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「東京オリンピックをボイコットせよ!」韓国では与党も世論も”過熱暴走”

文春オンライン のロゴ 文春オンライン 2019/08/04 19:50 名村隆寛(産経新聞ソウル支局長)

「加害者の日本が盗っ人猛々しく、逆に大声を上げるのを決して座視しない。韓国経済に被害を加えるなら、真っ向対応する方法がある。日本も大被害を甘受せねばならない」

 日本政府が韓国を「ホワイト国」から除外することを決定した8月2日、韓国の緊急閣議で、文在寅大統領の怒りは沸点に達していた。

日本、韓国を「ホワイト国」から除外 韓国政府が臨時閣僚会議 ©アフロ © 文春オンライン 日本、韓国を「ホワイト国」から除外 韓国政府が臨時閣僚会議 ©アフロ

 緊急閣議の後、韓国政府の今後の方針を発表した洪楠基・経済副首相兼企画財政相は、さらに日本への怒りを前面に出し、鼻息が荒かった。

 しかし、どんな対抗措置が発表されるのかと、私はテレビの中継を凝視していたのだが、思わず拍子抜けした。

“ウルトラC”東京五輪ボイコットの機運

 彼が口にしたのは「日本をホワイト国から除外」「WTOへの提訴準備の加速」などと想定内の対抗措置ばかり。大統領府の金鉉宗・国家安保室第2次長も、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄検討を示唆したが、こちらもチラつかせる程度の牽制にしかみえなかった。

「ホワイト国」からの除外を、半導体材料などの輸出管理強化に続く「第2の報復」(李洛淵首相)とみなし、これまで議論を重ねていた割に、日本に打撃を与えられるだけの対抗措置を打ち上げられなかった。

 実は、私が可能性の一つとして想像していた“ウルトラC”があった。それは来年の「東京オリンピック」に絡む対抗措置だ。しかし、韓国政府がそこに踏み込むことはなかった。

「日本にオリンピックを開催する資格があるのか」

「東京オリンピックをボイコットすべきだ」という主張は、これまでも韓国国内のSNSなどに数多く書き込まれていた。大統領府のホームページにも東京五輪ボイコットを求める請願が寄せられていた。

 そうした国民感情に応えるように、7月末、いよいよ韓国政界の中から日本に対する“警告”が出たのだった。

 与党・共に民主党の「日本経済侵略対策特別委員会」の崔宰誠委員長は7月25日、韓国駐在の海外メディアなどで構成する「ソウル外信記者クラブ」主催の会見で、日本メディアの記者が多数いる前でこう語った。

「日本の措置への国際世論の反発が広まれば、東京オリンピックにも影響が及ぶ。歴史認定と率直な謝罪をしない日本に、オリンピックを開催する資格があるのかを聞きたい」

福島の農水産物にも言いたい放題

 また、福島県産農水産物にも言及し、「日本国民も冷遇する(福島の)食品を全世界の参加選手らの食卓に上げるという。政治に目がくらんで、オリンピック選手まで人質に取るものだ」。

 さらに崔氏は、日本の輸出管理強化について「自国企業の被害まで当然視する態度だ。神風自殺爆撃が行われた真珠湾空襲が思い起こされる。日本が経済戦犯にならないよう願う」「日本は戦略物資統制の部分で深刻な後進国だ」と発言した。

 同席した元議員の金民錫特別委員に至っては「安倍首相が経済戦争を中断し、その原因の歴史について謝罪しなければ、最も彼が売り込みたがっている製品である東京オリンピックに対し、全世界の良心が不買運動をすることになる」とまで豪語した。

 まさに韓国らしい、言いたい放題だ。

 翌26日には、同委員会の幹事を務める呉奇炯幹事も、記者団に対し、「日本に平和の祭典であるオリンピックを主催する資格はない。放射能水産物にも問題があり、日本も落ち着いて考えねばならない」と語っている。

 ちなみに、この「日本経済侵略対策特別委員会」とは、与党内部の“有志”による組織で、委員長の崔氏は現職の国会議員。呉氏は2016年の総選挙で落選している。

 東京オリンピックを持ち出した一連の発言は、世論を意識した韓国の政治家らしいものだ。「日本が経済報復を仕掛けてきた」と韓国社会が動揺し、怒りが高まっている中で、世論に彼らの主張を否定する雰囲気はない。

「南北融和」に五輪を利用したい韓国

 ただ、世論を意識した“東京オリンピック・ボイコット”運動は、韓国で主流にはなりえないだろう。むしろ、韓国は隣国でのオリンピックを、自国のために最大限利用したい考えだ。

 2018年に韓国・平昌で開催された冬季オリンピックで、文在寅政権は世論の反対を押し切り、北朝鮮との開会式での南北合同入場や女子アイスホッケーでの統一チームを実現させた。オリンピックの場を活用し、南北融和を世界にアピールしたのだ。

 平昌オリンピックの当時から言われていたのが「次は東京」。文在寅政権が描く東京オリンピックの目標は、メダルの獲得数より、南北和解のためにオリンピックを再び利用すること。つまり、「オリンピックの主役は朝鮮半島の南北」だと言わんばかりに、南北和解のハイライトの場として演出することなのだ。

 こうした東京オリンピックへの文在寅政権の思いは、大多数の韓国人は理解している。「日本にオリンピック開催の資格はない」とまで豪語した崔氏でさえ、東京オリンピックボイコットについての賛否を問われると、「日本との外交的解決法を模索しようと言っているのに、なぜボイコットのことを聞くのか」と歯切れが悪い。

東京五輪に難癖をつけて“悪用”する

 韓国では、東京オリンピックを低迷する経済の活性化に利用できる好機だとみなす意見が、政財界やメディアに従来からある。

 日本としては、韓国がボイコットしようがしまいが、平穏にオリンピックが成功すればいいだけの話だろう。

 ただし、オリンピック開幕まで1年を切り日韓関係が最悪の状況の中、韓国が東京オリンピックを利用する動き出てくることには警戒しておいた方がいい。政府の暗黙のお墨付きもあり、「反日」は今、韓国の政治家や市民団体にとって、手軽に利用できる状況にある。東京オリンピックをボイコットできずとも、韓国がオリンピックに難癖をつけるなど「悪用」して、揺さぶりを掛ける可能性は十分にある。

 肝心なのは、それに日本が過剰に反応せず、怯まないことだ。現在の韓国が狙っているのは、まさにそのことだからである。

(名村隆寛(産経新聞ソウル支局長))

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