古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2019/04/23 08:42
「左足ブレーキ」はなぜ普及しないのか © ITmedia ビジネスオンライン 「左足ブレーキ」はなぜ普及しないのか

 またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。

 東京・池袋で87歳の男性が運転する自動車が猛スピードで、横断歩道を渡っていた歩行者などを次々と跳ね飛ばし、自転車に乗っていたお母さんと3歳の娘さんが亡くなってしまったのだ。

 この男性はアクセルとブレーキを踏み間違えていた可能性が高く、認知機能にも問題があるやもしれぬという。

 警察庁によれば、2018年に死亡事故を起こした75歳以上のドライバーは前年比42人増の460人で全体に占める割合は14.8%と過去最高。しかも、事故原因を分析したところ、ブレーキやアクセルの踏み間違いなど「操作不適」が136人と30%にも上っている。

 間違いは誰にでもあるが、こんなことで何の罪もない人々の命が奪われるなど、あまりに理不尽すぎる。行政、警察、メーカーはぜひ手を取り合って、二度とこのような悲劇が起きないような対策を講じていただきたい。

 そのように強く願う一方で、企業リスクを扱う人間としては、事故そのものだけではなく、そこから派生したある現象にも注目している。

 それは「プリウスバッシング」だ。

 事故の速報が流れた段階から、87歳男性が操っていた「プリウス」にも、暴走の遠因があるのではないかというような声がSNSで飛び交ったのである。

 その代表が、シフトレバー問題である。

●「暴走」のイメージが強い

 「プリウスが事故る理由はだいたいこれ」として、プリウスのシフトレバーの画像とともに、特徴的な仕様で操作が分かりづらいという指摘が話題になり、「踏み間違いの可能性」という報道が出た後も議論が沸騰したのだ。その中には、「高齢者がパニックになるのも納得」などプリウス叩きのムードも流れているのだ。

 この手の事故では、現場で大破した車種がニュース映像で映し出されることが多いが、ここまで名指しで叩かれることは少ない。なぜプリウスだけはここまでボロカスなのか。

 まず、考えられる理由としては「暴走」のイメージが強いことだろう。

 17年10月、東京・吉祥寺の駅前で、85歳の男性が運転する自動車が暴走して歩行者を次々と跳ねて7人がケガをするという「老人暴走」が大きく報道されたが、これもプリウスだった。本件では、暴走したプリウスが、踏み間違いにも対応をしている新型ブレーキ搭載車だという指摘がネットで相次ぎ、なぜ作動しなかったのかという疑問の声も上がった。

 また、16年には福岡市の病院にタクシーが突っ込んで、10人が死傷するという痛ましい事件が大ニュースとなったが、これもプリウスである。過去5年間に無違反だった64歳の運転手が、「ブレーキを踏んだのに止まらなかった」と主張したことも大きな注目を集めた。

 ほかにも、プリウスの暴走はちょいちょい起きており、ネット上では、コンビニなどに突っ込んだプリウスの事故画像が溢れている。トヨタ的には名誉毀損で訴えたいとこだろうが、SNSでは暴走が多いことをやゆして「プリウスミサイル」などというハッシュタグまで存在している。

●「不具合」の可能性

 こういうネガイメージに拍車をかけているのが、一部から指摘される「不具合」の可能性だ。例えば、先ほどの福岡の暴走で、過失運転致傷罪に問われた運転手の裁判で、弁護側は事故後に車の検証に関わったトヨタ社員を証人尋問している。

 『弁護側は、「プリウスのブレーキを踏んだのに進んだ」という不具合情報が国土交通省に報告されていることについて尋ねたが、男性社員は「(現象として)あり得ない」との見解を示した』(朝日新聞・福岡版 2018年10月5日)

 要するに、「暴走=踏み間違い」ということになっているが、実はその中には車両の不具合も含まれているのではないかというのだ。確かに、国土交通省の「自動車のリコール・不具合情報」で「プリウス」「ブレーキ装置」で検索をすると、「ブレーキが効かなくなった」などの申告が298件もあり、競合車と比べると多いのだ。

 ただ、不具合の「申告」がかなり多いからといって即座にプリウスに問題アリという話にはならない。プリウスの数がかなり多いからだ。

 ご存じのように、プリウスは17年1月時点で累計400万台売れた超人気車種で、日本全国のいたるところを走り回っている。絶対数が多いので不具合の報告も多くなるのは当然だ。また、ちまたに溢れて、なおかつ印象に残りやすいメジャー車となれば、他車種よりも「事故」の印象も人々に脳裏にこびりつく。事故画像がたくさん撮られて拡散されているのも、数の多さがゆえなのだ。

 この構造は、マクドナルドの異物混入とよく似ている。異物混入など日本全国の飲食店で日常的に起きている。にもかかわらず、全国チェーンの店舗の多さと、そのビックネームがゆえ、「異物混入」というネガイメージが他店よりも強くこびりつく。結果、他の店なら店長が出てきて「ごめんなさい」で終わる話が、マスコミ記者から散々説教され、社長まで引っ張り出される「消費者の信頼を裏切る企業不祥事」となってしまったのだ。

●大バッシングに発展してしまう恐れ

 つまり、「プリウスバッシング」も数の多さとビッグネームからきている可能性が否めないのだ。と聞くと、トヨタ関係者やプリウスファンは、「人気者へのねたみみたいもんか」と軽く見るかもしれないが、そのような「イメージ先行型」だからこそ深刻だと筆者は考える。

 確かに、現在はSNSで局地的に騒がれているだけだが、これをこのまま放ったらかしにしておくと、日本社会全体を巻き込むような大バッシングに発展してしまう恐れがある。今の流れでは、プリウスは「暴走老人」を象徴するアイコンになる日もそう遠くはない。ということは、高齢者ドライバーが今以上に深刻な社会問題化したとき、その巻き添いをくらって世間から石を投げられる可能性があるということだ。

 「オレはプリウスに乗っているけど、まだ20代だぞ!」と怒る方もいらっしゃるかもしれないが、そもそもプリウスが「シニアカー」だということは、開発者の大塚明彦さんも09年にこうおっしゃっている。

 『これまでのプリウスの購入層は、50~60歳代が多かったんです。子育てを終え、クラウンやマークXを下取りに出して、夫婦だけでダウンサイジングした車をゆっくり楽しもうという世代。プリウスなら自分たちも納得でき、他人から見られても恥ずかしくない、ということでしょう』(朝日新聞 2009年6月3日)

 4代目プリウスあたりまで、この傾向はさほど変わらない。J-CASTニュース(2016年1月19日)の取材に応じたトヨタは、幅広い年齢層から支持をいただいているとしながらも、ちゃんと「60代以上を中心に」と述べている。

 警察庁によると、75歳以上の運転免許保有者は18年時点では563万人。これは高齢化社会で年々増加していくという。ということは、この中にかなりの割合で含まれている「プリウスを操る高齢者」も年々増加していくことでもある。

 では、これから増えていく「プリウス高齢者」は、どんな性格的な特徴があるのかという、ズバリ「傲慢」である。

 NEXCO東日本が、65歳以上男女104人と65歳以上のドライバーを親に持つ子ども世代、男女312人に対し、車の運転に関する意識調査を実施したところ、驚愕の事実が判明した。

 高齢男性ドライバーのなんと約8割が運転に「自信あり」と回答し、しかもこの傾向は年齢が高くなればなるほど増えていくというのだ。年齢を重なれば謙虚になるのではなく、「オレはまだまだイケるぞ」とイキってハンドルを離そうとしない。典型的な「傲慢な高齢者」ではないか。

 そのような「傲慢(ごうまん)な高齢者」が操るプリウスがちまたに溢れれば当然、アクセルとブレーキを踏み間違える「暴走プリウス」も増えていくということだ。

●SNSで盛り上がる「#今日のプリウス」

 確かに、今回の事故の87歳は元通産官僚で、クボタの副社長まで務めたエリートである。吉祥寺で多くの人を跳ね飛ばした85歳も弁護士だ。職業的にはどちらも「エリートゆえの自信家」というイメージが頭をよぎる。

 加齢で認知力や判断力が衰えているにもかかわらず、自信満々で周囲の意見に耳を貸さない。そんな「傲慢な高齢者」がプリウスを操っているのでは、と思わせるような情報もSNS上には溢れている。

 それが「#今日のプリウス」だ。

 言葉の響き的には「今日のわんこ」みたいなほのぼのとしたものをイメージするかもしれないが、そうではなく、街で見かけた非常識なプリウスの写真をさらしていくというもので、信号無視をするプリウス。一時停車をしないで割り込んでくるプリウス、そして駐車スペースを無視した無茶苦茶な止め方をするプリウスなどの写真や動画がアップされているのだ。

 もちろん、これもプリウスの台数が多いゆえの話と片付けるのは簡単だ。しかし、プリウスの傲慢な振る舞いに腹を立てている人々が確かに存在し、今回のような事故が繰り返されるたびに、その怒りの声が多くなってきていることは、トヨタとしてかなり重く受け止めるべきではないかと思う。

 セブン-イレブンの前例があるからだ。

 目下、「24時間営業問題」で炎上しているセブンだが、実はこの問題は昨日今日に始まったことではない。16年あたりからSNSでは、バイト不足でブラック的な労働環境だということは指摘されていた。1時間遅刻すると罰金を払わされるとか、「おにぎり温めますか」という問いかけに「うん」と答えた女性客に、ブチギレするオーナーの息子など、「現場の怒り」が様々な形でSNSでは上げられていたのだ。

 そのように局地的に盛り上がっていた怒りのマグマが、大阪のオーナーとFC本部の「24時間営業」をめぐる対立に注目が集まって一気に「爆発」した、という流れである。

●何かのきっかけで「大爆発」する可能性

 ならば、「#今日のプリウス」「#プリウスミサイル」という局地的なバッシングも、何かのきっかけで「大爆発」する可能性はないか。例えば、多発する「暴走老人」たちが、自分の操作ミスではなく、プリウスの不具合だと声をそろえて訴えたら――。

 そんなバカな話があるわけがないと言い切れるだろうか。福岡のケースでは、運転手はトヨタの不具合だと主張しているし、先ほど触れたように、高齢者ドライバーというのは歳をとればとるほど独善的になる。悪いのは自分の運転ではなく、プリウスだと逆ギレする暴走老人が増えても何もおかしくはない。

 という話をすると、「そんな事態になる前に暴走を防ぐ新技術や自動運転が開発されるから大丈夫」みたいなことをいう人もいるが、仮にそれが開発されたところで、シニアが運転する車に全て適応されるまで、あと何人、今回の母子のような犠牲者を出さなくてはいけないのかという問題がある。

 高齢者は問答無用で免許を奪えとかいう人もいるが、車が移動手段の田舎ではライフラインを奪うのと同じだ。しかも、「老人優遇」のシルバー民主主義のこの国ではかなりハードルが高い。

 ならば、どうするか。

 個人的には、そのような技術革新を進めながらも、17年の記事『アクセルと踏み間違えない「左ブレーキ」が、普及しない理由』の中で詳しく紹介した「左足ブレーキ」を1日も早く導入すべきだと思っている。

●「暴走老人」に対する現実的な対策

 実は「踏み間違え」は高齢者だけの問題ではない。AT車が導入された30年以上前から数々の事故を起こしていて、今回のような悲劇が起きるたび、国会や専門家の間で「左足ブレーキ」の必要性が訴えられてきた。

 右足だけでアクセルとブレーキを同じように踏むから、認知機能に問題が起きると、大暴走をする。右足をアクセル、左足をブレーキと決めれば、右と左の区別がつかないほど認知機能の低下が進行しない限り、「アクセルが戻らない」なんてつぶやきながらアクセルをベタ踏みして、時速100キロで人を跳ね飛ばすなんて事態は防げる。

 極めて合理的な解決方法だったが、「マニュアル車の運転との整合性」という、いかにも役所らしい理由で却下されてきた。

 「左足ブレーキ」と聞くたびに、役人や専門家は「現実的ではない」「先端技術で暴走を未然に防ぐのが現実的」と渋い顔をして言うが、これだけ技術が進んでも、「踏み間違い」というヒューマンエラーで膨大な数の人間が殺されている「現実」についてはどう考えているのか。

 この問題は、右足1本ですべてを操らせるという「無茶な動作」が引き起こしているのは明白だ。先端技術の開発を進めながらも、これ以上犠牲者を出さないためにも今すぐできる対策から打っていく、というほうがよほど「現実的」ではないのか。

 最後になりましたが、お亡くなりなったお母さんと娘さんのご冥福を心からお祈りします。合掌。

(窪田順生)

ITmedia ビジネスオンラインの関連記事

image beaconimage beaconimage beacon