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「ロボット薬剤師」は薬局をどう変えるのか 小規模薬局からは機械化加速に不安の声

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/07/17 08:00 若泉 もえな
調剤業務の9割を機械化しているドラッグストア・トモズ「トモズ グリーンマークシティ松戸新田店」。ロボットアームが患者に処方する紛薬を取り出している(撮影:風間仁一郎) © 東洋経済オンライン 調剤業務の9割を機械化しているドラッグストア・トモズ「トモズ グリーンマークシティ松戸新田店」。ロボットアームが患者に処方する紛薬を取り出している(撮影:風間仁一郎)

 ロボットアームが粉末状の薬が入ったオレンジ色のカセットを運んでいる。まるでどこかの工場の内部のようだが、ここは千葉県松戸市にあるドラッグストア「トモズ グリーンマークシティ松戸新田店」の調剤室だ。

 通常の調剤室であれば、医師の処方箋に基づいて薬剤師がせわしなく動き回り、たくさんある薬の中から適切なものを取り出している場所だ。しかし、ここでは薬剤師の姿はまれにしか見ることがない。医薬品の収集や、混ぜたり袋分けする調剤業務の約9割が機械化されているからだ。

 大手ドラッグストアや調剤チェーンは現在、こうした調剤業務を急ピッチで機械化している。

薬を渡した後のフォローを薬剤師に義務付け

 背景にあるのが、厚生労働省が今秋の臨時国会で成立を目指す「薬機法」(医薬品、医薬機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の改正だ。改正後の薬剤師は、患者へ薬を渡した後のフォローが新たに義務づけられる見通しだ。

 薬剤師の中心的な仕事はこれまで、薬を患者へ渡すまでだった。しかし法改正後は、渡した後の患者に過度の副作用が出ていないか、薬の効果はあるかなどを確認することが重要になる。薬の受け渡しという単純作業ではなく、薬学の知識を活かした専門的な仕事がより求められるようになる。

 4月2日には厚生労働省が「調剤業務のあり方について」という通知を出した。薬剤師法では原則として、薬剤師以外の調剤業務を禁止している。ただ、調剤業務の範囲がいまひとつ明確でなかった。そこを明確にしたのが今回の通知だ。薬剤師が最終的な責任をとることを前提に、薬剤師ではない人が調剤業務の一部を行ってもいいと明文化された。具体的には、処方箋に記載された、医薬品の必要量をそろえたりする作業が薬剤師でなくても可能になる。

 トモズは住友商事グループの100%子会社のドラッグストアで、7種類9台の調剤機械を導入し、2019年2月から松戸新田の店舗で実証実験を開始した。同店は処方箋の月間枚数が約5500枚。うち約8割は同店の2階にある総合クリニックから受けている。

 処方箋枚数が多いうえに、特定の医療機関からの患者が多いため、取り扱う医薬品の種類もさほど多くなく、機械を導入しやすかった。

 同店に来店した患者は2階にある総合クリニックでバーコードの付いた処方箋を受け取る。1階のトモズに持って行くと、機械がバーコードを読み取り、バーコードが書かれた紙を別途印刷する。バーコードには、どの機械にどの薬があるかが記されている。

作業時間も大幅に短縮

 この紙を受け取るのは医療事務員などの薬剤師でない従業員だ。薬剤師の資格は不要のため、トモズでも医療事務担当者が調剤業務の補助作業を行っている。

 例えば、錠剤を処方したい場合、必要な錠剤を棚から探し出して、必要な日数分取りそろえるのは手間がかかる。同店で導入した機械は、バーコードを読み込むだけで必要な錠剤が日数分出てくる。目薬やチューブ剤なども、該当する医薬品が入っている備え付けの棚が自動で飛び出す仕組みだ。

 在宅患者が服用することの多い一包化調剤(複数の薬を朝昼晩など患者の服用時点ごとに1つの包みにまとめる作業)も機械化した。正しく薬がまとめられているかどうか、機械でチェックする。機械が写真を撮影し、正しく一包化されている場合は写真の下に緑色のチェックがつく。

 「こうした一連の作業をこれまではすべて薬剤師自身が行っていたが、今は非薬剤師との分業でできる。(在宅患者向けに)1人分の一包化調剤を患者(の自宅)に渡すのに、従来は1時間前後かかっていたが、これらの機械を入れたことでかなり短縮され、非常に効率が高い」とトモズの山口義之取締役は手応えを感じている。

 ただ機械化には相応の投資が必要だ。山口取締役は「そもそも機械を大規模に導入するのは初めてのこと。躊躇もあった。今回は住友商事の中期経営計画の中で実験することができた。投資額を上回る効果を確信できていれば住友商事に資金を出してもらわなくても、自分たちでやっただろう」と話す。投資効果は定かではないが、今年3月に平均27分だった外来患者の待ち時間は18分程度まで短縮された。

 機械化を進めるのは大手調剤チェーンも同様だ。調剤チェーン2位の日本調剤の銀座泰明薬局(東京都中央区)では、粉薬の分包や調合、一包化調剤、そして薬を正しく選べているかどうかのチェックも機械を使っている。日本調剤の小柳利幸取締役は「機械化のメリットは、ヒューマンエラーを抑止できることにある。効率化もできるため、薬剤師が患者とコミュニケーションする時間もより長くとれるようになる」と期待を込める。

 ただトモズと異なり、日本調剤では医薬品を取り出す作業を非薬剤師に任せていない。4月の厚労省通知では、こうした作業を非薬剤師が行うことを認めている。日本調剤の深井克彦常務取締役は「薬剤師は刑事、民事的責任の両方を負っている。非薬剤師のミスで過誤があっても最終的には薬剤師が責任をとる。そうであれば、そもそも非薬剤師に任せるのではなく、調剤業務はすべて薬剤師が行うべき」と話す。

小規模薬局から業務の機械化に不安視も

 また、非薬剤師の活用や機械化が進むことに対して懸念の声も上がる。ある薬局経営者は「これまでは薬を渡す単純作業に対しても、薬剤師はそれなりの収入を得られていた。しかし、そうした単純作業は機械や非薬剤師が担ってもよいなら、その作業に対する対価が減らされかねない。薬局収入の減少につながりかねず、機械化や非薬剤師を雇う余裕のない小さな薬局からは反対の声も数多く聞く」と漏らす。

 実際、6月に政府が出した「骨太の方針」では、「調剤料について、薬剤師の業務の実態も含めた意義の検証を行いつつ適正な評価に向けた検討を行う」とされた。2020年春に予定されている調剤報酬改定では、調剤料が引き下げられる可能性が高い。

 収益力のある大手ドラッグや調剤チェーンであれば、機械化する体力はあるだろう。だが、小規模薬局に機械化投資の負担は重く、非薬剤師を雇う余裕も乏しい。

 こうした動きを乗り越えようとする個人経営の薬局の動きも出始めている。長野県上田市にある上田薬剤師会はその1つだ。

 全国に約5万9000ある薬局の多くは、「門前薬局」と呼ばれ、特定の医療機関の近くにあり、その医療機関の処方箋を扱うことが中心だ。ところが上田薬剤師会の会員薬局88のほとんどが、複数の医療機関の処方箋を扱っている。門前薬局に比べ業務は複雑になる。しかし、上田薬剤師会の会員はそれぞれが同じように複雑な業務を行っているので、薬局同士の連携がとりやすい。

非薬剤師への研修を行う

 例えば、会員薬局の休日は輪番制になっている。会員の多くが複数の医療機関に対応できるので、相互に業務を補い合うことができるからだ。夜間も当番制で患者への対応を行う。いずれも20年以上前から取り組んでいる。処方箋なしで買える一般用医薬品の取り扱いも豊富で、処方箋薬の受け取りが目的でない客も少なくないという。

 そんな上田薬剤師会は4月の厚労省通知を受け、会員薬局へアンケートを送付。すでに非薬剤師を活用している場合の業務内容や、機械化の進捗状況などを調査した。非薬剤師を活用している薬局は数軒しかなかったが、「長野県は薬剤師が少ないので、将来的には非薬剤師が増える可能性は大きい」(同会の大沢雄介・常務理事)。

 上田のような取り組みは全国でも珍しい。都内のある薬局経営者は「厚労省通知が出たからといって、うちの薬局で新たな対応はしていない。近隣の薬局や地域の薬剤師会も静観しているようだ」と話す。

 上田薬剤師会のように薬局同士の連携ができていないと、個人経営の薬局が非薬剤師を雇うのは難しいというのが本音のようだ。雇うときに必要な研修やマニュアルの作成を、薬局経営者がやらないといけないからだ。通常の薬局業務に加えて、これらを準備して実施するのは相当な労力が強いられる。

 個人経営の薬局で機械化が進んでいないわけではないが、種類によっては1000万円台の機械もある。機械化を進めるよりは、薬剤師でない従業員を雇って薬剤師業務を補うことで、法改正やテクノロジーの進化に対応しようとしている。調剤報酬改定も控えるなか、個人経営薬局も生き残りをかけて早急な取り組みが求められている。

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