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教師の学校内「わいせつ犯罪」が一向になくならない理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/06/09 06:00 プレスラボ
教師の学校内「わいせつ犯罪」が一向になくならない理由: ※写真はイメージです © diamond ※写真はイメージです

224人。これは2015年度にわいせつ行為で処分を受けた公立小中高校の教員数(文部科学省調べ)だ。このうち懲戒免職者数は118人。1990年代と比べ、同行為で処分を受ける教員の数は目立って増えている。これまで隠されがちだったわいせつ事件の告発が増えたためと考えられるが、一方でこれもまだ「氷山の一角」という声もある。なぜ教師によるわいせつ事件は起こるのか。「学校」という特殊な場所で起こる教師から生徒への性的な加害について、『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(幻冬舎文庫)著書の池谷孝司さんに話を聞いた。(取材・文/小川たまか、プレスラボ)

教師のわいせつ行為の処分は1990年に比べ10倍に

 4月27日、愛知県教育委員会は県教委の50代男性職員を懲戒免職処分とした。8年以上前に複数の教え子に対してわいせつ行為を行っていたことが発覚、その後、県立高校の教頭から県教委に異動していた。大阪府堺市では、50代の男性の高校教諭が、部活動で指導していた女子生徒を呼び出し、校内で全裸にさせるなどの行為を行っていたことが明らかになり、5月29日付で懲戒免職処分となっている。

 わいせつ行為で処分を受けた公立小中高校の教員数(2015年度)は224人。1990年度(22人)から比べ、約10倍に増えていることがわかる。これはこの20年で倫理観のない教師が増えたからというわけではなく、明るみに出る事件が増えたためと考えるのが妥当だろう。

 『スクールセクハラ』の著者で共同通信社の記者、池谷孝司さんは同書の中で、2001年7月に起こった事件がきっかけとなり、「文科省がようやく重い腰を上げ、教師によるわいせつ行為には原則、懲戒免職で臨む方針に転じた」と指摘している。中学教師が女子中学生に手錠をかけて監禁し、逃げ出そうとした中学生が死亡した事件だ。

 同書は、学校内で起きた、教師から生徒への性暴力を告発した一冊だ。被害経験を忘れられず長い間苦しみ続ける生徒と、「同意だったはず」と主張する罪悪感のない教師。

 そして、告発を行おうとする生徒やその保護者には、学校関係者や他の保護者から「嘘つき」「モンスターペアレント」という言葉が浴びせられる。取材から浮かび上がるのは、教師から生徒への性加害という「あってはならないこと」が隠匿され続ける構造だ。池谷さんに、教育機関という構造の中で起こる性加害について、話を聞いた。

被害の告発者が嘘つき呼ばわりされる

――『スクールセクハラ』は2014年に発売、今年になって文庫版が発売されました。発売からの3年間でも、教師の処分数は増えています。

 2013年度に初めて200人台を突破し、2015年度には全体の処分者数としては過去最高の224人でした。過去には、「まだ先生も若いんだから」と内々にすませてしまうということがあった。たとえば転勤で終わりにする、ということもあったんですね。最近ではコンプライアンスの意識が高まって、件数としては上がりやすくなってきた。それでもまだなかなか表ざたにならないケースはあるでしょうね。

――表ざたにならない理由として、性暴力の場合、体罰やいじめの問題と異なる要因もあると思います。

 性暴力の場合特に、被害者の方が言いたくなかったり、誰に相談したらいいのかわからなかったりということがある。友達には話せても、親や他の先生に言うことはできない。ハードルが非常に高いですね。

――伝えたとしても「嘘つき」などと言われて信じてもらえないケースがあることが、『スクールセクハラ』では書かれています。

 学校も他の保護者も、その教師に部活動や受験指導などで実績があればあるほどかばいます。だから被害者が嘘つき呼ばわりをされる。せっかく勇気を振り絞って話をしたのに、それが本人にとってより不利益になってしまうことがある。また、被害を訴えると、担任から校長から、教育委員会から……と、何回も聞き取りが行われて、何度も同じ話をしなければいけないということもある(※1)。被害者にとって不利益になることが多いのが、スクールセクハラの特徴です。

――その後の人生にも影響がある場合があります。

 被害を訴えた中学生に厳しい目が向けられ、志望していた公立高校ではなく他県の私立高校に進まなければならなかったケースもあります。これも周囲からの評価が高い教師だったケースでした。このケースの場合、精神的なダメージが大きくて進学先の高校でもうまくいかなくて、学校を辞めてしまった。被害はその後の人生に大きな影響を落とすのです。大人になってからも、たとえば60代になっても被害を忘れられない方もいます。そういう方々から、多く反響をいただきました。

(※1)性犯罪についての聞き取りは被害者にとって大きな負担となることから、短時間、一度で正確な聞き取りを行うことが求められ、民間が行う研修もある。しかしこれが現場で順守されているとは言い難い。

性被害、立件への高いハードル性犯罪刑法改正、残る問題点

――『スクールセクハラ』の中には、これは強姦事件なのではないかと感じるケースもあります。懲戒免職となっても、刑事処分を受けていないケースもあるわけですが、刑事事件になるものとならないものの違いは何なのでしょうか。

 刑事事件として立件するハードルはとても高いです。証拠や証言を揃えられるのか。現状では(強姦や強制わいせつは)親告罪(※2)ですので、訴えたいという本人の意思が固いかどうか。本人や家族が「おおごとにしたくない」というのが、とても大きいですね。ただ強姦ではなくて条例違反(18歳未満との性的行為)での立件の場合は、証拠がはっきりしていれば本人の申告は不要です。

 まず被害を周囲の大人に言えるかということ自体が大変で、さらに教師を処分できるか、民事訴訟で賠償を求められるか、刑事事件にできるか、それぞれの段階でハードルはどんどん高くなります。

――今国会で審議入りした性犯罪刑法の改正点は主に5つですが、審議会で検討されたものの見送られた項目もいくつかあります。見送られた項目のうち、スクールセクハラに関するものは主に2つあると思います。1つは時効撤廃です。子ども時代の性被害は特に、被害を認識し、訴えるまでに時間がかかる場合があることから、性犯罪について時効の撤廃が検討されていました。しかし、これは見送られました。

 小学生だと性的なことの意味がわからなかったりするし、中高生でも被害を言いづらい。何年も経って、大人になってから被害を訴える人は結構います。過去の判例で言うと、時効を問題の行為があったときからではなく、卒業時点からカウントするという例もありましたが、時効をどうするべきなのかという問題は常にあります。時効が撤廃されれば被害者を救いやすくなったとは思います。残念ですね。

――事件から時間が経つことで「証拠が散逸する」とか、「子どもの記憶は曖昧で信用しづらい」という反対意見があったようです。

 証拠が散逸するといっても、殺人の時効はなくなっています。子ども時代の証言が信用できるかということについては、本当はできるだけ早い時期にきちんと専門家が聞き取り、証拠として証言を得ておくことが大事です。しかし、仮にそうじゃないまま時間が過ぎてしまったとして、「子どもの言ってることだから信用できない」というのはどうなのか。この発想に大人のずるさのようなものを感じます。

――もう一点は、「地位・関係性を利用した性的行為に関する規定の創設」について、監護者(親権を持つ者など)による性的行為に関する規定が新たに設けられる予定です。これにより監護者からの性的行為について被害を訴えやすくなりますが、一方で雇用者と被雇用者や、指導者と被指導者などの関係性についての規定は見送られました。

「関係性を利用した性的行為」とはつまり、強姦などの要件である「暴行・脅迫」を用いなくてもその行為に及ぶことができる関係性、支配関係があるということ。教員と子どもというのは、監護者と子どもに近いような関係性だと思います。学校は子どもにとって長い時間を過ごす場所であり、生活に占める比重がとても大きい。小学校の場合、一人の担任と日中の大半、一緒にいることになります。

 暴行や脅迫をしなくても、先生だから言葉巧みにだまされてついて行ってしまう。『スクールセクハラ』でも書きましたが、教師から「カラオケをするだけ」と言われてホテルに連れ込まれ被害に遭ったケースがあります。子どもは男と女という意識ではなく先生と教え子と思っている。「まさか先生がそんなことをしないだろう」という意識があり、教師がそれを利用するのは非常に簡単です。本来、監護者に類似する立場として規定を設けるべきだと思います。

(※2)現在国会で審議されている性犯罪刑法の改正法案では、強姦や強制わいせつの非親告罪化が検討されている。

教師が生徒をだますのは容易児童との間には特別権力関係がある

――教師が生徒をだますのは容易というのは『スクールセクハラ』の例でもよくわかります。

 事件を起こした小学校教員のケースですが、裁判官から「(児童との間には)特別権力関係がある」と指摘された人がいました。そうやって指摘されないと、自分が権力を持っていることに気づかない教師もいます。

――子どもにとって権力的な存在であることに気づかないから、生徒の恐怖や拒否、困惑に気づかず、「同意だったはずだ」と思ってしまうこともある。

 体罰の研修は現在もあると思うので、スクールセクハラも入れてもらいたいですね。子どもに触ることを「スキンシップ」と言い訳をする先生は多いですが、触らなくても子どもと交流はできます。大人同士だったら、「スキンシップだから」と言って勝手に触ったりしません。専門家を招いた研修を受けることが必要です。

――子どもに直接、性的被害を聞く実態調査をする教育委員会もあるそうですね。

 千葉県to神奈川県の教育委員会が行っていて、一定の効果は出ています。アンケートを取ると被害の申告が出てくるので防止になります。もっと全国でやってほしいですが、パンドラの箱を開けたくないのでしょうね。何を一番に考えるのか。子どもの権利を一番に考えるのなら、こういう実態調査は必要です。

 また、いじめについては「いじめ防止対策推進法」で第三者委員会を設置できるようになったので、同じようにスクールセクハラについても第三者委員会を設けてほしい。被害申告があったときに、校長に調べろというのは無理な話。調査の素人ですから。校長にしたら、疑われた教師が「やってない」と言ったら、その方がありがたいわけです。子どもが嘘つきにされて終わりになってしまう。弁護士のように調査能力に長けた専門家が聞き取って、事実関係を明らかにして被害者を救うことが問題解決、ひいては再発防止につながります。

「スクールセクハラ」という軽く感じられる言葉を用いた意味

――ところで、なぜ教師からの性被害を「スクールセクハラ」という言葉にしたのでしょうか。本の中で書かれているケースにはかなり深刻な被害もあり、「セクハラ」という言葉が少し軽く感じられます。

 その議論は常にありますが、理由は2つあります。1つは被害を訴えやすくすることです。レイプの被害者の中には「レイプされた」と言えない人もいます。「スクールセクハラ」だと、入り口が広いので相談しやすい。

――確かに、「触られた」という相談を受けていたら話すうちに実は強姦被害だったということもあると聞いたことがあります。

 もう一つは、このような問題が学校にあることを言葉によって知らせることです。教育現場では性暴力を個人的な犯罪にしたがります。「あの先生は変だったから」と、一部の不心得者が起こしたレアケースということにしたがる。それをもって、「レアケースだから取り上げる必要がない」「大きな問題にする必要がない」とされてしまう。しかしこれは、大人と子ども、部活の指導者と生徒といった権力関係のある構造の中で起きている問題です。単発的、偶発的に起きた事件ではなく、土壌、構造があって起きている。それをわかっていただくための言葉です。

 昔は親から子どもへの暴力も「しつけの行き過ぎ」と軽く扱われていた。「虐待」というキーワードが浮かぶことで、子どもに対しての暴力が明確にわかるようになった。これと同じで、その問題に背景・要因があることを示すために「スクールセクハラ」という言葉をあえて使っています。被害を軽んじる意味はないし、流行り言葉にしたいということでもありません。

池谷 孝司1988年共同通信社に入社。松江支局、広島支局、大阪社会部を経て95年から本社社会部で文部科学省や東京地検を担当。大阪社会部次長の後、本社社会部次長となり、2014年7月から宮崎支局長

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