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日韓関係は「史上最悪」…対立根本に「安倍首相と文大統領の相性の悪さ」

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2019/05/28 17:00
ソウルの日本大使館のそばに設置された慰安婦を象徴する少女像。集会には大学生ら若い世代が目立つ (c)朝日新聞社 © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 ソウルの日本大使館のそばに設置された慰安婦を象徴する少女像。集会には大学生ら若い世代が目立つ (c)朝日新聞社

 草の根の交流は進むのに、国同士の関係がこじれる日本と韓国。ソウル特派員を務めた朝日新聞編集委員の牧野愛博氏が、近年の歴史をたどり、「過去最悪の状況」に至った経緯をリポートする。

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 初夏の陽気になった5月中旬の韓国。南東部の釜山駅からタクシーで20分ほどの「オリニ大公園」で、笑顔の女性が私を待ってくれていた。辛潤賛(シンユンチャン)さん(69)。2001年1月、JR新大久保駅で、線路に転落した日本人を救おうとして犠牲になった韓国人留学生、故李秀賢(イスヒョン)さん(享年26)のお母さんだ。

 この公園には、李さんの追悼碑がある。辛さんは亡くなった李さんに会いたくなると、この公園を訪ねる。事故から18年が経ち、今年3月には夫の李盛大(イソンデ)さん(享年80)も亡くなった。

 辛さんは李盛大さんの死去直後、韓国紙「中央日報」のインタビューを受けた。そこで、16年の大みそかに市民団体が釜山の日本総領事館前に設置した慰安婦を象徴する少女像に触れた。「森本康敬総領事(当時)がつらかろうと思うと、心が痛かった」

 これが、どれほど勇気の要る発言だったか、韓国の人々ならよく理解できるはずだ。韓国人が公の場で、慰安婦や徴用工などの歴史認識問題にからんで、日本を理解したり、支持したりする発言はタブーだからだ。

「日帝36年」と呼ばれる日本による朝鮮半島統治で被害を受けたと主張する人々への気遣いや遠慮が、こうした空気を作っている。辛さんもある意味、日本の犠牲になった息子を持つ「被害者」であり、事実、つらい日々を送ってきた背景がある。「日本を理解する十分な資格」がそこにはあるのだろう。

 辛さんに、そんな考えをぶつけると、「大勢の韓国人は日本が大好きなんですよ。韓日関係が悪くなると、そんな主張がしづらくなることは事実ですけれど」と話してくれた。

 18年、日本を訪れた韓国人の数は750万人以上。今年初めに会った50代の韓国野党国会議員は、和室で浴衣姿でくつろぐ男女の写真を私に見せてくれた。彼は「同僚の議員たちと週末、青森県の温泉に行ってきたんだよ」と言って笑った。韓国からは日本各地の地方空港への直行便が延びている。日本の魅力にとりつかれ、度々訪れる韓国人も多い。

●世間の話題を集めやすく、反発を招きにくいツール

 最近では、東京や大阪に行くのは「イケてない」のだという。かつて20年以上、日本で勤務した元韓国財閥大手幹部は3月、自分のスマホの画面を私にかざした。そこには、日本各地の桜の名所の一覧が載っていた。この元幹部も「友人たちが、他の韓国人が知らない桜の名所を教えろって、うるさいんだよ」とうれしそうに語った。

 私の皮膚感覚でも、大多数の韓国人は日本人が大好きだ。今年3月1日、日本統治に反対して朝鮮半島各地で起きた独立運動は100周年を迎えた。この直前、知人(56)から連絡が来た。「娘が旅行で韓国に行くと言うんだが、行かせて大丈夫だろうか」。私は即座に「全く問題ない」と返答した。

 日本外務省は日本人旅行客らに安全への注意を喚起していたが、トラブルは全く起きなかった。

 それでは、日本のお茶の間でもよく紹介されている、「歴史認識を巡り、日本大使館前などで、日本を激しく非難する韓国人」という光景は、どうして生じてしまうのだろうか。

 1965年、日本は韓国と国交を正常化するにあたり、請求権協定を結んだ。「無償3億ドル、有償2億ドル、民間経済協力1億ドル以上」という経済協力には、徴用工問題などを含む様々な懸案を解決する意味が込められている。

 交渉に立ち会った町田貢・元駐韓公使(84)によれば、当時の日韓政府関係者の認識は、「竹島の領有権問題以外は全て解決した」というものだった。

 ただ、国交正常化後に、当時の当局者らが想定していなかった問題が三つ発生した。韓国人被爆者、サハリン残留韓国人、そして従軍慰安婦を巡る問題だった。

 日韓両政府は、「想定外の問題」として、この三つの問題に取り組んだ。

 双方は15年12月、最後まで残った慰安婦問題について、安倍晋三首相が謝罪し、日本政府の予算で慰安婦を救済する財団を設立した。問題は解決したはずだった。

 だが、18年11月、文在寅(ムンジェイン)政権は財団を解散する方針を発表した。なぜか。

 一つは、日韓両政府が主導したやり方が、韓国市民団体の「自分たちをないがしろにした」という不満を呼び起こしたからだ。日韓両政府が合意後、慰安婦への慰問事業などのフォローアップに消極的だったことも、この市民団体の主張を正当化する材料になった。

 文政権は、市民団体の不満がくすぶるなか、17年5月に誕生した。大統領選当時、候補者たちは、知人への便宜供与で国民の批判を一身に浴びた朴槿恵(パククネ)前大統領たたきに走った。各候補は、保守も進歩(革新)も入り乱れ、辛さんが胸を痛めたと語る釜山総領事館前の少女像を、我も我もと訪れた。文氏も17年1月に訪れ、像に献花。日本の公式謝罪と賠償を求める考えを示した。国内の政争が、「朴槿恵政権の業績の全否定」になり、一般市民が反論しにくい「慰安婦問題での日本バッシング」につながった。

 徴用工問題もその一つだ。徴用工像が韓国・ソウルの竜山(ヨンサン)駅近くに設置されたのは17年8月。主導したのは、文政権の有力支持団体である全国民主労働組合総連盟(民労総)だった。労働者の賃上げなどを主張する民労総にとり、徴用工像は世間の話題を集めやすく、かつ反発を招きにくい便利なツールだった。

●安倍首相と文大統領は、最も合わない組み合わせ

 特に、最近の韓国は忍び寄る超高齢化社会や若者の失業率増加などで、社会にストレスがたまっている。朴政権を退陣に追いやった「ロウソクの灯集会」は、たまりにたまった市民の不満の爆発だった。

 辛さんが通う「オリニ大公園」にも高齢者向けの無料炊き出し所がある。辛さんは「韓国では炊き出しのお世話になるお年寄りは、珍しくありません」と語る。「若い人は若い人で、就職難でみな釜山を出て行くんです」

 また、朴前政権は日韓関係の改善を模索していた13年秋、元徴用工への損害賠償を認める判決が予想される大法院の審理を遅らせるよう、司法に要請した。これが、文政権の「積弊(積み重なった旧来の弊害)清算」の標的になった。朴政権の要請を受け入れ訴訟の進行を遅らせたなどとして当時の大法院長(最高裁長官)は19年1月、逮捕された。

 従来の「日帝36年の被害者への配慮」に加え、「文政権への配慮」も加わって、慰安婦問題や徴用工問題で日本に理解を示す声は細くなる一方だ。

 問題はそれだけではない。

「今の日韓対立の根本は、首相官邸と青瓦台(韓国大統領府)の不仲にある」。先日、会食した日本政府当局者はこう言ってため息をついた。

 安倍晋三首相と文在寅大統領。歴代の日韓両首脳として、最もウマが合わない組み合わせだろう。

 不仲の契機は、18年2月9日、安倍首相の平昌冬季五輪開会式出席に合わせて行われた日韓首脳会談だった。

 安倍氏は会談で「米韓合同軍事演習をこれ以上遅らせずに、実施していくべきだ」と語った。韓国側の陪席者によれば、文氏の表情はにわかにかき曇り、不快感でいっぱいになった。文氏は「この問題は、我々の主権の問題だ。内政問題を、安倍首相が取り上げてもらっては困る」と反論した。

 韓国政府元高官は「文政権の最重要課題が南北関係。北朝鮮の問題で日本に口を出されるのが我慢ならなかった」と解説する。その後も、北朝鮮との対話を模索する文氏は、日本が「制裁の強化」を訴えるたびに、安倍氏に対するいらだちを深めていった。

 6月半ばに出版する拙著『ルポ「断絶」の日韓』(朝日新書)でも触れたが、文氏は「ホンパプ(一人ごはん)」が好きな性格で、それほど社交が得意でもない。自分から積極的に誤解を解く性格でないことも、日韓関係の改善が遅れる要因になったようだ。

 過去、最高の関係だった日韓首脳の組み合わせとしては、中曽根康弘首相と全斗煥大統領、小渕恵三首相と金大中大統領の組み合わせがよく挙がる。

 中曽根首相の場合、1983年1月の「電撃的」と言われた訪韓を果たしたとき、極秘で毎晩、風呂場で練習した韓国語によるあいさつを夕食会で披露。感涙した全氏が中曽根氏を誘って未明までうたい明かしたという。

●小渕首相は言ってのけた「あとは俺が説得する」

 小渕首相は、98年、難航していた日韓新漁業協定を合意に導いた。当時、竹島付近の海域の扱いを巡って、日韓事務当局が対立。新漁業協定の締結は至難の業とされたが、小渕氏は日本外務省や農林水産省に「事務方でとりあえずまとめろ。あとは俺が反対派を説得する」と言ってのけた。

 金大中氏も「ドラえもん」など、日本のアニメやテレビ番組などを韓国で放映する文化開放政策を推進した。政府内で「親日派だという反対が起きるのではないか」という懸念が起きると、金氏は98年4月、「恐れずに進めろ」と指示した。

 今、安倍氏と文氏に、先人たちのような熱意を感じることはできない。

 いくら市民レベルの交流が盛んでも、いったん国が態度を変えれば、すべてが水泡に帰すことは、古くは第2次大戦当時の日米関係、最近では米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の韓国配備を巡って激減した中国人の韓国訪問客の例を取ってみれば明らかだ。

 両国関係をどう修復するのかは、2人の首脳の考えにかかっている。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

※AERA 2019年5月27日号

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