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【寄稿】「不妊治療は時間との闘い」妊活か自粛か...どうするコロナ禍の不妊治療 専門家の見解

FNNプライムオンライン のロゴ FNNプライムオンライン 2021/09/15 11:44 FNNプライムオンライン
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2021年8月千葉県で新型コロナウイルスに感染した29週の妊婦さんが医療機関を受診することができず、自宅で分娩された赤ちゃんが亡くなったことが報道されました。

【図解】妊娠率、生産率は年齢を重ねるにしたがってこんなに低下する

コロナ禍の今妊娠しても大丈夫なのか、妊活は控えるべきで、不妊治療は不要不急なのかという疑問を持たれる方もおられるかと思います。妊婦さんや妊活中の方からワクチンを接種してもいいかという質問もよく頂きます。

コロナ禍の不妊治療の現場で、患者さんや医療従事者の声や情報と不妊治療施設の現状についてお話しし、ワクチンについても解説を加えさせて頂きます。

妊活・不妊治療は不要不急か

新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより医療機関では感染症治療のために人的・物的資源の集中が求められ、病床は逼迫し、高血圧やがんなどの治療延期や病床縮小等の影響、また患者さんの通院控えという問題が生じています。

最近では入院待機患者数の増加が喫緊の課題となっています。生殖医療領域でもコロナ禍の治療に対する疑問が提出され、2020年4月日本生殖医学会から不妊治療の中止ないし延期を勧奨する声明がだされ、社会的には不妊治療のみならず妊娠やいわゆる妊活に対する不安も増大しました。

実際に2020年第1回緊急事態宣言(4月~5月)直後の5月に不妊治療施設の外来患者数を調べてみると激減していたことがわかります(図1)。

90%以上の施設で患者数が減ったと答え、50%以上減ったと答えた施設が36%を占めました。

しかしその6か月後の調査では、患者数がもどり、45%の施設では以前と変わらないレベルまで回復し、「減っている」という施設でも減少率はわずかとなりました。 この間新型コロナに対する理解や知識が普及し、対応もできてきたものと思われますが、患者さんや医療者の不妊治療に対する考え方も変わったのでしょうか。

次にお示しするのは、「不妊治療は不要不急か」という問いに対する、不妊患者さんおよび不妊治療に従事する医療者の回答です(図2)。

2020年5月の段階では患者(20%)および医療者(11%)に不妊治療は不要不急という回答がありましたが、ともに11月の時点では1ないし2%に著明に減少しています。生殖医学会声明および緊急事態宣言下で不妊治療に対する不安は大きかったが、新型コロナに対する理解、対策が進むにつれて前向きに考える傾向が見て取れると言えるでしょう。

ただ新型コロナに対する理解だけで、不要不急でないと考え、不妊治療に戻ってくるでしょうか。すこしこじつけ気味ですが、ここで「孫氏の兵法」を紐解きましょう。「敵を知り己を知れば百戦してあやうからず」。この場合、敵はコロナですが、己は自分がどれほど子を欲しているのか、不妊状態であれば原因はなにか、どうすれば妊娠できるのかということです。

主治医や様々な情報手段もありますが、最終的に決断するのは患者さんでありご夫婦です。不要不急ではないことには理由があります。

不妊治療は時間との闘い

図3に生殖補助医療体外受精による成績を示しました。

年齢が上がることにより妊娠率や生産率は低下し、流産率が上がることがおわかりになると思います。40歳に着目してください。生産率は10%ですが、42歳では約半分の5%に低下します。一方流産率は30%から45%と1.5倍に増加します。図には示していませんが、胎児の染色体異常も年齢とともに高くなります。ダウン症を例にとれば、20代では0.1%程度ですが、35歳で0.3%、40歳で1%、45歳で5%と急増します。

不妊治療は時間との闘いの一面もあります。患者さんは1周期1周期を大事にされ、我々医療者もそれに寄り添います。30代後半から40代の不妊患者さんが、図3にお示しした内容を知り、理解されて、不妊治療を不要不急とは考えないことは、多くの人にご理解いただけると思います。

2013年度の流行語大賞に受験勉強「いつやるか? 今でしょ!」というものがありました。受験は1年待つ余裕も大事かもしれませんが、子供を授かるには余裕よりも今が大事であることを患者さんご夫婦はもちろん、周囲の方々のご理解ご協力も大事だと思います。

ただし新型コロナは2020年4月の時点では妊娠や胎児に与える影響は不明な点が多く、ワクチンや妊娠中に罹患した場合の対応など未知な部分も多かったことも事実です。その不安に対しては、受精卵の凍結という対応策もあります。凍結により受精卵は着床率、妊娠率に影響なく保存することができるのです。

余談ですが26年間の凍結後に移植して無事子供が生まれたことが報告され、今のところ最長記録とされています。それはさておき、不妊治療は中止せず、受精卵を凍結しコロナが落ち着いたところで移植し妊娠するという方法も選択肢としてありうる訳です。次に実際の不妊治療施設での治療実績をみてみましょう。

不妊治療施設の治療実績

不妊治療施設での治療実績としては、地域差等を除くため三つの施設(東京都港区山王病院、京都府京都市田村秀子婦人科医院、福岡県大川市高木病院)の採卵数と移植数の推移を2019年から2021年の8月まで月別に比べました。1月12月の採卵数が毎年度低めなのは正月休みの影響であるなど季節変動も見られます。

2019年に比べて、第1回の緊急事態宣言下、不妊治療が不要不急かと議論された2020年4月5月の数字が注目されます。採卵数は変化がないようにみえますが、京都および福岡では減少傾向が認められました。山王病院ではむしろ増加していたため、合計すると差がなくなりました。山王病院では、患者さんの平均年齢が他の二施設より高いこと、テレワークにより「勤務状態の変化で通院が容易となった」患者の割合が多いことなどが要因として考えられます。その後、採卵数は、2019年を超える傾向が第5波下の緊急事態宣言下でも続いています。

移植数は、2020年4月5月山王病院を含め大きく落ち込み三施設合わせて前年の三分の二程度という結果でした。コロナへの不安から、採卵はしても、移植は延期しようという動きを示すものでしょう。しかしその後6月以降は前年を超えることが多く、4月5月の遅れを取り戻す心理が働いた可能性があると思われます。その後はコロナの波による影響は見て取れないように思います。

移植の数の減少は、妊娠数の減少につながり、当然最終的に出産数が減少します。2020年4月5月の不妊治療による妊娠は2021年1から3月に結果がでるわけです。その目で山王病院の出産数をみると、不妊治療による妊娠数の減少だけでは説明できない出産数の減少がありました。不妊患者さんはコロナへの理解と医療側の対策もあり、回復したと言えますが、緊急事態宣言以降、一般の方の妊活が控えられる状態が続くと、少子化に加速がかかることが懸念されます。

図4は三施設の採卵数と移植数の推移

妊娠中のコロナワクチン接種

妊娠中あるいはこれから妊娠を考えている方にとってワクチンを接種していいものか、すべきでないかという疑問が大きいことは理解しております。表に新型コロナウイルスを含め、妊娠中に特に気になるウイルスの代表的なものを列挙しました。

妊婦は免疫機能に変化があり、お示ししたウイルス感染で症状がより悪くなる可能性があります。さらに子宮が大きくなり横隔膜が圧迫され心肺機能に影響があり、新型コロナウイルスとインフルエンザでは、罹患した場合肺炎が重症化しやすいのです。また新型コロナは早産を起こすリスクは高いといわれ、冒頭で述べたコロナ感染妊婦さんが未接種であれば新生児死亡もワクチンで防げたのかも知れません。

とはいえ、なんでもワクチンをというのではありません。表に示したように風疹は胎盤を通って胎児感染し先天性胎児風疹症候群という様々な奇形を起こすことが知られています。麻疹も流早産・死産のリスクを上げます。ここで注意しないといけないのは、風疹・麻疹のワクチンは生ワクチンで妊娠中に接種できません。抗体の低い方は妊活開始前ないし産褥期の接種をお勧めします。

新型コロナのワクチンは欧米諸国などで妊婦投与も先行して行われ、接種による予防効果、罹患した場合の症状悪化の防止さらに胎盤を通じてできた抗体が胎児に移行するなどメリットは確認され、妊娠中の投与により通常より強い副反応は見られないことが報告されています。

妊活中の方、妊娠中の方を問わず新型コロナはできるだけ早い時期に接種を受けることをお勧めします。妊婦さんへの優先接種も始まっています。妊娠中の方でご心配なら、産科施設を伴う接種場を選んで受けるのも安心だと思います。

不妊治療は不要不急ではなく、取り組むべき時に取り組む必要があることを訴えさせて頂きました。お示ししたデータからは、現場の患者さんは自分の状態をよく理解していて、コロナの予防に努めつつ、治療を完遂しようとしたことが読み取れたかと思います。

不妊かもしれないと悩む方や迷っている方がご覧になって、一歩を踏み出せるきっかけになることを期待します。

【寄稿:医療法人財団順和会山王病院 名誉病院長 堤治】

【図解イラスト:イラストレーター さいとうひさし】

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