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「教育困難大学」で大暴れする不良学生の実態 学ぶスキルも意欲もないのに入学できる現実

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/11/07 朝比奈 なを
「教員に注意されたらキレてよい」という価値観を持っている生徒が、そのまま大学に進学した場合に起こりうることとは?(写真:Graphs / PIXTA) © 東洋経済オンライン 「教員に注意されたらキレてよい」という価値観を持っている生徒が、そのまま大学に進学した場合に起こりうることとは?(写真:Graphs / PIXTA)

「教育困難校」の教員にとっては既視感のある場面

 10月上旬、高校生が授業中に若い男性教員に暴力を振るう画像がインターネットに流れ、その後に高校生が逮捕されたというニュースがあった。事件の発端は、教師が生徒に対してその授業では使ってはいけないIT機器を使うのを注意したことだそうだ。

 今回の映像は一般的には確かに衝撃的だっただろう。しかし、生徒が荒れた中学校に勤務する教員や、「教育困難校」の教員にとっては既視感のある場面だったと思う。似たような場面に日常的に遭遇し、専守防衛に努めている中学・高校教員は全国に大勢存在する。

 だが、教員に対してあのような態度を取ってきた生徒たちが大学、特に「教育困難大学」に入学していることを、当事者である大学関係者もあまり気にしていない。彼らは「自身の学びを助けてくれる人」として教員に一目置く、ということはない。逆に力関係として下に見てさえいる。そうした生徒たちが、高等教育の場に入ってくるのである。

 いわゆる進学校でない高校からの大学進学者は、推薦入試やAO入試を利用して進学する者が多いことは、これまでにも何度も述べてきた。大学を志望する生徒たちの多くは、少なくとも3年生の1学期頃からは、教師の指導に従って準備を行う。一般的には10月上旬あたりからAO入試が、11月上旬からは推薦入試が始まり、パラパラと合格が決まっていく。

 すると、その頃まで自分の進路をまったく気にしていないように見えた生徒たちが、突然、担任や進路指導教員に「せんせー、俺、大学に行こっかな。親も行けっていうし」などと口にするようになる。このような生徒はおおむねこれまで教員をバカにした態度を取り続け、勉強や部活動にも熱心でなく、努力や我慢が苦手なタイプの生徒たちである。

 すでに推薦入試などの本番が始まっているので教員は非常に困惑するが、本人と保護者が「大学に進学したい」と思っているのであれば、止めることはできない。もちろん、一般入試に通る学力はないので、推薦入試の日程が残っている大学を探すことになる。

 やりたいことがまったく決まっていないので、学部・学科選びも大変だ。結局、いわゆる「潰しが利く」といわれている社会科学系や文系の学部を選ぶことになる。大学側がいろいろと工夫して決めた学部の特色などもこのタイプの生徒たちはまったく意に介さない。ただただ「楽な大学」を選びたいと考えるのみなのだ。

学ぶスキルや意欲がない学生も、不合格にならない

 この期に及んでもまじめに取り組もうとせず、「せんせー、俺の代わりに志望動機書っていうの書いてよ。どうせ、ばれやしないし」などと言い出す。教師はこうした生徒を指導しながら、心のどこかで「このいい加減な態度を面接では隠しきれないだろう。書類の内容も中身がないので、さすがに大学側も落とすかもしれない」という思いが頭をよぎる。しかし、意外にも、彼らが不合格になることは皆無といってよいのだ。

 まだ社会に出たくないので大学に行くという「モラトリアム」的な進学は、数十年前からあった。しかし、ペーパーテストによる入試の存在が、そうした人も受験勉強へと必然的に向かわせ、その過程で学ぶスキルが結果的に身に付いたことが多かったと思う。

 だが、上述のような流れで大学に進学する学生たちに、学ぶスキルは備わっていないし、大学で学びたいという意欲がない。そのうえ、これまでの学校生活の中で、教員の指導は無視してよいもの、自分の気持ちは教師の指導よりも優先するべきもので、それを教員が抑制しようとする場合にはキレてよい、という価値観を持っている。

 しかし、彼らは大学生活では授業の場面でキレることはさほど多くはない。高校までのように服装や態度を直接注意されることがほとんどないからだ。大学と高校では、教職員と生徒との関係とは距離感が違う。授業を休んでもそのつど電話や家庭訪問があるわけでもないので、このようなタイプの学生にとっては、大学生活は天国のように思えるに違いない。しかし、そのままではやがて単位が取れず、中退という道が待っていることに彼らは気づかない。

 以下のエピソードは、「教育困難大学」に勤務する教員から最近聞いたものである。彼は、日頃から「大学生は社会に出る直前の段階なので、社会常識を身に付けさせるべき」と考え、実践している教員だ。ほかの多くの教員とは異なり、授業中に寝ることや、人の話を聞く態度なども、気になった際にはそのつど学生を注意している。

 彼は、ある授業の際、つばの大きい帽子を被っている男子学生を注意した。室内の正式なマナーとして帽子は脱ぐこと、階段教室ではないので後ろの学生の視野を妨げていることを伝え、不満げな顔をしてなかなか脱ごうとしない学生に何度か注意をした。

 ふと思いついて、身体的に脱げない理由があるのかとも思い、そうであればその理由を教員本人にだけに伝えるようにとも話したところ、その学生は突然キレた。「うるっせなー、脱ぎゃあいんだろう!」と言い捨て、帽子を机にたたきつけて教室を足音高く出ていったという。

履修規定も単位認定の条件も理解できない?

 さらに、この教員は別の学生とこんな一幕もあったという。最近は大学の出席管理は学生カードの磁気システムを機械に認証させて行うことが多く、この教員が勤めている大学もそうしている。しかし、これは不正が後を絶たないので、彼は指定席にして毎回出席カードを書かせている。問題の学生は授業に半分も出席していないのに期末試験はちゃっかりと受験した。当然、点数も低く、さらに大学では学期の授業の3分の2以上の出席が単位認定の条件にもなっているので、単位不認定となった。

 すると、あるとき、その学生が廊下で待ち構えて、教員に単位を認めるように迫ったという。学生の点数やそのクラスの得点状況、さらに大学の履修規定も説明したが、その学生はなかなか納得しない。体は教員より2回りも大きい学生を前にして、教員は身体的な恐怖も感じながらも、単位は認めないという姿勢を崩さなかった。すると、学生は「くそ~」と大声を上げて回し蹴りを繰り出した。驚いた教員がよろけたので幸いにもキックはかすっただけだったが、廊下の壁に小さな穴が開いてしまったそうだ。

 この話をしてくれた知人は、穏やかで学生思いの性格である。やる気のない学生もしっかり指導したいと考えているがために、トラブルも発生するのだろう。厳格な姿勢を示すからか、彼の下にはおとなしくて自己主張が苦手なタイプの学生が相談に集まってくる。表面化することを嫌がり詳しくは話さないが、学ぶ気のない学生たちからのいじめやからかい、暴力、試験前に授業ノートやテキストを奪われてしまうなどの被害を受けていることが感じられるという。

 学ぶ気のない学生を大学の経営のために入学させてしまうことは、ほかの学生にとって悪影響以外の何ものでもない。高等教育の授業料無償化が検討されるつつあるようだが、このような学生も対象にしてよいか、大きな疑問がある。

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