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スマホが脳の発達に与える無視できない影響 脳トレの川島教授が2つの実験結果から分析

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/05/20 13:00 川島 隆太
スマホ使用が脳に及ぼす影響を、軽視していませんか?(写真:さわだゆたか / PIXTA) © 東洋経済オンライン スマホ使用が脳に及ぼす影響を、軽視していませんか?(写真:さわだゆたか / PIXTA)

前回、「スマホを捨てれば子どもの偏差値は10上がる――『ながら勉強』が子どもに与える深刻な影響」という題で東洋経済オンラインに寄稿した。幸いにも、この記事は多くの読者から反響を得ることができた。

一方で、記事内で言及した「メディア・マルチタスキング(スマホで複数のアプリを同時使用すること)」の悪影響については懐疑的な意見も見られた。「要するにマルチタスクが悪いのであって、スマホ等使用そのものには害はないのではないか」といった内容だ。そう考える方々にとっては、私が子どものスマホ使用について、強い表現で警告を発したことがおおげさに思えたかもしれない。

そこで今回は、近著『スマホが学力を破壊する』の内容を基に、なぜ私がスマホ使用そのものに対して注意を喚起するに至ったか、最新の研究結果を踏まえつつ別の角度から説明を行いたい。

スマホを持っているだけで成績に影響する!?

 スマホを持っているだけで成績が下がる。こう言われると、うさんくささを感じてしまう方もいることだろう。LINEなどのメッセンジャーの使用や、マルチタスキングという使い方が問題なのであって、スマホ自体に罪があるわけではない。単に所持しているだけで成績が下がるなどという悪夢のようなことがあるならば、それこそ「魔法の機械」ではないか――。

 ところが、これがあながち冗談とも言えないのだ。私たちの研究は、スマホに直接触っていなくても、スマホを近くに置いておくだけでパフォーマンスが下がってしまうことを実験によって証明した。

 私たちが行った実験は、次の通りだ。大学生や大学院生数人で班を組ませ、事前にインスタントメッセンジャーを使ってグループを作っておく。そして、そのうちの1人に、コンピュータを使ってCPT課題と呼ばれる単純な作業を行わせる。

 CPT課題というのは、たとえば画面に〇が出たらボタンをできるだけ速く押す、×が出たら無視をする、といった課題だ。〇のマークを見てからボタンを押すまでの速さを計測し、脳の情報処理の速さの指標とする。また、ボタン押しの速さが作業中一定であれば、集中して作業をしていると判断できる。

 実験では、被験者のスマホを座っているいすの後ろに置き、作業中にスマホを見たり触ったりすることは禁止する。そして、人工的にインスタントメッセンジャーのメッセージが入ったときに鳴る通知音(「ピコピコン、という例の音だ」)、もしくは目覚ましに使うアラーム音を時々鳴らす。画面をみて作業をしている最中に、後ろで自分のスマホからピコピコン、もしくはビー・ビーと音がするのだ。その音が鳴っているときには作業のパフォーマンスはどうなっているか、様子を観察してみた。

 結果、インスタントメッセンジャーの通知音が聞こえたときには、単なるアラーム音が鳴ったときと比べて有意にボタン押しの速度が遅くなり、速度も一定にならないことが判明した。

 音が聞こえているという点では同じだが、前者の場合はグループの友達からメッセージが入ったことがわかり、相当に気が散ってしまい、これほど単純な作業であっても集中して継続できなくなってしまったのだ。

 ちなみに、同様の実験はアメリカでも行われており、その結果としても、「単にスマホが近くにあるというだけで注意力が散漫になる」ということが明らかになっている。こうした現象は「Brain Drain」―脳からの資源の流出―と定義され、注意が喚起されている。知らず知らずのうちに、脳のリソースがスマホに向けられてしまっているのだ。

 インスタントメッセンジャーには要注意。勉強をするときには、自分の傍にスマホを置いてはいけないということがわかる。しかし、これはあくまでもインスタントメッセンジャーという1つのアプリに関する話だ。スマホ使用全般については何が言えるのか。そこで、もうひとつの実験結果を紹介しよう。

「調べもの」にスマホを使ったらどうなる?

 一言で「スマホ使用」と言っても、その用途はさまざまだ。中でも、「調べもの」についてはLINEなどのインスタントメッセンジャーやゲームとは違い、直接日々の学習に応用できそうだし、脳もしっかりと働くのではないかと予想できる。

 そこで、脳の中でも記憶や学習に深く関連した部位である前頭前野の活動を、スマホを使って調べものをしているときと、スマホを使わずに同じような調べものをしているときとで比較する実験を行ってみた。前頭前野の活動を測定するために使ったのは、超小型近赤外分光装置(NIRS)と呼ばれる装置である。

 私たちの脳は、活発に働いている場所に酸素や栄養を送り込むときにたくさんの血液を流している。裏を返せば、血流量が多い脳の部位は、それだけ活発に働いているということになる。

 NIRSとは、近赤外光と呼ばれる光を頭の上から脳に向かって照らすことで、大脳表面の脳の働きを調べることができる装置だ。超小型NIRSから出た近赤外光は頭の皮膚や筋肉、骨を通過して脳に到達する。そして、どれだけの近赤外光が戻ってくるのかをセンサーを用いて測定することによって、通り道にどれだけ血液があったのかを計算することができるというわけである。

 実験の結果は以下のとおりだった。

 このグラフは、少し難しい言葉、一例として「忖度(そんたく)」という語の意味を紙の国語辞典で調べたとき(上)と、スマホを使用しウィキペディアを閲覧して調べたとき(下)の前頭前野の活動を比較したものだ。上も下も同一人物の脳活動を表している。青は大脳左半球の前頭前野の活動、赤は右半球のものを示す。

 被験者は、実験開始時は眼を開けたままボンヤリとしている。そして、「始め」と言われた時点から意味調べを始め、「やめ」と言われたところで行動を終了する。赤の矢印で示した区間が意味調べを実行している時間(約53秒間)である。

作業効率がいいのはスマホ使用時だが…

 国語辞典を使用した際には、時間内に3つの言葉の意味を調べることができた(黒の矢印①~③で示した部分)。一方、スマホを用いると5つもの言葉の意味を調べることができた(黒の矢印①~⑤で示した部分)。スマホを使ったほうがはるかに効率的だ。

 しかし、前頭前野の働きを見比べてみると、結果は驚くべきものだった。国語辞書を使っているときは、左右の大脳半球の前頭前野は活発に働いているのに、スマホを使うと、まったく働いていないことがわかる。

 さらによく見れば、脳活動を示す線は、大脳の左右半球とも、ボンヤリしているときよりも少し下がってしまっている。スマホで言葉調べをしているときには指先も使っているし文字だって読んでいるのに、前頭前野はボンヤリとしたままなのだ。

 どうもスマホを使うと前頭前野は働かないことがわかってきた。ちなみに、使用時に前頭前野に抑制がかかるのはスマホに限ったことではなく、ゲームやテレビ視聴も同様である。そして、前頭前野に抑制がかかるゲームとテレビに関しては、健康な児童・生徒の脳発達の経年変化をMRI計測により観察した結果、どちらも長時間プレー・視聴すると言語知能の発達に悪影響を及ぼすとともに、脳発達、特に前頭前野の発達に遅延が生じることが明らかになっている。

 そうした研究の蓄積を踏まえると、スマホ使用に関しても、長時間使用は前頭前野の発達に悪影響を及ぼしていると推測されるのだが、私の考え過ぎだろうか。

ITに脳の肩代わりをさせる代償

 さまざまな脳機能計測実験を繰り返すうちに見えてきた事実がある。

 対人コミュニケーション場面での脳活動計測を行ったところ、実際に誰かの顔をみて話をすると前頭前野は大いに働くが、テレビ会議システムを使って話をさせても、前頭前野は働いてくれないのだ。

 また、文章を書くときの脳活動計測では、手書きで手紙を書くと前頭前野はたくさん働くのに、パソコンや携帯電話で手紙を書かせても前頭前野はまったく働かないという結果が出ている。自分の手指を使った知的作業(この場合は手紙の作成)は前頭前野を活性化させ、ITを使った知的作業は前頭前野を抑制させている。スマホ使用は後者に近いと言えるだろう。

 ITを使うことで、なぜ前頭前野が働かなくなるのか。その理由は案外単純かもしれない。文章作成時にパソコンや携帯電話を使う場合、漢字を思い出し、それを文字として書いて表現するという行為をする必要が一切ない。仮名を何文字か入力し、変換して出てきた漢字が正しいかどうかを判断すればよいだけである。一方、手書きであれば、当然こうした一連の行為をすべて自分の脳を使って行う必要がある。

 対人コミュニケーションの場合はどうだろうか。テレビ電話を使うと、その場に相手がいないので気を使う必要もあまりなく、遠くの人にわざわざ会いにいく必要もないので、非常に楽で便利だ。一方で、すぐ目の前に相手がいると、相手の気持ちを察知して、時には先回りして気を使い、「空気を読む」ことを通してコミュニケーションの場を円滑にしようと自然と努力を行うことになる。

 これは、ヒトしか行わない行為であり、前頭前野の機能をフルに必要とする。しかしITがこうした空気を読む努力を不要にしてくれると、コミュニケーション時にわざわざ前頭前野を使う必要がなくなるのだ。

 便利なIT機器はヒトの脳が行うはずであった行為の肩代わりをしてくれる。だから、ヒトはその分の脳のリソースを使わなくても作業ができたと考えることができる。

 脳も身体も積極的に使わない状態を、ヒトは楽で便利だと感じる。そして、ヒトは楽で便利なものに価値を見いだし、喜んでおカネを払ってきた。文明の発達に伴って、人的、金銭的さまざまなリソースが投入され、楽で便利な状態が追求され続けてきた。現在の私たちは、その恩恵に大いに浴している。

 しかし、そんな生活の代償として、失ってしまっているものはないだろうか。

「使わなければ衰える」という鉄則

 私がこれまでの研究で大切にしてきたのが、“Use it, or lose it”という考え方だ。“使うのか、さもなくば失うのか?”というのが直訳であり、もともとは身体機能の加齢現象を語るときに使われ出した表現である。普段から意識的に運動を続けていれば、身体機能は晩年まで保たれる。反対に、まったく運動をしないで過ごしていると、たとえ若い人であっても身体機能はすぐに衰えてしまうというのがわかりやすい例だろう。

 この考え方は、現在では脳機能に関しても適用されている。毎日の生活の中で積極的に脳を使わないと、脳機能はどんどん低下することがわかっているのだ。

 私は、「脳トレ」の開発をはじめ、これまで産学連携研究において、製品やサービスを使用したときにきちんと前頭前野を使うことができているのか、“use it”の状態を作り出すことができるのかという点を最も大切な評価と位置づけてきた。

 前頭前野が発達していることが、ヒトの脳の最大の特徴であり、前頭前野には人間ならではの「こころ」の働きが局在している。子どもの脳の健全な発達を支援したい場合も、高齢者の脳をいつまでも健康に保ちたい場合も、日常生活の中で前頭前野をきちんと使うことを支援できるものに価値があると考えてきた。

 しかし、便利なスマホを頻繁に用いると、コミュニケーションも対面型のリアルなコミュニケーションの機会が減り、情報処理も自分の脳を使う頻度が減ることになる。洪水のような大量の情報を受動的に受け取り、検索や変換もスマホが自動的に予測を出してくれる。そんな日常生活の中で、発達期の子どもたちが脳を使う機会がどんどん奪われることになるのだ。前頭前野を使う“use it”の機会が減り、“lose it”が進んだ子どもたちは、将来どうなるのか。そのことを私たちは真剣に考えなければならない時が来ていると思う。

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