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日本人に合うラグビーのフェアさと、南米在住サッカー記者の深い羨望。

Number Web のロゴ Number Web 2019/10/17 20:00 沢田啓明
激しくぶつかり合った選手たちがノーサイドとなれば握手をかわす。ラグビーの精神性には、同じ“フットボール”のサッカーも学ぶところがある。 © Bungeishunju Ltd. 提供 激しくぶつかり合った選手たちがノーサイドとなれば握手をかわす。ラグビーの精神性には、同じ“フットボール”のサッカーも学ぶところがある。

 ラグビー・ワールドカップ(W杯)における日本代表の快進撃は、大会に代表チームを送り込んだアルゼンチン、ウルグアイをはじめとする南米各国でも大きな反響を呼んでいる。

 スコットランド戦後、アルゼンチンのスポーツ紙『オレ』は日本代表について「禅のチーム」と表現。このようにも激賞している。

「オールブラックスが赤と白のユニフォームを着ているのかと錯覚するような高度な個人技と精密な組織力を発揮し、その上に日本人特有のディシプリン、効率の良さ、ミスを犯さない精密さを加味している。チーム全体に、禅を思わせる高尚な精神性すら見て取れる」

 ウルグアイの日刊紙『エル・オブセルバドール』も脱帽している。

「我々の代表も釜石での初戦でフィジー代表を倒し、オーストラリア代表、ウェールズ代表という強豪相手にも奮闘した。しかし、勇敢にして情熱に溢れたプレーを見せ続けるブレイブ・ブロッサムズから学ぶべきことは極めて多い」

ブラジルでも「見事な勝利」。

 そしてブラジルのスポーツ紙『ランセ!』でも、このような称賛ぶりである。

「日本対スコットランド戦は、甚大な被害をもたらした台風のため中止され、大会規定により引き分け扱いとされる可能性があった。その場合は敗退が決まることから、スコットランド協会は法的措置を取ることを示唆していた。

 しかし、開催国日本は戦わずしてのベスト8入りなど望まなかった。2000人の献身的な働きで試合開催にこぎつけ、見事な勝利でスコットランドの鼻を明かした」

 周知の通り、南米はフットボール(サッカー)の大陸だ。アルゼンチンのようにラグビーW杯2007年大会で3位、2011年大会でベスト8、2015年大会で4位と立て続けに見事な成績を残そうと、競技人口、人気の点でフットボールの牙城は揺るがない。

 そんな南米から今回のラグビーW杯を眺めていてつくづく感じるのは、フットボールとラグビーの文化の著しい違いだ。

フットボールに横行する負の側面。

 いずれもイングランド生まれで、足を使うボールゲーム。ただし世界中に伝播していく過程において、フットボールの文化は徐々に変貌していったのだろう。

 たとえば南米では、選手は臆面もなくダイビングやシミュレーションを繰り返し、少しフィジカル・コンタクトがあると大袈裟に痛がってファウルをもらおうとする。選手どうしの罵り合いや小競り合いも日常茶飯事で、審判の判定にもいちいち文句を付ける。

 サポーターも、相手選手や審判を口汚く罵ってプレッシャーをかけることを良しとし、人種差別的な言動も少なくない。結果のためには手段を選ばないやり口が横行している。

ラグビーの美しく、フェアな精神。

 一方、ラグビーは身長2m前後、体重100kgを超えるような巨漢が何の防具も付けずフルパワーで衝突を繰り返すが、倒れても痛そうな素振りなど全く見せず、すぐに立ち上がってプレーを続ける。

 試合中、選手たちがもみ合うことは極めて稀で、微妙なプレーで審判から自分たちに不利な判定を受けても抗議などしない。試合後が終わると文字通りの「ノーサイド」で、しばしば花道を作って健闘を称え合う(この儀式は、実に美しい)。

 サポーターも、審判や相手選手を罵倒したりブーイングを浴びせたりせず、試合後は相手サポーターと笑顔で交歓する。フットボールの常識からすると、ありえないことばかりだ。

 スポーツとしてどちらがよりフェアかは、言うまでもない。長年、南米でフットボールを見てきた者として、このようなラグビー文化に深い羨望を覚えざるをえない。

フットボール文化への戸惑い。

 一方、日本のフットボールのサポーターやファンは世界のフットボール文化の邪悪な側面に戸惑っているように見える。

 日本へ一時帰国した際にJリーグの試合を観戦すると、彼らも世界のフットボール文化に倣って審判や相手選手に罵声やブーイングを浴びせるのだが、それはたいてい控えめで、少々不自然に映る。

 南米のサポーターがひいきチームの前に立ちはだかる者すべてを心底憎み、地鳴りのようなブーイングを浴びせるときに醸し出す正真正銘の殺気を感じることはない。

「ラグビーは紳士がやる野蛮なスポーツで、フットボールは野蛮人がやる紳士的なスポーツ」と言われる。欧州では、ラグビーは主としてインテリが愛好し、フットボールは大衆のスポーツと見なされる傾向が今も残る。

 武士道の伝統があり、幼い頃から他者に敬意を持つことを叩き込まれている日本人のメンタリティーは、本質的にフットボールの文化の悪しき部分を受け付けないのではないか。

 さらに言えば、審判や相手選手への敬意がより深いラグビーの文化の方に、より共感できるのではないか。

熱狂の源は勝利だけではない。

 今回のラグビーW杯で、日本人はただ単に日本代表が勝ち進んでいるから熱狂しているわけではあるまい。

 6カ国の出身地を持つ選手たちが完璧に融合し、一致団結して巨大な力を発揮する「ワンチーム」の一体感に涙を流し、深い感動を覚えているのではないか。のみならず、ラグビーの哲学、文化に魅了されているのだろう。

 だからこそ、国中が「ワンチーム」となって日本代表を熱くサポートし、そのことが「ワンチーム」の「ビクトリーロード」を下支えしているのではないか。

 ラグビー日本代表は、1987年にW杯が創設されてから2011年大会までの5大会の通算成績は1勝2分21敗と惨憺たるものだった。しかし、2015年大会が3勝1敗で、今大会がここまで4戦全勝。短期間にここまで世界トップレベルに伍するほど急成長し、これほど急速に人気が高まった競技は日本スポーツ史上あるまい。

 その一方で、ラグビー日本代表の奮闘に感動する中で、フットボール文化の歪みや醜さに今さらながらに気付き、顔をしかめている人もいるのではないか。

ラグビーから多くのことを学んで。

 フットボールは、世界中のほとんどの国でナンバーワン・スポーツの座を占める。それは世界各地のフットボール関係者の長年に渡る献身的な努力の賜物だ。

 しかしながら、関係者は現在の世界のフットボールが抱えている多くの問題点を正しく認識し、強い危機感を持って真摯に改善の努力をするべきだろう。

 ラグビーW杯は、ここからいよいよ佳境に入る。日本代表と世界の強豪国の激しくもフェアな試合をたっぷり楽しもう。

 そして、ラグビーという素晴らしいスポーツからさらに多くのことを学びたい。

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