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安倍首相が認めたくない外交上3つの「悪夢」 トランプ大統領にだいぶコケにされている

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/07/06 08:20 ダニエル・スナイダー
トランプ大統領との蜜月関係をアピールする安倍首相だが、トランプ大統領側見るとどうなのか(写真:Kevin Lamarque/ロイター) © 東洋経済オンライン トランプ大統領との蜜月関係をアピールする安倍首相だが、トランプ大統領側見るとどうなのか(写真:Kevin Lamarque/ロイター)

 7月4日に公示され、21日投開票される参議院選挙。今回、安倍晋三首相の訴えの中心にあるのは、選挙のマニフェストが示すように「グローバルな課題の解決に向けて世界をリードする」という主張だろう。だが残念ながら、この主張は現在のところむなしいものに聞こえる。それどころか、目下安倍首相には外交上3つの「悪夢」に襲われている。

 1つは、先月末開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、意気揚々とした独裁主義的なリーダーたちのための舞台になってしまったことだ。日本政府は、G20の準備に何カ月もかけ、これを日本の、そして安倍首相のリーダーシップを見せつける場として使おうとしていた。デジタル・プライバシーや環境保護、気候変動、自由貿易の防衛といった一連の施策を準備し、自由な国際秩序を守る国、日本をアピールしようとしていた。

突飛な発言に振り回される

 ところがG20は、世界をリードするのは自分だというトランプ大統領の主張と、同大統領によるサウジのムハンマド皇太子からロシアのプーチン大統領、中国の習国家主席までとの親密な友情関係の誇示に圧倒されてしまった。最後の共同声明は、保護主義と闘うという話を一切除き、「自由で公正な貿易」という穏やかな一般的文言に落ち着いた。

 今回のG20は、オーストラリア国立大学のシャイロ・アームストロング教授が言うところの「力による支配に向かう危機」の兆しであることを示し、グローバルなルールに基づく秩序が失われた瞬間として歴史上記憶されることだろう。

 トランプ大統領の相変わらずの奔放な発言にも振り回された。日本政府は、トランプ大統領が来日するほんの2、3日前、日本の貿易不均衡を再び攻撃し、日本が防衛でただ乗りしているという考えを繰り返したとき、黒い雲が向かってきていると感じていた。

 これに対する日本側の反応は静かなものだった。「われわれは、トランプ大統領から突飛な発言を聞くことにはかなり慣れている」と、サミットの企画に関与したある高官は話す。「だから、こちらが“仰天”したということはない。安倍首相は、それが本気で意図したものではなく、貿易交渉でより多くの譲歩を得ようとする一種の策と見ている」。

 とはいうものの、安倍首相はこのことが一般の国民にどう映るかを懸念しており、トランプ大統領が直接日本のマスコミと話をすることを恐れて、トランプ大統領との短い首脳会談への報道陣のアクセスを制限したと伝えられている。

 だが、サミット最後に開かれたトランプ大統領の記者会見までコントロールすることはできなかった。ここで同大統領はそれまでの発言を超えて、マスコミに対し「ここ6カ月の間に」1960年に締結された日本とアメリカとの相互協力および安全保障条約、つまり戦後のパートナーシップの基盤を変えるときだと安倍首相に伝えた旨を述べたのである。

安倍首相の唯一の外交成果に傷がついた

 安倍首相および側近は当初、こうした会話がなされたことを直ちに否定したが、安倍首相はその後、トランプ大統領から私的な会話でこうした話を出たことを明かしている。一方、アメリカ軍事情に詳しいアメリカの複数の消息筋は、「同盟関係を再交渉するというトランプ大統領の呼びかけは初耳だ」と話す。彼らも、トランプ大統領のこうした発言は、「交渉のテーブルで譲歩を得る」ための試みととらえている。実際、これはトランプ大統領が韓国に用いた戦術でもある。

 しかし、”被害”は起きてしまっている。「相互安全保障条約をターゲットにしたトランプ大統領の最新の一斉攻撃は、安倍首相の唯一の外交上の成果といえる、日米間の同盟関係はこれほど強力だったことはないという主張を傷つけるものであり、安倍政権には不安をもたらし、中国や北朝鮮の耳には心地よいものである」と、テンプル大学のジェフ・キングストン教授は述べている。

 「安倍首相は、憲法第9条の改正への望みを今度の参議院選挙の焦点にしたが、これは、日本がアメリカの指令下で戦争をしなければいけないという意味ではないことを有権者に説得しなければならない」 

 2つ目の悪夢は、トランプ大統領がG20直後、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と南北軍事境界線上板門店(パンムンジョン)で事実上3度目といっていい首脳会談を行ったことだろう。アメリカ大統領が国境を越えて、北朝鮮を数歩歩いたという「映像効果」に加えて、今回の会談の表面上の成果は、2月にベトナム・ハノイでの2度目の首脳会談の決裂後中断していた、公式レベルでの話し合いを再開することになったことだろう。

 前回の首脳会談は、アメリカと北朝鮮の非核化に対する理解にギャップがあることが表面化したことで決裂した。北朝鮮は、すべての主要な制裁の解除を求めた一方、非核化プロセスの初期段階においてどの施設を閉鎖する準備ができているかを具体的に述べることを拒否したのである。話し合いの再開は、北朝鮮が交渉のテーブルにより多くのものを持ち出す意図があることを示しているかもしれない。

 もっともこれは、従来の計画よりはるかに後退した核開発凍結案に合意することを、スティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表と同様にトランプ大統領が明確に示したことも反映している。ニューヨーク・タイムズ紙が報道したように、これは将来の核開発には上限を設けるものの、北朝鮮を核保有国として受け入れることを意味するだろう。こうした考えは新しいものではない。日本の高官も2017年夏以降、こうした“悪い取引”が行われることを懸念していた。

 アメリカの高官はこの報道を否定したが、より正確に言えば、彼らはこうした取引が行われたことについての認識、および支持していることを否定しているのである。「(ニューヨーク・タイムズが書いたような)計画は、それに似たものですら聞いたことはない」と北朝鮮との会談に直接関与してきた関係者は話す。「(国家安全保障会議アジア上級部長)マット・ポッティンガーも聞いたことがないことを知っている」。

凍結案をほのめかした可能性も

 実際、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当補佐官と、ポッティンガー氏は、板門店の会談からは外されており、奇妙なタイミングであるがモンゴルに派遣されていたのである。北朝鮮対応は、今ではマイク・ポンぺオ国務長官と、ビーガン特別代表の手の内にある。

 日本政府は、トランプ大統領が金委員長と抱き合ったことを儀礼的に支持し、(証拠もなしに)再び拉致被害者の問題が議題にあがり、核武装した北朝鮮が日本を狙ったミサイルを保有したままにしないようにするという日本の要求も伝えられた、と主張したのである。   

 しかし、ソウルに住むベテランジャーナリストは、まだ確認されたものではないとしつつも、「トランプ大統領は板門店南側にある韓国側の施設『自由の家』での金委員長との私的な会話で、アメリカは北朝鮮がすべての核兵器とミサイル、およびそれらを製造する手段を実際に放棄することまでは主張しないということをほのめかしたかもしれない」としている。

 安倍首相にとって3つ目の悪夢は、来るアメリカとの2国間貿易協議になりそうだ。中国との交渉が崖っぷちから離れたことで、アメリカ通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー氏率いるアメリカの交渉担当者は、日本に焦点を当てることができるだろう。そして、トランプ大統領が、日本のアメリカへの自動車の輸出を制限する合意を強く進めたいと考えていることは明らかである。

 「日本とは交渉している。なぜなら日本は何百万台という自動車を輸出し、われわれは小麦を輸出しているのだから」とトランプ大統領はG20で報道陣に述べた。「これではうまくはいかない」 。

安倍首相ほど軽んじられたリーダーはいない

 「ライトハイザー代表とトランプ大統領が一方的な要求をするのを聞くのに少しうんざりしている」と、日本側の関係者は明かす。「こちらは確固たる姿勢で対応し、最終的には『最後の一線』を守りたい」。

 日本の自動車の輸出を規制する合意は、中米貿易戦争の影響をすでに感じ、秋には消費税が上がる日本経済にとっては最悪なものになりかねない。しかし、当面、安倍首相はアメリカとの親密で友好的な同盟関係のイメージを保持しておく必要がある。 

 「外交は、いつも計画どおりにいくとはかぎらないものであり、とくに台風のようなトランプが関わっている場合はそうだ」と、テンプル大学のキングストン教授はコメントしている。「トランプ大統領と関係して面目を失ったり、消え去ったりした人は多数いるが、安倍首相ほどはっきりと恥をかかされたり、軽んじられた世界のリーダーはほかにはいない」。

 「安倍首相はこれが悪夢であることをわかっている」と、日本のベテラン政治ジャーナリストは話す。「しかし、安倍首相はそれが普通であるかのようにみせるためであれば何でもするだろう。悪夢であることを認めることは、トランプ政権に対する外交がみじめに失敗したことを認めることになるのだから」。

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