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藤原帰一氏の警告「正しい戦争」は世界大戦になるのか ロシアとウクライナの戦争が行き着く先

現代ビジネス のロゴ 現代ビジネス 2022/06/12 06:00 藤原 帰一
ウクライナが戦っている戦争は、「正しい」。私たちは彼らを助けるべきだろう。だが、どこに線引きをして支援すればいいのか。プーチン大統領によって、世界は再び「戦争の時代」に突入しようとしている。著書『「正しい戦争」は本当にあるのか』が約20年ぶりに復刊された、藤原帰一・東京大学客員教授が警告する。

ロシアが核を使うとき

ロシアとウクライナの戦争は、「出口の見えない戦争」になりつつあります。核兵器を持っている大国の政治体制が崩壊するまで続く戦争なんて、私たちはこれまで見たことがなかった。

プーチン大統領にとって、この戦争に負けることは政権崩壊の危機につながります。ということは、プーチン体制が続く限り、戦争をやめることができない。しかし、NATO(北大西洋条約機構)の手厚い支援を受けて戦うウクライナに対して、ロシアが勝利をおさめることは難しい。

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今後、ロシアが巻き返せるとしたら、本土が攻撃され、ロシア国民が一丸となってウクライナや西側諸国に抵抗する場合です。そのときのロシアは恐ろしい。核兵器による対都市攻撃さえ可能性があります。たとえば、ドイツのベルリンに核兵器を撃ち落とすという途方もない話になる。NATO諸国とロシアの全面的な世界戦争にエスカレートする危険すら考えられるわけです。

そうした事態を招かないためにどうするかを私たちは考えなければなりません。

東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の藤原帰一氏はこう話す。藤原氏は国際政治学者として、戦争と平和について長年考え抜いてきた。その藤原氏は、終わりの見えないウクライナ戦争の行方を憂慮する。

ロシアのウクライナ侵攻は、「意味のない戦争」です。侵略に正当性がないばかりか、ロシアは勝つこともできないからです。どれだけ大規模な殺戮と破壊を行っても、ロシアの統治に反発し、広大な領土を誇るウクライナ国民を力でねじ伏せることなどできません。

逆に、「意味のある戦争」はこの世の中にあるのかと問うと、ウクライナの立場から見れば、これは「意味のある戦争」になります。ウクライナがロシア軍に抵抗して戦っている場合は、領土の防衛と国民の生命保護という二つの観点から、正当性がある。つまり、ウクライナ側から見れば、これは「正しい戦争」である、ということになります。これは非常に悩ましい問題です。

なぜなら、正しい戦争を戦っているウクライナを支援しなければならないからです。NATOはもっと介入して、ウクライナを支援するべきだという議論になる。そうなると、どの程度までウクライナを支援するべきなのかという問題が出てきます。これは非常にシビアな問題です。

ロシアを撤退させるために、ロシア本土を攻撃するべきだという意見も出てくるでしょうが、私は賛成できません。ロシア本土に対する攻撃が大規模に展開された場合、ロシアにとってみれば、自国を防衛する正当性が生まれるからです。

また、NATOが直接ロシアと交戦することになれば、ウクライナの抵抗を利用しながら、西側諸国とロシアが全面的な戦争を行うことになりかねない。こうした状況を踏まえ、今のところ、バイデン米大統領は、直接対決を極力回避している状態です。

バイデン大統領は5月31日掲載の米紙への寄稿で、ウクライナに新たなロケット砲システムを提供することを明らかにした一方、「ウクライナが国境を越えて(ロシアを)攻撃するよう促したり、できるようにしたりすることはない」とも説明。NATOとロシアの直接対決に発展しないよう配慮を見せた。

NATO側は、ウクライナの抵抗は支援するけど、ロシアとの直接的な交戦は避けるという微妙な線に留まっています。この選択は正しいと思いますが、その結果、ロシアとウクライナの戦争が長期化し、さらに多くの犠牲者が出ることになります。そのことで、ますますウクライナの抵抗が正当化され、この戦争は長引いていくでしょう。

泥沼化は避けられない

この長期戦の局面が変わるとしたら、ロシア側が「この戦争に勝った」と宣言して、一方的に停戦することです。もとより、ロシアがウクライナ全土を制圧することは不可能だったわけで、あとは勝てるところで領土を確保する以外に方法はないわけです。ウクライナ東部のドンバス地方と('14年にロシアが併合した)クリミア半島に接した地域を占領し、戦争に勝ったことにして、一方的に停戦を宣言する。

この場合、ウクライナとNATOは面倒な事態に追い込まれます。ロシアの停戦を認めると、2月にこの戦争が始まったときより、ロシアの領土が増えることになるので、ロシアが本当に勝ったことになってしまうからです。ウクライナのゼレンスキー大統領にすれば、ドンバス地方もクリミア半島も、もともと自国の領土ですから、すべて取り返したいと考えるのは当然のこと。ウクライナにロシアの新たな支配地域を認めさせることは難しいでしょう。

ですから、ロシアの一方的な停戦によって、いったん戦闘が止まる可能性はありますが、ウクライナは領土の割譲を認めることはできませんから、この停戦を長期間維持することはできないでしょう。結局、戦争が長期化することは避けられないのです。こんな無謀な戦争を始めたプーチン大統領には、ずっと頭にきています。

3つの誤算

プーチン大統領には3つの誤算があったと思います。まず、ウクライナ国民が結束することはないと考えたこと。ウクライナの中にはロシアの進駐を受け入れる国民が十分に存在すると考えたのでしょうが、決定的な間違いでした。ロシアが攻めることでウクライナはさらに結束を強めました。

2つ目は、NATOの結束が弱いと考えていたこと。プーチン大統領は、NATOがウクライナ支援を渋るだろうと考えたのでしょう。

たしかに、オバマ大統領はクリミア併合の際、軍事的な支援を渋りました。トランプ大統領に至っては、ロシアと連携さえしました。こうした経緯から、プーチン大統領は今回もNATOはウクライナを支援しないと考えたのでしょうが、これも誤算でした。

そして、3つ目は、ロシア軍の力を過信したこと。プーチン大統領は、チェチェンやジョージアなどで戦争を戦ってきましたが、それらはすべて短期の集中的な戦闘でした。今回も短期で勝利を収められると考えたのでしょう。

しかし、今回は戦争の規模が違い、そのため、空軍と陸軍の連携さえ取れていなかった。戦争に反対している私がこんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、こんな下手な戦争をすることが許されるのか、と変な憤りを感じています。

(週刊現代6月11・18日号より)

ウクライナとロシアの戦争が長期化するなか、日本では中国脅威論が改めて注目されている。後編記事『ロシアとウクライナの戦争がもたらす「中国脅威論」を考える』で引き続き、藤原帰一氏の洞察を紹介する。

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