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新聞販売店の苦境 折り込み広告モデルの未来はあるのか

NEWSポストセブン のロゴ NEWSポストセブン 2020/06/21 07:05
苦境に立たされている新聞販売店(時事通信フォト) © NEWSポストセブン 提供 苦境に立たされている新聞販売店(時事通信フォト)

 一般紙とスポーツ紙をあわせた日本の新聞の総発行部数は2019年時点で3781万部。2000年の5370万部と比べると、凄まじい勢いで減少していることが分かる(日本新聞協会調べ)。同様に、新聞社の商売に欠かせない新聞販売所の従業員数も2001年には46万4千人だったのが、2019年には27万人となっており、部数以上の割合で激減している。従来のビジネスモデルが崩壊しつつある新聞業界で、販売店はどこも青息吐息だ。急速に変わる経済環境のなかで、かつては安泰だと思われていた新聞販売業の苦境について、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *

新田貴之さん(仮名・60代)は、関東地方にある父の代から続く新聞販売店店主。大手紙、スポーツ紙、地元紙を扱い、多い時では朝刊だけで数千部の配達実績を誇った。しかし、新聞の発行部数が落ち込むとの同時に、この十年ほどで経営は大幅に悪化。以前は数店あった販売店も縮小せざるを得なくなったと訴える。

「販売店はさ、広告料で儲かるわけ。地元のスーパーのチラシとか求人チラシとかさ。得意先に、うちの新聞は何部だから、広告もそれだけ配りますよって説明して、それでお金をもらう。部数が減ったら、それだけ儲けもなくなる」

 かつて日本の新聞は、世界的に見ても驚異の発行部数を誇っていた。いや、今でもそうで、大手紙はいまだに朝刊500万部以上を公称している。例えば、世界的に有名なウォール・ストリート・ジャーナル紙印刷版が約100万部、ニューヨーク・タイムズ紙平日版はその半分程度の発行部数だ。もっとも、世界中の新聞社が、すでにネットを使った発信にシフトし始めているため「紙」以外の影響力も無視できないレベルだが、それでも日本の「新聞紙」は桁違いということがわかる。しかし、その巨大な産業も約20年の間に業界全体で1500万部も減ってしまうと、収益構造が狂ってくる。

「新聞が売れなくなってくると、本部からはもっと仕入れろ、減らすなとハッパをかけられる。それでも減らすと、自分の配達エリアを他の販売店に回す、なんて脅しをかけられたりね。新聞をみんなが読まなくなってきていることは知られてしまっているから当然、広告主からも、本当にそんな部数配ってるの? 広告費おかしくない、となってきて」(新田さん)

 配達される新聞購読者は気が付いているかもしれないが、新聞発行部数の減りと比較し、折り込みチラシの減り方はもっと極端だ。近所のスーパーや求人チラシは、今や風前の灯火という有様、主な理由としては、そうしたチラシを必要としている世代がネットに流れ、チラシが不要になっていることが挙げられるだろう。現在、配達される新聞折り込み広告で目立つのは、健康食品やサプリメント、そして霊園や葬儀場、介護施設や介護付きマンションなどの広告ばかり。どういった世代が多く新聞を読んでいるのか、このことからだけでも想像がつく。

「広告収入は、一番良かった1990年代前半から比較すると半分以下。いや、半分では済まず、3割に満たないこともある。昔は一件数十万とっていた広告も、数万円に下げても入れてくれない」(新田さん)

 さらに、興味深い裁判が地方で進行している。佐賀県で唯一の県紙・佐賀新聞の販売店を経営していた男性が配達分以上の新聞の仕入れを強制された、と被害を訴えたのだ。佐賀地裁は、新聞社が販売店に配達分以上の新聞を強制的に購入させる「押し紙」の存在を認めるとともに、佐賀新聞側に支払いを命じた。その後、佐賀新聞と元販売店の双方が控訴したので判決は確定していない。

「押し付けられる新聞紙、略して押し紙だね。発行部数の水増しのために刷られる新聞で、(新聞社)本部の営業から買い取りを暗に迫られていたと言われている。例えば、1000部しか配達しないのに、1300とか1500部買えと、こうくる。本部から新聞を買えなくなったら困るから言われるがまま買っていたし、多く取る(仕入れる)ことは販売店のステイタスでもあったらしいね」(新田さん)

 かつて景気がよく、どんぶり勘定な商売が普通だった時代の慣行だった、というのが事実だろう。上記の裁判では新聞社から一方的に押しつけられたという販売店側の主張から始まっているが、かつてはその差分を含めた広告料を獲得できて新聞社と利害が一致していたために不満が出なかったという側面もあるはずだ。ところが、配達部数が激減し、ざっくりとした広告販売が通用しなくなってくると事情が変わってくる。これまでは利害が一致していた両者の一方が、ビジネスモデルの終焉とともにもう一方に反旗を翻し、被害者は誰なのか、そして「押し付けられた」と訴える。しかし、利害関係者以外の我々から見ると、どこまでいってもどちらかに肩入れできるものではなく、押し紙が存在していたとしても、その被害者といえるのは読者だけではないかと思わずにはいられない。

 新型コロナウイルスの到来によって新しい生活様式の実践が求められているが、長年、当たり前だったあらゆることに変化が求められている時代だ。新聞やテレビといった大手メディアも例外ではなく、この転換には大きな痛みが伴うだろうし、前述した「仲間割れ」の構図が、あらゆるところで散見されるようになるのかもしれない。

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