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韓国の見切りに日本「まさか」「困るのは…」 GSOMIA破棄

毎日新聞 のロゴ 毎日新聞 2019/08/22 21:43 毎日新聞
中国の李克強首相との会談に臨む韓国の康京和外相(中央)と河野太郎外相(左から2人目)=北京の人民大会堂で2019年8月22日、AP © 毎日新聞 中国の李克強首相との会談に臨む韓国の康京和外相(中央)と河野太郎外相(左から2人目)=北京の人民大会堂で2019年8月22日、AP

 韓国政府は22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄することを決めた。韓国政府は、日本政府による安全保障上の輸出管理の手続きを優遇する対象国「グループA(ホワイト国)」からの除外措置の撤回を求めたが、受け入れられなかったため踏み切った。一方、日米両政府は北朝鮮への対応などを念頭に協定継続を求めてきた。これを無視する韓国の対応に、日米両政府は衝撃を受け、北東アジアの安全保障環境の変化に対する懸念を強めている。

韓国、世論配慮「自尊心守ることも重要だ」

 韓国大統領府は22日、国家安全保障会議(NSC)の会合を開き、24日が更新の判断期限だった日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、破棄すると決定した。日本の対韓輸出規制強化を元徴用工問題に絡む「報復」と認識し、対抗措置を取った形だ。歴史問題に端を発して激化する日韓の対立は、通商分野に続いて安保上の協力関係にまで影響が拡大した。北朝鮮がミサイル発射を繰り返す中、日米両政府は韓国側に協定継続を働きかけていた。日本政府は22日、外交ルートを通じて韓国政府に抗議した。

 会合後、記者会見した大統領府の金有根(キムユグン)国家安保室第1次長は、日本が輸出手続きを優遇する対象国「グループA(ホワイト国)」から韓国を除外した政令改正を閣議決定したことが「両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらした」と批判したうえで、GSOMIAの維持が「韓国の国益に合致しない」と主張した。

 GSOMIAは、国同士が防衛上の機密情報を提供し合う際に第三国への漏えいなどを防ぐために結ぶ協定で、日韓の間では米国の強い働きかけもあって朴槿恵前政権時代の2016年11月に締結された。当時も韓国政界などでは日韓間の歴史的経緯から反対する意見があった。効力は1年間で、これまでは毎年更新されてきた。

 この協定により、北朝鮮がミサイルを発射した際などに日韓が衛星やレーダーなどによる情報を共有でき、迎撃能力を強化できるなどの狙いがあった。韓国政府によると、日韓ではこれまでに29回の情報交換が行われた。協定破棄は韓国側にとってもマイナスとなるが、米国を介した情報共有は存続する。

 GSOMIAを巡っては、今月1日にバンコクで開かれた日韓外相会談に際して、韓国の康京和(カンギョンファ)外相は、「グループA」に関する日本の閣議決定(2日)を前に、「我々も必要な対抗措置を講じるしかない。日韓安保の枠組みも考慮するしかない」と日本側に強調し、破棄をちらつかせていた。

 21日には北京郊外で河野太郎外相と康外相が再度会談。日本側は延長すべきだとの考えを改めて伝えた。

 河野氏は22日夜、韓国の南官杓駐日大使を外務省に呼び出して抗議した。その後、河野氏は記者団に「協定は、地域の平和と安定に寄与している。韓国政府が協定終了を決定したことは、極めて遺憾だ」と語った。

 日米韓の防衛協力を重視する米国も折に触れて韓国に協定継続を促してきたとみられる。エスパー米国防長官は今月9日に訪韓して文在寅大統領と会談した際に、日米韓の安保上の協力が重要との認識で一致。22日午前には、ビーガン北朝鮮担当特別代表が韓国大統領府の高官と会談した。【渋江千春(ソウル)、田辺佑介】

日本政府、一貫して協定の重要性指摘 「情報共有が…」

 韓国によるGSOMIA破棄に、日本政府は衝撃を受けている。日韓は元徴用工問題などで激しく対立するが、「安全保障協力は続ける流れ」(海上自衛隊幹部)と見ていたためだ。北朝鮮問題をにらんだ日米韓の連携が揺らぎかねず、河野太郎外相は韓国政府の発表を受け、「現下の地域の安全保障環境を完全に見誤った対応と言わざるを得ず、極めて遺憾だ」との談話を出した。

 河野氏は22日夜、南官杓(ナムグァンピョ)駐日大使に抗議した後、記者団に「北朝鮮問題を考えた時、協定の重要性は誰しもが理解していると思う。(破棄は)安全保障環境を完全に見誤っていると言わざるを得ない。断固として抗議したい」と語った。安倍晋三首相は22日、記者団からの声かけに応じず、硬い表情で首相官邸を後にした。

 日本政府は一貫して協定の重要性を指摘し、韓国側に延長を促してきた。河野氏は21日、北京郊外で開かれた日韓外相会談で更新を要請。ポンペオ国務長官ら米政府高官も、協定の延長を求めたとされる。日本政府内には「米国も関心を寄せており、韓国もまさか破棄はできない」(外務省関係者)との見方も出ていただけに、落胆が広がる。

 北朝鮮は今年5月以降、短距離弾道ミサイルなどを8回発射した。防衛省幹部によると、発射直後は、日本側の地上レーダーでミサイルの動きを把握できない。逆に、日本寄りの日本海や太平洋に着水した場合、韓国のレーダーでは捉えきれず、全体像をつかむには双方の情報が必要になる。

 韓国政府によると、2016年の協定締結後に29件の情報交換があり、北朝鮮のミサイル発射でも頻繁に交換していたという。日本政府は件数を含めて詳細を明らかにしていないが、岩屋毅防衛相は22日、「一連の北朝鮮の発射で、日韓で情報をやりとりしてきたことは事実」と語った。

 一方、日本政府内には「日米がしっかり情報交換すれば影響がない。困るのは韓国だ」(政府高官)と強気な分析もある。だが、この見方について、自民党の中谷元・元防衛相は「ミサイルが飛んだ場合、日米韓の各部門が発射状況や予測落下点の情報を合わせて判断し、迎撃態勢をとる。システムが機能しなくなる」と否定する。別の防衛相経験者も「米国を介した情報交換になると、迅速性が失われる」と指摘する。

 日米韓の連携の乱れを、ロシアや中国、北朝鮮が突く可能性もある。7月下旬にはロシア軍機が島根県・竹島(韓国名・独島)周辺で「領空侵犯」した事案が発生。日本政府内には「日韓の連携を試した」との見方が広がった。北朝鮮も軍事挑発を活発化しかねず、中谷氏は「本当に対峙(たいじ)する相手はどこか。北朝鮮の脅威で日米韓が連携するしかないが、根本的なことが理解されていない」と語った。【田辺佑介、古川宗】

米、東アジア安保戦略への影響を強く懸念

 悪化する日韓関係に憂慮を示しつつも、具体的な仲介の動きは見せてこなかったトランプ米政権だが、韓国政府によるGSOMIAの破棄決定に関しては、米国の東アジア安全保障戦略への影響を強く懸念しているとみられる。国防総省は22日、声明で「日韓が意見の相違の解決に協力するよう促す」と表明。「日米韓が結束し友好的に連帯すれば北東アジアはより安全になる」としてGSOMIAの重要性を強調した。

 2016年のGSOMIA締結を強く後押ししたのは米国だ。日韓の情報共有による北朝鮮のミサイルの脅威に関する即応態勢の確立が一義的な目的ではあった。だが米側には将来的に、この協定を共同の弾道ミサイル防衛システムや対潜水艦作戦といった、より広範な軍事協力に発展させたいとの思惑もあった。

 トランプ政権はインド太平洋戦略の柱に日米韓の安全保障協力を掲げている。「同盟関係のネットワーク化」(ポンペオ国務長官)重視の姿勢には、2国間の連携だけでは形態が多様化する脅威に対抗できないとの認識に加え、米国のみが防衛負担している現状を改め、各国で負担を共有すべきだとのトランプ大統領の考えも反映されている。

 さらに、米国が地域最大の脅威とするのは覇権的な行動で影響力拡大を続ける中国だ。中国は王毅外相が日中韓3カ国協力を呼びかけるなど、日韓対立に乗じた揺さぶりやインド太平洋戦略にくさびを打ち込もうとする動きを活発化させている。米国内では日米韓の足並みが乱れれば、戦略全体の成否にも影響が出かねないとの警戒感が広がっている。【ジュネーブ高本耕太】

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