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有志連合によるイラン包囲網への参加は「百害あって一利なし」

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/07/18 06:00 田岡俊次
ホルムズ海峡近くで攻撃を受けたノルウェーの海運会社が運航するタンカー(オマーン湾) Photo:AFP=JIJI © Diamond, Inc 提供 ホルムズ海峡近くで攻撃を受けたノルウェーの海運会社が運航するタンカー(オマーン湾) Photo:AFP=JIJI

急浮上した「有志連合」

政府は対応に苦慮するが

 7月9日、米統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード海兵大将は記者団に対し、ペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡などの航海の安全確保のため「有志連合」結成を目指し関係諸国と調整中であることを表明した。11日には米国務次官補デビッド・スティルウェル空軍准将(予備役)が来日、外務省、防衛省などとイランや北朝鮮情勢につき意見交換を行った。

 これに先立つ6月24日、トランプ米大統領はツイッターで「ホルムズ海峡を主たる原油輸入路としている日本、中国などが自国の船を自ら守るべきだ」と述べた。ダンフォード統参議長の「有志連合」結成論や、スティルウェル国務次官補の訪日は、トランプ大統領の意向を受けたものだと考えられる。日本政府は対応に苦慮しているが、「イラン包囲網」に参加する「大義」はあるのか。

米・イラン対立は

トランプ政権が引き起こした

 現在起きているイラン核合意をめぐる米国とイランの対立は、ひとえにトランプ政権が引き起こしたものだ。米・露・英・仏・中・独の6ヵ国とEUはイランの穏健派政府との2年以上の交渉の結果、2015年7月「イラン核合意」に達した。この合意では、イランは少なくとも15年間は、原子炉の燃料用の3.67%以上の濃縮ウランやプルトニウムを製造せず、濃縮用の遠心分離機の大幅な削減をし、その見返りにイランに対する経済制裁は解除することを定めている。

 国連安全保障理事会もそれを支持する決議をし、IAEA(国際原子力機関)は2016年1月、イランが合意を完全に履行したことを確認した。これで経済制裁は解除に向かい、話し合いによる解決の成功例となった。

 ところがトランプ大統領は2018年5月、一方的にイラン核合意離脱を宣言、経済制裁をすべて再発動した。米国はイランと取引をする外国金融機関等の企業にも制裁を再導入するとしている。それまでの対話の努力をすべてひっくり返す米国の離脱にはイランはもちろん、他の合意署名国も怒り、英、仏、独が遺憾の意を共同で表明したのは当然だ。

 このためイランは7月7日、核合意で上限とされたウラン濃縮3.67%を超えた4.5%濃縮を行うことを宣言したが、核兵器用の濃縮ウランはウラン235の比率が90%以上であり、4.5%は核兵器開発には程遠い。経済制裁が解除されないことへのイランの不満を示すジェスチャーにすぎない。

 米国はこれを「核合意違反」と非難するが、自国は核合意離脱を宣言。経済制裁を再開し、合意をほごにしたのだから、まるで契約を破棄して商品の代価は支払わず、「納入しないのは契約違反」と騒ぐようなものだ。

「日本タンカー襲撃」でも

米国の主張は不自然

 6月13日にホルムズ海峡の出口であるオマーン湾で日本の国革産業が運航するタンカー「コクカ・カレイジャス」(パナマ船籍、1万9000総トン)と、ノルウェー企業が運航していたタンカー「フロント・アルタイル」(マーシャル諸島船籍、6万3000総トン)が爆発物による攻撃を受けたこの事件につき、米国は「イランに責任がある」と主張、中東地域を担当する米中央軍は「攻撃は吸着水雷(Limpet Mine)によるものだ」との声明を出した。また「イランの革命防衛隊が不発だった水雷を日本のタンカーから回収し、証拠隠滅している状況を米軍が撮影した」とする“証拠写真”を公表した。だがこの主張には極めて不自然、矛盾した点がある。

 吸着水雷は強力な磁石を付けた小型爆弾で、アクアラングを背負ったダイバーがボートや小型潜水艇で港に潜入、停泊中の敵艦船の水線(海面の線)下に取り付け、時限信管で爆発させる。

 第2次世界大戦中の1943年9月、英軍特殊部隊の14人がカヌー3隻でシンガポールの港に潜入、吸着水雷で日本の貨物船7隻を沈没、または破損させた。1945年7月には英軍の超小型潜水艇でシンガポールに潜入したダイバーが重巡洋艦「高雄」の船底に吸着水雷を付け、大亀裂を生じさせた。人が抱えて泳げるような小型水雷でも、水中では爆発の圧力が周囲の水に抑えられ、船に向かって集中するから相当な威力を発揮する。

 だが「コクカ・カレイジャス」の破孔は1回目の午前6時45分頃の爆発によるもので、右舷船尾の水線より少し上だった。その約3時間後に起きた2回目の爆発は、右舷中央部の水線よりはるかに高い位置に小さな穴を生じさせた。

 泳いで船に接近するダイバーは、目標の船の水線下には比較的容易に吸着水雷を付けられるが、泳ぎながら水線より上に爆弾を持ち上げて付けるのはシンクロナイズドスイミングより難しいし、水線下に穴をあけないと効果は乏しい。

 まして2回目の攻撃の破孔は、水面から手が届かないような高い舷側に生じている。何のために、どうやって水雷を高い場所に取り付けたか、極めて不自然な話だ。もしヘリコプターか無人機が搭載する小型のミサイルを誤射すれば、このような被害が生じる可能性がある。

つじつま合わない「証拠写真」

「反イラク感情」抱かせる狙い?

「コクカ・カレイジャス」の航海速力は14.3ノット(時速26キロ)、航行中にダイバーが泳いで水雷を取り付けるのはまず不可能だ。サウジアラビアのジュベイル港に停泊中か、あるいは10日に出港したのちカタールのムサイード港に寄港した際に付けられた、ということになる。

 複数の水雷を付けるならほぼ同時に爆発するようにするはずで、3時間もの差があるのもおかしい。「コクカ・カレイジャス」の乗組員は「砲弾のような物が飛来した」と報告している。1回目の爆発は突然だから思い違いが起きる可能性もあるが、それによる右舷後部の火災を消し、緊張しているはずだから、もし右舷にもう1個異様な物体が付いていれば気付くだろう。「砲弾のような物が飛来した」との乗組員の証言は無視できない。

 イランの巡視艇が「コクカ・カレイジャス」に接舷し、革命防衛隊員が不発の水雷を回収している」とする米軍の“証拠写真”はつじつまが合わない。不発があったか否か、は事件後はじめて分かる。事件発生後にはタグボートが駆けつけてアラブ首長国連邦のカルバ港へ曳航し、米駆逐艦「ベインブリッジ」も来て同船の乗組員を一時収容、船内の安全確認を行ったのち乗組員は元の船に戻った。多くの人々の関心が攻撃を受けた船に集中する中、イラン革命防衛隊員が船に乗り込んで証拠隠滅をはかる、と言うのは変だ。まるで火災現場に消防車やパトカーが集まる中、放火犯が現れて証拠品を回収するような話だ。この写真は13日の夜に撮影されたようで、もしイランの巡視艇が来たのなら、米国あるいは他の反イラン勢力の犯行の証拠を探そうとしていたとも考えられる。

 米国は「吸着水雷」の磁石の破片を同船から回収し「イラン軍のパレードに出ていた物と酷似している」とも発表した。だが弾道ミサイルや戦車などが行進して威容を誇示するパレードに、特殊部隊が密かに使う小型水雷のようにまったく見栄えのしない物を出すとは考えにくい。

 ポンペオ米国務長官は6月13日の記者会見で「イラン政府は日本のタンカーを攻撃、乗組員の生命を危険にさらした。安倍首相がイラン訪問中に事件を起こして日本を侮辱した」と述べた。だが「コクカ・カレイジャス」はパナマ船籍でパナマ国旗を掲げ、船尾にも船籍港の「パナマ」が書かれている。

 船の所有者は法的にはパナマ企業で、それが日本企業の子会社であることは攻撃する側には簡単には分からない。ポンペオ国務長官は、米国の対イラン強硬策への国際社会の批判が強い中、なんとか日本人に反イラン感情を抱かせ、イラン包囲網に参加させようとしている様子だ。

 米国は「イランがホルムズ海峡の封鎖を目指している」と言うが、それをすればイランは自国の原油輸出を妨げ自分の首を絞める結果となる。一方、米国はシェール・オイルの産出で石油輸出国になったから、ホルムズ海峡の閉鎖で原油価格が上昇すれば、米国を利することになるのは明らかだ。イランが軽々とそのような愚行をするとは考えにくい。

米国の虫のいい構想

「自衛隊の派遣」否定は当然

 ロイター通信によれば、ダンフォード大将が想定している「有志連合」では米軍は指揮統制や警戒監視、情報収集を行い、各国の商船はその国の艦艇が護衛するという。米海軍は護衛の艦艇を出さず、指揮だけするなら、安上がりにイラン包囲ができる虫の良い構想だ。

 だが南シナ海の人工島問題で米海軍は中国海軍と張り合っているし、米中は「貿易戦争」のさなかだ。また中国はイラン核合意からの米国の離脱、制裁再開を批判しているから中国軍艦が米軍の指揮下に入ることはまずない。

 イランは19世紀から北のロシア、南のインドを支配するイギリスの圧迫を受けたため、、日露戦争での日本の勝利を喜び、伝統的に親日だ。第2次世界大戦では中立を宣言したが、英軍とソ連軍は南北から侵攻し、イランは両国に占領された。皇帝は捕えられ島流しされて死亡した。

 日本は米国が1980年に革命後のイランと国交を断絶しても、イランとの友好関係を保ち、国交を続けてきた。イラン核合意についてもそれを支持する立場だ。

「コクカ・カレイジャス」の乗組員の報告を聞いている日本政府は、米国が「イランの犯行」と叫んでも同調せず、「誰が攻撃したのか分からない」(石井国土交通相)「予断をもって発言することは控えたい」(菅官房長官)など慎重で、中立的姿勢を示した。岩屋防衛相も6月14日「我が国の存立を脅かす恐れはない」と述べ、自衛隊の派遣を否定した。岩屋氏は7月16日にも「現時点では有志連合に参加する考えはない」と述べている。

 米国が「日本の船は日本が守れ」と海上自衛隊派遣を要求しても、日本の船会社が海外に子会社を作り、外国船籍にしている「便宜置籍」の外航船は2411隻。日本船籍の外航船はわずか219隻だから、日本船籍の船だけを守ってもあまり意味がない。政府は便宜置籍船も合わせて「日本関係船舶」と称しているが、法的にはパナマやリベリアなど、他国の主権下にある船を海上自衛隊が護衛し、必要があれば武力行使をすることが自衛権の範囲と言えるか否かは疑問だ。

 日本の船会社はパナマ等の海外子会社の株主にすぎない。外国企業への出資者の権益を守ることが自衛権行使に当たるのならば、諸外国に進出している日系企業の工場等を戦乱や暴動などの際に守るために自衛隊を派遣したり、逆に日本にある中国企業の工場を中国軍が守ることも自衛権の行使ということになりかねない。

米国を「核合意復帰」に

誘導するのが良策

 仮に日本に食糧や石油などを運ぶ船が続々と撃沈され、日本国民の生存が脅かされるような事態になれば、海上自衛隊がどの国の船であろうが、日本に不可欠な物資を運ぶ商船を護衛し、通商路を確保するのは自衛の範囲だろう。だが今回の状況は岩屋防衛相も言う通り国家の存立に関わるような切迫した事態ではない。米国のオバマ政権が賛成して成立したイラン核合意に、米国が復帰さえすれば円満に解決する話だ。

 自衛隊法82条(海上警備行動)は「海上の人命、財産の保護、治安維持のため自衛隊に海上で必要な行動をとることを命ずることができる」と定めている。だが武器使用は警察官職務執行法に準じて、正当防衛等の場合以外には人に危害を加えてはならない。

 ソマリア沖での海賊退治に海上自衛隊を参加させた際、2009年に制定された海賊対処法(略称)は防護の対象を日本関係船舶に限らず、海賊行為の制止に武器使用も認めている。

 だが海賊は「私的目的」で行動するものと定義され、軍艦、公船に対して適用されない。イラン革命防衛隊は正規軍とは別組織だが、同国政府に属するから海賊ではない。

 もし日本が米国の要請に従い、ホルムズ海峡等に護衛艦、哨戒機、給油艦などを派遣するなら、新たな立法が必要だが、トランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱し、イランと取引する他の諸国の企業にも制裁を加えるとし、空母や爆撃機を派遣して威嚇するのに協力するための新法を制定するならば「横車協力法」と言わざるを得ない。今回は「有志連合」に加わる国は少ないだろう。自衛隊を米軍の指揮下に入れて、日本にとって「百害あって一利なし」の行動を取らせるよりは、他の諸国と連携して米国をイラン核合意への事実上の復帰に誘導するよう努める方が良策であるのは明らかだ。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)

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