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宮内義彦氏の菅政権への提言 「BI検討を」「法人税下げる必要ない」

マネーポストWEB のロゴ マネーポストWEB 2021/01/12 07:00
菅政権の政策を宮内義彦氏はどう評価しているか(時事通信フォト) © マネーポストWEB 提供 菅政権の政策を宮内義彦氏はどう評価しているか(時事通信フォト)

 2021年、企業の在り方も個人の生き方も大きな変革が求められるなか、日本はどこへ進むべきなのか──。総務副大臣時代の菅義偉氏とともに規制緩和に取り組み、総合規制改革会議議長も務めた宮内義彦氏(85)は、総理の椅子に登り詰めた菅首相の舵取りをどう見ているのか。

「Go To」で景気は上がらない

──現在、日本経済は新型コロナウイルスというかつてない危機に直面しています。政権発足から4か月たったいま、菅義偉・首相の手腕をどう評価する?

宮内:菅さんとは、彼が総務副大臣だった2005年頃からの細く長い付き合いです。当時、菅さんは小泉政権下で竹中平蔵・総務相とともに、郵政民営化やIT改革など数々の規制改革を推し進めていたので、私と顔を合わせることが多かった。

 菅さんを一言で評すると「各論に強い勉強家」だと思います。それは安倍(晋三)前首相のマクロ観と比べても際立っている。十分な知識と突破力があるので、政策を具体的に実行する能力は高い。規制改革も着実に実現してくれるのではないかと期待しています。

──「Go Toキャンペーン」の一時停止をめぐる経緯など、コロナ対策で菅政権の支持率は大きく下落しました。

宮内:率直に言わせてもらえばコロナ禍における経済政策、とくに「Go Toキャンペーン」はとても難しい政策と見ていましたね。心理的に感染拡大を助長しかねないだけではなく、景気浮揚策としては不十分だとも感じていました。

「Go Toトラベル」にしろ、「Go Toイート」にしろ、「支払いの何割かを国が負担する代わりに国民に積極的な消費活動をしてほしい」という、言わば「消費者頼み」の発想です。これでは危機に瀕している事業者にとっては焼け石に水です。消費者への需要喚起も限定的だと言わざるを得ません。キャンペーンが終了してしまえば、消費者は割高感を覚えて消費しなくなるでしょう。

 今まさに国が行なうべきは、人の移動を最大限制限する代わりに広範な補償を行ない、企業と社員の雇用と所得を守ることです。莫大な費用が必要にはなりますが、そこまでしなければこの難局は乗り越えられない。

──「Go To」は愚策ということ?

宮内:「Go Toキャンペーン」は、そもそもの発想が飲食業界、観光業界という「供給側」の視点に立ちすぎている。本来であれば消費者側の視点に立って、もっと「需要」を喚起していかなければならない。自分たちの仕事がなくなるかもしれないというときに、旅行や食事が割引きになると言っても需要喚起の効果は限定的になってしまいます。

今、法人税を下げる必要はない

──具体的にどうするべき?

宮内:昨年春に「特別定額給付金」として全国民に一律10万円を給付したことは評価しています。「貯金に回っただけ」との批判もあるが、もしそうだとすれば「一度しかもらえない」と考えてしまうからです。来月も支給されるとなればもっと消費に回る。日本は今後、需要を上げていくためにも、毎月、政府が全国民に無条件で一定額を支給するベーシックインカム(以下、BI)の制度を取り入れてみるべきだと思います。

──BIを導入すれば年金や健康保険制度の廃止につながるという指摘もある。

宮内:もちろん社会保障をすべてBIに置き換えるのは乱暴な話でしょう。しかしひとつひとつ丁寧に検証していけば現状の制度で必要なものは残していけるはず。

 少し前、竹中平蔵さんがBIを提言して批判も浴びましたが、こういった議論は「オール・オア・ナッシング」では駄目なのです。海外では試験的にBIが導入され、一定の効果をあげている国もある。十分に検討に値するテーマです。

──他に菅政権に求めることは?

宮内:政府は平成30年間の経済政策の全面的見直しを行なうべきです。先ほど申し上げたように、需要を上げていくことしか道は残されていない。

 たとえばマイナス金利を見直す。企業が投資のためにカネを調達しやすくするのがマイナス金利の狙いでしょうが、そもそも企業に新規投資の意欲がないのだから意味はない。現在、個人金融資産は1900兆円あると言われますが、1%の預金金利で19兆円、3%なら57兆円の金利が発生します。もちろん連動して住宅ローンの金利なども上がりますが、それらを差し引きしても個人所得は増えると見ています。当然、需要は上がるでしょう。マイナス金利は窮余の策としか言いようがない。

 法人税を今下げる必要もない。企業が利益を投資に回さず内部留保として貯め込んでいるのに、さらに法人税を下げても新規投資には回らないですから。先に言ったように、「供給側」の視点に立った経済政策はほとんど上手くいっていないのです。

 一昨年、10%にアップした消費税も30年前の発想です。ヨーロッパでは消費増税の結果、低所得層の負担が増し、貧富の格差が拡大した。今頃それに倣って消費税を上げるのは違うのではないか。

 菅政権にお願いしたいことは山ほどあります。コロナを奇貨として、日本はこれから大きく変わっていくべきですね。菅さんにはそれを先導し日本を活力ある社会にしていただきたい。

【プロフィール】

宮内義彦(みやうち・よしひこ)/1935年神戸市生まれ。1960年に米ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。1964年オリエント・リース(現オリックス)入社。1980年代表取締役社長・グループCEO(最高経営責任者)、2000年代表取締役会長・グループCEO。2014年から現職。政府の総合規制改革会議議長や経済同友会副代表幹事なども務めた。

【聞き手】

河野圭祐(かわの・けいすけ)/1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。

※週刊ポスト2020年1月15・22日号

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