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低迷の「いきなり!ステーキ」、社長が語った悔恨 いつしか顧客より利益優先に、「原点回帰」狙う

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2021/05/12 08:30 中尾 謙介
「崖っぷち」の状況から反転攻勢をかけ、4期ぶりの最終黒字を確保できるのか(記者撮影) © 東洋経済オンライン 「崖っぷち」の状況から反転攻勢をかけ、4期ぶりの最終黒字を確保できるのか(記者撮影)

長いトンネルを抜け出せる日は来るのかーー。

「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービス。2020年12月期の売上高は310億円(前期675億円)、営業赤字は40億円(前期0.7億円の赤字)、さらに最終赤字は39億円(前期27億円の赤字)と、非常に苦しい結果となった(2020年12月期は非連結決算、前期は連結決算の数値を記載)。

不調の原因はいくつもある。過剰出店により同じ商圏で顧客を取り合う「自社競合」状態に陥り、店舗の収益性が悪化。相次ぐ値上げで顧客離れも招いた。これに新型コロナも直撃し、既存店売上高は2021年3月まで36カ月連続で減少した。2020年には債務超過に転落し、最盛期は国内に約500店舗あったいきなり!ステーキが、今年3月時点で257店に半減している。

まさしく「崖っぷち」に立たされた同社は、2020年12月期にあらゆる手を打った。社員183人の希望退職を実施し、比較的収益性が高かった「ペッパーランチ」事業を投資ファンドJーSTARに約85億円で売却。さらにアドバンテッジパートナーズ系列のファンドを割当先として、行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)を発行し、12月末にはなんとか債務超過を解消した。

大底を抜けたとはいえ、予断を許さない経営環境だ。これまでの反省を生かしどのような反転攻勢に出るのか。ペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長を直撃した。

高単価ステーキの「大幅値下げ」で勝負

 ――長らくメディアに出られませんでしたね。

 感染症対策というのが大きいが、(ペッパーランチ事業の売却や債務超過など)いろいろあったから、あまり出たくない時期もあった(笑)。今はいきなり!ステーキの既存店売上高の数値も上向いてきたし、いいタイミングで来てくれたよ。

 ――いきなり!ステーキの既存店売上高は、2月に昨年同月比71.5%、3月に同86.9%と、苦戦は続きますが回復歩調にあります。店舗閉鎖による自社競合の解消が大きいとは思いますが、今後の既存店回復のためのトピックはありますか。

 足元ではステーキメニューの大幅値下げが重点施策だ。3月22日から10店舗限定で高単価な「リブロースステーキ」「サーロインステーキ」「ヒレステーキ」を大幅に値下げした。

 社内ではこれを「ビビット作戦」と呼んでいる。ある従業員の「大幅値下げをしたらお客さんはビビッと来るだろう」という発言が由来だ。英語の「vivid(鮮やかな)」もポジティブな意味だし、気に入っているよ。

 ――値下げすると、原価率が高くなり粗利率が悪化しませんか。

 「率」でいうとそうだが、粗利の「額」は値下げによってむしろ上がった。例えば、800円で原価率50%の商品の場合、粗利額は400円。一方、2000円のステーキが原価率60%の場合、粗利額は800円であり、こちらのほうが大きい。

 これまでは、「ワイルドステーキ」を筆頭に低価格商品ばかりが売れる傾向にあったが、(リブロースやサーロインなどの)ロイン系ステーキの大幅値下げに踏み切ったことで、低価格商品を注文していた顧客の一部が高単価なメニューに流れた。これによってまず「客単価」が上がった。

 また値下げによって、かつていきなり!ステーキのヘビーユーザーだった顧客も戻ってきてくれ、「客数」も増えた。値下げで客単価・客数ともに増やし、粗利額も大きくする。これが「ビビット作戦」の狙いだ。

 ――今後はどうしますか。

 10店舗での値下げ実験が好評だったので、4月10日以降は対象店舗数を35店にまで増やした。ロードサイドやフードコートなどいろんな立地で実験しており、手応え次第で(一斉値下げに)舵を切るか見極めたい。

 (値下げによって得られた)いい流れを止めたくないし、期限を定めて全店導入することも視野には入れている。

批判された「肉マイレージ」の見直しも検討

 ――国内家具大手ニトリホールディングスが、「ニトリダイニング みんなのグリル」というレストラン業態の実験を開始しました。看板メニューのチキンステーキは税込500円と破格です。

 ニトリさんは、うちの直接的なライバルにはならない、むしろ「ステーキガスト」みたいな(低価格かつファミレス型の)肉業態の競合になるのではないか。

 うちの強みは、ファミレスのような「居心地のよさ」を追求しない代わりに、高品質な牛肉を厚切りで、それも思い切った値段で提供するという点だ。こうした「いきなりらしさ」が存分に発揮されていた「原点」に立ち返ることが大切だと改めて気づかされた。

 原点回帰という意味では、顧客からたくさん批判をいただいた「肉マイレージ」(食べた肉の量に応じてメリットが受けられる会員制度)に関しても、会員のランクが下がらないようにするとか、還元策をよりよいものにするとか、さまざま検討している。

 ――原点はよかったにもかかわらず、どうしてその原点を見失い経営が傾いていったのでしょうか。

 敗因を分析すると、「過剰出店」と「顧客優先から利益優先になったこと」が大きい。出店数については、「イケイケどんどん」で出しすぎた。2018年は年間200店強のペースで、1日5店舗出した日もあった。

 当時は、新店を出せば1日100万円の売り上げがあった。だからこそ、業者は物件をどんどん斡旋してくれたし、銀行融資も存分に受けられた。今なら絶対に出さないようなエリアにも出したが、案の定、そういう店からすぐダメになった。ぜいたくな話だが、あのとき、私を止めてくれる人がいればよかったなと、今になって思う。

 顧客離れが起きたことによって、採算改善のためにどんどん値上げをした。1グラム1円の値上げでも、300グラムなら300円になる。こんなこと、他チェーンでやっているところはないだろう(笑)。値上げしたらさらに客足は遠のき、利益のためにまた値上げするという悪循環に陥った。

 ――2020年12月期の純損失は39億円。3期連続の最終赤字と、経営的にはかなり追い込まれました。

 株価もどんどん下がって、時価総額も減って。資金繰りも一気に厳しくなった。大切にしていた社員の希望退職にも踏み切った。雇用を守りたかったが、決行しなければこの会社はもたなかった。社名にもなっているペッパーランチ事業も売却することになった。もし売却していなかったから、今こうしていられない。

ペッパーランチは「よく85億円で売れたなと」

 ――ほかに選択肢がなかったということでしょうか。

 そう。いきなり!ステーキの買い手を探したことはなかったけれど、(当時の状態では)買ってくれる人がいなかっただろうし、売りようがなかった。幸いにしてペッパーランチがほしいというファンドは現れたし、とにかく時間がなかった。

 早くしなければ、銀行に(返済などで)もっと厳しい対応をされていただろう。にしても、ペッパーランチはよく85億円で売れたなと思うね。

 ――ペッパーランチはJ-STAR社に売却しましたが、MSワラントの割当先には、アドバンテッジパートナーズ系列の別ファンドを選びました。

 役割分担上、私は会議に参加していないし自らの意思で選んだということではないが、(当時)お声がけをいただき本当に恵まれているなと思った。もちろんインサイダーに抵触するので、ワラントによる資金援助をしていただいているだけで経営指導や口出しなどの介入は一切ない。

 ――債務超過はかろうじて解消されましたが、本業では赤字が続き、MSワラントの行使でキャッシュの注入が行われている不健全な状況です。足元では緊急事態宣言の影響もくすぶりますが、4期ぶりの純利益計上という計画は達成できますか。

 感染拡大やワクチン接種の状況次第で今後も営業自粛要請などが繰り返される恐れもあるが、予算達成はできるように最善を尽くす。コロナで店舗の業績回復に時間を要しているが、(大幅値下げなど)現在行っている取り組みがコロナ収束後の業績回復要因になると考えている。

 ――反転攻勢の策として、キッチンカービジネスにも注力しています。

 キッチンカーだと初期投資が400万~500万円で済むし、その後の家賃もかからない。大型商業施設などで実験的にキッチンカーを出したときには、日商平日7万円、土日は15万円程度の実績だった。老人ホームからお声がけいただいたときには1日に約50人前が売れた。

 キッチンカーをやるうえで課題になるのが調理場の狭さだが、うちには全国にいきなり!ステーキの店舗がある。そこをサテライト拠点にすれば、フランチャイズで展開もできるのではないかと思っている。

「から揚げ業態」3カ月で撤退の理由

 ――キッチンカーのフランチャイズは聞いたことがありません。課題はないのでしょうか。

 キッチンカーを個人でやるうえでのハードルは「何を」「どこで」やるのかという点だ。この点、いきなり!ステーキの知名度は高いので、「何を」の部分はクリアされている。あとは、どこでやるのかが目先の課題。だからこそ、さまざまな出店パターンを見極めているところだ。

 例えば、ランチで5万~10万円売ったあと、タワーマンションの下で夕飯時を狙うとか、いろいろなことを考えている。キッチンカーを展開する場所とFCオーナーの教育、そして車を提供することができれば、FC展開も簡単にできるのではないか。

 ――いきなり!ステーキ事業では新施策が動き始めた一方、新業態として2021年1月に投入したから揚げ業態「からあげ くに」はたった3カ月で閉めました。

 美味しいから売れると思ったが、やはりから揚げ市場はレッドオーシャンだった。敗因を挙げるなら、商品に「いきなりらしさ」がなかったこと。目新しいことはどんどん行っていきたいけれど、ひとまずは選択と集中。原点回帰を意識すれば、いきなり!ステーキは必ず復活するよ。

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