古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

「選手の話が事実」とは言わない日大の冷酷さ この会見で大塚学長は何をしたかったのか

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/05/25 20:25 ミセス・パンプキン
アメリカンフットボール部の反則問題について記者会見する日大の大塚吉兵衛学長=25日午後、東京都千代田区(写真:共同通信) © 東洋経済オンライン アメリカンフットボール部の反則問題について記者会見する日大の大塚吉兵衛学長=25日午後、東京都千代田区(写真:共同通信)

隔週火曜日連載の「人生相談室」で人気のミセス・パンプキンが番外編コラムをお届けします。

日大アメリカンフットボール部の選手が無防備な関西学院大の選手に後方から悪質なタックルをして負傷させた試合があったのは5月6日のこと。それからこの問題は日を追うごとに炎上・延焼を続け、連日のように会見が行われています。5月25日午後には、日本大学の大塚吉兵衛学長が緊急記者会見を行いました。

 会見前に1人の女性が乱入し騒然とした雰囲気となる中、大塚学長は「選手は本当に真摯に自分の考えを述べていた。内田正人前監督、井上奨コーチの発言との齟齬(そご)については第三者委員会で調査中で、訴えられている点もあるので、ここで私が言うことは差し控えます」と話し、何か他人事のような口ぶりでした。

 しかし、この期に及んで、仮にも組織、ましてや大学の長なのであれば、意見を差し控えるべきではないでしょう。内田前監督が試合後に語った「14分の音声テープ」がネット上で公開されているのですから、その内容を知っているはずです。もし学長がそうした点も踏まえて、「個人的には選手側が正しいと思う。私は全力で学生を守っていく立場である」と宣言すれば、どれだけ救われたでしょうか。

 彼に人事権があるのであれば、やるべきことは決まっているはずです。いったい何を目的とした会見なのでしょうか。またしても組織防衛が前面に出た、火に油を注ぐような内容に終わりました。

あまりに酷い内田前監督と井上コーチの会見

 それにしても、23日に行われた内田前監督と井上コーチ(23日付けで辞任したので、以後は井上前コーチと書きます)の2時間におよぶ会見は、まったく酷いものでした。その前日(22日)の危険タックルを強いられた選手(以下、あえて実名は表記せず「加害選手」とさせていただきます)の、疑いようもなく真摯な会見を受けてのものだっただけに、それは我が目と耳を疑い、次に失望し、あきれた会見でした。

 そこには加害選手が、真実を明らかにすることが一番の謝罪と言う思いで会見したのと比べ、前監督と前コーチは「言った、言わない」問題に特化して、選手に責任を押し付ける作戦がありありでした。内田氏は、監督の辞任届は出しましたが、日大ナンバー2の人事権も握る役職は一時停止で謹慎するだけと報道されています。彼は一切の教育の場から身を引くべきです。

 22日の、少し前まで未成年だったスポーツ選手が母校でなく記者クラブで行った、弁護士の立会いが許されたとはいえ「1人での記者会見」は、その内容とともに本当に胸の痛む映像でした。

 メンバーから外されるなどの心理的プレッシャーから始まる危険タックルに至るまでの経過説明に監督等をなじる言葉はなく、責任はあくまで自分にあるが、コトの真相を明らかにすることが真の謝罪だという、彼の真意が終始にじみ出る潔いものでした。

あえて顔と実名を出したことの重い意味

 まず私は会見で、選手の顔がアップで映されたこと、さらに実名で登場したことに驚きました。このネット時代に、このような問題でいくら誠実に謝罪しようと、顔を出すこと、あえて実名を出すことはどのような不利益を被るか予測できません。

 大きなリスクがあるにもかかわらず、「顔を出さない謝罪はない」という本人の決意からだと聞きました。言葉は、その発せられる内容だけでなく、話し手の表情、特に目の動きが多くを語るものです。あのような緊張した場で、多弁ではないがよどみなく話す彼の言葉や姿に、一点の曇りもないことは明らかでした。

 よくイジメなどで追い詰められた人は、正常な判断ができず、その世界以外に生きる道はないと思い込み、"とんでもない行動"に出ることがあります。私は彼の会見中、よくぞそこで踏み止まってくれたと(被害選手には申し訳ない感想ですが)、彼に敬意を覚え、感謝していました。

 理不尽に、決まっていた日本代表選手のメンバーを辞退するよう指示されても、練習に参加させてもらえなくともその理由すら聞けず、「はい」としか答えられない絶対権力者を相手に、彼は勇気を出しました。彼が“とんでもない行動”に出たか、前監督等がいう「彼の優しさ」で泣き寝入りしていたら、第2・第3のこうした選手や被害選手が出ていたことは、疑う余地もありません。

 しかも加害選手とその父親は、関学大の被害学生やその関係者への謝罪を「事件」の5日後に申し出たところ監督に止められていたそうで、それを押しての選手の1人会見でした。その真摯な会見を受けての指導者の会見の内容は1つしか考えられず、聞く必要も感じませんでしたが、確認のために私はじっくり聞きました。

 先に「目は口程に物を言う」主旨のことに触れましたが、23日の内田前監督と井上前コーチの表情に、まず愕然としました。事件が再発しないよう真実を明らかにするという姿勢がみじんも感じられないものでした。会見のための会見と、「言った、言わない」問題に持ち込む作戦が、ありありでした。

 内田前監督は日大の常務理事。報道によると、理事の不祥事や法令違反が確認されれば、日大は年額80億円を超す私学助成が不交付になるか減額されることになります(日経新聞・5月24日社説)。日大アメフト部の今後も考えれば恥も外聞も捨て、「信じてもらえないと思うが」を連発して学生に責任をなすりつけることなど、彼らにはたやすいことと見受けました。

無能力極まる会見

 「言っていない(すべて選手の誤解)」、(選手がコーチから言わされて監督に言った「相手のクオーターバックをつぶすから使ってください」は)「聞こえていなかった」、「反則プレーは見ていなかった」などの無能力極まる会見は、それらのリスクを回避し、日大の信用そのものを「守るため」に取った作戦にしか聞こえませんでした。

 アメフトを知らない私でも、「1プレー目でつぶしてこい」「やらなければ意味がない」「相手のクオーターバックがケガをして出場できなければこっちの得」等が、危険なタックルで損傷させること以外の意味を持つことなど考えられません。この会見で井上前コーチは明確に、「選手はうそをついていない」と言っています。そう言いながら一貫して危険タックルが選手の「理解違いによる選手1人の責任」になすり付けているのは、監督を守るために言わされているような苦しい表情でした。

 同じく24日のNHKの「クローズアップ現代」で放送された、監督に嫌われたコーチがある日突然いなくなったりするので、家族を養うためには監督に逆らえないコーチもいるという現場からの証言が、それを裏付けています。

 この2人の会見を見て、私は怒りより嫌悪感を覚えました。花形スポーツで昨年大学日本一になった、注目を浴びるクラブの指導者の言葉として考えられないものです。ますます加害選手の勇気が浮かばれないと思いました。正常な判断を失くすほどパワハラで追い詰められ、大好きだったアメフトが好きでなくなり、続ける権利もないと心情を吐露した彼1人が責任を負うハメになりそうで、彼の姿が息子に重なり、胸が張り裂けるようでした。

 「救い」は前監督等が、あまりにも明確に、一切の責任を否定したことでした。監督としてゲーム上で起きた全責任は自分にあるとポーズは取りましたが、個別的にはすべての責任を、見苦しく否定しています。

 このような「事件」の場合、通常賛否両論が起こるものですが、その言い逃れの酷さで、事件の真相が明らかになったようです。誰一人指導者としてやむをえなかったという人が、今のところいないのが救いです。「やった者が一番悪い」で留めず、勇気ある加害選手がこれ以上傷つかない動きが、あちこちで起こっているのは心強い限りです。

組織内から糾弾の声

 被害選手の父親はこの会見でさらに憤り、加害選手の減刑嘆願書を出すそうです。前監督等の会見中にネットで、「監督らはうそをついている」と意思表示した現役日大アメフト部のメンバーも声明を準備中など、あちこちで動きが出始めました。

 この事件で加害選手が声をあげず、絶対権力者の前監督があのまま居座っていたら、このような動きはありえない事でした。中学・高校の体育会系クラブでも、離脱すると裏切り者呼ばわりされたり無視される等のイジメにあった人を、私は何人も見てきました。まして卒業後の進路まで支配されやすい大学スポーツの世界での彼の勇気と、それに応える周囲の動きに、心強さを感じないではおれません。

 オリンピック女子マラソンのメダリストの指導者・小出義雄監督は、おだてて伸びる選手や厳しく指導して伸びる選手に対する指導法の使い分けのうまさでも有名になりました。私のようなスポーツオンチにまでその声は届いており、あらゆるスポーツで科学的かつ自主的な練習が効果を出しているのは、昨今では常識です。

 メンタルトレーナーの活躍まで知らない者がいないスポーツ界で、選手と監督が会話もできない関係にあったとは、異常です。実力ある選手を、危機感を植え付けるために練習メンバーから外すなど、いつの時代の指導法かと疑うのです。

 日大は「第三者委員会」を設けて真相の究明に取り組むと発表しています。大塚学長の会見も、そのことばかりを繰り返し強調していました。

 大塚学長は会見の場で何をするべきだったのでしょうか。何よりも、学長が決断するべきは人事刷新でしょう。まずは内田前監督の常務理事の解任をするべきではないでしょうか。人事権も握っている彼が復帰する場合を考えると、自由闊達な意見を交わすのが難しいことは想像がつきます。

捨て身で人事刷新を宣言するべきだった

 何しろ、内田前監督はワンマンである田中英寿・日大理事長の後任の理事長候補とも報じられております。大塚学長には実質的な人事権はないのでしょうが、そうであったとしたら、なおさら、捨て身で人事刷新を宣言するべきでした。

 この組織が閉鎖的なものでワンマン支配の下にあることは、前監督等の会見時の司会をした、日大の広報担当者の振る舞いを見ても明らかです。内田前監督と井上前コーチは、良いか悪いかは別にして、まだ言い訳会見を続ける意思を見せていたのに、加害責任がある側の会見であることなどみじんも感じられない尊大な態度で、打ち切ることに執心していました。これなどは、自らが仕えている前監督と実力理事長に対する忖度にしか見えません。

 日本中が、いや世界中が見ています。会見中日大の司会者が(自分の尊大な会見の打ち切り方を)、「みんなが見ていても、日大のブランドは落ちない」と言いましたが、誰もそんなこと思っていません。この際日大は、誠実に真相を明らかにすることも重要ですが、それこそ「うみを出し切り」、保身しか知らない職員も含めて、教育の何たるかを知らないリーダーを一掃するべきです。

東洋経済オンラインの関連記事

東洋経済オンライン
東洋経済オンライン
image beaconimage beaconimage beacon