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日米通商交渉で大敗した安倍政権に騙されるな

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2019/05/21 07:00
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など

 前号の本コラムで、日米通商交渉の結論は、今夏の参議院選挙後まで持ち越されると予測した。今回は、その勝敗予測をしてみよう。

 米国は、日本を裏切ってTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から一方的に離脱した。米側がTPPに戻らないまま関税交渉をしたいと言うなら、日本は、少なくとも何か見返りを要求するのが筋だが、何も取らないまま、交渉入りをただ取りされた。出だしでいきなりの敗北だ。

 次に、米国は日本の鉄鋼・アルミ製品に一方的に関税上乗せをした。EUは、WTOに提訴し、米国産バーボンやオートバイなどに報復関税をかけたが、日本は何もせず、唯々諾々と米側に従っている。日本は交渉入りの条件としてこの撤廃を獲得すべきだったが、できなかった。これで2敗。

 さらに、昨年の日米首脳会談で合意された共同声明では、日本側は、TPP水準を超える農産物関税引き下げはしない意向を示したが、これは、事実上、TPP水準までなら下げると譲歩したに等しい。交渉前から大幅譲歩を約束するなど聞いたことがない。

 これで3敗。

 また、TPPでは、日本の乗用車などへの米国の関税を撤廃することになっていた。TPP並みの農産物の関税引き下げを認めるなら、米国の乗用車関税撤廃を認めさせるべきだったが、これもできず。4敗。

 しかも、共同声明では、「交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指す」という文言も入り、逆に米国の自動車産業のためになる投資拡大などを事実上約束してしまった。これでは、日本の自動車メーカーは踏んだり蹴ったりだ。ここまでで5敗。

 これらの「負け」を今後の交渉で挽回できるかと言えば、まず無理。つまり、「日本の大敗」は決まったようなものだ。

 ここで二つ目の予測だ。大敗にもかかわらず、国民の多くはそれに気づかない可能性がある。その理由は、安倍官邸が、今から入念なスピンコントロール(情報操作)を行っているからだ。最近の報道を見ると、その効果が既に表れている。

 そのやり口は、官僚の間で多用される「相場観操縦」という伝統的手法だ。

 まず、前述した、既に負けが決まっている項目については、既定路線として、日本側が争っていないように見せかける。

 下手に何かを取りに行っていると見られると、それを取れなかったときに「負けた」と言われるので、それを防ぐのだ。

 交渉前から、農産物関税をTPP水準までなら下げると「自ら」宣言して、まるでそこまでなら譲歩ではないかのように振る舞う。鉄鋼・アルミ関税についても、負けにならないように議題に上げず、マスコミに気づかれないようにしている。自動車も、米側が喜ぶようなことを「自ら」差し出す姿勢を示して、大きな譲歩なのに、大した問題ではないと錯覚させる。

 さらに、米側は、「TPP以上の関税引き下げ」や「日本の自動車輸出自主規制」「為替条項」などを要求しているなどと日本の厳しい状況を演出し、それをどこまで食い止めるかがポイントだと解説する。これにより、どんな結果が出ても高い評価が得られるように「相場観」を下げるのだ。

 その結果、農産物関税引き下げがTPP並みで、自動車輸出自主規制回避なら、日本側が何一つ取れなくても「安倍総理のおかげ」と拍手喝采になるだろう。

 政府の情報操作に騙されないように気を付けたい。

※週刊朝日  2019年5月31日号

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