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名門高「都内私立優位」という大いなる錯覚 東大・京大・国公立大医学部合格ランキング

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/04/13 10:00 おおたとしまさ

「私立優位」は中学受験文化が発展した地域限定

 雨粒が大地に落ち、一筋の流れをつくる。ひとたび流れができると、雨水はことごとくそこに集まるようになる。集まる水が多くなれば多くなるほど水が大地を削る浸食の力は大きくなり、やがてそれが川となる。川はやがて谷や平野を形成し、いちどできた川の流れは、そう簡単には変わらない。いわゆる「水路づけ」である。

 これと同じことが、進学における「進路」にもいえる。優秀な子どもたちが集まる「進路」がひとたびできると、ますます優秀な子どもたちがそこに集まるようになり、進学の「王道」が形成される。「王道」はあるいは「エリート街道」とも呼ばれる。一度できた「王道」は、そう簡単には変わらない。

 東京発全国区のマスコミの報道だけを見ると、都内有名私立高校から東大へ進学することが「王道」であるかのように錯覚させられる。全国的に注目度の高い東大合格者数ランキングの上位を、そのような高校が占めているからだ。

 しかし「私立優位」は、東京などごく一部の、中学受験文化が発展した地域における特殊な状況である。いわゆる地方都市においては、公立高校の優位が続いている。「水路づけ」ならぬ「進路づけ」のパターンが、首都圏と地方都市では違うのだ。

 実際、必ずしも全国区で名が知られているわけではないけれど、地域の誇りと期待を担った「ご当地名門校」としての貫禄を感じさせる公立高校が多数ある。そのような高校を訪ねると、開成や灘を訪れたときに感じるのと似た空気を感じることがある。首都圏に生まれ育っていればおそらく私立名門校に進学していたであろう秀才たちが、地方においては公立名門校に集う。

東大合格者数だけではわからない高校の進学力

 1877(明治10)年に原初の東京大学ができた。以来長らく日本唯一の大学であった。日本各地から優秀な人物を東大に吸い上げるように全国の学校がネットワーク化され、「優秀な子どもは東大に行く」という“文化”が日本中に広まった。それが日本人の無意識に刷り込まれているために、わたしたちはいまでも「東大」を過剰に意識してしまう。

 しかし実際のところ現在では、東大は関東にある国立の総合大学の一つにすぎず、合格者数は当然関東地方の高校に偏る。しかも最近は東大一辺倒の風向きに変化がある。

 不景気や震災の影響、そして昨今の高校生およびその保護者の現役志向もあり、地元志向が強まっている。もともと関西では「近くに京大があるのになぜわざわざ東大まで行くのか?」という意識がある。

 さらに医学部人気も顕著である。東大に行くよりも手に職を付けたほうが将来安心という現実的な価値観だ。十分に東大を狙える学力がありながら、あえて医学部を目指す高校生は増えている。

 東大、京大、国公立大医学部は難易度的にもほぼ同等だ。2017年の河合塾のボーダー偏差値(合格率50%)では、東大の理Ⅲ(医学部系)が72.5、文Ⅰ(法学部系)70、それ以外は67.5。京大は、医学部がやはり72.5、それ以外は62.5~70。

 全国に50ある国公立大医学部の平均偏差値を概算してみると66.75。個別には、たとえば奈良県立医科大学の偏差値は70、岐阜大・熊本大・三重大で67.5と、まさに東大と同等の学力が求められるのだ。

 拙著『地方公立名門校』刊行のために、「大学通信」に作成してもらった東大・京大・国公立大医学部医学科の合計合格者数ランキングの一部をここに転載する。単年の合格実績ではブレが生じやすいので、2013年から2017年の5年間の平均値を使用した。

文武両道は当たり前!地方「ご当地名門校」の底力

 私立・国立・公立高校の総合ランキングで見ると、1位は開成(東京)、2位に灘(兵庫)など、20位までをほとんど私立高校が占めている。

 ただし、普段見慣れた東大合格者数ランキングとは順位がだいぶ違う。開成、灘に続くのは、愛知の東海(3位)、京都の洛南(4位)。東海は、国公立大医学部への進学者数が突出して多い。洛南は地元京大に圧倒的に強い。いずれも東大合格者数ランキング上位ではないので全国区での知名度は低いが、実は全国でも屈指の超進学校なのだ。

 学校によって当然1学年の生徒数規模が違う。生徒数の母数の違いが合格者数にも影響を与える点は考慮すべきである。かといって、小規模校である筑駒や灘が1学年の定員を倍増させた場合、従来どおりの学力の生徒を集め、しかもいままでどおりの教育の質を保てるかはわからない。おそらく無理だ。合格者数を卒業生数で割って「合格率」を比べれば公平になるという単純な話でもないのだ。

 それよりも考慮すべきは公立高校における学区の人口規模である。たとえば東京都では、人口1000万人規模の都内全体が1学区になっている。一方福井県では、同じく全県1学区でも人口は80万人足らず。小学区制の学校ではさらに小さな人口規模の地域からしか生徒を受け入れることができない。私立・国立学校には基本的に学区がない。他県からの通学も可能だ。大学合格者数を比較するときには、その点を頭の片隅に入れておく必要がある。

地方公立名門校のレベルの高さ

 公立高校に限定したランキングを見ると、1位は旭丘(愛知)、2位は北野(大阪)、3位が膳所(滋賀)と熊本(熊本)だ。東大では1位の日比谷(東京)もここでは10位とランクを落とす。これが、東大合格者数だけを見ていては気づけない、地方公立名門校のレベルの高さである。

 しかもこれらの学校の底力が発揮されるのは大学受験だけではない。

 戦前から「旧制一中」「旧制二中」などと呼ばれた上位伝統校は、もともと帝国大学へ進学する国家的エリートや地域のリーダーを育てることを使命としていた。そのため伝統的に、勉強ができるだけでは良しとせず、文武両道や自主自律そして全人教育の趣旨を掲げる点が共通している。

 およそ受験には関係のなさそうな伝統行事や奇妙な風習が脈々と受け継がれ、部活の加入率も高い。県下トップの進学校でありながら全国レベルで活躍する部活が多数あることも、地方では珍しくない。

 地方ではいまでもこのような学校が、戦前からの伝統と矜持をしっかりと受け継ぎ、また地域の誇りと期待を担い、優秀な若者を、単なる受験エリートではなく、次世代の真のリーダーたるべく鍛え上げているのである。

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