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新人を軽く注意したら即無断欠席、そのまま退職しパワハラで300万円要求!

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/04/10 06:00 石川弘子
新人を軽く注意したら即無断欠席、そのまま退職しパワハラで300万円要求!: 新人の研修中にちょっと注意をするだけで「パワハラ」と言われてしまうことを恐れ、「最初から何も言わない」という管理職も少なくない!(写真はイメージです) © diamond 新人の研修中にちょっと注意をするだけで「パワハラ」と言われてしまうことを恐れ、「最初から何も言わない」という管理職も少なくない!(写真はイメージです)

大学でサッカー部の主将を務めた新人が、研修中のたった一度の叱責で無断欠勤をする。その後、彼は退職届を提出するとともに、研修中の叱責を暴言、パワハラ行為だと訴え、金銭要求の反撃を始めるが…。(特定社会保険労務士 石川弘子)

S社概要創業60年の建設業。高度経済成長期の波に乗って順調に業績を上げ、現在は従業員数800名の規模に拡大。教育体制や福利厚生も充実し、社員食堂や社員寮なども完備している。登場人物吉岡:有名大学の教育学部卒業。大学ではサッカー部の主将を務めた新卒社員。体育会系の学生らしいがっちりとした体格と、ハキハキとした受け答えが好印象だったので、採用となった。学生時代の成績も優秀で、期待の新人である。社員寮に住んでいる。天海部長:50代後半の人事部長。営業職に従事した後、ここ10年ほどは本社の人事で主に採用・人材育成を担当している。武井:30年以上勤める50代の職人。腕が良く、飾らない人柄が職人たちに慕われている。本田:吉岡の同期で、地方の国立大学出身。物静かだが、真面目で芯が強い。吉岡と同じ社員寮に住んでいる。

無断欠勤の新人を心配し、社員寮を訪れるが…

「新人の吉岡さんがここ3日間無断欠勤をしているんです。メールも電話も返答がなくて、どうしたらいいでしょうか……?」

 営業課長から天海人事部長に内線連絡があったのは、5月の中旬の頃だった。天海は、自身が採用した吉岡が無断欠勤をするような社員とは思えなかったために驚いた。なぜなら、面接時の彼の印象は、サッカー部の主将を務めていたこともあり、非常にエネルギッシュで礼儀正しく、頭の回転の良さもうかがえたからである。

「もしかしたら、何か事故に巻き込まれたとか、事情があるのかもしれない。様子を見に社員寮へ行ってみる。また連絡するから」

 天海は営業課長にこう伝え、電話を切った。

 その日の午後、天海は会社からほど近い社員寮に住んでいる吉岡を訪ねた。インターフォンを鳴らすと、中から「ガタッ」と物音がしたものの、返答はなかった。何度かノックもしてみたが、一向に出てくる気配もないので、仕方なくその場を後にした。

 翌日、天海は営業課長に昨日の様子を伝え、本人から連絡が入ったら自分に報告するように伝えた。しかし、数日経っても連絡がなかったため、天海は何度か社員寮に向かったが、出てくる気配は全くない。困った天海は吉岡の実家に連絡したところ、母親が電話に出た。

「息子から『新人研修で現場の職人から頭を叩かれ、非常にショックを受けている。社員寮から外に出ることができなくなり、どうしていいか分からない』と連絡がありました。このままだと息子が潰されてしまいます。一度、こちらに連れ帰って精神的なショックが収まるまで療養させたいと思います」

 母親は天海に淡々と告げると、一方的に電話を切った。

新人研修時に参加していた同期の話から見えてきたこと

 新人研修時の様子をつかもうと、天海は吉岡と同期の本田に聞いた。

 その日は、現場の様子を見学するという研修で、ベテラン職人の武井が案内していた。吉岡を含む数名がヘルメットを被らないまま、武井の注意を無視して現場に入ろうとしたところ、武井が咄嗟に大声で「危ないじゃないか!」と注意した。そして「新人のうちは、俺たちの指示した場所以外に入ったらダメだ。事故があったらどうする。それに、ここから先はヘルメットの着用は絶対だ」と言うと、全員にヘルメットを被るように指示した。

 その後、現場を一回りした後に、武井は吉岡のヘルメットをポンッと軽く叩き、「現場ではコイツを被るのを忘れないようにな!」と言ってニコニコと笑った。

 天海は本田に、武井の言動で吉岡がショックを受けるようなことがあったかどうかを聞いた。本田は「武井さんから注意された時、吉岡はビックリしたようだったが、研修は和やかに終わりましたよ」と言う。

 しかし本田は、その研修が終わった夜、吉岡と一緒に食事をした時に彼の言動が気になったそうだ。吉岡は明らかに自分の行動に非があるにもかかわらず、武井に大声で注意されたことを非常に気にしており、「現場の奴らはすぐに怒鳴るから、レベルが低いよな」「叱り方が昭和だよな。これってパワハラじゃね?」などと、ブチ切れていたという。

 さらに本田は続ける。

「吉岡は有名大学で成績も良く、サッカー部のキャプテンで、お山の大将的な存在だったから、注意されたことがなかったんじゃないですかね」「なるほど。他に気になったことは?」「そうですねぇ。同期仲間と話をしていても、プライドが高くて、時々鼻につくこともあったし、周りの人間をよくバカにしていましたよ。今もそうですけど…。その割にはあの注意程度で、会社に来られなくなるなんて信じられません。もしかしたら…」「もしかしたら?」「吉岡と学生時代の共通の友人から聞いた話なんですが、大学の時にサッカー部の仲間から悪口を言われたことがあったみたいで…。その時のショックでしばらく練習に出て来なかったという話は聞いたことあります。その話を聞くと、彼は意外にメンタルが弱いんじゃないですか?」

 天海は、採用面接時に吉岡のメンタルの弱さを見抜けなかった自分を責めた。

労働局からあっせん開始通知書が届き、同期にパワハラの事実確認を行う

 数日後、吉岡から退職届と一緒に、以下のような手紙が届いた。

このたびは、無断欠勤を重ねてしまい、申し訳ございません。ただ、研修期間中に受けた武井さんの暴言や暴力によって、精神的に不安定になり、外出ができなくなってしまったこと、ご理解ください。また、研修中に武井さんから受けた暴言や暴力はパワーハラスメントであると認識しています。これについては、慰謝料として300万円を請求します。

 天海は驚いて同期の本田を呼び、武井のパワハラの有無について確認した。

 すると本田は、「確かにヘルメットをかぶらないと、危険な場所でした。責任者としては話を聞いていない吉岡らに注意するのは当然のことであり、パワハラと言えるようなことはなかったですよ」と言う。

 その後、天海は吉岡に電話したもののつながらなかったため、社員寮の吉岡の部屋を訪ねると、すでに引き払っていたことがわかり、話し合いをする機会がないまま退職となった。

 天海は顧問弁護士にこれまでの経緯を踏まえて相談したところ、パワハラの事実は認められず、慰謝料を払う必要性がないとアドバイスを受けたため、その旨を文書にまとめた。

 文書を吉岡の実家に送ろうとした矢先、労働局からあっせん(*)の通知書が会社に届いた。その概略は以下の通りであった。

吉岡は会社でのパワハラが原因でうつ病を発症したため、外出もままならなくなり、退職に追い込まれてしまった。人事部長に慰謝料請求をしたが、取り合ってもらえなかった。*あっせん当事者の間に学識経験者である第三者が入り、双方の主張の要点を確かめ、場合によっては、両者が採るべき具体的なあっせん案を提示するなど、紛争当事者間の調整を行い、話合いを促進することにより、紛争の円満な解決を図る制度。費用がかからず、合意した場合は民法上の和解契約の効力を持つ。東京労働局の「あっせんに関する流れ」を参照

 このようなケースは初めてだったため、天海は慌てて弁護士に連絡を取った。弁護士のアドバイスでは、パワハラの事実が全くない中で、あっせんに応じる必要はないという。もし、本人が訴訟を起こす動きがあっても、会社側に落ち度はない以上、堂々と戦えばいいとのことだった。

 天海は不安に思いながらも、弁護士のアドバイス通り、あっせんには参加しない旨を回答し、労働局に返送した。

 その後、本人からの連絡もなく、半年以上が経った。風のうわさでは実家に戻り、教師を目指して採用試験を受けるらしい。

 吉岡が弁護士に相談に行っても、パワハラと認められるだけの確固たる証拠がないと判断したため、弁護士も受けなかったのだろう。大事にならず、天海はホッと胸をなで下ろした。

新入社員の指導には細心の注意を払うこと

 いつの時代も、年配者は「今どきの若者は……」と自分たちの若い頃とのギャップを嘆くものだが、ここ最近の新入社員の打たれ弱さ、メンタルの弱さについては、頭を悩ませている人事担当者も少なくないようだ。

「ちょっと注意をするだけで『パワハラ』と言われてしまうので、最初から何も言わない」と言う管理職もいる。しかしこれでは、管理職としての職務を放棄していることになる。

 一方で、若者はとても傷つきやすいという事実を踏まえ、叱り方にも細心の注意を払わなくてはならない。部下指導をする人たちは感情的になって大声を出すのではなく、「なぜダメなのか?」「どういう影響が出るのか?」といったことについて、本人が納得できるように言い聞かせる必要がある。

 もし叱ったりすれば、その後のフォローもきちんと行わないと、今回のように特にメンタルが弱い人なら「あの人の元では顔も見たくない」「この会社ではやってられない」といったことにもなりかねない。だからこそ、皆の前で叱るのは極力避け、本人のプライドを傷つけないように別室で注意するといった配慮をしなくてはならない。

 新入社員が大勢入って来るこの時期、管理職は適切に指導しつつ、広い心で成長を見守ってほしいと思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。

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