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米国内で失笑されている「歴史的第3回米朝会談」

JBpress のロゴ JBpress 2019/07/02 06:00 高濱 賛
DMZの北朝鮮領内で握手を交わすトランプ大統領と金正恩委員長。北朝鮮のカメラマンが撮り放題 © Japan Business Press Co., Ltd. 提供 DMZの北朝鮮領内で握手を交わすトランプ大統領と金正恩委員長。北朝鮮のカメラマンが撮り放題

「史上初」が大好きなトランプ素人外交の限界

 ドナルド・トランプ大統領が現職米大統領としては史上初めて南北朝鮮の軍事境界線(DMZ)を越えた。

 当初は握手だけをする「面会」だったはずが第3回米朝首脳会談に発展、会談時間も50分間に及んだ。

 しかし成果といえば、ハノイ会談以降、停滞していた非核化交渉の再開に合意したことだけだった。

 それでもCNNをはじめ米テレビは深夜、「この瞬間」を実況中継で流した。米国民の大半は「白河夜船」の時間帯だった。

 2つのことが分かった。

 一つは、G20大阪サミットの後、トランプ氏が韓国に立ち寄った最大の目的は「この瞬間」のためだったこと。

 トランプ氏にはギクシャクしている米韓同盟関係の修復など頭の片隅にもなかった。

 トランプ氏は、大阪滞在中からツィッターで北朝鮮の金正恩委員長に「面会」の可能性を打診。

 その裏で国務省のスティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表(元フォード・モーター副社長)をヘリで極秘裏にDMZに送り込み、北朝鮮側に金委員長のDMZ入りを説得していた。

 説得材料は3つ。

 ワシントンの消息筋によると、ビーガン特別代表は、その条件として

(1)非核化の事務レベル→政府高官レベルでの交渉を再開すること

(2)DMZでは境界線を越えてトランプ大統領が北朝鮮側に足を踏み入れ、北朝鮮領内で金委員長と握手を交わすこと

(3)その後は韓国側に金委員長を招き入れて、3回目の首脳会談を行うこと

 を示したという。これは何を意味するのか――。

 交渉再開前に、トランプ大統領が改めて「金王朝」の正当性を公に認め、ハノイ会談ではトランプ大統領が席を蹴って会談を一方的に決裂させられ、面目丸つぶれだった金委員長の顔を立てることだ。

 経済制裁の影響を受けてにっちもさっちもいかなかった金委員長にとっては、渡りの船の提案だったに違いない。

G20サミットの最中、米国内で起こっていたこと

 トランプ大統領がG20に出席し、訪韓している最中に米国内では何が起こっていたか。

 民主党大統領候補による初の公開討論会が2日間にわたって行われた。その模様は実況中継され、G20サミットよりも大々的に報道された。

 トランプ大統領は大阪滞在中も宿泊先のホテルでこの公開討論会を観ていた。

 2日目の討論会では黒人女性候補でプログレッシブ派(現状打破推進派)のカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)が最有力候補の中道派ジョー・バイデン前副大統領を激しく糾弾した。

 バイデン氏が議会運営とはいえ、「人種主義者」の南部出身上院議員たちとねんごろな付き合いをしていた過去を取り上げたのだ。

 バイデン氏は懸命に防戦したが、世論調査では米国民の大半はハリス氏に軍配を挙げていた。ハリス候補に対する関心度は一挙に上昇している。

(https://www.nytimes.com/2019/06/29/us/politics/2020-democrats.html)

 中道派のバイデン氏すら血祭に上がった。本選挙ではトランプ氏の人種差別的言動が袋叩きに遭う「予兆」がすでに表れているのだ。

 今春以降、トランプ大統領は訪日をはじめ欧州諸国歴訪など外遊ラッシュが続いている。外交は票にはならないとされてきた。

 ただその外遊で米国の有権者の利益を拡大できれば、それは票にはつながる。

 習近平国家主席との首脳会談で貿易戦争緩和策として交渉再開に合意したのは、激化していた「関税戦争」がトランプ氏の金城湯池である中西部の農民に実質的なダメージを与え始めたからだ。

 トランプ氏が訪日前に親しいメディア関係者に「日米安保条約の不公平さ」に言及したのも、実は米国の草の根層の間にはいまだに1980年代の日本の「安保ただ乗り論的思考」が滓のように残っているのをトランプ氏は知っていたからだ。

 貿易不均衡→日米安保ただ乗り論に直結する米一般大衆の「認識」なのだ(トランプ氏自身、まさにその層に属している)。

 こうした「不公平さ」こそが米国の国益に合致すると信じ、歴代大統領を納得させてきたのは、ひと握りの外交国防エリートたちだった。

 もっともトランプ氏自身、記者会見では「不公平さを感じるが、改定する意志はない」と述べている。

 裏を返せば、大統領ですら日米安保を改定するのは一朝一夕にはいかない「現実」がいまのところある。

米市民:「朝鮮半島はコリアン同士が決めればいい」

 さて、本題はトランプ氏の無手勝流な外交は米一般国民(特に有権者)の目にどう映ったか、だ。

 ロサンゼルス近郊のアルハンブラにあるスターバックで何人かの米一般市民に聞いてみた。

 中小企業経営者の白人男性(53)。2016年にはトランプ氏に票を入れたという。

「オレはあのへんてこな髪形の、太っちょなコリアン(金正恩氏のこと)が嫌いだからトランプ大統領が個人的な友情関係があろうがあるまいが関心ないね」

「それに北朝鮮はこれ以上核開発は進められるほどの力はないだろうし、米国の安全にとって脅威じゃない」

「南北のコリアンが今の国家体制を維持しながら共存したいというのであれば、米国の知ったことではない。すべてはTheir concern(朝鮮人同士の問題)だ」

 インターネットで米朝首脳の握手を見ていた黒人の女子大生。

「私にとっては遠い国の話。私はトランプ嫌いだから彼のやることなすことに興味はないし、世界最悪の独裁者と自分の国の大統領がイチャイチャするのを見るのは耐えられないわ」

「トランプという男は独裁者としか仲良くできないのね」

「今ニューヨーク・タイムズを見てたら、『Camera friendly』(カメラ向け)とか『History-making demonstration』(歴史作りの実演宣伝)とか出てたけど、こんなことで再選できるとでも思っているのかしら」

「米国人のメンタリティはそれほどシンプルだとは思いません」

 朝鮮半島情勢をこれまで官民双方の立場で見てきた米専門家たちはどうか。成果はあると見ているのか。総じて冷ややかだ。

 韓国に留まり、「現場」から米朝の動きを定点観測しているロバート・ケリー釜山大学教授。

「すべてがトランプ流ミーム(行動パターン)の巧みな嘘とたわごとにすぎない。はっきりしているのは金正恩氏は核兵器の弾頭を一発たりとも放棄などしないということ」

「金正恩氏とその周りにいる優れた外交国防立案者たちは、ド素人のトランプは御しやすいと考えているからだ」

 ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ両政権で国家安全保障会議(NSC)で北朝鮮問題を担当してきたスー・ミ・テリー戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長。

「非核化を進めたいトランプ氏が米朝合意した経済制裁の一部を解除するとでもいうのであればこれから再開する実務レベル協議は前進するだろうが、制裁解除には国連安保理決議というかんぬきが架かっている。米議会もそう簡単に承認はしないだろう」

 それよりも何よりもトランプ政権内の強硬派で今や外交を牛耳っているジョン・ボルトン補佐官が首を縦に振るわけがない。

 トランプ大統領にとっては獅子身中の虫が控えているわけだ。

 もう一つ、今回の米朝首脳会談で気づいたことはマイク・ポンペオ米国務長官もボルトン補佐官も同席していないことだ。ハノイ会談以降、北朝鮮はこの2人を激しく批判してきている。

 再開される交渉者には誰が選ばれるのか、これも重要になってくる。

(https://www.nytimes.com/2019/06/30/world/asia/trump-north-korea-dmz.html)(https://www.bbc.com/news/world-asia-48814975)

有権者にとって「握手の瞬間」はインパクトなしか

 第3回会談後の米国内の世論調査はどう出ているか。

 6月30日午後4時(東部時間)現在、今回の米朝首脳会談以後の世論調査結果は出ていない。

 トランプ大統領が狙った金委員長との「握手の瞬間」が米有権者にどの程度のインパクトを与えたか。

 これまで歴代大統領の特定の外交政策と有権者の反応を研究してきた元国務省高官はこう予測している。

「『握手の瞬間』が有権者の票を左右するとは思えない。左右したとしても長くは続かないだろう」

「大統領選は1年半先だ。それに共和党支持者の中にはトランプ氏の金委員長との『相思相愛関係』(Love Affairs)には眉を顰める者も少なくない」

「金委員長はトランプ大統領を与しやすいと見ていると指摘する向きもある」

「共和党支持者ですらそうなのだから金政権の人権抑圧政策を激しく批判するリベラル派が『握手の瞬間』を見て、トランプ氏に票を入れることなど考えられない」

 だとすれば、トランプ大統領の大博打は再選に向けてのメリットとはなり得ない。

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