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天皇が怖れ、病床に伏し… 月岡芳年、一勇齋國芳を魅了した「ぬえ」の怖さ

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2020/12/30 17:10 山内 宏泰

「あれは鵺(ぬえ)のような奴だ……」

 などと言えば、正体や本心が読めぬつかみどころのない人物像を指す。

 慣用句にもなるこの「ぬえ」とは、いったい何だったか。

 古くから伝わる、モノノケの類のことである。その姿は、ここに掲げた絵に描かれているとおり。たしかになんとも得体が知れず、それゆえどこまでも気味が悪い……。

明治時代の「怪物画本」より 画像提供:国際日本文化研究センター © 文春オンライン 明治時代の「怪物画本」より 画像提供:国際日本文化研究センター

平安時代に現れ記録に残る「ぬえ」

 かつてぬえが現れたときの様子は、『平家物語』その他にしかと記述が残っている。

 ときは平安時代が幕を閉じようとしているころ。天皇のおわす御所の上空に、夜な夜な黒雲が生じ、その内側から嫌な鳴き声が漏れ出した。天皇はこれを怖れ、病床に伏してしまう。

 すわ一大事、一刻も早く怪物を退治せん。そこで武術に秀でた源頼政が駆り出され、黒雲の中へ弓を向けた。

 放った矢は命中したよう。悲鳴とともに天から京の町へ落ちてきたのが、「ぬえ」だった。

 このバケモノの姿がどんなだったかといえば。頭は猿で、胴は狸、尾っぽは蛇、手足は虎の形態を持つ、この上なく奇態なものだったという。

 ここに上げた「ぬえ」の絵はそれぞれ、明治時代につくられた「怪物画本」からのもの、同じく明治時代の絵師・月岡芳年の手になるもの、そして江戸時代末期の絵師・一勇齋國芳によるもの。

 たしかにこれは妖しげで、何をされるかわかったものじゃない。つかみどころがないというのは、否応なく不安や恐怖を煽るのだと改めて知る思いだ。

各部位がめでたい動物ばかりでできていたら

「ぬえ」は、さまざまな動物の部位が混ざっていて、なんだか怖い。では各部位が、めでたい動物ばかりでできていたらどうだろう? たとえば、ひとつの個体に十二支がすべて同居していたりしたら?

 そんな発想から創造をした人は実際にいて、江戸時代の何人かの浮世絵師が作例を残している。

 十二支が詰まった生きものなんて、きっと「キモかわいい」ならぬ「キモめでたい」に違いない。これをぜひ現代に甦らせようと、創作に挑んだアーティストがいる。

 日頃から神獣などをテーマに作品を制作してきたfeebee(フィービー)だ。

新年にふさわしく晴れやかなfeebeeの「ぬえ」

 イラストレーターの経歴も持つfeebeeの持ち味は、力強い線の表現とビビッドな色彩感覚。自分の特質を活かすべく、アダチ版画研究所と手を組んだのだった。

 卓越の彫師、摺師を揃えて、伝統木版画を制作しているのがアダチ版画研究所である。feebeeの描いた原画をもとにして、昨年は『寿という獣 子』を、そしてこのたび『寿という獣 丑』という新作浮世絵を完成させた。

『寿という獣 丑』を見れば、なるほどベースは2021年の干支である牛の姿だとすぐわかる。同時に尻尾が蛇だったり、前脚は蹄鉄をつけた馬のものだったりと、十二支がすべて一頭の中に埋め込まれているのにも気づく。

  これが実際に生きて動いていたら、そりゃこの上なく気味悪いだろうけれど、絵柄としては新年を迎えるに当たってまことふさわしく晴れやかだ。

 版画作品『寿という獣』シリーズはアダチ版画にて購入が可能。feebeeは現在、六本木ヒルズA/Dギャラリーで個展「変化しつつ循環するもの」(1月3日まで)も開催中である。

 

(山内 宏泰)

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