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「不倫で番組降板」がアメリカではありえない訳 政治と芸能を「同価値に扱う日本人」の奇妙

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2020/06/27 17:00 猿渡 由紀
アメリカでなら渡部建さんも「活動自粛」しなくてもよかったかもしれない(写真:時事通信フォト) © 東洋経済オンライン アメリカでなら渡部建さんも「活動自粛」しなくてもよかったかもしれない(写真:時事通信フォト)

 お笑いタレント渡部建さんの不倫が、あいかわらず日本のメディアを騒がせている。彼が謝罪会見をするのかしないのかにも、注目が集まっているようだ。

 一方、海を越えたアメリカでは最近、人気司会者のジミー・ファロンが自身の番組『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』でアメリカ国民に向けて謝罪をした。彼は別に不倫をしたわけではない。

 『サタデー・ナイト・ライブ』のレギュラーだった2000年に、クリス・ロックのモノマネをするため顔を黒く塗ったことについて謝ったのだ。20年前の出来事とあり、多くの人は覚えてもいなかったのだが、「Black Lives Matter運動」によって問題が再燃したのである。

「黙っていることは、一番の罪です」

 当時を振り返り、ファロンは、「非常に恐ろしくなりました。この番組が打ち切りにされるとか、自分が雇ってもらえなくなるからという理由ではありません。もちろん、それも怖いです。しかし、一番の恐怖は、彼(ロック)に、自分は彼のことが好きなのだというのを信じてもらえるだろうかということでした。僕は彼のことを誰よりも尊敬しているんです」と語った。

 また、知人から「何も言わないほうがいい」とのアドバイスも受けたが、それではいけないと思ったとも明かしている。「黙っていることは、一番の罪です。僕のような白人の男は、何か言わなければなりません。それも、言い続けなければ。1回だけツイッターでつぶやくのではなくて」とも述べている。

 その真摯な謝罪は、CNNの黒人キャスターであるドン・レモンからも評価された。ジェイミー・フォックスもインスタグラムで「君は謝らなくていい」と養護し、ファロンを批判する人に対し「怒るべき相手はもっとほかにいる」と指摘している。おかげで彼への非難は収まり、彼は番組を降板せずにすんだ。

 彼自身が誰よりも感じているだろうが、ファロンは幸運に恵まれた。今のアメリカでは、差別的な発言や行動をしたタレントは、たちまち仕事を失うからだ。

 コメディアンのケビン・ハートは、2009年ごろにツイートしたゲイ差別コメントを掘り起こされて、2019年のアカデミー賞授賞式のホストを降板することになった。すぐに謝罪をしなかったのも、ハートの状況を悪化させた原因のひとつ。

 同じようにずいぶん昔の差別的コメントを引っ張り出された映画監督のジェームズ・ガンも、謝罪をしたにもかかわらず、マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』3作目の監督を降板させられた(しかし彼には多くの同情が寄せられ、しばらく時間が経った後にライバルのDCコミックの『ザ・スーサイド・スクワッド』の監督に起用されている)。

 また、オバマ前大統領の側近を「猿」にたとえるという差別発言をツイートをし、謝りもしなかったコメディアンのロザンヌ・バーは、自身の名前を冠にしたコメディドラマ『Roseanne』を即座にクビにされた。

 当時トップの視聴率を誇っていたのに、テレビ局ABCと親会社のディズニーは躊躇なく番組を打ち切ったのだ。その後、番組は、バーのキャラクターを死んだことにして、『ザ・コナーズ』とタイトルを変えて復活している。

差別はダメでも「不倫」には寛容なアメリカ

 今やったことであれ、大昔の失敗であれ、ハリウッドのタレントは差別発言をしてしまったら、絶対に公に謝罪をしなければならない。一方で不倫で謝罪会見をすることは、まずない。

 世間もそれを求めていないし、不倫したタレントが映画やテレビから降板させられることもない。事実、ジュリア・ロバーツやブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー、ベン・アフレックなど、不倫経験があることで知られるスターは今も大活躍している。

 なぜ差別をした俳優は即座に解雇され、不倫はお咎めなしなのか。ロサンゼルス在住の映画ジャーナリストのジル・プリングさんは、「結局のところ、ハリウッドにとって一番大事なのはお金だからでは」という。

 「人種差別発言をした俳優が出る映画は、興行成績にすぐ影響します。でも、不倫はそうではありません。それは実績として証明されています」と、プリングさん。たしかに、たとえば黒人に向けての差別発言をした場合、黒人はもとより、ほかの有色人種やリベラル志向の白人は、その俳優の映画を観に行かないだろう。

 実はその映画を観たいと思っていた人も、周囲の目を恐れてやめるかもしれない。その割合は相当なものだ。さらに問題の俳優を雇い続けることで、そのスタジオは人種差別者を擁護していることになり、ほかの作品までボイコットされてしまう危険がある。映画を作るのには多額のお金がかかるのに、そんなことになっては台無しだ。

 では、なぜアメリカの観客は「不倫したスターを出すな」と怒らないのか。『MEG ザ・モンスター』『ヒステリア』などのプロデューサーのケネス・アチティさんは、「スターのセックスライフなんて、どうでもいいことだからですよ。LGBTの権利が広く受け入れられてきた今では、なおさらです」という。

 それは納得だ。「文春砲」が現政権の汚い秘密を暴露するのと同じように、芸能人の私生活の秘密を明かす日本。影響力を持つ雑誌が「政治スキャンダル」と「芸能ゴシップ」という真逆のテーマを同程度に扱う結果、日本人の多くが両方に興味を持ち、同じ重みを持っている。

 アメリカでは、政治スキャンダルや芸能ゴシップネを扱う媒体はまったく別で、そこにははっきりとした線がある。ゴシップ専門の雑誌やサイトにまるで興味がない人は、それらの“ニュース”を知らないし、知りたいとも思っていない。ゴシップの需要が十分あるかたわら、それらをいっさい読まない人もたくさんいるのだ。

 また、アメリカ人にとって「しょせんはよその家の中のこと」という認識が強いのも関係しているだろう。不倫は当人たちの問題であり、ほかが立ち入る領域ではないという考え方だ。裁判所ですら立ち入らないのである。

 アメリカでは離婚において「有責」という概念がなく、どちらが悪かったかは関係がない。すなわち、慰謝料も存在しない。ハリウッドスターが離婚で多額のお金を払ったというニュースは時々出るが、それは慰謝料ではなく、財産分与だ。不倫をしたのは向こうなのに、稼ぎが多いがゆえに不倫されたほうが財産を払うはめになるということも、しょっちゅう起こる。不条理な話だが、それこそ、ふたりの大人の間の問題である。

差別に怒るアメリカ人、不倫に騒ぐ日本人

 人種差別発言は、世の中に悪影響を与える。みんなが良い方向に変えようと努力している今のような時代は、なおさらだ。そんな勢いに水を差し、時代を逆行させるような発言をしてしまったら、謝罪し、正さなければならない。差別の対象となる人々にも、傷つけたことをお詫びしなければいけない。

 一方で不倫は外に迷惑をかけない。だからアメリカのスターは、「プライベートな話はお断り」と言えばすむ。雇う側も気にしない。前述のアチティさんも、「ある俳優が不倫をしたとわかったところで、キャスティングを変える必要は微塵も感じない」と言っている。

 もちろん不倫は人として、いけないことだ。道徳的に間違っているし、身近な人、愛する子供を傷つける行為である。だが、それは本人が一生、肩に背負っていく個人的な罪。外部は決して、それを「裁く」権利をもたないのだ。

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