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“上級国民”池袋暴走事故「否認」の衝撃 車のせい?裁判の行方と思わぬ余波

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2020/10/08 18:39
遺族の松永拓也さん(c)朝日新聞社 © AERA dot. 提供 遺族の松永拓也さん(c)朝日新聞社

 昨年4月、東京・池袋で高齢者の運転する車で母子が死亡した悲痛な事件から約1年半。車を運転し11人を死傷させたとして自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)罪に問われた旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)の初公判が8日、東京地裁で開かれた。飯塚被告は起訴内容を否認したため、世間では驚きや怒りの声が噴出。長期化必至の裁判について専門家からは意外な指摘が……。

*  *  *

 8日午前8時50分。小雨が静かに降り注ぐ中、遺族の松永拓也さん(34)が事故で亡くなった妻と長女の遺影を胸に抱え、しっかりとした足取りで東京地裁の正門に入っていった。報道陣によって一斉にフラッシュがたかれても、視線は常にまっすぐ前を見据えていた。

 この日の一般傍聴席は新型コロナ対策のため、わずか20席。「コロナ前」の約3分の1の席数に、414人の傍聴希望者が集まった。

 事故は2019年4月、高齢者による自動車事故が社会問題化する中で起きた。

 検察側の主張によると、飯塚被告の運転する車は時速約96キロで、赤信号の交差点に突っ込んだ。自転車で横断歩道を渡っていた松永真菜さん(当時31)と長女の莉子さん(当時3)がはねられ死亡。通行人ら9人が重軽傷を負った。

 何の落ち度もない幼い子どもと母親が巻き込まれ、事故直後から世間の関心は高かった。さらに、注目を集める要因の一つとなったのが、飯塚被告に対してネット上で使われた”上級国民”というワード。「証拠隠滅の恐れがない」と判断されて、飯塚被告が逮捕されなかったことなどから、「元官僚で東大卒の上級国民だから、特別扱いしているのでは」といった声が噴出した。格差社会を象徴するような存在とみなされた飯塚被告。遺族への同情もあり、飯塚被告の言動は世間の反感を買った。厳罰を求める署名は39万筆も集まった。

 とはいえ、世間には飯塚被告が裁判で罪を認め、真摯に謝罪するのではないかという淡い期待もあった。しかし、初公判では無罪を主張。罪状認否では、遺族への謝罪を述べたうえで「アクセルペダルを踏み続けた記憶はない。車に何らかの異常が起きて暴走した。暴走を止められなかった」と主張し、起訴事実を否認した。

 この日の冒頭陳述で、検察側は「事故前の車の定期点検ではブレーキやアクセルに異常が見つかっていなかった」と述べており、「自動車の瑕疵(かし)」をめぐって真っ向から対立の様相を見せている。

 

 初公判のニュースが流れた直後、ネット上では驚きの声であふれた。また、「全然反省していないのではないか」「これでは遺族が浮かばれない」といった批判も相次いだ。

 気になる裁判の行方について、過失運転致死傷に詳しい「にわ法律事務所」の丹羽洋典弁護士は、次のように推測。判決確定まで長くかかりそうだという。

「一般的に、車の性能に関する裁判は長期化する。少なくとも通常の2倍はかかるのではないか。今回も長期化のおそれはある。通常のケースであれば、1審だけでも半年。今回は1年近くかかるでしょう」

 

 今回の初公判で世間が驚いたのは、飯塚被告の主張だ。

「自動車に問題がある場合も、可能性としてはあり得なくはない。一般的に自動車事故は、運転者の過失の有無が争点になりますが、今回は道路上で暴走したという特殊なケースですので、こうした主張ができたのでしょう。本人が供述している以上、むげにはできないため、自動車自体に瑕疵(かし)がなかったかという争点も加わることになったのだと思います。被告側にとっては、無罪の可能性が出てくるので都合がいい」

 いくら本人が供述しているとはいえ、そう簡単にその主張が通るものだろうか。

「検察は、車の性能に問題がなかったという証拠を揃えてくるでしょう。弁護側には立証責任はありませんが、丸腰で臨んだら検察側の主張が通ってしまうので、瑕疵があったと証明するための証拠が必要になります。ただし、技術者や鑑定の専門家から証言を得る必要があるため、時間がかかる上、立証するための難易度が高いですね。時間だけがかかってしまうと思います。どこまで本気なのか疑問はあります。自動車に瑕疵があったという主張も、認められた例も数としては多くありません」

 また、今回の裁判は別の意味でも注目度が高いという。

「これらから自動運転が普及することが予想されるので、こうした『車の問題点』を指摘する主張が増えてくる可能性が高い。飯塚被告の主張が下手に通ると、今後はこうした事故で、ブレーキが利かなくなったといった主張が多くなる。司法側も慎重に判断することになるでしょう。今回の裁判は、今後の試金石になる」

 長期化必至の裁判。2審、3審と続けば、最終決着は数年後……仮に有罪判決が下った場合、89歳の被告が量刑を終えるのは何歳のことだろうか。

 遺族や世間は、誠実な説明を望んでいる。(AERAdot.編集部/飯塚大和)

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