とともにやってくる、というところがミソですかね」と話す。

 さらに、ワニ役には神木隆之介さん、ネズミ役は中村倫也さん、ワニが恋するセンパイ役に新木優子さん(27才)とキャストも豪華な本作。モグラ役の木村昴さん(31才)以外、メインキャラクターは声優ではなく役者を多く起用しているのが特徴だ。その理由は、原作の語り口を生かしたいという2人の強い思いがあった。

上田「ぼくらの中で、邦画のようなアニメを作ろうというコンセプトがあったんです。だから当初から、基本的には声優ではなく、役者を起用するべきだなという方向性を持っていました」

ふくだ「もともと原作が多くを語らない、独特の間合いを持つセリフが特徴的なんです。だから、セリフを映像の中へ持ってきた時に、その空気感を損いたくなくて。通常のアニメは割と会話がポンポンと展開して、物語が進んでいくものだと思うのですが、本作はそうではなく、その時の空気感や余韻を感じられる“間”を通常のアニメよりたっぷり取っています。

 なので、役者にもいわゆるアニメを意識した演技ではなく、実写と近い形で演じてもらおうと当初から思っていました。具体的には、はっきりセリフを言うというより、普通に喋っているような空気感の中で演じて欲しいとお伝えしました。出来る限り作られたものではない、キャラクター同士の空気感を大事にしたかったんです」

 依然、新型コロナウイルスの影響が続いている中での公開となった本作。このタイミングでの公開に、どんな意味を込めたのだろうか。

上田「ワニ役の神木隆之介くんと一緒に取材を受けていた時に、いいなと思った言葉をパクります(笑い)。神木くんはこの映画を観て、『立ち止まって良いんだって思えた』と言ってくれたんです。

 問題に直面した時、『前に進め』、『立ち止まんなよ』っていう言葉がよく言われるじゃないですか。でも実は、立ち止まる方が勇気がいることもあるんですよね。立ち止まらず、日々流れるように過ごしている方が楽なんだけれど、あえて立ち止まって向き合うことが大切な時もある。神木くんの言葉にはそんな意味が込められていると思ったし、ぼくも同感。コロナ禍で厳しい状況に置かれている方が、この映画を観て『少し立ち止まっても良いんだ』と思ってもらえるきっかけになれば良いなと思います」

ふくだ「この作品は、ワニくんやネズミくんといった動物キャラクターが登場人物なので、一見すごくファンタジーに見えると思うのですが、実は私たちの生活に地続きの話を描いています。ワニくんたちの世界と私たちの世界を重ねやすく、そしてできるだけ“余白”を意識して作っているので、観る方ご自身の経験によって、観終わった時の感触がかなり違う映画なんじゃないかなと思います。

 みなさんがどんな風に受け取ってくださるかはまだ分からないですが、観終わった後に『私はこう受け取った』、『私はこうだった』と、家族や友達と話してもらえたら嬉しいですね」

 最後に、今後も夫妻で共同監督をする予定はあるのか聞いてみた。

ふくだ「今のところ予定はないですが、私はやりたいなとは思いますね。上田さんはどうですか?(笑い)」

上田「そうですね……やりたいなとは思いますかね!(笑い)」

ふくだ「今回はアニメだったから、お互いの役割のバランスがすごく良かったところはありますね。実写で一緒にやってみたいという気持ちもあるのですが、多分実写になると上田のパワーが強くなりそうだから、そこは難しいと思ったりもするかな」

上田「はい(笑い)。そういうお話があったら嬉しいけれど、今はもう少しこの作品を届けてからかな。まだそこまで思い至ってないですね」

 一大ムーブメントとなった原作を、豪華なキャストに加え、音楽は亀田誠治さん、主題歌にいきものがかりを迎えて映画化した本作。それゆえに、原作を追いかけてきた人の中には、座組みに驚いた人も多いかもしれない。しかし、作品の中で描かれているものは、誰にとっても身近で、それゆえに切実なもの。上田・ふくだ両監督の手腕により、滋味深い“邦画”として仕上がっている。

【プロフィール】

上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)/1984年生まれ。滋賀県出身。中学時代に自主映画の制作をスタート。2009年に映画製作団体PANPOKOPINAを結成し、2015年にオムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』(2018年)が口コミを中心に爆発的な評判を呼び、当初2館の公開スタートから最終的に動員数220万人を突破。社会現象とも言える大ヒットとなった。

ふくだみゆき/1987年生まれ。群馬県出身。2013年に初の監督作となる短編実写映画『マシュマロ×ぺいん』を製作、国内で複数の映画賞を受賞。2015年制作のアニメーション映画『こんぷれっくす×コンプレックス』は、毎日映画コンクールアニメーション賞を受賞。歴史ある同コンクールで、自主制作アニメーション作品として初の受賞を果たし注目を集める。

◆取材・文/阿部洋子

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