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シェルバコワ、衝撃の4ルッツ2回。GP初戦「女子4回転時代」が鮮明に。

Number Web のロゴ Number Web 2019/10/22 08:00 田村明子
GP初戦、スケートアメリカで銀メダルのテネル(左)、優勝したシェルバコワ(中)、銅メダルのトゥクタミシェワ。 © Bungeishunju Ltd. 提供 GP初戦、スケートアメリカで銀メダルのテネル(左)、優勝したシェルバコワ(中)、銅メダルのトゥクタミシェワ。

 10月18日から20日までネバダ州ラスベガスで開催されていたフィギュアスケートシニアGP大会初戦、スケートアメリカでシニアデビューの15歳、ロシアのアンナ・シェルバコワが優勝した。

 ジュニアから上がってきたばかりの新人が、シニアの初戦で優勝というのは女子においてそれほど珍しい現象ではない。エリザベータ・トゥクタミシェワ、エフゲニア・メドベデワ、アリーナ・ザギトワなど、のちに世界チャンピオンになった選手たちはいずれもシニアに上がったGP初戦で優勝している。

 だが今年は、長いフィギュアスケート史の中でも異常な事態が発生した。

 GP大会に先立つチャレンジャーシリーズで、シニアデビューしたロシアの女子たちが4回転を成功させ、タイトルを攫いまくっているのである。

 ジャパンオープンで4回転を4度跳んでみせたアレクサンドラ・トゥルソワは、9月にオンドレイ・ネペラ杯で女子歴代スコアを更新して優勝。

 そしてロンバルディア杯で4ルッツを成功させて優勝したのが、このスケートアメリカで初タイトルをとったアンナ・シェルバコワだった。

SPでは日本女子が2人トップ3に。

 初日のSPでトップに立ったのは、ノーミスの演技で75.10を獲得したアメリカのブレイディ・テネルだった。

 2位は直前のウォームアップの不調を振り切ってやはりほぼノーミスで73.25を出した坂本花織、3位は会心の演技で71.76を得た樋口新葉が入った。日本女子にとって、悪くないスタートだった。

 現在の女子のルールではSPで4回転を入れることは許されておらず、シェルバコワはSP時点で4位。トップのテネルとの得点差は7.5ほどあった。

2度の4ルッツを降りたシェルバコワ。

 だが翌日のフリーで、シェルバコワは4ルッツを2度成功させた。

 1つ目は4ルッツ+3トウループのコンビネーションジャンプにして、2度目はソロジャンプ。この合計だけで、技術点33.45ポイントを叩き出したのである。SPでのトップ3人のリードは、瞬時にして消えた。

 ブレイディ・テネルはフリーでもほぼノーミスの演技を滑り切り、シニア女子らしい貫禄のある滑りを見せた。だがフリーでのシェルバコワとの点差は20ポイント近くになり、総合ではシェルバコワが227.76、2位のテネルが216.14という結果になった。

「ここでの目標は、4ルッツや他のジャンプをノーミスできめることでした」

 まだ幼さの残る声ながらも、しっかりとした英語で会見に臨んだシェルバコワはまずそう口にした。

「シニアデビューの今シーズン、クリーンな演技を見せたいと思っていたので、メダルをもらったのはとても重要なことです」

坂本4位、樋口は6位に。

 一方、坂本花織、樋口新葉はともにジャンプミスが出て、坂本は総合4位、樋口が6位という最終結果だった。特に坂本は、3回転が2回転になるなど彼女らしくないミスが出た。

「攻めるのではなく、守りに入ってしまったのでは」と、中野園子コーチは分析する。

 新たなイメージに挑戦した今シーズン、フリー「マトリックス」の振付の内容が難しすぎて体力的にも不安を抱えていたという。

 自分の映像を見直したという坂本は、感想をこう述べた。

「全部跳び急いでしまっている感じもしたし、サルコウに関してはリンクが狭いのにいつも通りいってしまって、ギリギリのところで跳んでしまった。そういうことを考えながら滑ればああいうミスは起きなかった。自分が思っていたより思い切りいけていなかったというのが、正直なところです」

「『怖い』としか思っていなかった」

 そんな坂本にとって、4回転を跳ぶ新人たちのことは心のどこかでプレッシャーになっていたのではないだろうか。

 彼女本来の滑りではなかったこともあり、優勝したシェルバコワとは25ポイントもの点差がついた。わずか1シーズンにして、女子も4回転がないと勝てない時代に突入した事実を、どう受け止めているのか。

「それ(4回転のジュニアが上がってくること)は、『怖い』としか思っていなかった。でも良い方に考えれば、まだまだ自分は前を走っている人を追いかける側にいられる。そういう立場のほうが思い切ってできるかなと思うので、いつかは越してやろうくらいの勢いでやっていきたいと思います」

 坂本は自分に言い聞かせるように、まずそう口にした。

「見てるだけで、『は~っ』てなる」

 シェルバコワの4回転の感想を聞かれると、こう答えた。

「見てるだけで、『は~っ』てなる。4回転も1個じゃないので、2個とか多い時は4個とか……進化が早すぎっていう感じ。自分ももうシニア3年目だけど、自分がジュニアのときのじわじわ上がってくる感じでなく、急激に上がっている感じがして、気持ちがついていかない。予想はしていたけど、こんなに早く来るとは思っていなかった」

 この正直な感想は、おそらくほとんどの関係者の思いを代表しているのではないだろうか。

 2シーズン前の平昌オリンピックまではプログラムの後半に入れた3+3が、女子全体の最大の武器だった。

 昨シーズンは、紀平梨花の合計3度の3アクセルが女子の話題であった。

 そしてわずか1年経過した今シーズンになってみると、誰もが話題にするのは4回転を跳ぶ少女たちのことである。 

 この大会でエリザベータ・トゥクタミシェワはSPとフリーで合計3度の3アクセルを降りたものの、他にミスが出たためもあり3位に終わった。

ベテラン勢はどう戦うか。

 今シーズンの女子は、4回転を跳ぶ新人たちにトップを独占されるのか。

 だがその一方で、4回転も3アクセルもないブレイディ・テネルがSP、フリーともほとんどノーミスのベテランらしい滑りを見せて、2位に入ったことは救いだった。また男子では、ジェイソン・ブラウンがやはり4回転なしのプログラムながら、内容の濃い素晴らしい演技を見せて2位に入賞している。

 良い演技をすればそれなりの評価はされる。

「(大技がなくても)ちゃんとやれば勝てるというのは、男子も女子も見てわかったので、今跳べるジャンプをきっちりやるのが大事だなと改めて思いました」

 そう坂本はかみしめるように言うと、彼女の次の大会であるフランス杯までに練習を追い込んでやることを誓った。

 今週末にカナダ・ケロウナで開催される第2戦、スケートカナダではいよいよ紀平梨花がアレクサンドラ・トゥルソワとあたることになる。どのような展開になるのか、見守っていきたい。

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