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画期的な薬が続出で命が救われる一方、その高額医療費を健常者が負担、国民皆保険崩壊も

ビジネスジャーナル のロゴ ビジネスジャーナル 2016/07/18 株式会社サイゾー

 日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで命を落とすといわれています。日本人の死因トップであるがんの治療は、主に3大治療といわれる外科的手術、放射線治療、そして化学療法(抗がん剤治療)によって行われています。

 しかし、このがん治療が大きく変わる可能性が出てきたのです。日本の医療体系を覆してしまうかもしれない薬の名前は「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)です。

 がん細胞によって活動を制御されていた免疫細胞のブレーキを解除し、自分の免疫力を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬、「免疫チェックポイント阻害薬」としてオプジーボが承認されたのです。

 本連載前回記事において、オプジーボの薬剤費は、体重60kgの患者の場合、点滴1回133万円、1カ月で約330万円、1年間では約3500万円にも上るという計算をしました。合わせて、この全額を患者自身が負担するわけではなく、高額療養費制度によって自己負担は一般的に月額8万7000円ほどで済むということも説明いたしました。その残りは国費や保険料で賄うことになります。

 肺がんの新規患者は年間約11万人といわれています。オプジーボの使用対象となるのは、「手術による治療が難しく、ほかの化学療法で効果が出なかった患者や手術後に再発した患者」とされています。その対象となる患者数を5万人として、仮に全員が1年間オプジーボを使った場合、その薬剤費は1兆7500万円となります。

●薬剤費抑制に乗り出した厚労省

© Business Journal 提供

 10兆円を超えたと問題になっている薬剤費が、さらに跳ね上がるのです。そこで、厚生労働省も対策に乗り出しています。今年4月に「特例拡大再算定」と呼ばれる制度を導入したのです。1年間で1000億円以上の売り上げがあった場合、その薬の薬価を最大で25%、1500億円以上なら50%下げることができるという仕組みです。高額薬剤4種類が対象となり、オプジーボもその対象となっています。すでに、昨年発売されたC型肝炎治療薬「ハーボニー」は32%下げられています。

 当然、製薬会社はこれに反発しています。多田正世・前日本製薬工業協会会長は、「市場規模拡大だけで薬価を引き下げるルールは、イノベーションの適切な評価に反しており、容認できない」と表明しています。米国研究製薬工業協会のジョージ・A・スキャンゴス会長も「薬価が突然下がるような仕組みがあると、日本に投資しづらくなる」と批判しました。

 厚労省は特例拡大再算定に加えて、2018年には薬の「費用対効果」を調べて薬価に反映する方法を試行することも発表しました。どれだけ延命できたか、生活の質が改善したかなどを数値化して比較するもので、英国やオーストラリアでは導入が進んでいます。今年4月には、費用対効果を分析する対象が公表されました。保険適用の医薬品7種類と医療機器5種類で、オプジーボもその対象です。

 値段に対して効果が低ければ価格を下げるよう、18年度の診療報酬改定に反映させるということです。

 厚労省はこれまでにも、薬剤費を抑えるために2年に1回、診療報酬改定で薬価を数%ずつ引き下げてきました。薬の特許が切れると、その成分を使って価格が安い後発医薬品(ジェネリック)を販売することができます。厚労省は、そのジェネリックの普及も促進しており、医療用医薬品に占めるジェネリックの割合を「18~20年度に80%以上」にするという目標を立てています。

●逼迫する医療保険制度

 しかし、日本の医療費総額は年々増加を続け、13年度には40兆円を超えました。20年前と比べると6割も増えていて、高齢化に加え医療技術の進歩などが主な要因と考えられています。さらに、患者の医療費の自己負担を所得に応じて一定額に抑える高額療養費制度の利用が大きく伸びています。13年度の全国の支給件数はおよそ5400万件で、支給額は約2兆2200億円となっています。

 これらは当然、保険料や患者の自己負担では賄えず、全体の約4割を税金で穴埋めしています。団塊世代がすべて75歳以上となる25年ごろになると、医療費は50兆円を超えると予想されています。

 患者の自己負担分との差額を負担する、企業の健康保険組合や国民健康保険組合など、医療保険者の財政もかなり厳しい状態です。健康保険組合連合会(健保連)の14年度予算では、1409組合のうち半数以上が赤字となっています。さらに、同年度に健保連の各組合に申請があった医療費のうち、1カ月の医療費が1000万円以上に上る申請も300件ありました。

 オプジーボをはじめとした高額薬剤の使用が進めば、薬剤費が医療費全体の半分以上を占めるようなことにもなりかねません。そうなると、極端な保険料引き上げや増税も必要となるでしょうし、医療給付を抑えるために、現行の治療行為や医薬品の中から国民皆保険の対象外となるものも出てくるでしょう。その結果、当然、自己負担額も高くなります。

 不治の病に特効薬ができて治せる病気となったのなら、最善を尽くして治したいと思うのは誰でも同じでしょう。しかし、その高額薬剤の費用の負担は、健常な人も含めた国民全体に及び、税金や保険料の負担が増えていきます。

 医学の世界では、コストの話はタブーで「治療に関わるコストは国が考えるべき。経済的なことは医療現場で考える問題ではない」という風潮があります。

 これまでにも、治療法などについて、医学界では「ガイドライン」を策定して専門医の間で治療の際に活用されてきました。コスト面に対しても、今後は高額薬剤が医療全体に与える影響も考慮しながらガイドラインをつくっていく必要があるのではないでしょうか。

 今まさに、このオプジーボというひとつの薬剤の登場によって、現代の日本の医療が抱えている問題が浮き彫りになりました。

 現在の国民皆保険の仕組みでは、どんなに高額な薬剤でも、医療用医薬品として認められれば、医師の処方によって誰でも使うことができるようになります。実際にオプジーボが100歳の患者に使用された例もあるようです。

 オプジーボのように極めて高額な薬剤も、「お金持ち」だけが使えるのではなく、国民誰でも使える薬になりました。これは素晴らしいことかもしれません。しかし、「夢の新薬」が日本を滅ぼすことのないように、高額薬剤の使用と費用負担のあり方を私たちは今から真剣に考えなければならないのではないでしょうか。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)

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