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韓国・文大統領が絶体絶命の内政を国連外交で挽回できなかった理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/09/27 06:00 武藤正敏
Photo:Drew Angerer/gettyimages © Diamond, Inc 提供 Photo:Drew Angerer/gettyimages

「北」と「曺長官」への想いを胸に

国連総会へ赴いた文大統領

 文在寅大統領にとって、今回の訪米は後ろ髪を引かれる思いでの訪米だったはずだ。

 現に文大統領が出国した翌日、検察は曺国法務部長官の自宅の家宅捜索に踏み切った。これは文大統領が国内にいない絶妙なタイミングだったといわれている。中央日報は、曺長官夫妻の容疑の相当部分が立証されたと報じている。

 曺長官の夫人、チョンギョンシム東洋大学教授が、PCのハードディスクを搬出するなど証拠隠滅を試みた状況も、家宅捜索決定に影響を及ぼしたという。チョン教授は韓国投資証券のプライベートバンカーのキム某氏にハードディスクの交換を依頼したとの供述が出ており、曺氏も夫人に協力している同氏に謝意を表したという。

 さらに、曺氏の息子に対する、ソウル大法学部の公益法人人権法センターのインターン活動証明書の虚偽発行には、曺氏自身が関与しているとみられている。これが立証されれば、曺氏が私文書偽造をしたことになる。

 文大統領は「明確な違法行為が明らかになっていない」として曺国氏の法務部長官任命を強行した。それは、議会、行政、司法の三権を抑えている文大統領が、唯一自身に抵抗する機関である検察を改革するため曺国氏を法務部長官に据えたいという思いが強かったからである。

 それに加えて、文大統領はこれまで、政治や経済、外交などのあらゆる面で強引な手法で権力を行使してきたため、曺国氏の法務部長官任命で譲歩すれば、反対派を勢いづかせ、文大統領に逆らう動きを加速させかねないと考えたからだろう。しかし、その法務部長官が逮捕される事態となれば、これは最悪の事態であり、文大統領にとっての打撃は計り知れない。

 そのような事態が仮に起こったとき、文大統領を多少なりとも支える可能性があるのは北朝鮮との関係促進である。その意味で、今回の訪米は米朝会談の促進を促すとともに、国際社会に対して北朝鮮への協力を呼び掛ける重要な機会であった。

米韓首脳会談は中身なし

トランプ大統領は淡白な反応

 文在寅大統領とトランプ大統領は、23日夜(日本時間24日)、ニューヨークで会談した。

 前述したような事情があったため、文大統領はトランプ大統領との会談で、米朝会談の進展を促したかったはずだ。もっとも、当初は米韓首脳会談の予定はなく、米朝の実務者会談が近いとの状況を勘案し、急きょ設定されたもののようである。

 これまで韓国は、GSOMIA破棄に米国が「懸念と失望」を表明したことに対し、趙世暎外交部第一次官がハリス駐韓米国大使を招致し、不満を表明してきた。また韓国国内でも、内政派から「同盟よりも国益」を強調する声が上がるなど、米国との溝が生まれていた。しかし米朝実務者会談を前にして、文大統領も米国寄りに姿勢を変化させている。また、米国製武器の大量購入、シェールガス、LNGの追加購入などのお土産持参でトランプ大統領と会談した。

 そこまでして会談した結果はどうだったのか。中身は薄く、意味のある内容にはならなかったようだ。韓国が警戒していたGSOMIA破棄の問題は出なかったものの、米国から日本の輸出管理問題を巡って悪化している日韓関係への仲介の話もなかったようである。

 文大統領が心血をそそぐ北朝鮮問題も、完全な非核化に向けた突っ込んだ意見や議論は行われなかったという。ただ、それも事前準備が十分ではなく、仕方がないかもしれない。文大統領は「米韓は北朝鮮に武力行使しない」「非武装地帯の地雷除去」という北朝鮮の体制保証案を提示したが、これは北朝鮮を非核化させる新しい解決法ではなく、米国などの北朝鮮に圧力を加える軍事手段だけを取り除こうというものだったからだ。

 文大統領は、「3回目の米朝首脳会談が開かれれば、おそらく朝鮮半島非核化の新しい秩序が開かれる歴史的な転換点、業績になるだろう」として米朝会談の進展に期待していた。これに対するトランプ大統領の反応は、「われわれは2回の非常に成功的な会談をし、制裁は減らずにむしろ増えた」「われわれは(米朝首脳会談が)できればよい。しかし、できないとしても問題はない。長期にわたり問題はなかった」という淡白なものだった。

 短距離ミサイルについても、同様に突っ込んだ議論は行われなかった。

 トランプ大統領は、北朝鮮が短距離ミサイルの発射を続けていることに関し、「特別なこととは考えていない。多くの国が短距離ミサイルを保有している」として容認する姿勢を続けている。実際に北朝鮮は、7月から8月にかけて7回飛翔体を発射している。トランプ大統領は北朝鮮に対して強硬な姿勢を取ってきたボルトン補佐官を解任したため、北朝鮮に対する対応が軟化するのではないかと見る向きもあったが、今の所そうはなっていない。

 今回のトランプ大統領の北朝鮮に対する発言を聞く限り、非核化まで制裁を解除しないという基本姿勢にブレはないようである。それは、北朝鮮に対し強硬な姿勢を取るのは、ボルトン氏ばかりでなく、ポンぺオ国務長官、米国議会も同様だからだろう。

 現在、米国内で関心が高いのはイランへの対応であり、もはや北朝鮮ではない。サウジアラビアの石油施設に対するドローン攻撃は、イランが支援するイエメンのフーシ派ではなく、イランそのものであるとの疑惑が高まっており、今後イランとの緊張関係が高まれば中東地域の不安定化、原油価格の高騰にもつながるからである。英、独、仏の首脳も会合を行い、イランを非難している。

 結局、今回の米韓首脳会談では、「米韓同盟は朝鮮半島と地域の安保・平和のリンチピン」であると合意した。また、両首脳が北朝鮮に武力行使はしないとの約束を確認した。しかし、これでは何も目新しいことはなく、従来の立場を確認しただけである。

トランプ大統領の関心はイランと中国

朝鮮半島への関心は薄れている

 トランプ大統領は24日(現地時間)、国連総会で一般討論演説を行った。韓国ではトランプ大統領が北朝鮮に対する体制の保証に言及してくれることを期待する向きが多かった。

 しかし、トランプ大統領は金正恩国務委員長に「北朝鮮は途方もない潜在力があるが、これを実現するためには必ず非核化をしなければならない」と伝えていることを述べ、体制保証についてはイランと同列で、「米国の目標は永続と和合であって、限りない戦争に飛び込むことではない。戦争は絶対に終わらない」と言及。不可侵の意思を示した。

 北朝鮮の金星国連大使は注意深く聞いている様子だったが、これでは北朝鮮に非核化を促す体制保証としては不十分だろう。しかし、これがトランプ大統領と米国内の北朝鮮に対する関心の度合いなのだろう。

 一方、文大統領が行った24日の国連演説では、文大統領は「韓国は北朝鮮の安全を保障する」と述べ、敵対行為の中断を呼び掛けた。さらに、文大統領は「70年の軍事的対立が残る悲劇的空間だが、逆説的に人が踏み込まない自然生態系の宝庫に変貌した」と述べ、非武装地帯に国連機関などを誘致し、平和研究や軍縮のための中心地となれば、名実ともに国際的な平和地帯になると力説した。これは、非武装地帯の地雷除去や自然保護といった活動を入り口に、国際社会の協力を引き出そうとする狙いがあり、南北の軍事境界線を挟む非武装地帯を北朝鮮とともにユネスコ世界遺産に登録しようという構想も含まれている。

 非常に夢のある考えだ。しかし、それはまだまだ先の話であり、現実感がない夢のような話だ。南北が統一した暁には、あるいは休戦協定が平和協定に変わったときにはそれが実現するかもしれない。

 一方で北朝鮮は、今の韓国を快く思っていない。北朝鮮住民が飢えの瀬戸際に立たされているときに、韓国国民は良い生活をしていると多くの北朝鮮国民は思っているのではないだろうか。今、北朝鮮が苦しい国家運営を強いられている原因は、北朝鮮の核開発を阻止しようとする制裁である。北朝鮮からすれば、南北融和や夢のような未来構想を語る前に、米国を説得して制裁緩和に力を尽くしてほしいと思うだろう。つまり、南北融和を目指すために文大統領は奔走しているが、実は北朝鮮にとっても国際社会にとっても、期待外れで効果がない発言と動きをしているのだ。北朝鮮はそんな的外れな動きをする韓国に嫌気が差していることもあり、次々と短距離ミサイルを発射しているとみるのが自然だ。

 それに、北朝鮮が核ミサイルと並んで韓国や米国に圧力をかけ続けることができるのは、38度線沿いに配備している火器があるからだ。もし文大統領が演説で述べたように38度線を平和地帯にしてしまえば、北朝鮮の優位性は著しく損なわれる。つまり、文大統領の構想に北朝鮮がもろ手を挙げて同意するとは思えない。

 仮に、文大統領が韓国国内向けにいい格好をするために発言したのであれば、北朝鮮の反発が直ちにそんな文大統領の打算を打ち消してくれるだろう。このように荒唐無稽のことを言っている限り、北朝鮮は韓国を相手にしないであろうし、断じて韓国を仲介者とは認めないだろう。

 今回の一連の国連演説と米韓首脳会談は、文大統領の現実を直視しない外交の典型的事例といえそうである。それを国際社会向けに行ったことは、政治センスの問題だ。

「日本に対して配慮した」

と評価するのは間違い

 文大統領は、演説の中で「過去に対する真摯な反省の上で、自由公正な貿易の価値を守って協力するとき、われわれはさらに発展していくことができるだろう」と述べた。これは元徴用工の問題と輸出管理の厳格化の問題を指していることは明らかである。日本と名指しをしていないことから、日本を刺激しないよう注意した発言だとする見方もある。しかし、国連演説でこうした問題に言及すること自体、日本に対する挑戦である。

 最近の一連の流れで、韓国はことあるごとに日本に対して嫌がらせをしてきている。IAEAでの汚染水の問題や来年のオリンピック・パラリンピックへの旭日旗の持ち込み反対、パラリンピックのメダルのデザインを変えろとの動き、さらにWTOへの日本の輸出管理に関する提訴などだ。今後もあらゆる機会を利用して日本を国際的に批判し続けるであろう。こうした流れの中での発言が、国連総会での文大統領発言である。

 日本を名指ししないことを評価する必要はない。文大統領は、これまで言行不一致を繰り返しており、同氏が何と言おうと行動で見るしかない。今後日本に対してどのような姿勢を示すかが重要である。

 ちなみに国連演説の最後に、今年は「独立運動から100年、上海臨時政府樹立から100年」という重要な年だと述べている。そして、「韓国は近隣諸国をパートナーと考え、共に協力して朝鮮半島と東アジア、さらにはアジア全体で『人中心、共生繁栄の共同体』を拡張したい」と述べた。これまでの日本に対する態度を見て、この言葉に共感を覚える日本人はどれだけいるであろうか。

 文在寅政権は韓国にとって最も輝かしい漢江の奇跡を教科書から削除した政権である。文大統領が何を考え、何をやろうとしているのか、韓国人にさえ分からないのではないか。

(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)

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