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マスク「大量買い占め」騒動 ネット転売は本当に「消費者のため」になるのか?

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2020/02/09 11:30 西田 宗千佳

 新型肺炎対策のため、マスクやアルコール系除菌剤を探している人も多いはず。店頭では売り切れも続いており、なかなか入手できない。

 一方で、「ヤフオク!」や「メルカリ」には、マスクの大量出品が続いている。

 こうしたフリーマーケット型サービスは、不要品の処分や手に入りづらいものの入手にはプラスであり、日常的に使っている人も多いはず。だが一方で「転売」という行為の温床にもなっている。

 果たして「転売」は世の中にプラスなのか? 現在のテクノロジーをベースに考えてみよう。

ネットでは大量のマスクが転売され、社会問題化している © 文春オンライン ネットでは大量のマスクが転売され、社会問題化している

「出品停止」に向けた取り組みも

 2月4日、メルカリは「マスクの取引に関するご協力のお願い」というリリースを出した。理由は、行き過ぎたマスクの転売行為に対する警告が目的だ。

 同様に、2月5日にはヤフオク!が、2月6日には楽天参加の「ラクマ」が、マスクの出品について配慮を呼びかけるリリースを出している。ヤフオク!の場合には、マスクに加え、除菌関連製品についても警告している。

 メルカリ広報は、「現在、マスクは出品禁止物にはあたらないが、不適切な取引とみなされた場合には削除対応をすることがある」と説明する。ヤフーも同様だ。「現時点において販売禁止等の措置は講じていないが、引き続き状況を注視しながら必要な措置を講じていく」(ヤフー広報)という。

 とはいえ現状も、マスクなどの転売行為は続いている。余ったものを他の人に分ける、的なものだけならともかく、明確に「高額転売」と思えるものも存在する。

 事業者の側としても、転売行為を簡単に止めづらい事情がある。なぜなら、出品禁止とする理由をガイドラインで定め、ユーザーに周知する必要があるからだ。

 2月7日夕方、ヤフーは、出品についてのガイドライン変更を発表した。出品を禁止できるものについてのガイドラインに、「災害などの緊急事態において、供給不足により人の身体・生命に影響がある物品を不当な利益を得る目的で入手し、出品していると当社が判断する出品」という条項を追加したのだ。

 これにより、今後状況が悪化した場合にも、この条項をもって出品停止措置を行いやすくなる。これは、ヤフー広報のいう「必要な措置」のための一手だ。

ネットワーク化で転売が大規模に

 筆者は、「事態が収束するまでマスクなどの出品を禁止すべき」だと考えている。そして、そのことを強くアピールすべきだ。なぜなら、出品可能であることが、市場に必要以上の負担をかけているからだ。

 マスクには、新型肺炎対策以外にも多数のニーズがある。今後本格化する花粉症の季節に向けて不安を感じている人もいるだろう。また、防塵などを目的とした業務用マスクが新型肺炎対策で購入されてしまい、工事などで必要としている人々が困っている、という話もある。

 各メーカーは安定供給に努力しているが、それでも一定の時間はかかる。その間、転売目的で市場に滞留するのでなく、ちゃんと「必要な人に行き渡る」状態であることが望ましい。

 これに限らず、昨今は「転売」が問題になりがちだ。

 デジタルガジェットに限らず、ヒット商品が出るとそれらは転売対象となる。チケットなどは、2019年6月に「チケット不正転売禁止法」が施行され、興行主などの同意を得ない転売行為が禁止されている。

 こうした転売行為は、すべてが否定できるものでもない。事情があって使えない・行けないことになり、他人に譲りたい……というニーズは確かに存在する。また買う側にも、「多少高くなってもどうしても欲しい、行きたい」というニーズは明確にある。オークション・フリーマーケット型の個人流通がそうしたニーズも満たしているのは事実である。

 不要なものを捨てるのでなく、必要としている人に渡すことも否定されるべきではない。チケットについては「公式リセールサービス」が用意されることが増えている。今回の東京オリンピックについても、公式リセールサービスでの流通が予定されている。

 一方で、過去とは違い、現在の状況においては、「転売が社会の潤滑油」である、と言いづらい状況が生まれているのも事実だ。

 理由は「ネットワークサービス」になったことによる、大規模化とカジュアル化だ。

 スマホアプリ1つでいつでも売れるのは便利なものだが、気軽に転売できる市場が拡大したことで、転売のために回る商品の数が増えすぎた。また、出品する人々は個人だけではない。従来から転売やダフ行為に手を染めてきた人々も、より大規模な転売を簡単に行えるようになった。結果として、「個人によるカジュアルな転売」と「組織的な大規模な転売」の両方が活性化されてしまったのだ。

「買い占め専用ソフト」も暗躍

 人気商品やチケットの販売現場では、転売目的の業者が人を雇い、並ばせて購入する例がある。過去からあることだが、現在はそれが国際化し、まだ商品が販売されていない地域やよりニーズのある地域での転売を目的とする業者が暗躍している。

 特に中国市場向けが目立つ。店舗などでは、毎回こうした転売行為対策に、相当の労力を割いている。行列による周辺地域への影響もあり、警備や整理にかかる人的コストもバカにならない。

 オンラインショッピングの場合にはもっと深刻だ。現在は転売のために「ソフト」を使う例が増えている。人がいちいちアクセスするのではなく、ソフトウエアで機械的にアクセスすることで、人よりも有利に、一斉に注文することも不可能ではないからだ。

 過去、電話を使ったチケット販売などでも、電話の自動ダイヤル機能を大規模に使った転売目的の買い占めが起きたことがある。だが、現在のソフトを使った機械的な買い占め行為は、より大規模かつ簡単に行えてしまう。

 2018年8月、不正アクセス防止技術を提供しているアカマイ・テクノロジーズは、同社の技術をチケット販売サイト運営会社・イープラスに導入した結果を公表した。

 驚くべきことに、その際の調査では、あるチケットの先行販売の際、発売開始から30分の間、購入のためのアクセスの9割以上が、買い占め目的のソフトウエアによるものだったという。これは極端な例である可能性はあるが、いかに「機械的な買い占め行為」が高速で破壊的であるかを示すもの、と言える。

 こうした行為は、単に「買いたい人が買えない」だけに留まらない。販売サービスに対し、本来よりもはるかに多いアクセス集中を招く結果となり、サービス停止の原因となり得る。

「必要悪」では済まない規模に

 大手Eコマースサイトやチケット販売サービスは、発売開始時のアクセス集中に対応するため、様々なコストをかけている。それは結果的に、販売手数料として消費者の負担に跳ね返ってくる。

「転売があっても、メーカーやチケットの売主、販売店は売れるのだから喜んでいるのでは」

 そんな声を聞くこともあるが、筆者が知る限り、本当に転売を喜んでいる企業は聞いたことがない。無駄な負担や欠品に伴う販売計画の不安定さにつながるため、人気商品を扱う企業ほど、本音として「勘弁してほしい」と思っているのだ。

 転売やダフ行為で利益を得る人々がいる一方で、その規模拡大は、流通やサービス運営側に大きな影響を与える。小規模ならば「必要悪」で済んでいたかもしれないが、大規模の経済の中では、その影響が、転売を行っている人々の想定を超えて大きなものとなっているのだ。

「買えない」という状況は、ただでさえ摩擦を生み出す。転売によってその摩擦を大きくすることは、誰のためにもならない。

(西田 宗千佳/週刊文春デジタル)

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