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野田市小4女児死亡事件 児童相談所でなく、警察に通報するしか虐待死は救えない

AERA dot. のロゴ AERA dot. 2019/02/09 08:00
栗原心愛さんが書いたアンケートのコピー。担任が聞き取ったメモも記されている (c)朝日新聞社 © Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 栗原心愛さんが書いたアンケートのコピー。担任が聞き取ったメモも記されている (c)朝日新聞社

 児童相談所も、市役所も、学校も、虐待する父親の言いなりになった。どうすれば子どもを救えるのか。児童相談所のあり方が問われている。

 優しい父親の顔も見せていた。

「下の子の面倒をみてくれるようになったんです」

 昨年12月、冬休み前の保護者面談のため野田市立二ツ塚小を訪れた栗原勇一郎容疑者(41)は、心愛さん(享年10)の成長を担任教諭へうれしそうに話していた。

 一方、栗原容疑者の自宅マンション周辺では、複数の住人が男の怒声を聞いていた。

「黙れ」「うるさい」「死ね」

 新学期初日の1月7日、栗原容疑者から学校に電話が入る。

「(妻の実家がある)沖縄にいる。曽祖母と一緒にいさせたいので15日から登校する」

 昨年の夏休み明けも同様の理由で新学期初日を欠席し、1週間、学校を休んでいた。今回も元気に登校してくるだろう──。

 しかし、栗原容疑者は1月11日に再び自ら学校に電話をかけ、「曽祖母の体調が悪い。1月いっぱい沖縄にいたい。2月4日に登校する」。

 長期の欠席や休みは虐待のリスク要因とされる。異変に気づける最後のチャンスだったが、見逃さないための仕組み作りはなかったのか。千葉県柏児童相談所が長期欠席を把握したのは、栗原容疑者の2度目の電話から10日後の21日だ。

 二ツ塚小の杉崎哲実校長は本誌の取材にこう答えた。

「2度目の電話が入る前の10日と、2度目の電話を受けた11日の2回、野田市の児童家庭課に連絡を入れています」

 決められたルールはないが、学校が直接児童相談所に電話を入れるのではなく、まずは市の児童家庭課の判断を仰ぐのが通例となっていると説明した。何日以上の休みは児相に連絡するなどのルールがあれば、情報共有も早かっただろう。

 市の児童家庭課に確認すると11日に電話を受けたことを認め、「連絡を受けた職員が緊急性はないと判断し、児相への連絡もしなかった」(児童家庭課長)。

 最後のサインは市の児童家庭課で止まっていた。21日に柏児相が年明けの登校状況などを問い合わせるために二ツ塚小へ電話し、ようやく心愛さんの長期欠席を知るが、杉崎校長は「当然、児相はすでに市を通して知っていると認識していた」。

 学校、自治体、児相との連携がまったくとれていなかった。

 長期欠席を把握してからも児相が動くことはなかった。

「昨年の夏休み明けも長期の休みをとって問題がなかったので、今回も大丈夫だろうという判断だった」(児相幹部)

 柏児相によれば、長期欠席がわかった1月21日から心愛さんが亡くなる24日までの4日間の虐待受付件数は23件(全相談受付件数は77件)。緊急を要する虐待相談も含まれていた。一時保護所の定員は25人で、21日時点で28人が入所していたという。

 栗原容疑者は年明けの7日から東京の勤務先に出勤し、21日午後から、インフルエンザを理由に会社を休んでいた。

 栗原容疑者の逮捕容疑は、24日午前10時ごろから午後11時10分ごろの間、妻で母親のなぎさ容疑者(31)と共謀し、自宅で心愛さんの髪の毛を引っ張り、冷水のシャワーをかけ、首付近を両手でわしづかみするなどして首付近に擦過傷を負わせたというもの。なぎさ容疑者は「朝から夜までほとんど寝かせなかった。2日前から繰り返した」などと供述している。栗原容疑者は会社を早退した翌日以降、ほぼ一日中、夫婦で心愛さんに虐待を行っていたことになる。

 なぜ、幼い命は救えなかったのか。心愛さん自身、明確なSOSを出していた。

「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり起きているときにけられたり(中略)。先生、どうにかできませんか」

 2017年11月6日、当時通っていた野田市立山崎小学校のアンケートで父親からの虐待を訴えた。虐待の疑いを把握した柏児相が右ほおにあざがあることを確認し、一時保護した。同年12月27日に、近くに住む親族の元で生活することなどを条件に一時保護を解除したが、冬休み明けに心愛さんは登校しなかった。18年1月12日の市教育委員会指導課職員も交えた話し合いで、栗原容疑者は心愛さんが書いたアンケートのコピーを要求。「訴訟を起こすぞ」などと学校側の対応を非難した。市教委が「子どもの同意がなければ見せられない」と説明すると、栗原容疑者は週明けの15日、アポイントもなく市役所を訪れた。子どもの字で書かれた同意書を持参した栗原容疑者に、市は心愛さんに確認もせずコピーを手渡した。その後、心愛さんは18日に二ツ塚小学校に転校。同校で2回あったアンケートで虐待を訴えることはなかった。

 栗原容疑者の自宅周辺の住人が男の怒声を聞くようになったのは転校したころからだったようだ。アンケート回収を契機に虐待がエスカレートしたとも考えられる。アンケートの冒頭には「ひみつをまもりますので、しょうじきにこたえてください」「なまえをかきたくないばあいは、かかなくてもかまいません」と書かれていた。心愛さんはしっかり名前を書いていたが、秘密は守られなかった。

 2度目のSOSも放置された。

 親族のもとで生活することが心愛さんの一時保護解除の条件だったが、栗原容疑者は「お父さんに叩かれたのは嘘です」などと心愛さんに書かせた文書を柏児相に見せ、「連れて帰りたい」と要求。柏児相は5日の記者会見で、文書を不審に思ったが、心愛さんに確認することなく、親族宅から両親のもとへの帰宅を認める決定を昨年2月28日に下したことを明らかにした。心愛さんが書いたか不審に思った児相職員が約3週間後に面談した際、心愛さんは父親から母親にメールで届いた文を「見ながら書き写した」と打ち明けているが、柏児相は電話で栗原容疑者に心愛さんと面談した事実を伝えるにとどまった。これ以降、柏児相は栗原容疑者と接触はとっていない。学校に楽しく通っていることから、特別な対応は不要と判断していた。

 柏児相の直近1年の虐待相談受付件数は1594件。対する児童福祉司の数は41人(非常勤含む)。児童福祉司の勤務年数は3年未満が56%だった。虐待死事件が起こるたびに現場のマンパワーの問題も指摘されるが、児童心理司として都内の児童相談所に19年間勤務した「山脇由貴子心理オフィス」の山脇由貴子代表はこう話す。

「児童福祉司は児童相談所に配属された人間で、専門的な知識や技能を持った『士』職ではありません。ただ人を増やすだけなら、今回の容疑者のような悪質なクレーマーが出た場合、事なかれ主義で、判断ミスもなくなりません。数カ月の研修で現場に出て、数年で異動する現状から、専門職として採用する仕組みに変えるなど、質を上げていく必要があります」

 子ども虐待死ゼロを目指すNPO法人シンクキッズ代表理事の後藤啓二弁護士は「児童相談所や学校が、親に毅然と対応できない現実を踏まえた上での再発防止策が必要だ」と話す。

「警察と確実に漏れなく情報共有し、連携して対応する仕組み作りが最低限必要です。児童虐待の対応件数の約半数は警察からの通告ですが、児相が受けている残り約半数の事案は警察に共有されません。そのため、110番で警察が向かっても『夫婦げんかです』などとだまされて虐待を見逃し、その直後に虐待死した事件も実際にあります」

 後藤弁護士は児童相談所全国共通ダイヤル「189」ではなく「110」への通報を推す。

「通報を受けて48時間以内に対応すればいいというのんびりとした児童相談所に連絡するよりも、24時間対応し、ただちに子どもの安否を確認する警察が対応するほうが、子どもの安全を守れます。虐待親に対しても効果が全然違います」

(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2019年2月18日号

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